売ったサイトの顧客を新サイトへ誘った売り手の責任――通販サイトの譲渡を「事業」の譲渡と認め、会社法21条3項で差止めと賠償を命じた東京地裁 平成28年11月11日・知財高裁 平成29年6月15日判決

売ったサイトの顧客を新サイトへ誘った売り手の責任――通販サイトの譲渡を「事業」の譲渡と認め、会社法21条3項で差止めと賠償を命じた東京地裁 平成28年11月11日・知財高裁 平成29年6月15日判決

ウェブサイトを売り買いする仲介サイトでは、小さな通販サイトが数百万円で取引されます。売り手が売った後に似たサイトを立ち上げたら、買い手は何を求められるのか。そもそもサイトの売買は、会社法の「事業」の譲渡に当たるのか。婦人用中古衣類の通販サイトをめぐる東京地裁 平成28年11月11日判決と、その控訴審の知財高裁 平成29年6月15日判決は、この点について判断を示しています。この記事では、判決文をもとに、何が起きたか、何が争われたか、事業譲渡で確かめることを整理します。

この事件は、事業譲渡のトラブル・判例62件の分析の類型5「売り手が同じ商売を始める(競業)」の事例です。

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<a href="https://jfsc.jp/research/ma-hanrei/tsuhan-site-jouto-kyougyou/">売ったサイトの顧客を新サイトへ誘った売り手の責任――通販サイトの譲渡を「事業」の譲渡と認め、会社法21条3項で差止めと賠償を命じた東京地裁 平成28年11月11日・知財高裁 平成29年6月15日判決|株式会社日本財務戦略センター</a>文章での出典表記:株式会社日本財務戦略センター「売ったサイトの顧客を新サイトへ誘った売り手の責任――通販サイトの譲渡を「事業」の譲渡と認め、会社法21条3項で差止めと賠償を命じた東京地裁 平成28年11月11日・知財高裁 平成29年6月15日判決」(2026年10月12日) https://jfsc.jp/research/ma-hanrei/tsuhan-site-jouto-kyougyou/
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先に結論

事件の概要と時系列

売り手は、衣類品とそれに付帯する雑貨類の製造、販売、店舗運営などを主たる目的とする有限会社です。買い手は個人です。判決は会社名とサイト名を実名で書いていますが、この記事では伏せます。売られたサイトは婦人用中古衣類の買取りと販売のサイトで、ロリータファッション(フリルやリボンを多用するファッション)の中古衣類の売買を主としつつ、ガーリーファッション(一般の若い女性向けの服)の中古衣類の売買も行っていました。

時期出来事
平成25年7月サイトが、販売する商品の類型の一つとしてガーリーファッションを掲げる(控訴審の認定)
平成26年3月売り手が、当時のサイトのツイッターで複数のブランドの買取りを募集。その一部は買い手に譲渡されず
契約より前(時期は判決に記載なし)売り手がネットの事業売買の仲介サイトに売却情報を掲載。売却理由欄に「もともとこの分野に興味関心が薄いため」と記載
平成26年5月14日売り手が新サイトのドメインを取得
平成26年5月29日譲渡契約を締結。代金は723万6000円。6月30日までの約1か月を引継期間とし、買い手はその間営業できないと定める
平成26年6月21日売り手が、サイトのメールマガジン登録者に新サイト開設のメールを送る(代表者が認めるだけで100名程度)
平成26年6月23日・26日新サイトのツイッターとブログを開始
平成26年7月7日買い手がサイトでの事業を開始
平成27年1月12日新サイトの商品1328点のうち1073点(約80%)がロリータファッション(買い手の代理人の集計)
平成27年買い手が提訴
平成28年11月11日東京地裁が差止めを認め、賠償請求を退ける
平成29年6月15日知財高裁が売り手の控訴を棄却し、買い手の附帯控訴に基づき196万7400円の支払を命じる

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契約書には、電子ファイル、ドメイン名、在庫商品、マニュアルの譲渡、サーバーなどの契約上の地位の承継、査定や顧客管理などのノウハウの引継ぎが書かれていました。

売り手がメールマガジン登録者に送ったメールには、サイトでの買い物への礼に続いて「この度運営方針変更に伴い」売り手が新サイトをオープンすると書かれていました。メールを受け取った顧客の1人は、新サイトを元のサイトの「姉妹ショップ」と誤認しました。

何が争われたか

買い手は、会社法21条3項に基づく新サイトの事業の差止めと、売り手の会社と代表者個人に対する801万0972円の損害賠償(粗利の減少額の12か月分)を求めました。

  1. サイトの譲渡は「事業」の譲渡か:売り手は、サイトという資産の売買にすぎず、契約書の表題も「資産等の譲渡に関する契約書」で、「事業」を譲渡すると書いていないと主張しました。
  2. 新サイトは「同一の事業」か:売り手は、譲渡したのはロリータファッションだけのサイトで、新サイトはもっぱらガーリーファッションを扱うから同一ではないと主張しました。契約前に、ガーリーファッションのブランドは引渡資産に含まれないと説明し、了承を得たとも主張しました。
  3. 不正の競争の目的があるか:売り手は、市場の大きいガーリーファッションに軸足を移そうとしただけで、引継期間は古物営業の許可を取るための期間だと主張しました(後者は控訴審)。
  4. 競業避止義務を負わない黙示の合意があったか
  5. 損害はいくらか:売り手は、売上げは経営者の手腕に左右されると主張しました。

裁判所の判断

一審――サイトの譲渡は「事業」の譲渡

東京地裁は、会社法21条3項の「事業」を、「一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産であり、得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含むものと解するのが相当である」としました(最高裁大法廷 昭和40年9月22日判決を参照)。

そのうえで、契約書で譲渡の対象とされ、現に譲渡されたものは、電子ファイルとドメイン名にとどまらず、在庫、マニュアル、契約上の地位、ノウハウから顧客の連絡先にまで及んでいるとして、サイトを用いた婦人用中古衣類の売買という営業目的のために組織化された財産だと認めました。売り手が仲介サイトで月間売上げや営業利益などを開示し、売上実績表を買い手に示していたこと、売り手の代表者が本人尋問で事業を売ったという認識を認めたことも挙げています。表題については、「資産等」の譲渡という記載がただちに「事業」の譲渡を否定するものではないことは、契約書の本文からも表題の「等」という表現からも明らかだとしました。控訴審もこの判断を引用しています。

譲渡の対象はロリータ系とガーリー系の両方

売り手の説明と買い手の了承を裏付ける客観的な証拠はなく、契約書にはロリータファッションに限るとかガーリーファッションを除くといった記載がないとしました。控訴審は、この部分を補正して、次の事情を挙げました。

売り手が控訴審で、競業避止義務の知識が乏しかったと主張した点には、「本件譲渡契約の対象をどのように特定するかは、競業避止義務に関する知識の多寡とは関係がなく」、除外するのであれば「その旨を契約書に明記することが自然であると考えられる。」と述べました。仲介サイトの「案件概要」にロリータファッションしか書かれていなかった点も、案件概要はその性質上、販売サイトの概要を紹介するにとどまり、売買交渉のきっかけにすぎないとしました。

新サイトも両方を扱う「同一の事業」

新サイトのHTMLのタグには「ロリータからガーリーファッション古着中古買取なら」という記載があり、ロリータのバナーやブランドのコーナーも置かれていました。売り手の代表者自身も、初めからロリータファッションを扱うつもりだったと供述し、ネットオークションでもロリータファッションの中古衣類を販売していました。判決は、新サイトの事業は両方の分野を含み、譲渡した事業と「同一の事業」に当たるとしました。

不正の競争の目的がある

一審は、「不正の競争の目的」を、「譲渡会社が譲受人の事実上の顧客を奪おうとするなど、事業譲渡の趣旨に反する目的で同一の事業をするような場合を指すものと解するのが相当である」としました(大審院 大正7年11月6日判決を参照)。

そして、売却理由に分野への関心が薄いと書きながら契約直前に新サイトのドメインを取ったこと、新サイトのことを買い手に一切伝えていないこと、買い手が営業できない引継期間中に、運営主体の変更ではなく「運営方針」の変更として新サイトの開設を知らせるメールを多数送り、姉妹ショップとの誤認を生じさせたことから、不正の競争の目的があることは「明らかというべきである」としました。

控訴審は、古物営業の許可を取るまでの間にどう営業するかは「本来、譲受人である被控訴人に委ねられるべき事柄であるから」、契約書に営業休止期間を定める必要はなかったとしました。そのうえで、売り手は休止期間を設けるよう積極的に求めて契約書に盛り込み、その間に顧客を新サイトへ誘ったとして、休止期間中に顧客を新サイトに誘引することを意図して、この期間を求めたと認めました。

差止めの範囲――譲渡当時に扱っていたブランドに限る

買い手は、ウェブサイトを使った婦人用中古衣類の売買の事業全般の差止めを求めましたが、一審は、21条3項による差止めの対象は譲渡した事業と同一の事業に限られるとして、ロリータファッションとガーリーファッションに属する婦人用衣類で、譲渡当時に買い手が受け取ったブランド一覧に記載されたブランドの中古衣類の売買に限って差し止めました。控訴審も、売り手が別のメール添付書面のブランドが対象だと主張した点を退け、同じ範囲を維持しました。

損害――一審は否定、控訴審は約3割を認容

一審は、同種のサイトが多数あること、売上げは経営手腕などに左右されること、どれだけの顧客が離れたかの立証がないことから、粗利の減少と新サイトとの因果関係を認めず、賠償請求を退けました。代表者個人への請求も退けています。

買い手は附帯控訴で、粗利の差から販売管理費を引いた月49万6508円の12か月分(約596万円)のうち320万円と弁護士費用60万円、合計380万円を求めました。知財高裁は、新サイトの開始時期、取扱商品の共通性、直接的な顧客の誘引、営業開始後の売上げの低下から、売り手の違法行為で顧客の一部が失われ損害が生じたと認め、民法709条の責任を認めました。期間は、買い手がロリータファッションの買取りを平成27年6月頃に中止したことなどを考慮して12か月としました。

一方で、買い手はこの分野の商品知識や経験に乏しく、サイトのデザインを変えず、ブログやツイッターも使わず、ネットオークションでの販売もしなかったとして、売上げの低下にはこうした事情も相当程度影響したとしました。そして、「本件譲渡契約前後の利益額の違いをそのまま損害と認めることはできず」、損害額の立証は極めて困難だとして民事訴訟法248条を適用し、逸失利益は「その約3割に相当する178万7400円と認めるのが相当である。」としました。弁護士費用18万円を加えた196万7400円の支払を命じています。

この判決から何がいえるか

一つ目は、契約書の表題が「資産等の譲渡」でも、実際に何を渡したかで「事業」の譲渡と判断されることです。本件では、ノウハウ、研修、顧客のメールアドレスまで渡していたことが重視されました。

二つ目は、売り手が「この分野は対象外だった」と後から言っても、契約書に書いていなければ通りにくいことです。本件では、在庫の定め、売上実績表、実際に送った在庫がいずれもガーリーファッションを含んでいたことから、売り手の説明は採用されませんでした。

三つ目は、引継期間の使われ方です。買い手が営業できない期間を売り手が求め、その間に顧客へ連絡したことが、不正の競争の目的を認める大きな理由になりました。

一方で、賠償額は買い手の主張の一部にとどまりました。本件では、買い手の経験や販売方法も売上げの低下に影響したとして、約3割に絞られています。売り手が競業を再開したほかの事件は、事業譲渡のトラブル・判例62件の分析の類型5で整理しています。

事業譲渡で確認すること(この判決から導ける示唆)

以下は判決から導いた確認事項で、裁判所が述べたものではありません。

  1. 売り手が残す分野・ブランドを契約書に列挙する:本件では、売り手がガーリーファッションのブランドを除いたと主張しましたが、契約書に記載がなく、在庫や売上実績表とも合わないとして退けられました。除外するなら、ブランド名や商品区分で契約書に書き、売上実績表もその区分で分けて示します。
  2. 売り手の競業避止を契約書に明記する:本件の買い手は、会社法21条3項の不正の競争の目的を立証して差止めを得ました。契約で競業避止の範囲(取扱分野、販売チャネル、期間)を定めておけば、目的の立証によらずに済む場面が増えます。売り手が個人の場合や、オークションなど別のチャネルでの販売も対象に含めるかを検討します。
  3. 引継期間に売り手ができること・できないことを決める:本件では、買い手が営業できない約1か月の間に、売り手が顧客に新サイト開設のメールを送りました。引継期間中の顧客への連絡は買い手の承諾を要するとし、メールマガジンの配信権限を早期に買い手へ移します。
  4. 売り手の今後の事業の予定を書面で確かめる:本件の売り手は、契約の15日前に新サイトのドメインを取得していました。売却後の事業の予定を確かめ、表明保証に入れることが考えられます。
  5. 譲受け後の売上げの記録を残す:控訴審は、どの顧客が離れたかの立証が難しい中で、売上げの推移と買い手の運営状況を見て損害を約3割と認定しました。譲受け前後の売上げ、顧客数、運営上の取組みを記録しておくことが、損害の立証に関わります。

判決の出典

知財高裁判決は東京地裁判決の控訴審です。遅延損害金は、知財高裁判決では当時の民法所定の年5分とされています。個人は立場で書いています。

よくある質問

Q. ウェブサイトの売買も、会社法の「事業」の譲渡に当たりますか?

本件では当たるとされました。電子ファイルとドメイン名だけでなく、在庫、マニュアル、契約上の地位、ノウハウ、顧客の連絡先まで譲渡され、研修期間も設けられていたことから、一定の営業目的のために組織化された財産だと判断されました。ドメインやデータだけを売った場合にどう判断されるかは、この判決は示していません。

Q. 契約書に競業避止の条項がなくても、売り手の競業を止められますか?

本件の買い手は、会社法21条3項(不正の競争の目的による同一の事業の禁止)に基づいて差止めを得ました。判決からは、契約書に競業避止の条項があったかどうかは読み取れません。21条3項による差止めは、譲渡した事業と同一の事業に限られ、本件では譲渡当時に扱っていたブランドの中古衣類の売買に限定されました。

Q. 売上げが落ちた分は全部、損害として認められましたか?

認められませんでした。一審は因果関係を認めず、控訴審は損害の発生を認めたうえで、買い手の経験や販売方法も影響したとして、民事訴訟法248条により前後の利益差の約3割の178万7400円と弁護士費用18万円を認めました。この割合は本件の事情に基づく認定です。

Q. 売り手の会社の代表者個人も責任を負いましたか?

一審は、代表者個人に対する会社法429条と民法709条に基づく請求を退けました。控訴審で買い手が附帯控訴したのは会社に対する部分で、代表者個人の責任は控訴審では判断されていません。

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この記事は、裁判所が公開している判決文(2026-10-12時点)をもとに、判決が認定した事実と判断を整理したものです。判決の評価にあたる言葉は、判決の文言をカギカッコで引用したものに限っています。判決に出てくる個人は、判決自身の伏せた表記か続柄だけで書いています。株式会社日本財務戦略センターが当事者の主張の当否や、現在の会社・商品について評価するものではありません。上級審や確定の有無は、記事中に書いたもの以外は確認できていません。個別の契約や紛争については、弁護士などの専門家にご相談ください。
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五十嵐悠一
監修・執筆責任者
株式会社日本財務戦略センター 代表取締役。京都大学経済学部経営学科(マーケティングゼミ専攻)卒。損害保険ジャパン本店営業部(企業リスク・法務)を経て、東証上場M&A仲介会社にて多数の成約に従事。2020年に株式会社日本財務戦略センターを創業し、M&A・事業承継・財務戦略を専門としています。中小企業庁 M&A支援機関登録事業者/一般社団法人M&A支援機関協会 正会員です。