事業を譲って商標だけ残した売り手は、譲受会社の破産後も使用料を取れるか――破産管財人の契約解除をめぐる大阪地裁 令和4年3月31日判決

事業を譲って商標だけ残した売り手は、譲受会社の破産後も使用料を取れるか――破産管財人の契約解除をめぐる大阪地裁 令和4年3月31日判決

事業を譲渡するとき、ブランドの商標権は売り手が持ったままにして、買い手に使用を許諾し、使用料を受け取る形をとることがあります。売り手にとっては、事業を手放した後も継続的な収入が見込める仕組みです。では、買い手の会社が倒産し、破産管財人が使用許諾契約を解除したら、未払いの使用料はどうなるのでしょうか。スニーカー等の事業をめぐる大阪地裁 令和4年3月31日判決は、売り手の請求を退けました。この記事では、判決文をもとに、何が起きたか、何が争われたか、事業譲渡で確かめることを整理します。

この事件は、事業譲渡のトラブル・判例62件の分析の類型6「取引先・ライセンス・権利・許認可の引き継ぎ」の事例です。

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<a href="https://jfsc.jp/research/ma-hanrei/sneaker-shohyo-shiyouryou/">事業を譲って商標だけ残した売り手は、譲受会社の破産後も使用料を取れるか――破産管財人の契約解除をめぐる大阪地裁 令和4年3月31日判決|株式会社日本財務戦略センター</a>文章での出典表記:株式会社日本財務戦略センター「事業を譲って商標だけ残した売り手は、譲受会社の破産後も使用料を取れるか――破産管財人の契約解除をめぐる大阪地裁 令和4年3月31日判決」(2026年10月12日) https://jfsc.jp/research/ma-hanrei/sneaker-shohyo-shiyouryou/
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先に結論

事件の概要と時系列

売り手(原告)は、スニーカー等の履物の製造、販売等を目的とする株式会社で、複数の登録商標の商標権を持っています。譲受会社は、スポーツシューズ等の履物商品の企画、製造、卸、販売等を目的とする株式会社です。訴えられたのは、譲受会社の破産管財人です。判決は会社名と商標を実名で書いていますが、この記事では伏せます。

時期出来事
平成26年5月15日売り手が譲受会社に、年間4000万円(消費税別)で商標の使用を許諾する合意
平成26年5月21日売り手が、その事業を譲受会社に譲渡する合意
令和元年5月21日新たな使用許諾契約(本件契約)。対象は3つの商標、使用料は毎年10月・12月・3月の末日に各1000万円(年3000万円、消費税別)、期間は令和4年5月20日までの3年間
令和2年5月25日譲受会社が大阪地裁に再生手続開始を申し立てる(6月5日に開始決定、6月24日に管財人を選任して管理命令)
令和2年9月29日売り手が請求書で、10月20日までに使用料3300万円(消費税込み)を支払うよう求める
令和2年10月30日再生手続廃止決定(11月26日の経過で確定)
令和2年11月27日譲受会社に破産手続開始決定。再生手続の管財人だった弁護士が破産管財人に
令和2年10月末以降期限の来た使用料は支払われていない
令和3年5月14日破産管財人が、破産法53条1項に基づいて本件契約を解除する意思表示(翌日到達)
令和4年3月31日大阪地裁が売り手の請求(3300万円と遅延損害金)を棄却

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事業譲渡の経緯について、破産管財人は、譲受会社は売り手のスニーカー事業を承継するために平成26年に設立された会社で、商標の価値は専ら譲受会社の活動で維持されてきたのに、設立から倒産まで毎年4000万円または3000万円の使用料を払い続けてきたと主張しました。売り手は、事業の譲渡は旧経営者の労いのためで、譲渡後に役員報酬の支払がなくなる分、使用料を払っても譲受会社には利益が出たと反論しています。これらは双方の主張で、裁判所はこの点を判断していません。

何が争われたか

  1. 使用料の請求権は財団債権か(争点1):破産手続では、財団債権は破産債権に先立って随時支払われます。売り手は、本件契約は独占的な使用許諾ではなく、使用料は日々の商標使用の対価だから、破産手続開始後の分は破産法148条1項8号により財団債権となり、再生手続中の分は民事再生法上の共益債権を経て財団債権になると主張しました。さらに、管財人は解除するまでの間に商標の付いた在庫商品を販売して破産財団を1億3750万円以上増やしたから、履行を選んだのと同じで、148条1項7号の適用または類推適用で財団債権になる、予備的に、解除に伴う反対給付の返還として54条2項で財団債権になる、とも主張しました。管財人は、解除により契約は遡及的に消滅し、使用料の支払義務もなくなると反論しました。
  2. 売り手の請求は権利の濫用か(争点2):管財人は、本件契約は譲受会社から資金を吸い上げる仕組みにすぎず、残った商品を売って換価した後の破産財団に3300万円を請求するのは権利の濫用だと主張しました。

裁判所の判断

解除によって契約は遡及的に消滅し、使用料の支払義務もなくなる

裁判所は、本件契約はライセンス契約で、破産手続開始決定の時点では、売り手の商標使用を受忍する義務と、譲受会社の使用料を支払う義務は、将来の期間分について双方未履行の双務契約になるとしました。管財人が破産法53条1項に基づいて解除の意思表示をしたことで、本件契約は遡及的に消滅し、管財人は使用料の支払義務を免れるとしました。

使用料は「日々の使用の対価」ではない

売り手の、使用料は日々の使用の対価だという主張について、裁判所は契約書の内容を見ました。本件契約は、期間を3年とし、年3回各1000万円を支払う内容であることに加え、「信用不安、事業譲渡、契約違反のほかは中途解約が認められておらず」、解除時に契約期間に応じて使用料を精算する規定や、一定期間の使用の対価として使用料を払うことをうかがわせる規定もない、と認定しました。そのうえで、本件契約は、令和元年5月21日の締結時に、売り手が3年間の使用許諾を与え、これに対応する3年分の使用料の分割支払義務が生じたものと解するのが相当だとしました。

在庫を売っても、履行を選んだことにはならない

管財人が在庫商品を処分した後に解除したのだから履行を選んだのと同じだ、という主張についても、裁判所は退けました。管財人が履行を選んだことや、裁判所がそれを許可したこと(破産法78条2項9号)を認める証拠はなく、53条1項の解除権を行使する時期に特段の定めはないとしました。在庫商品の処分に疑問があれば、売り手は同条2項に基づき、解除か履行かを確答するよう管財人に催告できたのに、催告などをした形跡はない、と指摘しています。そのため、破産手続開始後で解除の前に期限が来た分割金について「破産債権として行使される可能性はあったとしても」、財団債権になるという主張は理由がないとしました。

解除に伴う返還の規定も当てはまらない

破産法54条2項は、相手方がすでに給付をしていた場合に、反対給付が現存すれば取り戻しを、現存しなければその価額について財団債権者としての地位を認める規定です。裁判所は、同項は「相手方が破産財団に何らかの給付をしたことを前提としていると解される」とし、売り手は使用許諾という権利を与えてその使用を受忍しただけで、何ら給付はしていないとして、適用を否定しました。

以上から、「原告の被告に対する本件契約に基づく商標使用料請求権は、被告による解除を原因として消滅したといえる」として、権利の濫用の争点については「その余の争点について判断するまでもなく」、請求を棄却しました。

この判決から何がいえるか

事業を譲って商標権だけを残し、譲受会社から使用料を受ける形にしていた売り手は、譲受会社が破産し、破産管財人が使用許諾契約を解除すると、少なくともこの事件では、未払いの使用料を財団債権として優先的に受け取ることはできませんでした。商標権そのものは売り手の手元に残りますが、そこから得ていた収入は、譲受会社の経営状態に左右されることになります。

判断の要になったのは、使用料が日々の使用の対価なのか、契約時に3年分がまとめて発生して分割で払われるものなのか、という契約の性質の見方です。裁判所は、中途解約の制限や精算規定がないといった本件契約書の定めから後者と見ました。契約の定めが違えば同じ結論になるとは限らず、この判決はそこまで述べていません。また、管財人が解除をいつまでにすべきかについて、裁判所は特段の定めはないとし、売り手の側には催告の手段があったと指摘しています。

取引先の契約やライセンスの引き継ぎで生じたほかの事例は、事業譲渡のトラブル・判例62件の分析の類型6で整理しています。

事業譲渡で確認すること(この判決から導ける示唆)

以下は判決から導いた確認事項で、裁判所が述べたものではありません。

  1. 商標権を残して使用料を受ける形にするなら、譲受会社の信用リスクを織り込む:この事件では、事業譲渡から約6年で譲受会社が再生手続を申し立て、破産に至りました。使用料の収入は譲受会社が払える間だけのものになり得ます。事業の対価を将来の使用料に寄せる設計にするなら、商標権も一緒に譲渡して譲渡代金として受け取る選択肢と比べておくことが考えられます。
  2. 使用料が何の対価なのかを契約書で明確にする:裁判所は、中途解約の制限があり、解除時の精算規定や一定期間の使用の対価だとうかがわせる規定がないことから、3年分の使用料が契約時に発生したと見ました。使用料をどの期間の使用の対価とするのか、契約が途中で終わったときにどう精算するのかを、契約書に書いておくことが考えられます。ただし、そうした定めがあれば財団債権になると判決が述べたわけではありません。
  3. 相手方が倒産したら、管財人への催告を検討する:この事件では、管財人は破産手続開始から約半年後に解除し、売り手は、それが在庫商品の処分が終わった後だったと主張しました。裁判所は、売り手は破産法53条2項の催告ができたのにしていないと指摘しています。ライセンス先の再生・破産を知ったら、早い段階で専門家と対応を検討することが考えられます。
  4. 商標の付いた在庫の扱いを決めておく:売り手は、管財人が解除の前に商標の付いた在庫商品を販売したと主張しました。ライセンスの終了や相手方の倒産のときに、在庫に商標を付けたまま売ってよいのか、その間の使用料をどうするのかを、あらかじめ契約で決めておくことが考えられます。

判決の出典

2026年10月12日に裁判所の公開情報で確認した範囲では、この判決に対する控訴や上級審の判決は確認できていません。会社名・商標・個人は伏せ、会社は目的とする事業で書いています。

よくある質問

Q. ライセンス先が破産したら、未払いの使用料はどうなりますか?

この判決では、破産管財人が破産法53条1項に基づいて使用許諾契約を解除したことで、契約は遡及的に消滅し、使用料の支払義務もなくなったとされ、未払いの3300万円の請求は棄却されました。ただし、使用料を契約時に3年分が発生したものと見たのは、この事件の契約書の定めに基づく判断です。

Q. 破産管財人が商標の付いた在庫を売っていたら、契約を続けたことになりませんか?

この判決は、管財人が履行を選んだことや裁判所の許可を示す証拠はなく、解除権の行使時期に特段の定めはないとして、履行を選んだのと同じだという主張を退けました。売り手は管財人に、解除か履行かを確答するよう催告できたのに、していなかったと指摘されています。

Q. 使用料の仕組みが「上納金」だという管財人の主張は認められたのですか?

判断されていません。管財人は、使用料の請求は権利の濫用だと主張しましたが、裁判所は、使用料の請求権は解除で消滅したとして、その争点について判断するまでもなく請求を棄却しました。

Q. 事業を譲るとき、商標権は譲渡と使用許諾のどちらがよいですか?

この判決はその点を判断していません。使用許諾の形にすると、使用料の収入は譲受会社の支払能力に左右され、この事件のように破産で解除されると未払いの使用料を受け取れないことがあります。対価の受け取り方や譲渡後の関係も含め、個別に検討が必要です。

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この記事は、裁判所が公開している判決文(2026-10-12時点)をもとに、判決が認定した事実と判断を整理したものです。判決の評価にあたる言葉は、判決の文言をカギカッコで引用したものに限っています。判決に出てくる個人は、判決自身の伏せた表記か続柄だけで書いています。株式会社日本財務戦略センターが当事者の主張の当否や、現在の会社・商品について評価するものではありません。上級審や確定の有無は、記事中に書いたもの以外は確認できていません。個別の契約や紛争については、弁護士などの専門家にご相談ください。
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五十嵐悠一
監修・執筆責任者
株式会社日本財務戦略センター 代表取締役。京都大学経済学部経営学科(マーケティングゼミ専攻)卒。損害保険ジャパン本店営業部(企業リスク・法務)を経て、東証上場M&A仲介会社にて多数の成約に従事。2020年に株式会社日本財務戦略センターを創業し、M&A・事業承継・財務戦略を専門としています。中小企業庁 M&A支援機関登録事業者/一般社団法人M&A支援機関協会 正会員です。