経営権争いの最中の新株予約権の発行は許されるか――ライブドアとニッポン放送(東京地裁 平成17年3月11日決定)

経営権争いの最中の新株予約権の発行は許されるか――ライブドアとニッポン放送(東京地裁 平成17年3月11日決定)

上場会社の株式を、ある会社が短期間で大量に買い集めた。経営陣は、別の友好的な会社に大量の新株予約権を割り当てて、その会社の持株比率を下げようとした。このような発行は許されるのか。東京地方裁判所は平成17年3月11日、ライブドアがニッポン放送に対して求めた新株予約権の発行差止めの仮処分を認めました。この事件は上場会社の経営権争いで、非公開会社の株式譲渡とは性格が違うため、株式譲渡のトラブル・判例74件の分析では件数や勝敗の集計に入れず、参考として載せています。この記事では、決定文をもとに、何が起きたか、裁判所がどの基準で判断したかを整理します。

この事件は、株式譲渡のトラブル・判例74件の分析で「参考:上場会社の経営権争い・買収防衛策(集計外)」として載せている事例です。

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先に結論

事件の概要と時系列

ニッポン放送は、AMラジオ放送などを営み、東京証券取引所第二部に上場していた会社です。発行済株式総数は3,280万株で、フジテレビの発行済株式の22.5%を保有していました。フジテレビは、もともとニッポン放送の発行済株式の12.39%を保有する株主でした。決定は、ライブドアを「債権者」、ニッポン放送を「債務者」と呼んでいます。

時期出来事
平成17年1月17日フジテレビが、ニッポン放送の経営権の獲得を目的とする公開買付けの開始を決定(買付価格1株5,950円)。ニッポン放送の取締役会は賛同を決議
平成17年2月8日公開買付けの期間中に、ライブドアが子会社を通じて東京証券取引所のToSTNeT-1を利用した取引で発行済株式の約29.6%を買い付け、もともとの約5.4%と合わせて約35.0%を保有
平成17年2月10日フジテレビが公開買付けの条件を変更(買付株式数の下限を25%に)
平成17年2月21日までライブドア側の保有割合が、総議決権に対して37.85%に
平成17年2月23日ニッポン放送の取締役会が、フジテレビに新株予約権4,720個を発行することを決議(特別利害関係人にあたる可能性のある4名を除く15名の全員一致。社外取締役4名を含む)
平成17年3月7日フジテレビの公開買付けが終了。ライブドア側の保有割合は発行済株式の42.23%に
平成17年3月11日東京地裁が発行を仮に差し止める決定

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新株予約権がすべて行使されると、発行される4,720万株は従来の発行済株式総数の約1.44倍にあたり、ライブドアの保有割合は約42%から約17%に下がり、フジテレビの保有割合は新株予約権の行使で取得する株式だけでも約59%になると認定されています。行使請求期間は平成17年3月25日から6月24日まででした。

ニッポン放送は発行の理由として、企業価値の維持と、マスコミとして担う高い公共性の確保を挙げ、フジテレビによる子会社化という目的を達成する手段だと公表していました。

何が争われたか

  1. 有利発行かどうか:新株予約権の発行価額(1株あたり336.2731円)が公正な価額を大きく下回り、株主総会の特別決議(当時の商法280条ノ21第1項)を経ていないから法令に違反する、とライブドアは主張しました。
  2. 不公正発行かどうか:資金調達の目的がなく、ライブドアの議決権割合を下げる目的で行われた著しく不公正な方法による発行(当時の商法280条ノ39第4項が準用する280条ノ10)だ、とライブドアは主張しました。
  3. ニッポン放送の反論:ニッポン放送は、ライブドアの株式取得は証券取引法の公開買付けの規制を潜脱したもので、発行はそうした買収から企業価値を守り、放送の公共性を確保するためのものだと主張しました。ライブドアの子会社になりフジサンケイグループを離れれば、将来収益などの損失は現在価値で約550億円から約1,450億円にのぼるとも主張しました。

裁判所の判断

有利発行には当たらない

東京地裁は、新株予約権の公正な発行価額はオプション評価理論に基づいて算出される価格だとしたうえで、算定に用いられた三項ツリーモデルや前提条件に明らかに不合理な点は認められないとしました。また、この新株予約権は発行後ごく短期間に行使されることが確実で、実質的には新株の発行と同一だとして、発行価額と行使価格の合計(6,286.2731円)を株価と比べる検証もしました。合計額は決議前日の終値6,750円の約93%で、日本証券業協会の自主ルール(直前日の価額などの0.9倍以上)に照らしても特に有利とはいえないとして、有利発行の主張は退けました。これは、本件の算定モデルと前提条件、決議前日の株価に照らした判断で、経営権争いの中の新株予約権の発行が一般に有利発行に当たらないとした判断ではありません。

主要目的ルール――支配権の維持が主な目的なら原則として許されない

不公正発行について、決定は、支配権に争いがある会社で、持株比率に重大な影響を及ぼす数の新株予約権を第三者に割り当てることが、支配権を争う特定の株主の持株比率を下げ、現経営陣の支配権を維持することを主要な目的とするときは、特段の事情がない限り不公正発行にあたるとしました。その理由として、支配権の争いが具体化した段階でそのような発行をすることは、「会社の執行機関にすぎない取締役が会社支配権の帰属を自ら決定するものであって原則として許されず」と述べています。

あてはめでは、経営陣は事前にフジテレビの公開買付けへの協力を決めており、社外取締役を含む全員一致で決議していることから、「自らの保身のために本件新株予約権の発行を決定したものとは認められないから」、取締役の地位保全が主な目的とはいえないとしました。しかし、フジテレビによる子会社化という目的を達成する手段として発行したという以上、なお現経営陣の支配権の維持が主な目的だと判断しました。

企業価値の毀損が「明らか」とはいえない

ニッポン放送が挙げた企業価値の毀損について、決定は、それを理由に発行が正当化されるには、企業価値が著しく毀損されることが明らかでなければならないとしました。どちらの事業計画が優れているかについては、「本来、いずれに経営を委ねた方が収益の向上が期待できるかを判断するのは株主であり」、裁判所は、支配権の取得が回復しがたい損害をもたらすことが明らかか、買収者の事業計画に合理性がなく真摯に合理的な経営を目指すものといえないか、という観点で判断するとしました。

そのうえで、野球中継の契約が解除されるかは現段階では明確でないこと、フジサンケイグループ各社との取引は単体の売上高308億円以上に対して13億4,000万円であること、従業員の大量流出やブランドの毀損が明らかとはいえないこと、インターネット事業との相乗効果が期待できないとはいえず事業計画に合理性がないとまではいえないことなどを挙げ、従前の発行済株式数の約1.44倍にのぼる発行を正当化する特段の事情はないと判断しました。これらは本件の取引の規模や事業計画についての評価で、どの程度の事情があれば「明らか」といえるかの一般的な基準を示したものではありません。

時間外取引は当時の証券取引法に違反しない

ニッポン放送は、ToSTNeT-1での大量取得は強制公開買付けの規制に違反すると主張しました。決定は、ToSTNeT取引は取引所有価証券市場での取引にあたり、市場外の買付けを規制する当時の証券取引法27条の2には違反しないとしました。公開買付制度の趣旨を及ぼす立法には十分に合理的な根拠があるとしながらも、「現行法の下においては、本件ToSTNeT取引が証券取引法27条の2の規定に違反するものであるということはできない。」と述べています。この判断は当時の証券取引法の規定を前提にしたもので、公開買付けの規制はその後改正され、現在は金融商品取引法に定められています。放送の公共性に関する主張も、発行を正当化する特段の事情とは認めませんでした。

この判決から何がいえるか

決定が示したのは、上場会社で支配権の争いが具体化した後に、取締役会が特定の第三者へ大量の新株予約権を割り当て、支配権を争う株主の持株比率を下げることは、支配権の維持が主な目的であれば原則として許されず、企業価値が著しく毀損されることが明らかな場合などに限って正当化される、という枠組みです。どちらの経営がよいかは、取締役ではなく株主が判断すべきだという考え方に立っています。

一方で、決定は「公開会社が、あらかじめ敵対的買収者を想定して会社支配権の争奪の状況が発生する前に何らかの対抗策を設けることを否定する趣旨ではない。」とも述べており、事前に導入される対抗策の可否は判断していません。また、これは仮処分の決定で、疎明に基づく判断です。

決定が適用したのは当時の商法と証券取引法です。当時の法令と現在の法令の対応は、おおむね次のとおりです。

決定が適用した当時の規定現在の法令
商法280条ノ21第1項(特に有利な条件による新株予約権の発行には株主総会の特別決議が要る)会社法の募集新株予約権の規定(238条・240条など)
商法280条ノ39第4項が準用する280条ノ10(著しく不公正な方法による発行の差止め)会社法247条(募集新株予約権の発行の差止め)
証券取引法27条の2(公開買付けによらなければならない買付け)金融商品取引法27条の2

規定の文言や要件は改正で変わっており、現在の法令で同じ結論になるとは限りません。現在の扱いは、改正の内容を含めて別に確認が必要です。

この事件は上場会社の経営権争いで、非公開会社の株式譲渡とは前提が違います。上場会社の買収防衛策をめぐる他の判決(ブルドックソース、ニレコなど)は、ハブ記事の参考の節にまとめています。

株式譲渡で確認すること(この判決から導ける示唆)

以下は判決から導いた確認事項で、裁判所が述べたものではありません。

  1. 非公開会社では、誰が株式の発行を決めるかを先に確かめる:この決定は、公開会社で取締役会が第三者割当を決められることを前提に、取締役が支配権の帰属を決めることの限界を論じています。非公開会社では、募集株式の募集事項は原則として株主総会の特別決議で定めることになっており(会社法199条2項・309条2項5号)、前提が違います。自社の定款で発行の決定権限がどこにあるかを確認します。
  2. 割当ての規模と持株比率の変化を、目的と並べて検討する:決定は、取締役会が社外取締役を含む全員一致で決議し、保身が目的とは認められなかった場合でも、支配権の維持が主な目的だとして差し止めました。本件では、発行が従来の発行済株式の約1.44倍で、争っている株主の保有割合を約42%から約17%に下げるものでした。支配権の争いがある時期の発行では、資金調達などの目的と、割当先・規模・持株比率の変化がつり合っているかを記録に残しておくことが考えられます。
  3. 企業価値の毀損を主張するなら、具体的な裏づけが要る:本件では、グループ各社との取引が単体の売上高308億円以上に対して13億4,000万円にとどまることなどから、毀損が明らかとはいえないとされました。取引の打切りや人材の流出を理由にするなら、根拠となる契約条項(解除条項など)と取引の規模を数字で示せるかを確認します。

判決の出典

この決定に対する不服申立ての判断は、この調査の母集団に入っていないため、本文では扱っていません。個人は決定の伏字か立場で書いています。

よくある質問

Q. ライブドアとニッポン放送の事件で、裁判所は何を差し止めたのですか?

ニッポン放送が平成17年2月23日の取締役会決議に基づいて手続中だった、フジテレビへの新株予約権4,720個の発行です。東京地裁は、ライブドアが5億円の担保を立てることを条件に、この発行を仮に差し止めました。

Q. 「主要目的ルール」とは何ですか?

この決定では、支配権に争いがある会社で、支配権を争う特定の株主の持株比率を下げ、現経営陣の支配権を維持することを主要な目的として第三者に新株予約権を割り当てることは、特段の事情がない限り不公正な発行にあたる、という考え方が示されました。正当化される特段の事情があるといえるには、企業価値が著しく毀損されることが明らかであることを要するとしています。ただし、これは仮処分の決定での判断です。また、決定は、支配権の争いが生じる前にあらかじめ対抗策を設けることを否定する趣旨ではないと述べており、事前に導入する対抗策の可否は判断していません。

Q. 時間外取引での大量取得は違法とされたのですか?

決定は、ToSTNeT-1での取引は取引所有価証券市場での取引にあたり、当時の証券取引法27条の2には違反しないとしました。そのうえで、公開買付制度の趣旨を及ぼす立法には十分に合理的な根拠があるとも述べています。これは当時の証券取引法についての判断で、現在の金融商品取引法での扱いを示したものではありません。

Q. 非公開会社の株式譲渡にも関係しますか?

この事件は上場会社の経営権争いで、ハブ記事では集計に入れず参考として載せています。非公開会社の株式譲渡の論点(譲渡承認や株券など)とは前提が違うため、直接の参考にはなりません。

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この記事は、裁判所が公開している判決文(2026-10-12時点)をもとに、判決が認定した事実と判断を整理したものです。判決の評価にあたる言葉は、判決の文言をカギカッコで引用したものに限っています。判決に出てくる個人は、判決自身の伏せた表記か続柄だけで書いています。株式会社日本財務戦略センターが当事者の主張の当否や、現在の会社・商品について評価するものではありません。上級審や確定の有無は、記事中に書いたもの以外は確認できていません。個別の契約や紛争については、弁護士などの専門家にご相談ください。
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五十嵐悠一
監修・執筆責任者
株式会社日本財務戦略センター 代表取締役。京都大学経済学部経営学科(マーケティングゼミ専攻)卒。損害保険ジャパン本店営業部(企業リスク・法務)を経て、東証上場M&A仲介会社にて多数の成約に従事。2020年に株式会社日本財務戦略センターを創業し、M&A・事業承継・財務戦略を専門としています。中小企業庁 M&A支援機関登録事業者/一般社団法人M&A支援機関協会 正会員です。