
オリンパスの損失隠しは、株式の取得と海外企業の買収を使って資金を動かした事件です。会社と株主は、元役員、外部のコンサルタント、当時の会計監査人をそれぞれ訴えました。4つの判決を並べると、同じ一連の取引について、相手によって結論が分かれています。判決が認定した事実と判断をもとに、誰の責任がどこまで認められたのかを整理します。
この事件は、株式譲渡のトラブル・判例74件の分析の類型6「買い手側の判断と専門家の責任」の事例です。
<a href="https://jfsc.jp/research/ma-hanrei/olympus-baishuu-sekinin/">損失を埋めるための買収で、誰が責任を負ったのか――元役員・コンサルタント・会計監査人で結論が分かれたオリンパス事件(東京地裁 平成29年・東京高裁 令和元年・東京高裁 平成29年・東京地裁 令和6年)|株式会社日本財務戦略センター</a>文章での出典表記:株式会社日本財務戦略センター「損失を埋めるための買収で、誰が責任を負ったのか――元役員・コンサルタント・会計監査人で結論が分かれたオリンパス事件(東京地裁 平成29年・東京高裁 令和元年・東京高裁 平成29年・東京地裁 令和6年)」(2026年10月12日) https://jfsc.jp/research/ma-hanrei/olympus-baishuu-sekinin/ - 元役員:東京地裁(平成29年4月27日)は、国内3社の株式取得と英国の医療機器会社の買収に関する支払を取締役の義務違反としながら、支払った額以上の資金が会社に戻っているとして、この部分の損害は認めませんでした。一方、分配可能額を超える配当等、罰金・課徴金、信用の毀損について支払を命じました。東京高裁(令和元年5月16日)は、財務担当の2人に586億7296万8936円などの支払を命じ、それより前に社長・会長を務めた2人(うち1人は死亡し、相続人が訴訟を承継)の罰金・課徴金の責任は否定しました。
- 外部のコンサルタント2人:東京高裁(平成29年6月15日)は、損失隠しを手助けしたとして共同不法行為の責任を認め、国内3社の株式売買の報酬22億0925万円を損害として、請求どおり10億円の賠償を命じました。
- 当時の会計監査人:東京地裁(令和6年12月19日)は、株主が求めた2128億4457万7302円などの請求を、注意義務の違反はないとして棄却しました。
オリンパスは、顕微鏡や写真機などの光学機械を製造販売する東京証券取引所一部上場の会社です。判決によれば、バブル経済の崩壊後に金融資産の含み損を抱え、決算に計上しないまま連結対象外の海外ファンドに移していました。その状態を解消するために使われたのが、国内3社の株式取得と、英国の医療機器会社の買収でした。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 平成2年頃〜 | 含み損を決算で表に出さない処理を始める。平成8年頃には含み損が約900億円に |
| 平成10年〜12年 | 海外の銀行や事業投資ファンドを通じて、簿外のファンドに資金を流す仕組みを作る |
| 平成15年〜17年 | 簿外側のファンドなどが、国内3社の株式を1株5万円または20万円で取得 |
| 平成18年3月 | 会社が出資する事業投資ファンドが、3社の株式を1株579万円・445万円・1437万5000円で取得 |
| 平成18年6月・19年6月 | 買収のアドバイザー(FA)と契約し、のちに成功報酬の条件を変更 |
| 平成20年2月 | 英国の医療機器会社の買収が完了 |
| 平成20年3月・4月 | 会社と子会社が国内3社の株式を合計607億9500万円で取得(1株1100万円・950万円・2050万円など) |
| 平成20年9月 | アドバイザーに付与した権利の代わりに配当優先株を発行し、ワラント購入権を5000万ドルで買い取る |
| 平成20年12月〜21年5月 | 会計監査人が報酬の高さなどを指摘。監査役会が設けた調査委員会は違法・不正の事情は認識できなかったと報告。会計監査人は無限定適正意見を出し、再任されず交代 |
| 平成22年3月 | 子会社が配当優先株(発行額面約1億7700万ドル)を6億2000万ドルで買い取る |
| 平成23年10月〜12月 | 疑惑を追及した社長を解職。第三者委員会の調査で損失隠しが明らかになる |
| 平成25年7月 | 刑事事件の判決。会社は罰金7億円、元社長ら3人は執行猶予付きの懲役刑 |
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国内3社は、廃プラスチックのリサイクル、電子レンジ用の調理容器の販売、健康食品の販売などを行う会社です。東京地裁(平成29年)は、3社の当期純損失はおおむね拡大の一途をたどっており、取得価格の前提となった事業計画は実績と明らかに乖離していたと認定しました。
判決は、損失を付け替えたファンドに資金を流す意図で事業を買収することは「法律に定められた適正な手続による損失分離状態の解消を更に困難にさせるものであるばかりか,当該事業の価値を不当に高く評価することなどにより,会社に本来不要な財産的支出をさせるもの」で、取締役の善管注意義務と忠実義務に違反するとしました。国内3社の株式取得も「専ら損失分離スキームによって作出された損失分離状態を解消する意図で実施されたもの」と認定し、当時の社長と財務担当の2人に任務懈怠があるとしました。
ところが、損害は認めませんでした。会社と子会社が3社の代金として支払った607億9500万円は、ファンドの間を移動したあと、担保に入れていた預金の払戻しや出資金の返還として合計719億9333万3333円が戻っていました。判決はこれを任務懈怠によって得た利益と見て、損害を否定しました。買収に関する支払(621億1930万円)も、631億0545万7242円が戻っているとして同様に判断しました。支払った資金が簿外のファンドを経由して会社に戻ってくるという本件の資金の流れを前提にした判断で、実際の価値を超える価格で買っても損害にならないという一般的なルールを示したものではありません。
一方で、分配可能額を超える剰余金の配当と自己株式の取得の合計586億7596万8936円(会社法462条1項)、罰金7億円と課徴金1986万円(一部請求の1億円)、疑惑を追及した社長の解職による信用の毀損1000万円について、支払を命じました。
国内3社の取得と買収に関する請求は、控訴審の審理の対象になっていません。東京高裁は、ファンドの金利や手数料は会社とは別の法主体が払ったもので、会社の損害とは認められないとしました。分配可能額を超える配当等については、控訴した財務担当の2人に、別の訴訟の和解金300万円を差し引いた586億7296万8936円の支払を命じました。当時の社長は控訴していません。
罰金・課徴金については「会社が取締役の任務懈怠によって課徴金・罰金の支払を余儀なくされた場合において,その課徴金・罰金を損害から除く根拠はない。」とし、虚偽記載のある報告書を提出した当時の社長と財務担当の2人に7億1986万円全額の責任を認めました。一方、それより前に社長・会長を務めた2人については、対象の報告書は退任後のもので作成や提出に関与しておらず、相当因果関係はないとして、一審の判断を取り消しました。
訴えられたのは、経営コンサルティング会社を営む元証券会社勤務の2人です。東京高裁は、2人が損失隠しを認識しながら、事業投資ファンドの組成と運営、国内3社の紹介、事業計画の作成、3社株式の売買などに関わったとして、民法719条2項(幇助した者を共同行為者とみなす規定)により責任を認めました。
3社株式の価格差は、会社の支配下で資金を循環させたにすぎず、最終的に会社へ償還されたとして損害に当たらないとしました。罰金・課徴金は、手助けした外部の者に全額を求めると「実質的に本犯が受けるべき刑罰を他に転嫁するに等しいことになりかねない。」として、信義則上許されないとしました。他方、3社株式の売買の報酬として海外の口座に送られた12億5925万円と9億5000万円は、最終的に2人ともう1人が受益者となる財団に分けて入金されたと認定し、「犯罪収益に該当するものであるから,控訴人らが賠償すべき被控訴人の損害に当たることは明らかである。」としました。過失相殺も認めていません。
なお、同じ送金について、元役員に対する東京地裁判決は、銀行の関係者が協力したことへの報酬の趣旨と認定しています。当事者と証拠が異なる別々の訴訟で、認定も異なっています。
判決は、国内3社の事業計画が平成20年から平成24年にかけて売上を約12倍から約30倍にする楽観的なもので、一定程度の危険はあったと認めました。しかし、損失を解消する仕組みは「容易には想定し把握することが困難な巧妙かつ複雑なスキームであった」とし、不正を具体的に疑わせる兆候はなかったと判断しました。監査チームは取締役会議事録や契約書の閲覧、社長らとの面談、3社の本社の往査や工場の視察を行っており、必要な手続を尽くしていたとしています。
アドバイザー報酬についても、監査チームは高さを指摘して一部の費用処理と3社の減損処理を求め、会社はそれに沿う処理をしていました。外部の調査委員会と監査役会が違法・不正は認められないと報告したことも踏まえ、無限定適正意見は不合理ではないとしました。判決は「本件国内3社の企業価値又は本件国内3社株式の株式価値をどのように評価するかについては経営判断に属する事項であるから」と述べ、価格の当否と監査人の責任を区別しています。
同じ一連の取引でも、誰を訴え、何を損害とするかで結論が変わりました。元役員については、損失を解消する目的の買収や株式取得は義務違反とされましたが、本件では資金が会社に戻っていたため支払そのものは損害とされず、賠償の中心は分配可能額を超える配当等と罰金・課徴金でした。外部のコンサルタントについては、損失隠しを認識して関与し報酬を得ていたことが重視され、本件では報酬として海外の口座に送られた額が損害とされる一方、罰金・課徴金は信義則上請求できないとされました。会計監査人については、本件の監査チームが行った手続と、調査委員会・監査役会の報告などの事情から、事業計画が楽観的でも不正を具体的に疑わせる兆候はなかったとして、責任が否定されました。
判決が判断していないこともあります。損失隠しと無関係な通常の買収で、高すぎる価格を決めた取締役の責任がどうなるかは、正面から判断されていません。会社法462条の判断は訂正後の財務諸表で分配可能額がマイナスだったことを、罰金・課徴金の判断は刑事事件の有罪判決を前提にしています。類型6のほかの事例は、株式譲渡のトラブル・判例74件の分析で整理しています。
以下は判決から導いた確認事項で、裁判所が述べたものではありません。
東京高裁 平成29年6月15日判決の原審は東京地裁(平成24年(ワ)第18027号)で、控訴審判決によれば、原審は罰金・課徴金を損害として請求額5億円の全額を認めていました。原審の判決日は控訴審判決からは確認できません。4つの判決が確定したかどうかは、2026年10月12日時点の公開情報では確認できていません。遅延損害金の利率(年5分)は平成29年改正前の民法によるものです。個人は判決の伏字か立場で書いています。
Q. 高すぎる価格で会社を買った役員は、必ず差額を賠償することになりますか?
東京地裁 平成29年4月27日判決は、損失を解消する目的で実際の価値を超える価格で株式を取得したことを義務違反としましたが、支払った資金が簿外のファンドを経由して会社に戻っていたため、取得代金の損害は認めませんでした(この部分は控訴審の審理の対象になっていません)。これは本件の資金の流れを前提にした判断で、高すぎる価格で買っても損害にならないという一般的なルールを示したものではありません。損失隠しと無関係な通常の買収で、高すぎる価格を決めた取締役の責任がどうなるかは、判断されていません。
Q. 買収のアドバイザーやコンサルタントも責任を負うことがありますか?
東京高裁 平成29年6月15日判決は、損失隠しを認識しながら取引に関わり、報酬を得ていたコンサルタント2人に10億円の賠償を命じました。損失隠しを知って関与したことが前提で、報酬が高いことだけで責任を認めたものではありません。
Q. 会社が払った罰金や課徴金は、役員に請求できますか?
東京高裁 令和元年5月16日判決は、虚偽記載のある報告書を提出した在任中の役員に、罰金と課徴金の合計7億1986万円の責任を認めました。報告書の提出前に退任していた元社長・元会長については、相当因果関係がないとして否定しました。
Q. 会計監査人が無限定適正意見を出していれば、監査人の責任になりますか?
東京地裁 令和6年12月19日判決は、無限定適正意見を付した財務諸表に虚偽記載があったことから直ちに監査人が虚偽記載を行ったとはいえないとし、当時の状況で必要な監査手続を尽くしていたとして請求を棄却しました。損失を解消する仕組みが容易には把握できないものだったことや、監査チームが行った具体的な手続を前提にした判断で、無限定適正意見を出した監査人が責任を負わないという一般的なルールを示したものではありません。
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この記事は、裁判所が公開している判決文(2026-10-12時点)をもとに、判決が認定した事実と判断を整理したものです。判決の評価にあたる言葉は、判決の文言をカギカッコで引用したものに限っています。判決に出てくる個人は、判決自身の伏せた表記か続柄だけで書いています。株式会社日本財務戦略センターが当事者の主張の当否や、現在の会社・商品について評価するものではありません。上級審や確定の有無は、記事中に書いたもの以外は確認できていません。個別の契約や紛争については、弁護士などの専門家にご相談ください。
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