
株券を発行するはずの会社が、何年も株券を出さないまま放っておく。その間に株主が株式を売ったら、会社は株券がないことを理由に、その譲渡は会社に対して効力がないと言えるのか。最高裁判所大法廷は昭和47年11月8日、それまでの判例を変更して、会社が株券の発行を不当に遅らせている場合には、会社は株券発行前であることを理由に譲渡の効力を否定できないと判断しました。この記事では、この大法廷判決と、その前後の高裁・地裁の判決4件を、判決文をもとに整理します。
この事件は、株式譲渡のトラブル・判例74件の分析の類型1「株式の帰属・株主権――譲渡承認・株券・名義株」の事例です。
<a href="https://jfsc.jp/research/ma-hanrei/kabuken-hakkou-futou-chien/">会社が株券の発行を不当に遅らせていたら、株券のない譲渡は否定できない――最高裁大法廷 昭和47年11月8日判決とその後の判決|株式会社日本財務戦略センター</a>文章での出典表記:株式会社日本財務戦略センター「会社が株券の発行を不当に遅らせていたら、株券のない譲渡は否定できない――最高裁大法廷 昭和47年11月8日判決とその後の判決」(2026年10月12日) https://jfsc.jp/research/ma-hanrei/kabuken-hakkou-futou-chien/5件の判決は、どれも株券が発行されていない会社で、株式が意思表示だけで譲渡された(または遺贈・売買された)事案です。
| 判決 | 会社の状況 | 譲渡の内容 | 結論 |
|---|---|---|---|
| 東京高裁 昭和34年3月7日 | 昭和22年設立、株券は未発行、清算中 | 株主が遺言で妻に300株を遺贈、妻が昭和33年に全部を売却 | 会社に名義書換を命じた一審を維持 |
| 大阪高裁 昭和40年6月29日 | 昭和2年設立、設立以来株券を発行せず、昭和24年に解散 | 株主の間で株式が順に譲渡されたと会社側が主張 | 会社に対しては効力なし |
| 最高裁大法廷 昭和47年11月8日 | 昭和24年に株式会社へ組織変更、その後4年余り株券を全く発行せず | 昭和28年5月、1万6,000株を意思表示のみで譲渡 | 会社に対しても有効(判例変更) |
| 最高裁 昭和49年9月26日 | 株券は未発行 | 昭和36年に9,000株を譲り受け、昭和37年と39年に全部を譲渡 | 譲渡は有効 |
| 神戸地裁 平成14年2月22日 | 昭和37年設立、設立以来株券を発行せず | 株主が持株8,000株を会社に譲渡し、その会社がさらに原告に譲渡 | 会社に対抗できる |
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中心となる大法廷判決の事実関係は、次のとおりです。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 昭和15年10月 | 有限会社として設立 |
| 昭和24年2月 | 株式会社に組織変更(資本金200万円、発行済株式2万株)。その後も株券は全く発行されず |
| 昭和28年5月初旬 | 1万6,000株を持つ株主(B1)が、その全部を上告人に意思表示のみで譲渡。会社は承認し、株主台帳に登載 |
| 昭和28年6月25日 | 会社が株券を発行し、上告人を原始株主として表示する株券を交付 |
| 昭和31年9月16日 | B1らが裁判所の許可を得て株主総会を招集・開催し、旧役員を解任して新役員を選任。続く取締役会でB1を代表取締役に選任 |
| 原審(札幌高裁) | 譲渡は株券発行前のものだから会社に対して効力を生じず、B1はなお1万6,000株の株主だと判断 |
| 昭和47年11月8日 | 最高裁大法廷が原判決の一部を破棄し、総会決議の取消しなどを認める |
大法廷判決より前の判決です。会社側は、昭和33年の最高裁判決を挙げ、株券がなくても会社に対して効力を生じるとの解釈は誤りだと主張しました。東京高裁は、会社が設立から十余年を経ていること、清算中であることなどを指摘したうえで、「株券発行に要するいわゆる合理的期間はもちろん個々の会社の具体的事情に即応してきめられるのであつて」と述べ、この会社はすでに合理的期間を経過しているから、「一方に株券の発行を著しく懈怠し、他方にこれを名義書換拒否の理由とすることは失当であつて」として、名義書換を命じた一審の判断を維持しました。
反対の結論をとった判決です。設立以来株券を発行していなかった会社で、株主総会で清算人を選任した決議の取消しが争われ、決議に加わった人が株主だったかどうかが問題になりました。大阪高裁は、昭和33年の最高裁判決を参照し、合理的期間の経過後の譲渡は会社も否認できないとする「有力な見解」があることに触れながらも、「会社、株主間の権利関係の明確かつ画一的処理による法的安定性を重視する立場に立てば、右見解にはにわかに左たんすることができず、右のような場合でも、やはり株券の発行前における株式の譲渡は、会社に対して何らの効力をも生じないものと解するを相当とする」と判断しました。株券の発行を停止条件とする譲渡だという会社側の主張も退け、決議を取り消した一審の判断を維持しています。
大法廷は、商法の趣旨は、株式の譲渡は自由だが株券の発行を前提とするものだとしたうえで、「もし、株式会社が株券の発行を遅滞することにより、事実上、株式譲渡の自由を奪う結果になるとすれば、それは、同法の右趣旨にもとるのみならず、信義則上も容認できないところといわなければならない。」と述べました。204条2項は、会社が株券を遅滞なく発行することを前提に、株券の発行が円滑かつ正確に行われるようにするための規定だと位置づけています。
一方で、「安易に右規定の適用を否定することは、株主の地位に関する法律関係を不明確かつ不安定ならしめるおそれがあるから、これを慎しむべきであるが」とも述べ、そのうえで、冒頭に挙げた基準を示しました。
あてはめでは、会社が「株式会社に組織変更後四年余の長きにわたつて全く株券を発行することなく放置していたものであり、これが商法の規定の趣旨に反する不当な株券発行の遅滞であることは明らかである。」としました。さらに会社がこの譲渡を承認して株主台帳に記載し、その後に株券を発行したことも挙げ、譲渡は会社に対しても効力を生じたと判断しました。その結果、株主総会の決議はわずか1,700株の議決権でされたことになり、定足数に遠く及ばないとして取り消され、B1を代表取締役に選んだ取締役会の決議も効力を否定されました。
会社の解散を求める訴えで、原告に原告適格があるか(株主の地位を失っていないか)が問題になった事件です。原告は昭和36年に株式9,000株を譲り受け、昭和37年と39年にそれを他人に譲渡したと認定されていました。最高裁は、会社の株券は未発行だったが、「同社は不当に株券の発行を遅滞しているものと認められるから、株券発行前であることを理由に株式譲渡の効力を否定することは許されないものというべきである」として大法廷判決を引用しました。原審は会社を実質は民法上の組合だとして商法の規定の適用を否定していましたが、最高裁はこの理由づけは認めず、譲渡を有効として原告は株主の地位を失ったという結論だけを維持しました(上告棄却)。株券のない譲渡が有効とされたことで、譲渡した側が株主の地位を失った例です。
商法293条の6に基づき帳簿の閲覧を求める訴えで、原告が株主として会社に対抗できるかが問題になりました。神戸地裁は大法廷判決と同じ枠組みを示し、「被告は昭和37年7月28日に設立されてから40年近くもの間、株券を発行していないから、株券の発行を不当に遅滞していることは明らかであり」と判断しました。会社は、株券のない株式の譲渡を会社に対抗するには債権譲渡と同じ通知などが必要だと主張しましたが、裁判所は会社の帰責性を理由に、「会社が株券の発行を不当に遅滞し、信義則上株券不発行を理由に、会社に株式譲渡の効力を対抗できる場合には、指名債権譲渡の方法による対抗要件の取得は不要と解すべきである。」としました。さらに、「したがって、株主名簿の書き換えがなされていなくても、株式譲受人は株主として会社に対抗できると解するのが相当である。」として、閲覧を命じました。
大法廷判決が示したのは、株券を発行すべき会社が発行を不当に遅らせているとき、会社の側が株券発行前であることを理由に譲渡の効力を否定することは許されない、ということです。昭和49年の最高裁判決と平成14年の神戸地裁判決は、この考え方をそのまま使っています。大阪高裁 昭和40年判決は、大法廷判決によって変更される前の昭和33年の判例に従ったものです。
ただし、大法廷は「少なくとも」と限定をつけ、安易な適用は慎むべきだと述べています。何年たてば「不当」なのかという一般的な基準は示されていません。5件の事案はいずれも、4年余り、十余年、40年近くといった長い期間、株券が出されていなかった会社です。また、大法廷の事件では会社が譲渡を承認して株主台帳に記載していたこと、東京高裁の事件では会社が清算中だったことなど、個別の事情も判断の材料になっています。
5件はいずれも当時の商法204条2項についての判断です。現在の会社法も、株券の発行前にした譲渡は株券発行会社に対しその効力を生じないと定め(128条2項)、株券発行会社に株式の発行日以後遅滞なく株券を発行するよう求めています(215条1項)。ただし、会社法の下で同じ結論になるかは、個別の事情を含めて検討が必要です。
なお、この5件が扱ったのは会社に対する関係です。株券発行前の譲渡が、譲渡した人と譲り受けた人の間で効力を持つかについては、最高裁 令和6年4月19日判決が別に判断しています(株券を出さないまま譲渡した株式は有効か――最高裁 令和6年4月19日判決)。当事者の間の効力と、会社に対する効力は別の論点です。株券をめぐる他の判決は、株式譲渡のトラブル・判例74件の分析の類型1で整理しています。
以下は判決から導いた確認事項で、裁判所が述べたものではありません。
大法廷判決の原審は札幌高裁、昭和49年判決の原審は東京高裁です。東京高裁 昭和34年、大阪高裁 昭和40年、神戸地裁 平成14年の各判決が確定したかどうかは、2026年10月12日時点の公開情報では確認できていません。個人は判決の伏字か立場で書いています。
Q. 株券を発行していない会社の株式を株券なしで買ったら、会社に対して株主だと言えますか?
株券発行前の譲渡は、原則として会社に対しては効力を生じません(会社法128条2項)。ただし、最高裁大法廷 昭和47年11月8日判決は、会社が株券の発行を不当に遅らせ、信義則に照らしても譲渡の効力を否定するのが相当でない場合には、会社は株券発行前であることを理由に効力を否定できないとしました。この判決は当時の商法204条2項についての判断で、現在の会社法128条2項について判断したものではありません。
Q. 何年くらい株券を出していなければ「不当な遅滞」になりますか?
判決は一般的な年数を示していません。大法廷は「少なくとも」と限定をつけたうえで判断しており、一定の年数がたてば当然に「不当な遅滞」になるという一般的なルールを示した判決ではありません。この記事の判決で、株券がないことを理由に譲渡を否定できないとされたのは、組織変更後4年余り、設立から十余年、設立以来40年近くといった事案で、会社が譲渡を承認していたかなどの事情も考慮されています。
Q. 最高裁 令和6年4月19日判決とはどう違いますか?
この記事の判決は、株券発行前の譲渡が会社に対して効力を持つかを扱っています。令和6年の判決は、株券発行前の譲渡が、譲渡した人と譲り受けた人の間で、株券の交付がないことを理由に無効になるかを扱い、無効にはならないと判断しました。
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この記事は、裁判所が公開している判決文(2026-10-12時点)をもとに、判決が認定した事実と判断を整理したものです。判決の評価にあたる言葉は、判決の文言をカギカッコで引用したものに限っています。判決に出てくる個人は、判決自身の伏せた表記か続柄だけで書いています。株式会社日本財務戦略センターが当事者の主張の当否や、現在の会社・商品について評価するものではありません。上級審や確定の有無は、記事中に書いたもの以外は確認できていません。個別の契約や紛争については、弁護士などの専門家にご相談ください。
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