株式譲渡のクロージング(決済日)は何をどの順番でするか――株券の交付・譲渡承認・代金の支払・前提条件で裁判になった点を判決で確かめる

株式譲渡のクロージング(決済日)は何をどの順番でするか――株券の交付・譲渡承認・代金の支払・前提条件で裁判になった点を判決で確かめる

株式譲渡契約に署名しても、それで手続が終わるわけではありません。決済の日(クロージング)に、買い手は代金を払い、売り手は株式を渡します。株式を「渡す」とは、株券を発行している会社なら株券を交付すること、譲渡に会社の承認が要る株式なら承認を得ておくこと、そのうえで株主名簿を書き換えることです。この順番が崩れたり、どれかが抜けたりしたとき、後から「誰が株主か」「代金を払う義務はあるか」が裁判で争われてきました。この記事では、会社法の条文で手続の順番を示し、それぞれの段階で争われた判決を短く紹介します。個々の判決は、別の記事で詳しく扱っています。

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<a href="https://jfsc.jp/research/ma-hanrei/kabushiki-jouto-closing-tetsuzuki/">株式譲渡のクロージング(決済日)は何をどの順番でするか――株券の交付・譲渡承認・代金の支払・前提条件で裁判になった点を判決で確かめる|株式会社日本財務戦略センター</a>文章での出典表記:株式会社日本財務戦略センター「株式譲渡のクロージング(決済日)は何をどの順番でするか――株券の交付・譲渡承認・代金の支払・前提条件で裁判になった点を判決で確かめる」(2026年10月13日) https://jfsc.jp/research/ma-hanrei/kabushiki-jouto-closing-tetsuzuki/
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先に結論

クロージングで動くもの――会社法の条文で見る順番

株式譲渡の手続を、会社法の条文で並べると次のとおりです。

段階確かめること・すること主な条文
1. 契約の前株券発行会社かどうか、株券が実際に発行されているか214条・215条
2. 契約の前株式に譲渡制限があるか、承認する機関はどこか107条・139条
3. 決済の前譲渡の承認を請求し、会社の決定の通知を受ける136条・137条・139条・145条
4. 決済の日代金の支払と、株券の交付(株券発行会社の場合)127条・128条
5. 決済の後株主名簿の書換えを請求する130条・133条・134条

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いくつか補足します。

株券発行会社の株式は「株券の交付」で移る

株券を出さないまま譲渡した株式は、当事者の間では有効

定款で株券を発行すると定めながら、設立以来一度も株券を出していなかった非上場の会社で、株式が株券のないまま順に譲渡されました。東京高裁は、株券を交付しない譲渡は当事者の間でも効力を生じないとしましたが、最高裁は令和6年4月19日、会社法128条1項は株券の発行後の譲渡に適用される規定だとして、「株券の発行前にした株券発行会社の株式の譲渡は、譲渡当事者間においては、当該株式に係る株券の交付がないことをもってその効力が否定されることはないと解するのが相当である。」と判断し、原判決を破棄して差し戻しました。

ただし、株券発行前の譲渡は、会社に対しては効力を生じません(会社法128条2項)。判決は、譲受人が譲渡人の株券発行請求権を代わって行使し、会社から直接株券の交付を受ける方法も認めています。詳しくは株券を出さないまま譲渡した株式は有効か――最高裁 令和6年4月19日判決で整理しています。

会社が株券の発行を不当に遅らせていたら、会社も譲渡を否定できない

株式会社に組織変更してから4年余り株券を発行していなかった会社について、最高裁大法廷は昭和47年11月8日、会社が株券の発行を不当に遅らせ、信義則に照らしても譲渡の効力を否定するのが相当でない状況になった場合には、株主は意思表示だけで株式を譲渡でき、「会社は、もはや、株券発行前であることを理由としてその効力を否定することができず、譲受人を株主として遇しなければならない」と述べました(当時の商法204条2項についての判断です)。

同じ判決は、安易にこの規定の適用を否定することは慎むべきだとも述べており、株券がなくてもいつでも会社に対抗できる、という判断ではありません。その後の判決とあわせて、会社が株券の発行を不当に遅らせていたら、株券のない譲渡は否定できない――最高裁大法廷 昭和47年11月8日判決とその後の判決で整理しています。

二つの判決が扱った場面は違います。令和6年判決は譲渡した人と譲り受けた人の間の効力、昭和47年判決は会社に対する効力です。どちらも、株券を出さないまま譲渡を重ねた結果、何年も後になって争いになった事件でした。

譲渡制限株式は、承認を決済の前に取る

承認のない譲渡は、会社に対しては効力を生じない

定款で譲渡に取締役会の承認が要るとされた株式について、最高裁は昭和48年6月15日、承認を得ずにされた譲渡は「会社に対する関係では効力を生じないが、譲渡当事者間においては有効であると解するのが相当である。」と判断しました。株式を譲渡担保に入れる場合も同じだとしています。

最高裁 昭和63年3月15日判決は、この考え方を前提に、株式が競売で落札されても、落札者が承認を求めていない以上、「譲渡人は、会社に対してはなお株主の地位を有するものというべきである。」としました。一方、最高裁 平成5年3月30日判決は、全株式を持つ一人会社の株主が株式を譲渡した場合には、承認がなくても「その譲渡は、会社に対する関係においても有効と解するのが相当である。」としています。

承認がないまま代金を払っても、会社に対しては売り手がなお株主のまま、ということが起こり得ます。いずれも当時の商法による判断で、現在の会社法では承認の手続が136条以下に定められています。4つの判決は譲渡制限株式を承認なしに譲渡したら有効か――最高裁4判決で整理しています。

承認の請求は、いつまで撤回できるか

譲渡の承認を求め、承認しないなら別の買受人を指定するよう請求した株主が、会社の指定した買受人を受け入れたくない場合、請求を撤回できるかが争われました。最高裁は平成15年2月27日、株主は「取締役会から指定された者が株主に対して当該株式を売り渡すべき旨を請求するまで,その請求を撤回することができると解するのが相当である。」と判断しました(裁判官1名の反対意見があります)。

これは平成13年改正前の商法の手続についての判断です。現在の会社法143条は、会社や指定買取人からの買取りの通知を受けた後は、会社や指定買取人の承諾を得た場合に限って撤回できると定めています。承認を請求するときに買取りの請求まで付けると、会社が承認しなかった場合に、予定していなかった相手に株式を売ることになり得ます。福岡高裁 平成14年10月31日判決とあわせて、譲渡承認の請求はいつまで撤回できるかで整理しています。

代金の支払と株式の移転は、同じ日に引き換えにする

株式譲渡契約は、売り手が株式を移し、買い手が代金を払う双務契約です。民法533条は、双務契約の当事者の一方は、相手方が債務の履行を提供するまでは、自分の債務の履行を拒むことができると定めています(同時履行の抗弁)。決済の日に、代金の送金と、株券の交付や承認の通知書などの受け渡しを同じ場で行うのは、どちらかが先に履行して相手が履行しない、という危険を避けるためです。

決済の条件を契約書に書いていなかったことが争いになった例として、東京高裁 昭和46年10月12日判決があります。タクシー会社の元取締役らが、持株と転換社債を同業の会社に譲渡したところ、発行会社は、全株式を買い受けることが「前提」で、できなければ解除する「約定」があったと主張して、買い手を株主と認めませんでした。判決は、そうした「前提」や「約定」があったとは証拠から認められないとして、買い手の請求を認めた一審を維持しました。仮にそうした約定があった場合にどうなるかは、判断していません。詳しくは持株の約3割を同業者に売ったら、会社は買い手を株主と認めなかった――東京高裁 昭和46年10月12日判決で整理しています。

前提条件が満たされないまま決済したら、後から代金を止められるか

株式譲渡契約では、決済の日までに満たされるべき条件(前提条件。たとえば表明保証が正しいこと、必要な承認を得ていること)を定め、満たされなければ決済しなくてよい、とすることがあります。では、条件が満たされていないことに気付かないまま決済した後で、その条件を理由に残りの代金を止められるのでしょうか。

東京地裁 平成25年1月28日判決は、この点が争われた事件として紹介されています。以下は、BUSINESS LAWYERS の解説記事(弁護士による、2020年5月12日公開)による紹介です。それによると、株式譲渡契約のクロージングの後に、前提条件の不充足を理由として残代金の支払を拒めるかが争われ、判決は、当該契約条項の下で、クロージングの日までにその権利を行使しなかった場合には、その後は表明保証違反を理由とする損害賠償を請求できるにとどまり、条項に基づいて代金の支払を拒んで取引から離脱することはもう許されない、という趣旨を述べたとされています。

この判決は裁判所のウェブサイトに全文が掲載されておらず、事件番号、判例誌の掲載頁、当事者の関係、問題になった前提条件の中身、契約書の条項の文言は、2026年10月13日時点で確認できていません。判決の言葉の引用は控え、上の解説記事による紹介にとどめます。結論が契約書の条項の書き方に左右される判断である可能性もあり、どの契約にも同じように当てはまるとは限りません。

決済の前に業績が悪化したら――MAC条項

前提条件や表明保証の一つとして、基準日の後に対象会社の財政状態などに重大な悪影響を及ぼす事実が生じていないこと、を定めることがあります。こうした条項は、MAC(Material Adverse Change)条項と呼ばれます。

東京地裁 平成22年3月8日判決は、MAC条項の解釈が争われた事件として紹介されています。以下は、BUSINESS LAWYERS の上記の解説記事と、幻冬舎ゴールドオンラインの解説記事(2020年5月19日公開)による紹介です。それらによると、非公開会社の発行済株式の全部を譲渡する契約に、基準日以後、対象会社の財政状態に悪影響を及ぼす重要な事実が生じていないことを内容とする表明保証の条項がありました。基準日の後に対象会社の保有する土地の価格が約4億円下落して債務超過に陥ったこと、営業利益が譲渡対価の算定の基礎とした事業計画を大きく下回ったことなどを理由に、買い手がクロージング後に契約の解除を主張しました。判決は、営業利益が前の期と比べて減っていないことなどから条項の違反を否定し、この事件の条項の解釈として、不動産市況の下落のような、対象会社に固有に生じたものではない一般的な市況の悪化は解除事由に当たらないと判断して、解除を認めなかったと紹介されています。

この判決も全文が公開されておらず、事件番号、判例誌の掲載頁、条項の正確な文言は確認できていません。判決の言葉の引用は控えます。どこまでの悪化がMAC事由に当たるかは、MAC条項の文言、除外事由の定め、当事者の間のリスク配分と、事件の事情によって結論が変わります。

この判決群から何がいえるか

判決が示したのは、株式譲渡の効力を、当事者の間、会社に対する関係、第三者に対する関係に分けて考える、ということです。株券の交付がない、承認がない、といった手続の欠けは、当事者の間では譲渡を無効にしない場合がありますが、会社に対しては売り手がなお株主のまま、ということが起こり得ます。買い手から見れば、代金を払ったのに、会社に対して株主として権利を行使できない状態です。

前提条件とMAC条項をめぐる2判決は、いずれも解説記事による紹介で、判決の文面を確かめられていません。そのうえで、紹介された事案の契約条項の下では、決済の前に条件を確かめずに決済すると、後から条件を理由に取引をやめることは難しくなり得ること、業績の悪化が契約で定めた事由に当たるかは厳しく見られ得ることがうかがえます。

株券・承認をめぐる判決の多くは、当時の商法による判断です。現在の会社法では条文の番号や手続が変わっているため、現在の条文と照らして読む必要があります。株式譲渡をめぐるほかの判決は、株式譲渡のトラブル・判例74件の分析の類型1(株式の帰属・株主権)と類型2(買収後に判明した問題)で整理しています。

クロージングの前に確認すること(判決から導ける示唆)

以下は判決と条文から導いた確認事項で、裁判所が述べたものではありません。

  1. 株券発行会社かどうかと、株券の有無を最初に確かめる:定款、登記事項証明書、会社の設立時期を確認します。株券発行会社なのに株券が出ていない場合は、決済までに株券を発行してもらうか、株券を発行する旨の定めを廃止するかを決め、廃止なら通知の期間(会社法218条)を日程に入れます。
  2. 譲渡の承認を決済の前に得て、通知書を受け取る:承認の請求、会社の決定、決定の通知が済んでいることを、決済の条件にしておきます。承認する機関(株主総会か取締役会か、定款に別段の定めがあるか)も確かめます。
  3. 決済の日の受け渡しを一覧にする:代金の送金と引き換えに受け取るもの(株券、承認の通知書、株主名簿の書換えの請求書、役員の辞任届など)を一覧にし、送金の確認と受け渡しを同じ場で行います。
  4. 前提条件は、決済の前に一つずつ確かめる:解説記事が紹介する東京地裁 平成25年1月28日判決の事案では、当該契約条項の下で、決済の後は前提条件を理由に代金を止められないとされたと紹介されています。契約によっては同じように扱われる可能性があります。表明保証が正しいか、必要な承認や同意が取れているかを、決済の前に確認します。
  5. 全株式の取得を条件にするなら、契約書に書く:東京高裁 昭和46年10月12日判決では、全株式の買受けが「前提」だったという主張が証拠から認められませんでした。複数の株主から株式を集める取引では、全員分がそろうことを条件にするか、そろわない場合に解除できるか、受け取った代金と株券をどう戻すかを、契約書に書いておくことが考えられます。
  6. MAC条項を置くなら、何を対象にするかを具体的にする:一般的な市況の悪化を含めるのか、対象会社に固有の事情に限るのか、数値の基準を置くのかを、契約書で明確にしておくことが考えられます。

日本財務戦略センターの対策

日本財務戦略センターの対策:最初の資料の確認で、定款・登記事項証明書・株主名簿をもとに、株券発行会社かどうか、株券の有無、譲渡制限と承認する機関を確かめます。そのうえで、承認の請求から決定の通知、株券の発行や定款の定めの廃止の通知期間までを逆算した決済までの日程表と、決済の日に代金と引き換えに受け渡す書類の一覧を作り、当事者に示します。前提条件が満たされているかは決済の前に一つずつ照合し、満たされていない点があれば決済の前に当事者へ開示して、決済を延ばすか、条件を変えるかを相談するよう提案します。契約書の条項、承認の手続、登記は、弁護士・司法書士などの専門家と連携し、適法に進めます。

判決の出典

令和6年判決の差戻し後の判決は、2026年10月13日時点の公開情報では確認できていません。東京地裁の2判決の控訴の有無や確定したかどうかも、確認できていません。会社名は伏せ、個人は立場で書いています。

よくある質問

Q. 株式譲渡の承認は、契約の前と後のどちらで取ればよいですか?

会社法136条は、株主が譲り渡そうとするときに、会社に承認するかどうかの決定を請求できると定めています。取得した側が後から請求することもできますが(137条)、承認がなければ、会社に対しては売り手がなお株主のまま、ということが起こり得ます(最高裁 昭和48年6月15日判決・昭和63年3月15日判決)。決済の前に承認の通知を受け取っておき、それを決済の条件にしておくことが考えられます。

Q. 株券発行会社なのに株券が出ていません。株式を売っても大丈夫ですか?

最高裁 令和6年4月19日判決は、株券の発行前にした譲渡は、当事者の間では、株券の交付がないことで効力を否定されないとしました。ただし、会社に対しては効力を生じません(会社法128条2項)。決済までに株券を発行してもらうか、株券を発行する旨の定款の定めを廃止するかを検討します。

Q. 代金と株券は、どちらを先に渡せばよいですか?

民法533条の同時履行の考え方から、決済の日に、代金の送金と株券などの受け渡しを同じ場で引き換えに行うことが考えられます。どちらかが先に履行すると、相手が履行しない危険を負うことになります。

Q. 前提条件が満たされていないことに、決済の後で気付きました。代金の支払を止められますか?

東京地裁 平成25年1月28日判決は、紹介された事案で、当該契約条項の下では、クロージングの後は前提条件の条項に基づいて代金の支払を拒むことはできず、表明保証違反による損害賠償を請求できるにとどまる、という趣旨の判断をしたと解説記事で紹介されています。ただし、全文が公開されておらず、条項の文言や事件の事情は確認できていません。結論は契約書の定め方によって変わり得ます。

Q. 決済の前に対象会社の業績が悪化したら、MAC条項で取引をやめられますか?

契約書の定め方によります。東京地裁 平成22年3月8日判決は、この事件の条項の解釈として、土地の値下がりのような一般的な市況の悪化は解除事由に当たらないと判断されたと、解説記事で紹介されています。MAC条項の文言、除外事由、リスク配分しだいで結論は変わります。何をMAC事由に含めるかを、契約書で具体的に決めておくことが考えられます。

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この記事は、裁判所が公開している判決文(2026-10-13時点)をもとに、判決が認定した事実と判断を整理したものです。判決の評価にあたる言葉は、判決の文言をカギカッコで引用したものに限っています。判決に出てくる個人は、判決自身の伏せた表記か続柄だけで書いています。株式会社日本財務戦略センターが当事者の主張の当否や、現在の会社・商品について評価するものではありません。上級審や確定の有無は、記事中に書いたもの以外は確認できていません。個別の契約や紛争については、弁護士などの専門家にご相談ください。
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五十嵐悠一
監修・執筆責任者
株式会社日本財務戦略センター 代表取締役。京都大学経済学部経営学科(マーケティングゼミ専攻)卒。損害保険ジャパン本店営業部(企業リスク・法務)を経て、東証上場M&A仲介会社にて多数の成約に従事。2020年に株式会社日本財務戦略センターを創業し、M&A・事業承継・財務戦略を専門としています。中小企業庁 M&A支援機関登録事業者/一般社団法人M&A支援機関協会 正会員です。