大勝軒の商標裁判|のれん分け先に口頭で屋号の使用を認めたことは通常使用権の設定といえるか(知財高裁 2025・2016)

大勝軒の商標裁判|のれん分け先に口頭で屋号の使用を認めたことは通常使用権の設定といえるか(知財高裁 2025・2016)

「大勝軒」には来歴の違う複数の系統があり、その一つの会社の登録商標について、別系統の会社が不使用取消を求めました。この会社は以前、「山岸一雄大勝軒」の登録も試みています。知的財産高等裁判所の2つの判決が何を判断したのかを、判決文に沿って整理します。

この事件は、事業譲渡のトラブル・判例62件の分析の類型1「屋号・商標・ブランドが移らない、取り合いになる」の事例です。

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先に結論

事件の概要と時系列

令和7年の判決は、本件に出てくる「大勝軒」を次のように認定しています。

系統店・会社判決が認定した来歴
人形町系(総本店)人形町大勝軒大正2年に中央区人形町で開店。昭和61年に中華料理店を閉店し、喫茶店営業も令和2年2月末に終了
人形町系横山町大勝軒(有限会社大勝軒=商標権者・被告)大正13年頃にのれん分けを受けて開店。令和元年11月20日に解散し、その頃閉店。清算結了登記はされていない
人形町系浅草橋大勝軒昭和21年にのれん分けを受けて開店。現在も「大勝軒」の屋号で営業
別系統東池袋大勝軒(株式会社大勝軒=取消請求人・原告)昭和36年に東池袋で開業したラーメン店。平成19年に法人化。系列店(「大勝軒のれん会」加盟店)が多数

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判決は、人形町系とは「全く別の来歴に基づいて」大勝軒を名乗る店が東京都内だけでも相当数あるとし、その例に東池袋大勝軒の系列と永福町大勝軒(昭和30年創業)を挙げています。東池袋大勝軒の創業者は令和7年の判決では伏字ですが、平成28年の判決には原告の取締役であった山岸一雄氏が実名で出てきます。

時期出来事
平成4年6月頃横山町大勝軒側が人形町大勝軒の代表者に、総本店で商標を登録して系統全体のために管理してほしいと依頼。人形町側は難色を示し、横山町側で出願してはどうかと話す
平成4年9月30日有限会社大勝軒が「大勝軒」(第42類 中華料理の提供)を出願。平成7年12月26日に設定登録(登録第3105120号)
平成8年1月頃有限会社大勝軒側が浅草橋大勝軒の代表者に電話し、商標権を取得したことと、今後も屋号を使うことに差し支えないことを口頭で伝える
平成25年11月19日株式会社大勝軒が「山岸一雄大勝軒」を出願(平成26年に拒絶査定・不服審判請求。平成27年4月1日に山岸一雄氏が死去)
平成28年1月29日/8月10日特許庁が不服審判の請求は成り立たないと審決/知財高裁が請求を棄却
令和5年3月7日株式会社大勝軒が有限会社大勝軒の「大勝軒」に不使用取消審判を請求(使用の証明が必要な期間は令和2年3月20日〜令和5年3月19日)
令和5年9月12日株式会社大勝軒自身の「大勝軒」の出願に、有限会社大勝軒の登録商標を引用した拒絶理由通知
令和6年6月5日/令和7年2月13日特許庁が不使用取消の請求は成り立たないと審決/知財高裁が審決を取り消す

両判決の手続の経緯と認定事実

何が争われたか

不使用取消(令和7年)

不使用取消は、登録商標が3年間使われていないとき、請求により登録を取り消す制度です(商標法50条)。登録を維持するための使用として数えられるのは、商標権者・専用使用権者・通常使用権者の使用です。有限会社大勝軒はこの期間中に清算中で自分では使っておらず、浅草橋大勝軒が店の入口ののれんに「大勝軒」を表示していたことを根拠にしました。特許庁の審決は、有限会社大勝軒が人形町系のグループの中で本店に代わって商標を管理する立場にあったとみて、浅草橋大勝軒との間に黙示の合意(または口頭での明示の合意)があったと推認し、浅草橋大勝軒を通常使用権者と認めました。

氏名を含む商標(平成28年)

裁判所の判断

1. 使用を容認しただけでは、通常使用権の設定とは認められなかった(令和7年)

知財高裁は、浅草橋大勝軒の代表者の証人尋問と被告代表者の尋問を行い、その結果は「上記の主張を認めるに十分なものとは到底いえないものであった」としました。前提として、次のように述べています。

商標権者が第三者に登録商標と同一の商標の使用を容認する態度を示していたとしても、それをもって無償の通常使用権の設定合意(黙示の合意)が成立したなどとたやすく認めるべきではない。
通常使用権設定の黙示の合意が成立したというためには、単なる「黙認」にとどまらない、「権利の付与」に向けた明確かつ積極的な意思を客観的に確認できる必要があるというべきである。

理由として、通常使用権が移転や対抗もできる権利であることを挙げ、そのうえで事実を次のように評価しました。

結論として、使用の証明がないことになり、審決は取り消されました。清算中の商標権者による管理をめぐる原告の主張については、判決は判断を示していません。

2. 本人の承諾があっても、同姓同名の他人の承諾がない以上、登録は認められなかった(平成28年)

知財高裁は、8号の趣旨を、自らの承諾なしに氏名を商標に使われないという人格的利益の保護にあるとし、最高裁の2つの判決を引きました。

この判決から何がいえるか

令和7年の判決からいえるのは、不使用取消で登録を維持するための「通常使用権者」の使用といえるには、商標権者が使用を容認していたというだけでは足りず、権利を与える意思が客観的に確認できる必要がある、という点です。決め手は、電話の内容、2店にしか話していないこと、被告代表者の供述、継続的使用権という、この事件の具体的な事実でした。口頭の使用許諾が一般に無効だと述べたものではなく、判決自身が、効果意思の合致があれば口頭の合意は成立し得ると述べています。

一方で、各系統が「大勝軒」を使えるかという屋号の使用関係を全体として判断したものではありません。審決取消の後は特許庁で審理がやり直されますが、その結果は判決からは分かりません。

平成28年の判決は、令和5年改正前の8号について、他人の氏名は周知・著名でなくても承諾が必要という解釈を示したものです。特許庁の解説によると、2024年4月1日以後の出願では、承諾が要る「他人の氏名」は、商標を使う商品・役務の分野で需要者の間に広く知られている氏名に限られ、出願人と氏名との相当の関連性や、不正の目的がないことが政令で要件とされました(特許庁の解説ページ)。同じ出願が現在どう判断されるかは個別の審査によります。

どちらも事業譲渡の事件ではないため、ハブ記事の62件には数えていません。

M&A実務で確認すること(この判決から導ける示唆)

以下は、判決が直接述べたことではなく、判決の判断を踏まえて屋号のある店や会社の承継で確認しておきたい点です。

判決の出典

2026年10月12日に裁判所の公開情報で確認した範囲では、両判決について上告・上告受理申立て・確定の有無は確認できていません。令和7年の判決の後の特許庁の審理の結果も確認できていません。

判決に出てくる個人は、判決の伏字か立場で書いています。山岸一雄氏は、平成28年の判決に実名で出ており、広く報道された創業者のため実名で書きました。

よくある質問

Q. 不使用取消審判とは何ですか?誰でも請求できますか?

継続して3年以上、日本国内で商標権者・使用権者のいずれも登録商標を使っていないとき、登録の取消しを求める審判です(商標法50条)。本件では、自らの「大勝軒」の出願にこの登録商標を引用されていた株式会社大勝軒が請求しました。

Q. 継続的使用権とは何ですか?

平成3年の商標法改正でサービスマーク(役務の商標)の登録制度ができたとき、それ以前から使われていた役務の商標を使い続けられるようにした経過措置上の権利です(平成3年法律第65号附則3条)。令和7年の判決は、浅草橋大勝軒がこの権利を持っていたと認定しています。

Q. 現在の「大勝軒」の登録商標の権利者は誰ですか?

令和7年の判決の時点で、争われた登録商標(第42類 中華料理の提供)の権利者は有限会社大勝軒でした。判決後の特許庁の審理の結果は確認できていないため、現在の登録の状態は特許庁の商標データベース(J-PlatPat)で確かめる必要があります。

Q. 亡くなった人の氏名を含む商標は登録できますか?

平成28年の判決は、山岸氏本人の承諾を認めたうえで、生存している同姓同名の他人の承諾がないことを理由に登録を認めなかったもので、故人の氏名の扱いについて一般的な基準は示していません。改正後の扱いは特許庁の審査基準で確認します。

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この記事は、裁判所が公開している判決文(2026-10-12時点)をもとに、判決が認定した事実と判断を整理したものです。判決の評価にあたる言葉は、判決の文言をカギカッコで引用したものに限っています。判決に出てくる個人は、判決自身の伏せた表記か続柄だけで書いています。株式会社日本財務戦略センターが当事者の主張の当否や、現在の会社・商品について評価するものではありません。上級審や確定の有無は、記事中に書いたもの以外は確認できていません。個別の契約や紛争については、弁護士などの専門家にご相談ください。
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五十嵐悠一
監修・執筆責任者
株式会社日本財務戦略センター 代表取締役。京都大学経済学部経営学科(マーケティングゼミ専攻)卒。損害保険ジャパン本店営業部(企業リスク・法務)を経て、東証上場M&A仲介会社にて多数の成約に従事。2020年に株式会社日本財務戦略センターを創業し、M&A・事業承継・財務戦略を専門としています。中小企業庁 M&A支援機関登録事業者/一般社団法人M&A支援機関協会 正会員です。