
二人で出資した事業会社が、二人それぞれの個人会社が持つ商標のライセンスを受けてロイヤルティを払う。この共同経営を解消し、一方が持株を譲って退いたとき、商標とロイヤルティはどうなるのか。東京地裁は平成24年9月28日、知財高裁は平成25年3月18日に判断を示しました。この記事では、判決文をもとに、何が起きたか、何が争われたか、共同経営を解消して株式を譲る前に決めておくことを整理します。
この事件は、株式譲渡のトラブル・判例74件の分析の類型5「売り手・旧経営者との譲渡後の争い」の事例です。
<a href="https://jfsc.jp/research/ma-hanrei/apparel-kyoudou-keiei-kaishou/">共同経営を解消して持株を譲った後の商標とロイヤルティ――アパレル会社の東京地裁 平成24年9月28日・知財高裁 平成25年3月18日判決|株式会社日本財務戦略センター</a>文章での出典表記:株式会社日本財務戦略センター「共同経営を解消して持株を譲った後の商標とロイヤルティ――アパレル会社の東京地裁 平成24年9月28日・知財高裁 平成25年3月18日判決」(2026年10月12日) https://jfsc.jp/research/ma-hanrei/apparel-kyoudou-keiei-kaishou/登場するのは、事業会社(被告)と、その共同経営者2人のそれぞれの個人会社です。原告の会社は、共同経営者の一方(判決の一審は「A1」と伏せています。以下「原告代表者」)が全額出資して設立した会社です。相手方の共同経営者(一審は「B」。以下「被告代表者」)も、全額出資の個人会社を設立しました。事業会社と被告代表者の個人会社も判決には実名が出ていますが、この記事では伏せます。3社ともアパレル製品の企画・製造・販売等を目的とする会社です。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 平成16年8月20日 | 原告代表者と被告代表者が出資比率各2分の1で事業会社を設立 |
| 平成18年7月7日 | 2人がそれぞれ全額出資して個人会社を設立(その一方が原告) |
| 平成18年8月31日 | 2つの個人会社と事業会社がライセンス契約を締結。個人会社が共有する商標の独占的な使用を許諾し、事業会社は卸売価格又は小売価格に販売数量を乗じた額の5%をロイヤルティとして双方に個別に払う。期間は5年 |
| 平成20年11月30日 | 覚書で、経済状況の悪化に伴い、別途合意する期間内に発生するロイヤルティ全額を免除することなどを合意 |
| 平成21年2月28日・3月1日 | 第三の出資者が事業会社の株式の3分の1(750株)を持つ株主になり、3人で株主間協定書を締結。損益は持株割合(各3分の1)に応じて分け合う |
| 平成21年5月13日 | 被告代表者が、商標2件(判決のいう本件商標権6・7)を事業会社に移したいとのメールを送る |
| 平成21年5月末 | 事業会社は借入金債務9500万円と5100万円相当の在庫を抱える。銀行からの長期借入金(残高4500万円)を2人が連帯保証 |
| 平成21年6月1日・4日 | 入院中の原告代表者を被告代表者が訪ね、共同経営の解消を申し出て話し合う。4日に内容をまとめたメール、5日に原告代表者が返信 |
| 平成21年6月11日・12日 | 解消に関する書類に押印。ライセンス契約等を合意解除する6月1日付け覚書や株式譲渡書を含む。12日、被告代表者が株式750株の代金750万円を支払い、原告代表者の取締役退任を登記(退任日は5月30日)。同日、商標2件の事業会社への移転登録を申請 |
| 平成21年6月22日〜11月26日 | 事業会社が、ほかの商標5件(本件商標1〜5)を使った2009年秋冬商品を販売。売上高5393万6335円 |
| 平成21年7月29日 | 銀行が原告代表者の連帯保証債務を免除することなどを合意 |
| 平成21年11月27日 | 原告が提訴 |
| 平成24年9月28日 | 東京地裁が一部認容 |
| 平成25年3月18日 | 知財高裁が控訴・附帯控訴をいずれも棄却 |
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ライセンス契約の15条4項は、契約の終了又は解除の後も、一定のリストを提出することを条件に、それ以前に製造などした在庫商品等を6か月に限り販売できると定め、同条5項は、その販売もロイヤルティの支払の対象になると定めていました。
ロイヤルティ:東京地裁は、無償の使用許諾を裏付ける合意書等の書面はないとしました。6月4日付けメールの記載は、事業会社が2009年秋冬商品を販売することを示すものだが、ロイヤルティについては何も述べておらず、「原告が本件登録商標1ないし5の使用を無償で許諾したことの根拠となるものではない。」と判断しました。6月1日付け覚書にも、覚書締結後に販売する秋冬商品のロイヤルティについての規定はないとしています。
原告代表者が販売に協力したことも、ロイヤルティを求めることと相反しないとしました。それまでロイヤルティが払われていなかった点については、共同経営の間はロイヤルティを差し控えることに合理的な理由があったとうかがわれるとしつつ、次のように述べました(「A1」は原告代表者、「B」は被告代表者です)。
A1及びB間の被告における共同事業が解消された後においては,原告が被告に対し本件登録商標1ないし5の使用を無償で許諾することについて,A1にとって合理的な理由を見出し難い。
そのうえで、事業会社は269万6816円と、平成22年1月1日から年6分の割合による遅延損害金を支払う義務を負うとしました。
弁護士費用:民法419条により、金銭債務の不履行による損害賠償は法定利率等によるとし、最高裁 昭和48年10月11日判決を引いて、「債権者は,金銭債務の不履行による損害賠償として,債務者に対し,弁護士費用その他の取立費用を請求することはできないと解するのが相当である」として退けました。
商標2件:譲渡証書の原告の印影が原告の実印によるものであることは争いがなく、反証のない限り、原告の意思に基づいて押されたものと事実上推定されるとしました。そのうえで、3人の共同事業になった後は、個人会社が共有する商標は全て無償で事業会社に譲渡することが想定されていたこと、5月13日のメール、6月4日付けメールに移管手続を始めている旨の記載があり原告代表者が「ほぼ理解できました。」と返信したこと、6月11日の押印作業の後に弁理士へ書類が送られ翌日に移転登録が申請されたことなどを挙げ、原告代表者の供述は信用できないとしました。
取引としての合理性についても、株式代金750万円の支払、連帯保証債務の免除の合意、商標2件の商品の売上高がそれほど大きくないと双方が認識していたことなどを総合し、「A1及びB間の被告における共同事業関係の解消に関する合意事項の一つとして本件商標権6及び7を被告に無償で譲渡することは,A1にとって,特段不合理な取引であるということはできない。」としました。こうして、6月11日に商標2件の共有持分を無償で譲渡する合意があったと認めました。
取締役会の承認がないという原告の主張は、法的根拠を示しておらず失当だとしたうえで、唯一の株主である原告代表者の了承があったので、「仮に原告の取締役会の承認の過程に形式的な瑕疵があったとしても,原告の株主の利益を害するものとはいえない」として採用しませんでした。これは、原告が個人会社で、唯一の株主である原告代表者の了承があったという本件の事実を前提にした判断で、取締役会の承認を欠いても取引が有効になるという一般的なルールを示したものではありません。
原告は控訴し、事業会社は附帯控訴しました。知財高裁は、一審の判断を引用したうえで、双方の追加の主張を退けました(知財高裁の判決文は、一審と伏字の付け方が異なるため、この記事では立場で書いています)。
原告の控訴:実印を被告代表者が事務所で保管していたから民事訴訟法228条4項の推定は働かないとの主張に対し、印影は原告の意思に基づいて押されたと認められるから同項により真正に成立したと推定されるとしました。共同経営の解消の前後で利害関係が違うとの主張に対しては、原告代表者が別の商標5件の受け皿となる新会社の代表者に就く予定で利益を期待していたこと、株式代金750万円の支払と連帯保証債務の免除の合意などから、無償譲渡が不合理な取引とはいえないとしました。株式はもっと高く売れたはずだという主張も、当時の財務状況から退け、「連帯保証債務が現実化する可能性も否定し得ない状況であったと認められる。」と述べています。
事業会社の附帯控訴:ライセンス契約15条5項は解除後の販売もロイヤルティの対象になると明記しており、「6月4日付けメールにロイヤルティを有償とする記載がないからといって,これを無償とする合意があったものと認めることはできず」、リストの提出を求めなかったことからも5項の適用を予定していなかったとはいえないとしました。平成20年11月30日の覚書も、将来のロイヤルティを全額免除する旨の記載はなく、秋冬商品の販売期間を免除の期間とする合意も認められないとしました。更改の主張についても、6月1日付け覚書の条項には「本件ライセンス契約の債務の要素を変更する趣旨の記載はない。」として退けました。
この控訴審判決が確定したかどうか(上告などの有無)は、2026年10月12日時点の公開情報では確認できていません。
1つの解消交渉の中で、ロイヤルティと商標という2つの論点の結論が分かれました。分かれ目になったのは、書面に何が書かれていたかです。ライセンス契約には解除後の販売もロイヤルティの対象になるという規定があり、それを無償にする書面はありませんでした。商標2件には「無償で譲渡した」と印字された譲渡証書があり、原告の実印が押されていました。
合理性の評価でも、ロイヤルティは共同経営の解消の前と後で分けて見られ、商標の無償譲渡は株式代金の支払や連帯保証債務の免除の合意などと合わせて、解消の条件全体の中で見られています。
一方で、判決が判断したのは、この事件の書面とやり取りから当事者の合意をどう認定するかです。共同経営の解消で商標がどちらに属するかの一般的な基準を示したものではありません。年6分の遅延損害金は当時の商法の規定によるもので、この規定は平成29年の法改正(令和2年4月施行)で廃止され、現在は民法の法定利率によります。売り手・旧経営者との譲渡後の争いのほかの事例は、株式譲渡のトラブル・判例74件の分析の類型5で整理しています。
以下は判決から導いた確認事項で、裁判所が述べたものではありません。
知財高裁の判決は、東京地裁の判決に対する控訴審です。個人は判決の伏字か立場で書いています。
Q. ライセンス契約を合意解除した後に売った商品にも、ロイヤルティはかかりますか?
この事件では、ライセンス契約に、解除後の在庫の販売もロイヤルティの対象になるという規定があり、それを無償にする合意は認められなかったため、解消後の販売分269万6816円の支払が命じられました。結論は契約の規定と合意の内容によります。
Q. 共同経営の間ロイヤルティを払っていなかったら、解消後も無償になりますか?
判決は、共同経営の間はロイヤルティを差し控えることに合理的な理由があったとうかがわれるとしつつ、共同経営が解消された後に無償で使用を許諾する合理的な理由は見出し難いとしました。過去の扱いが、そのまま解消後に引き継がれるとは限りません。
Q. 実印を相手に預けていた場合、押印を否定できますか?
この事件では、原告は実印が相手方の事務所で保管されていたと主張しました。一審は、実印による印影は反証のない限り本人の意思に基づいて押されたものと事実上推定されるとしたうえで、事前のメールのやり取りや押印作業、移転登録の申請の経過から、原告代表者の否定の供述は信用できないとしました。知財高裁も、印影は原告の意思に基づいて押されたと認められるとして、譲渡証書は真正に成立したと推定されるとしました。本件のこうした経過を前提にした判断で、実印を預けていれば押印を否定できないという一般的なルールを示した判決ではありません。
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この記事は、裁判所が公開している判決文(2026-10-12時点)をもとに、判決が認定した事実と判断を整理したものです。判決の評価にあたる言葉は、判決の文言をカギカッコで引用したものに限っています。判決に出てくる個人は、判決自身の伏せた表記か続柄だけで書いています。株式会社日本財務戦略センターが当事者の主張の当否や、現在の会社・商品について評価するものではありません。上級審や確定の有無は、記事中に書いたもの以外は確認できていません。個別の契約や紛争については、弁護士などの専門家にご相談ください。
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