株主総会で決めた買収防衛策は差し止められるか――ブルドックソースとスティール・パートナーズの仮処分決定(東京地裁 平成19年6月28日・東京高裁 平成19年7月9日)

株主総会で決めた買収防衛策は差し止められるか――ブルドックソースとスティール・パートナーズの仮処分決定(東京地裁 平成19年6月28日・東京高裁 平成19年7月9日)

この記事は、株式譲渡のトラブル・判例74件を分析した研究記事で、件数や勝敗の集計に入れず「参考」として載せている事件の深掘りです。上場会社の支配権をめぐる争いは、非公開会社の株式譲渡とは性格が違うためです。外資系の投資ファンドが上場会社の全株式の公開買付けを始めたのに対し、会社は株主総会の特別決議で、買収者側だけが行使できない新株予約権を全株主に割り当てる防衛策を決めました。買収者側はその差止めを求める仮処分を申し立てましたが、東京地裁は申立てを却下し、東京高裁は抗告を棄却しました。いずれも判決ではなく、仮処分の手続での「決定」です。この記事では、決定文をもとに、何が起きたか、何が争われたか、どこまでいえるかを整理します。

この事件は、株式譲渡のトラブル・判例74件の分析で「参考:上場会社の経営権争い・買収防衛策(集計外)」として載せている事例です。

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※ JFSCが集計・加工・分析した結果(集計値・集計表・図表・指標・分析と見解)は、この条件で引用いただけます。他機関(官公庁・調査会社など)が公表した数値や文章そのものは、それぞれの元資料の利用条件に従ってください。

先に結論

事件の概要と時系列

会社はブルドックソース(東京証券取引所市場第二部に上場、発行済株式総数1,901万8,565株)です。決定は同社を、ソースその他調味料の製造及び販売等を主たる事業とする会社と認定しています。申立てをしたのは、日本株への投資を目的とする英領ケイマン諸島法に基づくリミテッド・パートナーシップ形態の米国系投資ファンドで、スティール・パートナーズのグループに属します。公開買付けは、このファンドが持分の100%を持つ買付け用の会社(決定では「SPVⅡ」)が行いました。

時期出来事
平成14年ファンドが同社株式の取得を始める。同年12月には関係者と併せて96万株(5.05%)の保有を明らかにする
平成17年10月ファンド側の役員らが同社の代表者らと面談し、経営陣による企業買収を打診。同社は拒否(東京高裁の認定)
平成19年5月16日同社が、全株式を1株1,584円で、下限を付けずに公開買付けする意図を伝える書簡を受け取る
平成19年5月18日SPVⅡが全株式を対象とする公開買付けを開始(買付期間は6月28日まで)
平成19年5月25日・6月1日同社が意見を留保して質問を提出。SPVⅡが対質問回答報告書を提出
平成19年6月7日同社取締役会が公開買付けへの反対を決議し、定款変更と新株予約権無償割当ての議案を株主総会に付議することを決める
平成19年6月13日ファンドが仮処分を申し立てる
平成19年6月15日SPVⅡが買付価格を1株1,700円に引き上げ、買付期間を8月10日まで延長
平成19年6月24日定時株主総会で、定款変更(第6号議案)と新株予約権無償割当て(第7号議案)が特別決議で可決
平成19年6月28日東京地裁が申立てを却下
平成19年7月9日東京高裁が抗告を棄却

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防衛策の中身は、決定の認定によれば次のとおりです。

項目内容
割当て基準日(平成19年7月10日)の株主に、1株につき3個の新株予約権を無償で割り当てる
行使1個につき1株、払込金額は1株1円。行使できる期間は平成19年9月1日から30日まで
差別的な条件買収者側(スティール・パートナーズのグループ各社とその関係者)は「非適格者」として行使できない
取得条項会社は、買収者側以外の新株予約権は株式と引換えに、買収者側の新株予約権は1個396円と引換えに取得できる。396円は当初の買付価格1,584円に希釈化の割合(4分の1)を乗じた額
影響買収者側の持株比率は10.25%から2.82%に下がる。買収者側に払われる額は合計23億1,660万円

株主総会では、両議案とも、総議決権の約94%を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の約88.7%(総議決権の約83.4%)の賛成で可決されました。総会の直後、取締役会は、税務上の理由で取得条項による取得をしない場合でも、買収者側の新株予約権を1個396円で譲り受けることを決議し、公表しています。

何が争われたか

ファンドは、会社法247条(募集新株予約権の発行の差止め)の類推適用に基づき、無償割当ての差止めを求めました。主張の柱は次の3つです。

  1. 株主平等原則に反するか:特定の株主の属性に着目して、行使条件と取得条項で不利な新株予約権を割り当てるのは、株主平等原則(会社法109条1項)に反すると主張しました。
  2. 著しく不公正な方法か:経営支配権に争いがある場面で、買収者の持株比率を下げることだけを目的とする発行であり、必要性も相当性もないと主張しました。ファンドは、自らは株価をつり上げて高値で会社関係者に引き取らせる者ではないと主張しました。
  3. 定款違反か:無償割当てを承認した総会決議は、特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議、または多数決の濫用であり、取り消されるべきだと主張しました。

なお、新株予約権の無償割当てには、会社法上、募集新株予約権のような差止めの規定がありません。東京地裁は、差別的な行使条件が付いて株主の地位に実質的な変動を及ぼす場合には、会社法247条が類推適用されるとし、東京高裁もこの判断を引用しています。

裁判所の判断

東京地裁(平成19年6月28日決定)――申立て却下

株主平等原則について、東京地裁は、株主に無償で割り当てる新株予約権には株主平等原則の趣旨が及ぶとしました。そのうえで、会社法が株主総会の特別決議を条件に株主の扱いを変えることを認めている規定(合併の対価、譲渡制限株式の買取り、特定の株主からの自己株式の取得など)を挙げ、差別的な条件があっても、「少なくとも株主総会の特別決議に基づき当該新株予約権無償割当てが行われた場合であって、当該株主の有する株式の数に応じて適正な対価が交付され、株主としての経済的利益が平等に確保されているときには」、株主平等原則に反しないとしました。本件では、396円がファンド自身の付けた当初の買付価格1,584円に希釈化の割合(4分の1)を乗じた額であることから、経済的利益は平等に確保されていると一応認めました。対価の額をこの方法で決めれば足りるという一般的な基準を示したものではありません。

著しく不公正な方法について、東京地裁は、取締役会が経営支配権の維持を主要な目的として新株予約権を発行した場合は、「原則として不公正な発行として差止請求が認められるべきである」と述べました。しかし、この事件では、定款を変更して無償割当てを株主総会の権限とし、総会の特別決議で実施されているので、その法理はそのまま当てはまらないとしました。対抗手段の必要性の判断は原則として株主総会に委ねられ、「当該株主総会の判断が明らかに合理性を欠く場合に限って、対抗手段の必要性が否定されるものというべきである」としました。ファンド側が経営権取得後の経営方針や投下資本の回収方針を明らかにしなかったことなどから、総会の判断は明らかに合理性を欠くとはいえないとしました。

一方で、東京地裁は「株主総会の特別決議による対抗手段であっても、特定の買収者による経営支配権の取得を妨げるという目的に必要な範囲を超えて、当該買収者又はその他の株主の利益を損なうことは許されない」とし、相当性を別に検討しました。本件では、買収者側に396円が交付されること、ファンド側が平成19年7月5日までに公開買付けを撤回すれば効力発生を免れて持株比率を維持できたこと、他の株主の大多数が賛成したことなどから、相当性を欠くとはいえないとしました。

なお、東京地裁は、ファンド側が会社関係者に高値での引取りを求めたことの疎明はないとして、「債権者関係者が上記の定義に係るグリーンメーラーであると認めるには足りない」と述べています。ただし、その点は判断を左右しないとしました。

東京高裁(平成19年7月9日決定)――抗告棄却

東京高裁は、買収防衛策の発動について、「明文の根拠規定を有しないものであるが、証取法、会社法はこれを排斥するものとは解されず、合理的な事情がある場合には是認されるべきもの」としました。そして、株主平等原則に反するか、不公正発行に当たるかは、買収者と被買収者の属性も考慮し、公開買付けの態様と対比して、必要性と相当性を相対的に判断すべきだとしました。

東京高裁は、株主平等原則について、「株主の属性によって差異を設けることが当該会社の企業価値の毀損を防止するために必要かつ相当で合理的なものである場合には、それは株主平等原則に反するものではないというべきである」としました。

そのうえで、東京高裁は、「真に会社経営に参加する意思がないにもかかわらず、専ら当該会社の株価を上昇させて当該株式を高値で会社関係者等に引き取らせる目的で買収を行うなどのいわゆる濫用的買収者」は差別的な取扱いを受けてもやむを得ないとしました。本件では、ファンド側の過去の投資と売却の経緯、公開買付届出書の記載(証券売買による利益を目的とすること、完全子会社化した場合の資産の処分を見込むことなど)、会社の質問への回答などを認定し、「抗告人関係者は本件については濫用的買収者であると認めるのが相当というべきである」と判断しました。

相当性については、「濫用的買収に対する防衛策といえども、防衛策である以上当然に防衛の限度にとどまることが要請される」としたうえで、株主総会の特別決議を経ていること、396円の交付が予定されていること、他の株主も了承したと解されることなどから、相当性を認めました。396円の支払いについては、新株予約権の内容としてあらかじめ定められた取得の対価であり、株主の権利の行使に関する利益供与には当たらないとしています。

この判決から何がいえるか

二つの決定は、結論は同じでも理由の重心が違います。東京地裁は、株主総会の特別決議と、買収者にも適正な対価が交付されることを重く見て、必要性の判断は原則として株主総会に委ねるとしました。東京高裁は、裁判所自身が買収者側を「濫用的買収者」と認定し、そのことを必要性と相当性の判断の土台にしています。

どちらの決定も、株主総会の決議があれば防衛策が当然に認められるとはしていません。東京地裁は総会の特別決議による対抗手段でも必要な範囲を超えることは許されないとし、東京高裁は防衛の限度にとどまることを求めています。また、東京高裁は、この事件の対応策を「我が国において類例も乏しく、過去に経験のない突然の外資ファンドの公開買付けに混乱した中での対応策であったともいえる」と述べています。

この事件は上場会社の公開買付けをめぐるもので、当時の証券取引法の公開買付けの規定が前提になっています(買付価格の見直しや公開買付けの撤回について決定が挙げた証券取引法の規定は、現在は金融商品取引法に移っています)。会社法は平成18年施行の当時のものが適用されており、その後の改正もあるため、現在の法令でそのまま同じ結論になるとは限りません。また、いずれも仮処分の手続での判断で、本案の訴訟で確定した判断ではありません。最高裁判所の判断には、この記事では立ち入りません。

非公開会社の株式譲渡は、譲渡制限や株主の数、株式の流通のしかたが大きく違い、この事件の判断がそのまま当てはまる場面は多くありません。事件の位置づけは、株式譲渡のトラブル・判例74件の分析の「参考」の節で、他の上場会社の事件と並べて整理しています。

株式譲渡で確認すること(この判決から導ける示唆)

以下は判決から導いた確認事項で、裁判所が述べたものではありません。

  1. 株主の扱いを分ける仕組みは、根拠と対価を確かめる:この事件では、株主総会の特別決議に加え、買収者側にも保有株式の数に応じた対価が用意されていることが判断の材料になりました。株主の一部を他と違って扱う仕組み(新株予約権、種類株式、特定の株主からの買取りなど)を検討するときは、会社法上の根拠と決議の要件、不利益を受ける株主への対価を確認します。
  2. 株式を買い集める側は、取得後の方針を説明できるようにする:両決定は、ファンド側が経営権取得後の経営方針や投下資本の回収方針を明らかにしなかったことを、判断の材料にしました。まとまった株式を取得する側は、取得の目的と取得後の経営への関わり方を、相手方や他の株主に説明できるよう整理しておくことが考えられます。
  3. 対抗策を考える会社は、必要性と相当性を分けて検討する:両決定とも、総会の決議とは別に、対抗手段が目的に必要な範囲にとどまっているかを検討しています。本件で相当性を認める材料になったのは、買収者側に渡る対価(買付価格を基にした1個396円)、公開買付けを撤回すれば発動を免れる仕組み、他の株主の賛成の程度でした。対価の算定根拠、買収者が発動を避けられる手段の有無、決議の賛成率を、それぞれ説明できるかを確認します。
  4. 非公開会社では、まず定款と株主構成を確かめる:非公開会社の支配権の移動は、多くの場合、譲渡制限株式の譲渡承認や株主間の合意で決まります。上場会社の防衛策の判断を持ち込む前に、定款の譲渡制限、株主名簿、株主間契約の有無を確認します。

判決の出典

東京高裁の決定は、東京地裁の決定に対する抗告を棄却したものです。最高裁判所の判断はこの調査の母集団に入っていません。個人は立場で書いています。

よくある質問

Q. 株主総会の特別決議があれば、買収防衛策は認められますか?

この事件の二つの決定は、そうは述べていません。東京地裁は、総会の特別決議による対抗手段でも、買収を妨げる目的に必要な範囲を超えて買収者や他の株主の利益を損なうことは許されないとしました。東京高裁も、防衛の限度にとどまることを求め、買収者の属性や公開買付けの態様と対比して相対的に判断するとしています。

Q. 特定の株主だけが新株予約権を行使できない仕組みは、株主平等原則に反しないのですか?

東京地裁は、株主総会の特別決議に基づき、その株主にも保有株式の数に応じた適正な対価が交付され、経済的利益が平等に確保されている場合には反しないとしました。東京高裁は、企業価値の毀損を防ぐために必要かつ相当で合理的な場合には反しないとしました。いずれも、この事件の事実関係のもとでの仮処分の判断で、差別的な条件を付けた新株予約権が一般に許されるとした判断ではありません。

Q. 裁判所は、スティール・パートナーズ側を濫用的買収者と認めたのですか?

東京高裁は、過去の投資と売却の経緯や公開買付届出書の記載などから、「抗告人関係者は本件については濫用的買収者であると認めるのが相当というべきである」と判断しました。一方、東京地裁は、会社関係者への高値での引取りを求めたことの疎明はないとして、ファンド側の主張する定義でのグリーンメーラーとは認めず、その点は判断を左右しないとしました。濫用的買収者の認定は東京高裁が本件の事実関係から行ったもので、二つの決定で扱いが分かれています。

Q. 中小企業の株式譲渡にも、この決定は当てはまりますか?

この事件は、上場会社の全株式の公開買付けと、それに対する防衛策をめぐる仮処分の判断です。非公開会社では、譲渡制限株式の譲渡承認や株主間の合意で支配権の移動が決まることが多く、この決定がそのまま当てはまる場面は多くありません。

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この記事は、裁判所が公開している判決文(2026-10-12時点)をもとに、判決が認定した事実と判断を整理したものです。判決の評価にあたる言葉は、判決の文言をカギカッコで引用したものに限っています。判決に出てくる個人は、判決自身の伏せた表記か続柄だけで書いています。株式会社日本財務戦略センターが当事者の主張の当否や、現在の会社・商品について評価するものではありません。上級審や確定の有無は、記事中に書いたもの以外は確認できていません。個別の契約や紛争については、弁護士などの専門家にご相談ください。
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五十嵐悠一
監修・執筆責任者
株式会社日本財務戦略センター 代表取締役。京都大学経済学部経営学科(マーケティングゼミ専攻)卒。損害保険ジャパン本店営業部(企業リスク・法務)を経て、東証上場M&A仲介会社にて多数の成約に従事。2020年に株式会社日本財務戦略センターを創業し、M&A・事業承継・財務戦略を専門としています。中小企業庁 M&A支援機関登録事業者/一般社団法人M&A支援機関協会 正会員です。