女性向けジム「Shapes」の商標裁判|解除された事業譲渡で、商標と解除後の使用料はどう扱われたか

女性向けジム「Shapes」の商標裁判|解除された事業譲渡で、商標と解除後の使用料はどう扱われたか

女性向けパーソナルトレーニングジム「Shapes」を始めた会社は、商標を含む事業を、売上連動の顧問料を受け取る形で譲りました。顧問料が止まって契約は解除されましたが、買い手の会社はその後もブランドを使い続け、途中で商標の登録が不使用取消審判で消されました。東京地裁が同じ日に言い渡した2つの判決(令和2年7月30日)を、事実・主張・判断に分けて読みます。

この事件は、事業譲渡のトラブル・判例62件の分析の類型1「屋号・商標・ブランドが移らない、取り合いになる」の事例です。

【引用・転載について】
本記事は、事前のご連絡なしにご自由に引用・転載いただけます(CC BY 4.0)。引用の条件として、出典に「株式会社日本財務戦略センター(JFSC)」の名称と当記事へのリンクを明記してください。
Webサイトでの引用タグ(そのままコピーしてお使いください)
<a href="https://jfsc.jp/research/ma-hanrei/shapes-jigyou-jouto-kaijo/">女性向けジム「Shapes」の商標裁判|解除された事業譲渡で、商標と解除後の使用料はどう扱われたか|株式会社日本財務戦略センター</a>文章での出典表記:株式会社日本財務戦略センター「女性向けジム「Shapes」の商標裁判|解除された事業譲渡で、商標と解除後の使用料はどう扱われたか」(2026年10月12日) https://jfsc.jp/research/ma-hanrei/shapes-jigyou-jouto-kaijo/
※ JFSCが集計・加工・分析した結果(集計値・集計表・図表・指標・分析と見解)は、この条件で引用いただけます。他機関(官公庁・調査会社など)が公表した数値や文章そのものは、それぞれの元資料の利用条件に従ってください。

先に結論

事件の概要と時系列

売り手は株式会社Shapes(平成18年設立)で、代表取締役はパーソナルトレーニングの指導者として活動する創業者です(判決の表記は「C」)。平成20年10月31日に「Shapes」の商標(登録第5177809号、第41類)の登録を受けていました。買い手はエクササイズコーチジャパン株式会社(旧商号:株式会社Shapes International)です。被告の個人2人の記号(被告A・被告B)は2つの判決で入れ替わっているため、本記事では「買い手の代表者」「審判を請求した個人」と書きます。

時期出来事
平成22年4月〜23年2月買い手の代表者の別会社が売り手とライセンス契約を結び、その地位を買い手の会社が引き継いで「Shapes」の名前でジムの運営を始める
平成23年12月14日売り手と創業者が、商標権を含む事業の一切の権利を譲る事業譲渡契約と、創業者が売上の一定割合を受け取る顧問契約を結ぶ
平成24年2月1日買い手の会社が自社名義で「Shapes」のロゴなど2つの標章を出願(7月6日に登録)
平成24年2月10日売り手の商標が買い手の会社へ移転登録される
平成24年9月26日付け平成24年5月分以降の顧問料が払われないとして、売り手が両契約の解除を通知
平成24年10月売り手側が移転登録の抹消などを求めて提訴(別件訴訟)
平成26年11月28日第三者の個人が、買い手の会社を相手に不使用取消審判を請求。買い手の会社は弁理士を選んだが答弁せず
平成27年3月31日特許庁が商標登録を取り消す審決(5月11日確定、6月5日に登録抹消)
平成27年5月25日・26日買い手の会社が同じ外観・同じ指定役務の商標を新たに出願し、翌日、別件訴訟の和解案の中で審決と新出願を売り手に知らせる
平成27年6月25日売り手が取消審決の再審を請求(特許庁は平成28年10月に却下)
平成28年2月別件訴訟の控訴審が解除は有効としたうえで、登録がすでに抹消されていることを理由に抹消請求を棄却(確定)
平成29年12月20日まで買い手の会社が店舗のブランドを「Reborn myself」に変更
平成29年12月25日知財高裁が審判をめぐる共謀を認定し、再審請求を却下した審決を取り消す(その後確定)
平成31年3月27日特許庁が取消審決を取り消し、審判の請求を却下(その後確定し、商標の登録が回復)

本記事の内容は、出典リンクつきでご自由に引用いただけます(CC BY 4.0・出典に「株式会社日本財務戦略センター(JFSC)」の名称を明記)。コピー用の引用タグは ページ冒頭の枠 にあります。

顧問料は、心斎橋店が売上の5%、梅田店が4%、その他の店舗が3%で、もとのライセンス料(第1店舗5%、第2店舗4%、第3店舗以降3%)と同じ水準でした。

何が争われたか

使用料と商標の判決(平成30年(ワ)第19783号)で、売り手は、解除で商標は遡って自社に戻るとして移転登録の抹消を求め、解除後の使用について売上合計の3%を下らない使用許諾料相当額(請求額は1億3086万円)を買い手の会社に求めました。あわせて、商標が消されていた期間の分(9324万円)を、共謀を理由に3者へ連帯して求めました。

買い手側は、「本件営業譲渡契約の時点で本件商標権の価値はゼロ評価であり」、引き受けた前払費用の債務で対価は足りているから解除は一部にとどまると主張しました。抹消の請求は権利の濫用である、使っていた標章は自社で登録した商標である、店舗展開は自社の営業努力によるもので使用料は売上の0.1%が相当である、前の訴訟の蒸し返しで信義則に反する、とも主張しました。

共謀の判決(平成30年(ワ)第2216号)で、売り手は、3者が共謀して審判で商標を消させたとして、再審請求と審決取消訴訟の弁護士費用など498万9600円を求めました。審判を請求した個人は公益的観点から請求したと主張し、買い手の会社と代表者は、審判は自分たちの請求ではなく、答弁や売り手への通知の義務もなかったと主張しました。

裁判所の判断

解除で商標は売り手に戻るべきものとされ、「価値ゼロ」による一部解除の主張は採られなかった

裁判所は、商標権は事業譲渡契約に基づいて譲られたのだから、解除の「原状回復の効果により原告に帰属すべきことになる」と判断しました。いったん確定した取消審決はその後取り消されたため、商標権は「当初から消滅していなかったこととなる」とも述べています。買い手側の「価値ゼロ」や顧問料の受け取りすぎの主張については、「上記事情は本件商標権が解除による原状回復の対象とならないことを基礎付けるものとは認められず」として退け、移転登録の抹消を命じました。解除そのものが有効であることは、別件訴訟で認められています。

「Shapes」の文字が支配的で、買い手の4つの標章はいずれも類似とされた

裁判所は、双方とも「Shapes」の欧文字が「強く支配的な印象を与える部分」で、称呼・観念が一致し外観も類似するとして、4つの標章すべてを類似と認めました。

買い手が自社名義で登録した類似商標の使用も、売り手に対しては正当化されなかった

登録していない2つの標章については、法律上の原因がないことは明らかとされました。登録済みの2つについて裁判所は、事業譲渡で商標の移転を受けた後に、類似の標章を商標法4条1項11号(他人の先にある登録商標と類似する商標は登録できないとする規定)の適用を受けずに登録し、その後、自社の債務不履行で契約が解除されたという事情を挙げ、解除後の使用を商標権に基づく正当な行為と主張することは「権利の濫用として許されないというべきである」と判断しました。

そのうえで、別件訴訟の判決で商標が本来は売り手に帰属すべきことを認識していたとして、買い手の会社は「本件被告標章の使用許諾料相当額の利得を保持することが法律上の原因を欠くことについて悪意であったというべきである」と認定しました。不当利得(民法703条・704条前段)が認められたため、予備的な不法行為の請求は判断していません。

使用料相当額は、売上合計の2%とされた

裁判所は、ライセンス契約では商標のほか創業者の名称やノウハウも使えたので、商標の部分は使用料の一部にすぎないとしました。一方で、解除後も「Shapes」を含む商標を出願していたことなどから「本件商標に一定の顧客誘引力があったことがうかがえる」とし、経緯や店舗数が相当数に及ぶことも踏まえて、次のように判断しました。

本件商標権の使用許諾料相当額としては,被告会社が運営する店舗の売上額合計の2パーセントをもって相当であると認める。

使用期間は、平成24年10月1日からブランド変更の平成29年12月20日までとされました(その後も使用が続いたという売り手の主張は、証拠が足りないとして認められていません)。

区分金額
平成24年10月1日〜平成29年11月30日の売上36億7007万6000円
平成29年12月1日〜20日の売上(12月分を日割り)5126万0645円
合計37億2133万6645円
2%=返還を命じた額7442万6732円

判決の別紙では、店舗数は平成24年10月の12店から増え、多い月で53店でした。

前の訴訟の「蒸し返し」には当たらないとされた

売り手は以前、ライセンス契約の使用停止条項に基づいて損害賠償を求め、東京地裁(平成30年8月)は「本件営業譲渡契約の締結に伴い本件ライセンス契約は合意解約されたものである」として退けていました(確定)。今回の判決は、前の訴訟はライセンス契約の条項違反に基づく請求で、今回は商標権を前提とする使用許諾料相当額の請求だとして「これらの請求の訴訟物は異なる」とし、当時は取消審決で商標権が消えていて請求に支障があったことも挙げて、信義則違反の主張を退けました。登録から5年の除斥期間(商標法47条)を理由とする主張も退けています。

商標が消えていた期間の損害は認められなかった

商標が消されていた期間の分を3者に求めた請求について、裁判所は、登録は回復しており買い手の会社への不当利得返還の請求に支障はないとしたうえで、「原告が本件商標権を行使することに支障があったといえるとしても」、その期間に請求どおりの損害が生じたことを認める証拠はないとして、共謀の有無は判断しないまま棄却しました。

審判をめぐる共謀が認定され、商標を取り戻す手続きの弁護士費用が損害とされた

もう1つの判決で、裁判所は次の事実を認定しました。審判の請求は別件訴訟の係属中だったこと、審判を請求した個人は共謀が争点になった審決取消訴訟で適式の呼出しを受けながら正当な理由なく尋問期日に出頭せず、この訴訟でも尋問を申し立てていないこと、買い手の会社は代理人を選びながら答弁せず、審決確定から1か月以内に「本件商標と全く同一の外観の標章」を出願したことです。

和解のやり取りも認定されています。審決が確定した平成27年5月11日付けの和解条項案では、Shapesのロゴ商標であっても「第三者を権利者とすることはできない」として譲渡を拒んでいました。新出願の翌日の和解条項案では、それまで知らせていなかった審決と新出願を初めて示し、「被告らは,以上を前提に次の和解案をご提案します。」として、新出願の商標などを譲って1000万円を払う案と、Shapes関連の商標は譲らずに2500万円を払う案を出しています。

裁判所は、審判が確定した場合に買い手の会社と代表者が得る可能性のある利益や、その後に3者が現実にした行為・しなかった行為などに照らし、3者が共謀して、売り手を害する目的で審判を請求し、答弁せずに審決を確定させたと認めました。審判を請求した個人や買い手側の主張については、「被告らは、共謀して原告を害する目的で本件不使用取消審判をしたと認められる」として退けています。

損害は、再審請求の着手金75万6000円と、審決取消訴訟を経て勝ったことによる成功報酬324万円(いずれも消費税8%込み)、この訴訟の弁護士費用30万円の計429万6000円です。和解で同じ商標を譲ると提案したのに断ったのだから売り手自身の判断による支出だという主張は、「本件商標権と新出願に係る権利は別個の権利であり」、和解に応じる義務もないとして退けられました。

この判決から何がいえるか

この2つの判決は、解除の有効性が別件訴訟で確定した後の段階を扱っており、どのような不払いなら解除できるかは判断していません。

買い手が自社名義で登録した類似商標の使用が正当化されなかったのも、移転を受けた後の登録と自社の債務不履行による解除という事情から「権利の濫用」とされたためで、その登録自体が無効とされたわけではありません。

2%という率もこの事件の事情を踏まえた判断です。共謀の認定は、審判の時期、不出頭、不答弁、直後の新出願、和解案での知らせ方といった事実を積み重ねた結果で、不使用取消審判の請求や不答弁が一般に違法とされたものではありません。

M&A実務で確認すること(この判決から導ける示唆)

以下は判決の判断そのものではなく、この事件の経過から考えられる確認事項です。

判決の出典

2026年10月11日に裁判所の公開情報(上記の判決PDF)で確認した範囲では、2つの判決について控訴・確定の有無は確認できていません。別件訴訟(東京地裁 平成27年7月、知財高裁 平成28年2月)、ライセンス契約に基づく訴訟(東京地裁 平成30年8月)、知財高裁 平成29年12月25日判決の内容は、上の2つの判決の記載によっています。判決に出てくる個人は、判決の伏字か立場で書いています。

よくある質問

Q. 不使用取消審判は、商標と関係のない人でも請求できるのですか?

商標法50条は、継続して3年以上使われていない登録商標について「何人も」取消しの審判を請求できると定めています。ただしこの事件では、請求は共謀して売り手を害する目的によるものと認定され、審決は再審で取り消されています。

Q. 審判で商標を消された後、取り消された審決を覆す方法はありましたか?

売り手は、当事者が共謀して第三者の権利を害する目的で審決をさせたときの再審(商標法58条1項)を請求しました。特許庁の却下、知財高裁による却下審決の取消しを経て、平成31年3月に取消審決が取り消されました。審判の請求から約4年4か月後です。

Q. 商標の使用料相当額は、なぜ売上の3%ではなく2%になったのですか?

もとのライセンス料(3〜5%)は、商標だけでなく創業者の名称やノウハウを使う対価も含んでいたため、商標の部分はその一部にすぎないとされました。一方で、一定の顧客誘引力がうかがえることや店舗数が相当数に及ぶことなども考慮して、2%と判断されています。

Q. 事業譲渡を解除すれば、商標の登録名義は自動的に売り手に戻りますか?

この判決では、売り手が裁判で求め、買い手に移転登録の抹消登録手続が命じられました。別件訴訟の控訴審では、登録がすでに抹消されていたことを理由に抹消請求が棄却されており、登録の状態によって取れる手段が変わっています。

← 事業譲渡・M&Aのトラブル判例集に戻る / M&Aのトラブルは、誰に起きるのか

この記事は、裁判所が公開している判決文(2026-10-12時点)をもとに、判決が認定した事実と判断を整理したものです。判決の評価にあたる言葉は、判決の文言をカギカッコで引用したものに限っています。判決に出てくる個人は、判決自身の伏せた表記か続柄だけで書いています。株式会社日本財務戦略センターが当事者の主張の当否や、現在の会社・商品について評価するものではありません。上級審や確定の有無は、記事中に書いたもの以外は確認できていません。個別の契約や紛争については、弁護士などの専門家にご相談ください。
記載に誤りがある可能性があります。お気づきの点がありましたら、お問い合わせよりご連絡ください。速やかに確認のうえ対応いたします。

【引用・転載について】
本記事は、事前のご連絡なしにご自由に引用・転載いただけます(CC BY 4.0)。引用の条件として、出典に「株式会社日本財務戦略センター(JFSC)」の名称と当記事へのリンクを明記してください。
Webサイトでの引用タグ(そのままコピーしてお使いください)
<a href="https://jfsc.jp/research/ma-hanrei/shapes-jigyou-jouto-kaijo/">女性向けジム「Shapes」の商標裁判|解除された事業譲渡で、商標と解除後の使用料はどう扱われたか|株式会社日本財務戦略センター</a>文章での出典表記:株式会社日本財務戦略センター「女性向けジム「Shapes」の商標裁判|解除された事業譲渡で、商標と解除後の使用料はどう扱われたか」(2026年10月12日) https://jfsc.jp/research/ma-hanrei/shapes-jigyou-jouto-kaijo/
※ JFSCが集計・加工・分析した結果(集計値・集計表・図表・指標・分析と見解)は、この条件で引用いただけます。他機関(官公庁・調査会社など)が公表した数値や文章そのものは、それぞれの元資料の利用条件に従ってください。
五十嵐悠一
監修・執筆責任者
株式会社日本財務戦略センター 代表取締役。京都大学経済学部経営学科(マーケティングゼミ専攻)卒。損害保険ジャパン本店営業部(企業リスク・法務)を経て、東証上場M&A仲介会社にて多数の成約に従事。2020年に株式会社日本財務戦略センターを創業し、M&A・事業承継・財務戦略を専門としています。中小企業庁 M&A支援機関登録事業者/一般社団法人M&A支援機関協会 正会員です。