
この記事は、株式譲渡のトラブル判例の分析で「参考」として扱っている事件です。上場会社の買収防衛策をめぐる争いで、非公開会社の株式譲渡とは性格が違うため、本編の件数・勝敗・金額の集計には入れていません。
この事件は、株式譲渡のトラブル・判例74件の分析で「参考:上場会社の経営権争い・買収防衛策(集計外)」として載せている事例です。
ジャスダックに上場していたニレコは、平成17年、まだ買収者が現れていない段階で、将来の敵対的買収に備え、全株主に新株予約権を無償で出す防衛策を決めました。株主である投資ファンドが発行の差止めを求め、東京地裁は発行を仮に差し止める決定をし、東京高裁もこれを維持しました。いずれも仮処分の手続の「決定」です。この記事では、2つの決定をもとに、何が争われ、裁判所がどう判断したかを整理します。
<a href="https://jfsc.jp/research/ma-hanrei/nireco-jizen-boueisaku/">買収者が現れる前の新株予約権による防衛策は許されるか――ニレコの差止め(東京地裁・東京高裁 平成17年)|株式会社日本財務戦略センター</a>文章での出典表記:株式会社日本財務戦略センター「買収者が現れる前の新株予約権による防衛策は許されるか――ニレコの差止め(東京地裁・東京高裁 平成17年)」(2026年10月12日) https://jfsc.jp/research/ma-hanrei/nireco-jizen-boueisaku/ニレコは、オートメーション装置と計測装置の製造・販売を主な事業とする会社で、株式をジャスダック市場に上場していました。申立てをしたのは、ケイマン諸島の法律に基づいて設立され、日本の上場企業の株式に投資する有限責任会社(判決は名称を伏せています)で、ニレコの発行済株式の2.85%(28万5000株)を持つ株主でした。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 平成17年3月14日 | ニレコの取締役会が、新株予約権を無償で発行する防衛策(セキュリティ・プラン)を決議し、公表 |
| 平成17年3月25日 | 新株予約権の割当てを受けられる株式の売買の最終日(権利付け最終日)。3月28日が権利落ち日 |
| 平成17年3月31日 | 割当ての基準日。この日の株主に、1株につき2個を割り当てる |
| 平成17年4月21日 | 東京証券取引所が、導入時点の株主に割り当てておく型の防衛策は投資者保護上適当でないとする留意事項を通知(ジャスダックも同日) |
| 平成17年5月9日 | 投資ファンドが発行の差止めの仮処分を申し立てる |
| 平成17年5月20日 | ニレコが、新株予約権の消却に関するガイドラインを改正 |
| 平成17年5月27日 | 経済産業省・法務省が買収防衛策に関する指針を策定 |
| 平成17年6月1日 | 東京地裁が発行を仮に差し止める決定 |
| 平成17年6月9日 | 東京地裁が、会社の異議を受けて、仮処分決定を認可 |
| 平成17年6月15日 | 東京高裁が会社の保全抗告を棄却 |
| (予定) | 新株予約権の発行日は平成17年6月16日とされていた |
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防衛策の主な内容は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 割当て | 平成17年3月31日の株主に、1株につき2個(無償) |
| 行使の際の払込み | 1個につき1円で1株 |
| 行使できる条件 | 議決権付株式の20%以上を持つ者(特定株式保有者)が現れたと取締役会が認識し、公表したこと |
| 消却 | 取締役会が企業価値の最大化のために必要と認めれば、無償で一斉に消却できる |
| 譲渡 | 取締役会の承認が必要だが、承認は行わない(事実上の譲渡禁止) |
| 期間 | 平成17年6月16日から平成20年6月16日まで |
新株予約権が行使されると、発行済株式は約3倍になります。東京地裁の認定では、基準日に株主でなかった人が20%を取得した後に行使されると、その持株比率は約7.2%まで希釈されます。基準日の後に株式を買った人は、買収者でなくても、持株比率が約3分の1に希釈される危険を負うことになります。
地裁は、法令違反の主張はすべて退けました。差止めの理由になる「法令」は具体的な法令の規定をいうとし、機関権限の分配秩序や善管注意義務は含まれないとしました。基準日の株主全員に持株数に応じて割り当てるので、株主平等原則にも反しないとしています。
そのうえで、著しく不公正な方法かどうかを検討しました。地裁は、取締役の選任・解任は株主総会の専決事項であるとし、「誰を経営者としてどのような方針で会社を経営させるかは、株主総会における取締役選任を通じて株主が資本多数決によって決すべき問題というべきである。」と述べました。そして、「本件のような事前の対抗策としての新株予約権の発行は、原則として株主総会の意思に基づいて行うべきであるが」、株主総会は機動的に開けないため、相当な方法による限り取締役会の決議で行うことが許される場合もあるとし、その条件として、おおむね次の3点を挙げました。
ニレコの防衛策について、地裁は、6月の株主総会に関連する議題がなく、取締役の任期も平成18年6月までで、株主総会の意思を反映させる仕組みがないとしました。改正後のガイドラインのうち、「その他」の場合を定めた基準は広範に過ぎ、明確性を欠く部分を含み、取締役会が特別委員会の勧告に従わない余地も残るとしました。さらに、基準日の後に株式を取得した株主の持株比率が約3分の1に希釈されるリスクや、新株予約権が譲渡できないことから、既存株主に不測の損害を与えるとしました。
そのうえで、地裁は、「未だこのような敵対的買収者が現れていないにもかかわらず、新株予約権の発行によって直ちに敵対的買収者以外の株主に不測の損害を与えることは、取締役会の決議による事前の対抗策として相当性を欠くというべきである。」として、差止めを認めました。
保全の必要性について、ニレコは、差し止められると来年6月の株主総会まで無防備になると主張しましたが、地裁は、「仮に好ましくない者が株主となることを阻止する必要があるというのであれば、定款に株式譲渡制限を設けることによってこれを達成することができるのであり、このような制限を設けずに株式を公開した以上、支配権の争奪が起こり得ることは当然甘受すべきものである。」と述べました。
高裁は、地裁の結論を維持しました。高裁は、取締役会には株主割当てで新株予約権を発行し、譲渡制限を付ける権限があり、「濫用的な敵対的買収に対する防衛策として、新株予約権を活用することも考えられないではない。」としました。そのうえで、この防衛策は、買収者を一時停止させて交渉させる予防的な機能を一応持つものの、既存の取締役会やその支持株主の経営権を維持・確保することも重要な目的になっていることは否定できないとしました。
高裁の判断の中心は、買収と無関係な株主に生じる損害です。新株予約権が行使されれば株価は理論上3分の1程度まで下がる可能性があり、行使されるかどうか予測できないことが今後約3年間、株価の上値を抑える下げ圧力として働き、株式は投資対象としての魅力を欠くとしました。新株予約権を受け取った既存株主も、譲渡が禁止されているため損失を埋める手立てがないとして、「このような損害は、敵対的買収者以外の一般投資家である既存株主が受忍しなければならない損害であるということはできない。」と述べました。
ニレコは、株価は下がっていないと主張しましたが、高裁は、仕組みが複雑で一般投資家に広く理解されているとは言い難く、仮処分で発行が止まっている現状も考えると、株価の顕著な低落傾向が見えないことで判断は左右されないとしました。取締役会が、こうした損害と、買収価格の引上げなどの株主の利益を比べて検討した資料もないとしています。
保全の必要性についても、「新株予約権の行使段階における新株発行差止めという方法によっては、このような損害を回避することができないことは明らかであって、債務者の主張は理由がない。」とし、発行されてしまえば差止めの訴えは不適法になるので、事後の損害賠償の余地があっても保全の必要性は認められるとして、保全抗告を棄却しました。
2つの決定が判断したのは、ニレコの防衛策の具体的な仕組みが、当時の商法280条ノ39第4項・280条ノ10の「著シク不公正ナル方法」に当たるかどうかです。決め手は、買収者が現れる前の基準日で全株主に割り当て、行使価額1円、譲渡禁止としたことで、買収者でない株主にまで、発行の時点で損害が生じるとされた点です。
東京地裁は、株主総会の意思の反映、取締役会の恣意的な判断の防止、無関係の株主への損害の3点から相当性を判断しました。東京高裁は、同じ結論を、主に無関係の株主に生じる損害から導いています。高裁は、自らの理由の中では、地裁が挙げた3つの条件を一つずつ検討してはいません。
判断していないこともあります。2つの決定は、事前の防衛策がおよそ許されないとは述べていません。ただし、東京地裁が挙げた3つの条件は、取締役会の決議で事前の対抗策が許される場合があり得ることを前提に一般的に述べたもので、この事件では条件を満たさないとされただけです。条件を満たして適法とされた防衛策がこの事件にあるわけではなく、上のとおり東京高裁はこの条件を一つずつ検討していません。どのような事前の防衛策なら許されるかは、この決定では確定していません。買収者が現れた後の防衛策や、株主総会の決議を経た防衛策は、この事件の対象ではありません(株主総会の特別決議を経たブルドックソースの事件は、別の記事で扱っています)。また、仮処分の手続の決定で、本案の訴訟で判断されたものではありません。
古い商法の規定による判断である点にも注意が必要です。現在の会社法では、募集新株予約権の発行が法令・定款に違反する場合や著しく不公正な方法により行われる場合に、不利益を受けるおそれのある株主が発行の差止めを請求できる規定(会社法247条)があり、株主に新株予約権を無償で割り当てる制度(新株予約権無償割当て、会社法277条)も設けられています。制度の前提が当時と異なるため、この決定の結論がそのまま現在の防衛策に当てはまるとは限りません。
上場会社の経営権争いの他の判例は、株式譲渡のトラブル・判例74件の分析の「参考」の節にまとめています。
以下は判決から導いた確認事項で、裁判所が述べたものではありません。
東京高裁の決定は、東京地裁の平成17年6月1日の仮処分決定と、同月9日の仮処分認可決定をいずれも正当としています。6月9日の認可決定はこの調査の対象に含めていません。高裁の決定のその後(抗告の有無など)は、2026年10月12日時点の公開情報では確認できていません。申立てをした投資ファンドは、決定が名称を伏せているため、この記事でも名前を出していません。
Q. 買収者が現れる前の防衛策は、すべて違法なのですか?
この決定はそこまで述べていません。東京地裁は、株主総会の意思が反映されること、取締役会の恣意的な判断が防止されること、買収と無関係の株主に不測の損害を与えないことなどの条件を満たせば、取締役会の決議による事前の対抗策が許される場合もあるとしました。差し止められたのは、ニレコのこの仕組みです。ただし、この条件は地裁が一般的に述べたもので、この事件で条件を満たして許された防衛策があるわけではなく、東京高裁もこの条件を自らの理由として採用していません。どのような事前の防衛策なら許されるかは、この決定では確定していません。
Q. 新株予約権をもらった既存株主にも、損害があるのですか?
東京高裁は、新株予約権が行使されるかどうか予測できないことが株価の下げ圧力として働き、新株予約権も譲渡が禁止されていて損失を埋める手立てがないとして、既存株主にも受忍させるべきでない損害が生じるおそれがあると判断しました。ニレコは株価は下がっていないと主張しましたが、判断は左右されませんでした。
Q. 非公開の中小企業にも関係がありますか?
上場会社の防衛策の事件で、非公開会社の株式譲渡とは性格が違うため、分析の集計からは外しています。ただ、東京地裁は、好ましくない者が株主になることを防ぎたいなら、定款に株式の譲渡制限を設ける方法があると述べています。株主の構成を管理したい非公開会社では、まず定款の譲渡制限と承認の手続を確認することが出発点になります。
Q. この決定は今の会社法でも同じ結論になりますか?
決定が適用したのは当時の商法の規定です。現在の会社法には、募集新株予約権の発行の差止め(247条)や新株予約権無償割当て(277条)の規定があり、前提が異なります。現在の防衛策や株式の発行の可否は、現行法と、その後の判例を含めて検討する必要があります。
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この記事は、裁判所が公開している判決文(2026-10-12時点)をもとに、判決が認定した事実と判断を整理したものです。判決の評価にあたる言葉は、判決の文言をカギカッコで引用したものに限っています。判決に出てくる個人は、判決自身の伏せた表記か続柄だけで書いています。株式会社日本財務戦略センターが当事者の主張の当否や、現在の会社・商品について評価するものではありません。上級審や確定の有無は、記事中に書いたもの以外は確認できていません。個別の契約や紛争については、弁護士などの専門家にご相談ください。
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