
従業員が株式を持つ会社では、退職するときは買ったときと同じ額面の価格で持株会(または会社が指定する人)に譲り渡す、というルールを置いていることがあります。株主からすれば、株式の値打ちがいくら上がっても額面でしか手放せないことになります。このようなルールに従うという合意は有効なのか。最高裁判所は平成21年2月17日と平成7年4月25日の判決で、いずれも合意を有効と判断しました。この記事では、二つの判決文をもとに、何が起きたか、何が争われたか、持株会のある会社の株式を扱うときに確かめることを整理します。
この事件は、株式譲渡のトラブル・判例74件の分析の類型1「株式の帰属・株主権――譲渡承認・株券・名義株」の事例です。
<a href="https://jfsc.jp/research/ma-hanrei/mochikabukai-gakumen-kaimodoshi/">従業員持株会の「額面で買い戻す」ルールは有効か――日刊新聞社の持株会をめぐる最高裁 平成21年2月17日判決と平成7年4月25日判決|株式会社日本財務戦略センター</a>文章での出典表記:株式会社日本財務戦略センター「従業員持株会の「額面で買い戻す」ルールは有効か――日刊新聞社の持株会をめぐる最高裁 平成21年2月17日判決と平成7年4月25日判決」(2026年10月12日) https://jfsc.jp/research/ma-hanrei/mochikabukai-gakumen-kaimodoshi/会社は日刊新聞の発行を目的とする株式会社です(判決は会社名を伏せています)。定款で、株券を発行しないこと、株式の譲渡には取締役会の承認が要ること、日刊新聞紙の発行を目的とする株式会社の株式の譲渡の制限等に関する法律(日刊新聞法)1条に基づき、株式の譲受人は会社の事業に関係のある者に限ることを定めていました。
会社は、株式を持てる人を原則として現役の従業員と役員に限り、退職や死亡で資格を失ったときは現役の従業員等に引き継がせる「社員株主制度」をとっていました。持株会は、株主である役員と従業員でつくる権利能力なき社団です。訴えたのは、いずれも会社の従業員だった2人です。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 遅くとも昭和34年ころ | 持株会が従業員等に譲る価格を額面の1株100円とし、退職・死亡で資格を失ったときや個人的な理由で売る必要が生じたときは持株会が額面で買い戻す、というルール(判決のいう「本件株式譲渡ルール」)が成立 |
| 昭和39年〜昭和63年 | 元従業員の一人(売った側)が、ルールを知ったうえで、6回にわたり持株会から合計2740株を1株100円で買い、そのたびにルールに従う旨を合意 |
| 平成17年9月29日 | 売った側が、そのうち400株を別の元従業員(買った側)に1株1000円で売り渡し、同じ日に会社に書面で譲渡の承認を求める |
| 平成17年10月11日 | 会社が承認しないと回答 |
| 平成17年11月1日 | 売った側が、株式譲渡先指定請求書で、譲渡の相手方を指定するよう会社に求める |
| 平成17年11月4日・7日 | 持株会が、売った側に、指定請求書の提出で売る意思が確定的になったとして合意に基づき株式を譲り受けたと通知し、会社に承認を求める。会社は承認 |
| その後 | 買った側が株主であることの確認を、持株会が自分が株主であることの確認を、売った側が名義書換を求めて訴え、三つの事件が併合される。東京高裁(原審)は合意を有効とし、元従業員側の請求を退け、持株会の請求を認める |
| 平成21年2月17日 | 最高裁第三小法廷が上告を棄却 |
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1株1000円という価格は、額面の10倍です。売った側は、額面で取得した株式を、持株会を通さずに、額面より高い価格で売ろうとしたことになります。
会社は定款で株式の譲渡制限を定めていた株式会社です(判決は会社名を伏せています。業種は書かれていません)。原審は名古屋高裁です。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 昭和43年ころ | 会社が、従業員の財産形成と、会社との一体感を強めて発展に寄与させることを目的に、従業員持株制度を導入 |
| 昭和43年ころ〜昭和54年7月3日 | 従業員らが制度の趣旨と内容を了解したうえで株式を額面で取得し、会社との間で、退職するときは額面で取締役会の指定する者に譲渡すると合意 |
| 昭和61年5月3日 | 全従業員約40名のうち営業担当23名中の12名(上告人らを含む)が退職 |
| 昭和63年7月 | 取締役会が譲受人を指定し、指定された人が買受けの意思を明らかにして代金を供託 |
| 平成7年4月25日 | 最高裁第三小法廷が、株券の発行を求めた元従業員らの上告を棄却 |
会社は、昭和43年度以降、当初はおおむね15〜30パーセント、昭和56年度から昭和60年度は8パーセントの割合で株式配当を行っていました。昭和61年度は株式配当をしていませんが、判決はその理由を、一斉退職などで営業上壊滅的な打撃を受けたためとしています。
最高裁は、次の事情を挙げました。
そのうえで、ルールに従う旨の合意は会社法107条・127条に反せず、公序良俗にも反しないから有効だとし、同じ判断をした原審を正当として、上告を棄却しました(裁判官全員一致)。
最高裁は、原審の事実認定を前提に、退職時に額面で取締役会の指定する者に譲渡するという合意は、「商法二〇四条一項に違反するものではなく、公序良俗にも反しないから有効」としました。そして、取締役会が譲受人を指定し、その人が買受けの意思を明らかにしたことで、元従業員らは株式を失ったとして、株券の発行を求める請求を退けた原審の判断を正当としました(裁判官全員一致)。
二つの判決からいえるのは、非公開会社が従業員に株式を持たせる仕組みの中で、取得するときも手放すときも額面とするルールに、従業員が内容を知ったうえで合意していた場合、その合意は有効とされ得る、ということです。平成21年判決では、元従業員が額面より高い1株1000円で別の元従業員に売っても、会社は譲渡を承認せず、合意に基づいて持株会が株主と認められました。
平成21年判決が挙げた四つの事情(上の「裁判所の判断」で見たもの)は、裏を返せば判断の前提です。取得するときは時価で、手放すときだけ額面というルールや、長年配当がなく利益が積み上がっている会社のルールについて、判決は判断していません。また、平成21年判決の会社は日刊新聞法に基づく譲受人の制限を定款に置いた会社で、平成7年判決の合意は持株会ではなく会社との間の合意です。持株会のルールであれば一律に有効とまではいえません。
平成7年判決は、当時の商法204条1項に照らして判断したもので、現在の会社法にそのまま当てはまるとは限りません。株式を譲渡できることと、定款で譲渡に会社の承認を要すると定められることは、現在は会社法127条と107条などに定められています。判例の全体像は株式譲渡のトラブル・判例74件の分析の類型1で整理しています。
以下は判決から導いた確認事項で、裁判所が述べたものではありません。
平成21年判決の原審は東京高裁、平成7年判決の原審は名古屋高裁です。いずれも最高裁が上告を棄却しています。個人は立場で書いています。
Q. 従業員持株会の「退職時は額面で買い戻す」ルールは有効ですか?
最高裁 平成21年2月17日判決は、ルールの目的に合理性がないとはいえないこと、取得するときの価格も額面だったこと、従業員が自由意思で合意したこと、利益を配当せずにため込んでいたような事情がないことを挙げて、ルールに従う合意を有効としました。ただし、これらの事情を前提にした判断で、どのようなルールでも有効になるとまではいえません。取得するときは時価で手放すときだけ額面というルールや、長年配当がなく利益が積み上がっている会社のルールなどについて、判決は判断していません。
Q. 額面で買った株式を、ルールに反して高い価格で第三者に売ったらどうなりますか?
平成21年判決の事件では、元従業員が額面の10倍の1株1000円で別の元従業員に売りましたが、会社は譲渡を承認しませんでした。最高裁は、ルールに従う合意を有効とし、合意に基づいて株式を譲り受けたと主張した持株会の請求を認めた原審の判断を正当としました。これは、定款で株式の譲渡に取締役会の承認が要るとされ、元従業員がルールに従う旨を合意していたという本件の事実関係のもとでの結論です。
Q. 持株会ではなく会社との間で、退職時に額面で譲る合意をしていた場合はどうですか?
最高裁 平成7年4月25日判決は、会社との間で、退職時に額面で取締役会の指定する者に譲渡するとした合意を、当時の商法204条1項に反せず公序良俗にも反しないとして有効としました。取締役会が譲受人を指定し、その人が買受けの意思を明らかにしたことで、元従業員らは株式を失ったとされました。この判決は当時の商法によるもので、現在の会社法にそのまま当てはまるとは限りません。
Q. 持株会のある会社を買うとき、何を確認すればよいですか?
判決から導ける範囲では、持株会の規約(株式を手放す場面、買い戻す人、価格)、従業員が合意した書面、過去の配当の履歴、株主名簿と持株会の持分の対応を確認しておくことが考えられます。これは判決から導いた確認事項で、裁判所が述べたものではありません。
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この記事は、裁判所が公開している判決文(2026-10-12時点)をもとに、判決が認定した事実と判断を整理したものです。判決の評価にあたる言葉は、判決の文言をカギカッコで引用したものに限っています。判決に出てくる個人は、判決自身の伏せた表記か続柄だけで書いています。株式会社日本財務戦略センターが当事者の主張の当否や、現在の会社・商品について評価するものではありません。上級審や確定の有無は、記事中に書いたもの以外は確認できていません。個別の契約や紛争については、弁護士などの専門家にご相談ください。
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