
株主名簿には載っているけれど、お金を出したのは別の人。そうした「名義株」は、会社の設立や増資の際に、親族や従業員の名前を借りてできることがあります。名義株の本当の株主は誰か。名義書換をしていなくても、会社に株主だと主張できるのか。この記事では、不動産仲介会社をめぐる名古屋高等裁判所の判決と、西武グループの持株会社だった株式会社コクドをめぐる東京高等裁判所・東京地方裁判所の決定をもとに、何が起きたか、何が争われたか、事業承継やM&Aの前に確かめることを整理します。
この事件は、株式譲渡のトラブル・判例74件の分析の類型1「株式の帰属・株主権――譲渡承認・株券・名義株」の事例です。
<a href="https://jfsc.jp/research/ma-hanrei/meigikabu-hanrei/">名義株は誰のものか――払込みの出どころで判断された名古屋高裁 平成3年4月24日判決と、西武グループの持株会社コクドの名義株をめぐる東京高裁・東京地裁 平成17年の決定|株式会社日本財務戦略センター</a>文章での出典表記:株式会社日本財務戦略センター「名義株は誰のものか――払込みの出どころで判断された名古屋高裁 平成3年4月24日判決と、西武グループの持株会社コクドの名義株をめぐる東京高裁・東京地裁 平成17年の決定」(2026年10月12日) https://jfsc.jp/research/ma-hanrei/meigikabu-hanrei/土地建物の売買賃貸借の仲介斡旋等を目的とする、発行済株式総数3,000株の会社です。前身は、兄(被控訴人の一人)を営業主、弟を取引主任者として始めた個人事業で、利益は兄6割、弟4割で分けていました。株券は発行されていませんでした。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 昭和40年1月 | 兄弟が共同で不動産の個人事業を始める |
| 昭和45年 | 法人化。定款上、従業員900株、兄・弟各800株、父・弟の妻・従業員の妻・父の子の夫が各100株を引き受けたと記載。払込金は、弟が共同事業の分配前の利益から全額を払い込んだ。兄の妻は一般公募に応じた形で株主に |
| 昭和48年 | 従業員が退社し、取締役も辞任。株式をどうするかの話合いはなかった |
| 昭和49年〜62年 | 法人税申告書には、株主の出資金額として兄・弟・父・兄の妻・弟の妻の金額が記載されていた |
| 昭和61年 | 父が死亡。遺産分割協議で父の株式400株を兄と弟が半分ずつ取得 |
| 昭和63年 | 弟が代表取締役として登記される。兄夫婦が株主の地位の確認などを求めて提訴 |
| 平成元年4月 | 弟が招集した定時株主総会で役員選任などを決議(兄夫婦は欠席) |
| 平成3年4月24日 | 名古屋高裁が会社の控訴を棄却し、平成元年の総会決議の不存在も確認 |
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会社は、兄を800株、兄の妻を100株の株主と認めるにとどまり、兄夫婦はそれぞれ1,200株、300株の株主だと主張しました。
コクドは、大正9年に箱根土地株式会社として設立された非上場会社で、西武鉄道の株式の71.33%(間接保有分を含む)、プリンスホテルの株式の100%を持ち、西武グループを統括する持株会社でした。発行済株式総数は、株式併合後2,099株です。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 昭和39年4月 | 創業者が死亡 |
| 昭和39年10月 | 遺産分割協議書が作成される。創業者名義の株式23万8518株(併合後238株相当)は学校法人に寄付するとされた |
| 平成17年1月 | 西武グループ経営改革委員会が、外部の弁護士事務所によるコクド株の帰属の調査結果を公表 |
| 平成17年3月 | 名義人3人が、創業者の相続人ら4人の持分を確認する訴訟で請求を認諾(49株)。相続人の一人(相続分33分の2)を権利行使者とする届出 |
| 平成17年6月28日 | 東京高裁が、6月29日の定時株主総会の開催禁止の申立てを却下した原決定に対する抗告を棄却 |
| 平成17年8月 | 西武グループの再編スキームが公表される |
| 平成17年11月11日 | 東京地裁が、株式移転を議題とする臨時株主総会の開催禁止の申立てを却下 |
名古屋高裁は、払込金は弟が共同事業の利益から全額を払い込んだこと、従業員は会社の運営に発言せず、退社時に株式の話合いもなかったこと、もう一人の名義人は「全く名目上の株主」にすぎなかったこと、法人税申告書の株主の出資金額の記載などを認定し、従業員・その妻・親族名義の合計1,100株は名義株で、名義人は実質上の株主ではないと判断しました。設立時に従業員が自分と妻の分の払込金を支払ったという書面や供述は、裏付けを欠くとして採用しませんでした。
そのうえで、商法206条1項は会社に株主だと主張するすべての場合の対抗要件だとして、「他人名義で取得したいわゆる名義株の実質上の株主であることを主張する場合においても、株主名簿に自己の氏名及び住所が記載されていることが必要であると解される。」としました。ただし、「実質上の株主が会社に対して名義書換えを要求したのに会社がこれを正当な理由なく拒絶した場合又は実質的にこれと同視し得る場合には」、会社は株主であることを否認できないとしました。
この事件では、兄夫婦が名義書換を請求して拒絶されたという主張立証はありませんでしたが、会社は訴訟で株式の取得を争っており、請求しても拒絶することは明らかでした。また、法人税申告書の記載や、代表者の弟自身が作成に加わった遺産分割協議書から、会社は株式が兄夫婦に帰属することを知り、容易に証明できる状態にあったとして、「控訴人が被控訴人らの名義書換え請求を正当な理由なく拒絶した場合と実質的に同視することができるので」、名義書換がなくても株主の地位を会社に主張できると判断しました。
あわせて、兄が代表取締役に就任して以来、平成元年の総会まで一度も株主総会が開かれていなかった会社で、選任決議がないまま登記された取締役による取締役会で選ばれた代表取締役が招集した総会の決議は法律上存在しないとして、平成元年の総会決議の不存在を確認し、兄がなお代表取締役の権利義務を持つことも認めました。
東京高裁は、昭和39年の遺産分割協議書には申立人本人の押印がなく、代理人とされる人の代理権を示す資料もないとして、遺産分割協議を無効とし、創業者名義の株式について申立人の33分の2の持分を一応認めました。認諾の49株についても、名義人自身が相続人の持分を認めた事実は軽視できないとして、共有を一応認めました。その他の名義株については、陳述の多くは伝聞であるとしながら、「抗告人においては、少なくとも名義株が存在すること自体については、疎明を尽くしたものということができる。」としました。
しかし、総会を開けば手続上軽微とはいえない瑕疵を帯びる余地があるとしても、議題の定款変更は法が許すもので、決議取消しの訴えなどで事後に是正できるとして、会社に回復すべからざる損害が生じるおそれの疎明はないとしました。また、「満足的仮処分という性質を有する株主総会開催禁止の仮処分命令を発するにあたっての保全の必要性の判断は、特に慎重に行われるべきものであり」、その必要性も認められないとして、抗告を棄却しました。会社自体を相手方とする申立ては、当事者適格を欠くとしています。
東京地裁は、認諾の49株について、相続人らの準共有を一応認め、権利行使者の指定も有効としました。名義人が株券不所持の申出をしていた場合、本当の株主は「会社に対して株券を呈示することなく、自らが権利者であることを実質的に証明して株主名簿の名義書換えを求めることができるものと解するのが相当である。」とし、会社が名義書換を拒んだのは不当だから、会社は株主資格を否認できないとしました。
一方、創業者名義の株式については、東京高裁と異なり、会社が保管していた名義書換請求書に委任状の写しが添付されていたことや、約40年異議がなかったことなどから、遺産分割協議は有効に成立したと判断し、持分を認めませんでした。
名義株については、元役員らの陳述や、購入代金がいったん払われた後に同額が返されていた運用などから、その少なからぬ部分は「売買を仮装した名義貸しであったことが窺われる」としました。株主名簿の免責の効力も絶対ではなく、「会社が、株主名簿上の株主が無権利者である名義貸与人であり、他に真実の株主がいることを知り、又は重大な過失により知らずに、無権利者である名義貸与人に権利の行使を認めたときには、免責されないこととなると解すべきである。」としています。株式移転のような重要な決議では、取締役は「株主権の帰属について必要な調査を尽くすべき注意義務を負うというべきである。」とも述べました。
ただし、名義株がどの株式かは特定されておらず、金融機関から「破綻懸念先」とされた会社で再編を急ぐ必要も否定できないとして、善管注意義務違反の疎明はなく、回復すべからざる損害の疎明もないとして、申立てを却下しました。
名古屋高裁判決は、名義株の本当の株主を、払込金の出どころ、名義人の関与の程度、法人税申告書などの会社の記録から判断しました。名義書換は原則として必要だとしたうえで、本件では、会社が訴訟で株式の取得を争っていて請求しても拒絶することが明らかだったこと、法人税申告書や代表者自身が作成に加わった遺産分割協議書から会社が帰属を知り容易に証明できる状態にあったことを理由に、名義書換がなくても株主だと主張できるとしました。名義株の本当の株主であれば名義書換なしで会社に主張できる、という一般的なルールを示した判決ではありません。
コクドの2件は、名義株の存在が一応認められても、株主総会の開催を事前に止めることは難しいことを示しています。裁判所は、総会の手続に違法が生じ得ることは認めながら、決議の後に訴訟で争えることなどから、開催禁止までは認めませんでした。同じ遺産分割協議の効力についても、提出された資料の違いから、東京高裁と東京地裁で判断が分かれました。どちらも仮処分の手続での一応の判断で、どの株式が誰のものかは確定していません。
3件とも当時の商法による判断です。現在の会社法では、株式の譲渡の対抗要件(当時の商法206条1項)は130条、共有株式の権利行使者は106条、取締役の行為の差止め(当時の商法272条)は360条(監査役設置会社などでは「回復することができない損害」、それ以外では「著しい損害」が要件)に定められています。現在の会社法のもとで同じ結論になるとは限りません。類型1のほかの判決は、株式譲渡のトラブル・判例74件の分析で整理しています。
以下は判決から導いた確認事項で、裁判所が述べたものではありません。
東京高裁 平成17年6月28日決定の原決定は東京地裁の平成17年(ヨ)第20062号事件で、東京地裁 平成17年11月11日決定とは別の申立てです。名古屋高裁判決の第一審の裁判所名は判決文に書かれていません。3件の上訴の有無と確定したかどうかは、2026年10月12日時点の公開情報では確認できていません。個人は判決の伏字か立場で書いています。
Q. 名義株の本当の株主は、どうやって判断されますか?
名古屋高裁 平成3年4月24日判決は、払込金を誰が出したか、名義人が会社の運営に関わっていたか、法人税申告書に株主としてどう書かれていたかなどから判断しました。コクドの事件の東京地裁は、購入代金がいったん払われた後に同額が返されていた運用なども考慮しています。
Q. 名義書換をしていない本当の株主は、会社に株主だと言えますか?
名古屋高裁は、原則として名義書換が必要だとしつつ、会社が正当な理由なく名義書換を拒絶した場合や、それと実質的に同視できる場合には、会社は株主であることを否認できないとしました。この事件では、会社が訴訟で株式の取得を争っていて請求しても拒絶することが明らかだったことと、会社が事実を知っていて容易に証明できる状態にあったことが理由になりました。本件の事実関係に基づく判断で、名義書換なしで常に主張できるという一般的なルールを示したものではありません。また、当時の商法206条1項についての判断で、現在は会社法130条に定めがあります。
Q. 名義株があることを理由に、株主総会を止められますか?
コクドの事件では、東京高裁・東京地裁とも、名義株の存在を一応認めながら、開催禁止の仮処分は認めませんでした。会社に回復できない損害が生じるおそれの疎明がなく、決議の後に訴訟で争えることなどが理由です。どちらも仮処分の手続での一応の判断で、どの株式が名義株で誰のものかを確定したものではありません。東京地裁は、会社が名義貸しを知り又は重大な過失により知らずに名義人に権利行使を認めた場合は株主名簿による免責を受けないと述べましたが、この事件では名義株が特定されていないことなどから、取締役の善管注意義務違反の疎明はないとしています。
Q. 名義株は、いつ整理すべきですか?
判決が時期を述べているわけではありません。ただ、コクドの事件では創業者の死亡から約40年後に帰属が争われ、名古屋高裁の事件でも兄弟の対立のなかで名義株が問題になりました。相続や事業承継、株式の売却の前に、名義人と本当の株主の関係を確認しておくことが考えられます。
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この記事は、裁判所が公開している判決文(2026-10-12時点)をもとに、判決が認定した事実と判断を整理したものです。判決の評価にあたる言葉は、判決の文言をカギカッコで引用したものに限っています。判決に出てくる個人は、判決自身の伏せた表記か続柄だけで書いています。株式会社日本財務戦略センターが当事者の主張の当否や、現在の会社・商品について評価するものではありません。上級審や確定の有無は、記事中に書いたもの以外は確認できていません。個別の契約や紛争については、弁護士などの専門家にご相談ください。
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