
出資や事業の立ち上げの場面で、一方の持分を一定の割合で確保するという約束が交わされることがあります。その約束が覚書に書かれていても、のちに株式を受け取れなかったとき、どこまで法的な権利として主張できるのか。東京地方裁判所は平成27年1月23日、上場会社のオリンパス株式会社が株式の約95.93%を保有していた会社の特別清算の中で、発明者が申し出た約57億6000万円の債権について判断しました。この記事では、判決文をもとに、何が起きたか、何が争われたか、株式を持たせる約束を書面にするときに確かめることを整理します。
この事件は、株式譲渡のトラブル・判例74件の分析の類型3「交渉段階・契約の成立・錯誤」の事例です。
<a href="https://jfsc.jp/research/ma-hanrei/kabushiki-20pct-oboegaki/">「株式の20%を持たせる」覚書は具体的な権利か――オリンパスが取得した会社の特別清算と発明者側の債権をめぐる東京地裁 平成27年1月23日判決|株式会社日本財務戦略センター</a>文章での出典表記:株式会社日本財務戦略センター「「株式の20%を持たせる」覚書は具体的な権利か――オリンパスが取得した会社の特別清算と発明者側の債権をめぐる東京地裁 平成27年1月23日判決」(2026年10月12日) https://jfsc.jp/research/ma-hanrei/kabushiki-20pct-oboegaki/原告は、清算中の非上場会社です。判決によれば、産業廃棄物の収集・処理業と、感染性医療廃棄物処理装置等の開発・製造販売業を主な事業としていました(判決は社名を実名で書いていますが、この記事では伏せます)。被告は、感染性医療廃棄物処理装置の開発・製造・販売等を目的とする会社と、その代表取締役で特許の発明者兼特許権者である個人(判決では「被告Y」)です。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 平成12年3月 | 事業投資ファンドが設立される。オリンパスはこのファンドを通じてベンチャー企業に投資。ファンドの実質的な運営者は、Cが代表者を務める投資会社 |
| 平成12年12月 | 被告Yが発明者兼出願人として特許を出願 |
| 平成17年5月頃 | 投資会社が被告会社の事業に投資。被告会社は増資し、関連ファンドから1億円を借入れ。被告会社での被告Yの持分を20%以上に維持することが合意される |
| 平成17年7月頃 | 投資会社が、事業を被告会社ではなく、休眠会社を買収して行う方針に |
| 平成17年10月1日 | 休眠状態の有限会社を株式会社に組織変更し、原告を設立 |
| 平成17年10月12日頃 | 投資会社・被告会社・被告Yが覚書を締結。投資会社が、被告Y又はその親族の原告株式の持分が原則として20%を維持するよう配慮することを定める |
| 平成17年12月 | 原告が関連ファンドから約1億4700万円の出資を受け、新株2940株を発行 |
| 平成18年3月〜平成20年3月頃 | 原告株式が複数の投資ファンドの間で売却され、最終的にオリンパスが取得。平成20年3月頃には2180株を合計約237億1500万円で買い取る |
| 平成22年6月11日 | 特許権の設定登録 |
| 平成23年12月6日 | オリンパスの第三者委員会が調査報告書を作成 |
| 平成24年4月 | オリンパスが原告の事業からの撤退と解散を発表 |
| 平成24年11月9日・12月13日 | 原告が解散し、特別清算開始決定を受ける |
| 平成24年12月13日付け | 被告Yが「株主権侵害による損害」約57億6000万円などの債権を申し出る |
| 平成27年1月23日 | 東京地裁が、被告らの申し出た債権がないことを確認 |
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オリンパスは最終的に、原告の発行済株式3934株のうち3774株(約95.93%)を保有するに至りました。被告Y又はその親族が原告株式を取得したことは一度もありません。
なお、約288億円という金額は、被告Yが損害の算定の根拠として主張した、オリンパスによる株式取得の金額です。判決が個別に認定した取引としては、投資ファンド間の売却(760株を約44億0040万円、530株を約29億5210万円)や、オリンパスによる2180株の約237億1500万円での買取りなどがあります。
原告は、合意の存在と原告の承諾を否認し、株式はオリンパスが原告以外の者から取得したもので、合意は投資会社またはCと被告Yの間のものにすぎず原告を拘束しない、非上場株式の価格は相対取引で決まり、債務超過の原告の株式に価値はない、などと主張しました。
判決は、投資ファンドによる原告への投資は、オリンパスの新規事業展開を目的とする一方で、当時オリンパスがファンド投資で抱えていた損失を解消する枠組みにも用いることが計画されていたと認定しました。ファンドがベンチャー企業の新株を安く引き受け、オリンパスがその株式を著しく高い価格で買い取り、売却益で他のファンドの損失を解消し、オリンパスは企業価値との差額をのれんとして計上する、という枠組みです。判決は、オリンパスが平成21年3月期に原告を含む3社について557億円の減損処理を行い、その後、損失処理が表面化して「粉飾決算事件」として問題になったことも認定しています。
判決は、まず被告Yの主張の前提となる事実を退けました。オリンパスは株式を投資ファンドを通じて取得したので、原告がオリンパスに株式を譲渡したとは認められない。損失解消の枠組みは、のれんに振り替えることで目的を達しており、「上記株式買取りが原告の清算を目的としたものであったとは認められない。」。特別清算の開始前に粉飾決算は表面化していたから、特別清算の開始が被告Yの株式取得を妨げるためのものとも認められない、としました。
次に、被告Yが主張する「地位」については、それが「法律上いかなる権利ないし利益を指すものであるかが明らかでない」としました。覚書には、投資会社が被告Y又はその親族の持分を20%以上に維持するよう配慮することが書かれているだけで、いつ、誰から、いくらで取得するかは書かれていません。オリンパスの役員が作成したと被告らが主張するメモにも「Y社長と約束した20%シェアの確保については,きちんと履行すべしという考えは十分理解し,わかっている。」とあるだけで、具体的な合意内容は読み取れないとされました。被告Y本人の尋問でも、いつ誰から譲渡を受けるかなどは具体的に合意されていなかったと認められています。
そのうえで判決は、合意に基づく債権があるとしても、「その債権の内容は何ら具体的なものではなく,せいぜい,本件覚書に記載されているように,原告株式の取得について一定の配慮を求めることができるという程度のものにすぎなかったといわざるを得ない。」と述べ、具体的な権利が侵害されたとは認められないとしました。
判決は、権利の侵害があったと仮定しても、約57億6000万円の損害は認められないとしました。この部分は、侵害の有無とは別に、損害の面からも請求が成り立たないことを示した判断です。原告は特別清算中なので、「仮に被告Yが原告株式を取得し,保有していたとしても,現時点で当該株式に財産的価値があるとは考えられない。」。オリンパスが被告Yの株式も高値で買い取ったはずだという主張についても、「本件合意は,せいぜい被告Y又はその親族による原告株式の保有割合を20%以上とするよう配慮すべきことを定めたものにすぎず,被告Y又はその親族による原告株式の取得価格やその売却価格を保証したものではない」から、その前提は「被告Yの単なる期待にすぎず,本件合意に基づく権利の内容ということはできない。」としました。オリンパスには、被告Yの保有株式を高値で買い取るべき理由があったとも認められないとしています。
特許権の設定登録は平成22年6月11日で、元役員らの供述する装置の使用は平成18年当時のものであり、装置の具体的な構成も明らかでないこと、トラックは平成20年9月以降、処理装置を搭載していなかったことから、登録日以降の侵害は認められないとされました。被告会社はそもそも特許権者ではありません。東京地裁は、原告の請求をすべて認めました。
この判決の中心は、本件の覚書が、株式を受け取る具体的な権利を定めたものといえるかという点です。判決は、覚書の「配慮する」という文言に加え、取得の時期・相手・価格が書かれていないことを挙げて、具体的な権利とは認めませんでした。損害の点でも、本件の合意が取得価格や売却価格を保証していない以上、第三者が高値で買った金額を基準にはできず、特別清算中の会社の株式に財産的価値があるとも考えられないとしています。どのような書き方であれば株式を受け取る権利と認められるかという一般的な基準を示した判決ではありません。
一方で、この判決が判断したのは、会社(原告)に対する債権侵害の不法行為の成否です。発明者が合意に基づいて投資会社やC、オリンパスに対して債権を持つかどうかは仮定の形で述べられ、確定的には判断されていません。原告が合意を承諾していたかどうかについても、判決は判断を示していません。覚書の当事者である投資会社やC、オリンパスに対して、覚書に基づく何らかの請求ができるかどうかは、この訴訟の対象ではありません。また、オリンパスの損失解消の枠組みについては、債権侵害の主張を判断する前提として事実が認定されたもので、その責任を判断した判決ではありません。
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以下は判決から導いた確認事項で、裁判所が述べたものではありません。
控訴の有無と判決の確定は、2026年10月12日時点の公開情報では確認できていません。個人は判決の伏字か立場で書いています。
Q. 「株式の20%を持たせる」と覚書に書いてあれば、株式をもらう権利になりますか?
この判決では、覚書は投資会社が持分を20%以上に維持するよう「配慮する」ことを定めたものにすぎず、いつ、誰から、いくらで取得するかも書かれていないとして、具体的な権利とは認められませんでした。書き方や当事者によって結論は変わり得るので、一般論として権利にならないとまではいえません。また、判決は、発明者が投資会社などに対して合意に基づく債権を持つかどうかを「債権を有するとしても」という仮定の形で述べており、確定的には判断していません。
Q. 約束した株式がもらえなかった場合、第三者が買った価格で損害を計算できますか?
この判決は、合意は取得価格や売却価格を保証したものではないとして、オリンパスが取得した価格の20%を損害とする主張を退けました。会社が特別清算中であることから、株式に財産的価値があるとも考えられないとしています。これは、権利の侵害があったと仮定したうえでの、本件の合意の内容と会社の状態にもとづく判断で、損害の計算方法について一般的なルールを示したものではありません。
Q. 特別清算で債権を申し出られたら、会社はどうするのですか?
この事件では、清算中の会社が、申し出た人を相手に、申し出た債権が存在しないことの確認を求める訴えを起こし、認められました。
Q. この判決は、オリンパスの損失隠しの責任を判断したものですか?
いいえ。判決は、発明者の債権侵害の主張を判断する前提として、株式が損失解消の枠組みに使われた経緯を認定しましたが、その責任を判断したものではありません。
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この記事は、裁判所が公開している判決文(2026-10-12時点)をもとに、判決が認定した事実と判断を整理したものです。判決の評価にあたる言葉は、判決の文言をカギカッコで引用したものに限っています。判決に出てくる個人は、判決自身の伏せた表記か続柄だけで書いています。株式会社日本財務戦略センターが当事者の主張の当否や、現在の会社・商品について評価するものではありません。上級審や確定の有無は、記事中に書いたもの以外は確認できていません。個別の契約や紛争については、弁護士などの専門家にご相談ください。
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