
オーディオ機器のオンキヨーホームエンターテイメント(判決の表記は「破産会社」)は、パイオニアから商標の使用許諾を受けて製品を作っていましたが、使用許諾契約を合意で解約した後に破産しました。破産管財人は、パイオニアの商標が付いたまま残った在庫を売っても商標権の侵害にならないことの確認を求めましたが、東京地裁も知的財産高裁も請求を退けました。この記事では、判決が認定した事実、当事者の主張、裁判所の判断を分けて読みます。
この事件は、事業譲渡のトラブル・判例62件の分析の類型6「取引先・ライセンス・権利・許認可の引き継ぎ」の事例です。
<a href="https://jfsc.jp/research/ma-hanrei/onkyo-pioneer-shohyo/">オンキヨーの破産管財人とパイオニアの商標裁判|ライセンス解約後、売り切り期間を過ぎた在庫は売れるか|株式会社日本財務戦略センター</a>文章での出典表記:株式会社日本財務戦略センター「オンキヨーの破産管財人とパイオニアの商標裁判|ライセンス解約後、売り切り期間を過ぎた在庫は売れるか」(2026年10月12日) https://jfsc.jp/research/ma-hanrei/onkyo-pioneer-shohyo/判決(知財高裁が引用した原判決の前提事実を含む)に書かれた経過は次のとおりです。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2014年11月7日 | パイオニアが、当時のオンキヨー株式会社(後のオンキヨーホームエンターテイメント)に、ホームシアター、家庭用オーディオ、ヘッドホン・イヤホンなどについて、商標(登録第4482310号)の通常使用権を許諾する契約を結ぶ。使用には事前の承諾が要ること、ブランド監査の観点からの報告・改善の求めに応じることなどが定められていた |
| 2021年6月21日 | 両社が合意解約。ホームシアター・オーディオ等は同年9月8日、その他の商品は同年11月3日をもって解約し、解約日以降は商標を使わないが、解約日から6か月間は、解約日時点の在庫を売るために合理的な範囲で商標の使用を続けられると定める |
| 解約日時点 | 破産会社は、商標を付けた在庫を持っていた |
| 2022年5月13日 | 破産会社が大阪地裁に破産を申し立て、同日に破産手続開始決定。破産管財人が選任される |
| 訴訟の時点 | 管財人は、商標を付けたままの在庫(スピーカー、イヤホン、ヘッドホン、デジタルオーディオプレイヤーの20品目)を、香港の物流会社の倉庫で保有していた |
| 2023年3月27日 | 東京地裁が請求を棄却(令和4年(ワ)第18610号) |
| 2023年11月1日 | 知財高裁が控訴を棄却(令和5年(ネ)第10044号) |
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東京地裁 令和5年3月27日判決の前提事実・別紙動産目録、知財高裁 令和5年11月1日判決。1万198個は動産目録の数量を合計したもの
判決の日付から数えると、6か月の期限は2022年3月上旬と5月上旬で、破産の申立てはどちらよりも後です。これは記事側の計算で、判決がこの前後関係を論じているわけではありません。
一審では、在庫の販売に商標権侵害としての「実質的違法性」が欠けるかどうかが争点でした。管財人は、並行輸入に関する最高裁平成15年2月27日判決を挙げ、使用許諾を受けた者が適法に付した商標の商品は商標法上の真正品だと主張しました。在庫は契約の有効期間中に契約の定めに従って作ったもので、サンプル品や不良品として流通させるものではないから、出所表示機能・品質保証機能は害されない、という主張です。控訴審では、この主張を「製造時に」適法に付されていれば真正品だ、という形に改めています。
控訴審では、新たに信義則違反・権利濫用の主張が加わりました。管財人の主張は次のとおりです(いずれも主張で、裁判所が認定した事実ではありません)。
パイオニアは、破産会社は解約日に商標を使う権限を失い、例外として認めた6か月も過ぎていると主張しました。平成15年最判は並行輸入の事案で本件とは関係がないこと、在庫は商標を変えるか消さない限り実質的には廃棄するほかない商品であることも挙げています。
控訴審では、契約は一方的な解除ではなく企業どうしの合意で解約されたもので、「解約合意においては在庫販売期間も定められていた」と主張しました。解約に至ったのは事業譲渡のためではなく、破産会社が商標使用料を一度も払わず、契約を続けられる関係を失ったためだとし、譲渡先から未払いのライセンス料全額に相当する金額の支払いは受けていないと反論しています。
東京地裁は、使用許諾契約が解約され、在庫を売ってよい6か月も過ぎた以上、今後この在庫を売れば、許諾のない商標の使用として商標権を侵害すると認めました(商標法25条・2条3項2号)。
真正品の主張に対しては、まず商標法31条2項の(通常使用権者は、設定行為で定めた範囲内において、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を有する)という規定を引き、通常使用権の範囲・期間・条件は使用許諾契約で決まるとしました。そのうえで、契約が有効な間に商標が付された商品でも、今後売ることは使用許諾契約と解約合意に違反し、破産会社の地位を引き継いだ管財人が実質的違法性を欠くと主張できないことは明らかだとしています。
平成15年最判については、別の業者による並行輸入の違法性が争われた事件であるのに対し、本件は「かつて商標の使用を許諾されていた者自身の行為の違法性が問われている」として、事案が異なるとしました。結論として、パイオニアは商標権に基づいて在庫の販売を差し止める権利(商標法36条1項)を持つとしています。
侵害の点について、知財高裁は原判決を引用しつつ、いくつか訂正しています。指定商品と同一または類似の在庫に商標を付して売れば、商標法2条3項2号の「商品に標章を付したものを譲渡し」たとして「使用」に当たると書き改め、根拠条文に37条1号を加えました。
また、原判決の8頁1行目から15行目までを削っています。公開されている原判決PDFの行の並びと照らすと、この部分は、許諾のない在庫が出回ることが商標の出所表示機能・品質保証機能を害すると述べた段落に当たるとみられます。判決は削った理由を述べていませんが、控訴審の結論は、商標の機能の議論ではなく、契約で定めた使用の範囲と期間を過ぎたことに支えられていると読めます。
知財高裁は、使用許諾契約は「既に効力を失っており、在庫商品について例外的に本件商標の使用が許諾された期間も経過している」とし、「本件使用許諾契約が有効である間に製造され本件商標が付された商品であっても」売れば契約と解約合意に違反するとしました。そのうえで、次のように述べています。
破産会社は本件在庫商品を販売できる期間を自ら合意していながら、その期間内に本件在庫商品を販売せずに、販売可能な期間を徒過したものであり、控訴人はその地位を承継したものであるから、控訴人が主張する各事実をもって、信義則違反又は権利濫用に当たるものとはいえない。
知財高裁 令和5年11月1日判決 第3の2(1)。「控訴人」は破産管財人
共同ブランドとしての利用、事業譲渡と未払いのライセンス料の支払い、簿価や廃棄費用といった管財人の主張について、知財高裁は一つずつ事実を認定していません。それらの事実があったとしても、自ら合意した期間を過ぎたことを覆す事情にはならない、という組み立てです。控訴費用は管財人の負担とされました。
この判決が直接示しているのは、売り切り期間を合意で決めたライセンシーが期間後に商標付きの在庫を売ることは侵害になり、破産管財人も同じ立場に立つ、という点です。管財人に換価の責務があることや、ロイヤルティ相当額の申出をしていることは、この結論を変えませんでした。
一方で、限界もあります。
以下は、判決の判断から記事として導いた確認事項で、裁判所が述べたものではありません。
2026年10月11日に裁判所の公開情報で確認した範囲では、知財高裁判決に対する上告・上告受理申立ての有無や、確定したかどうかは確認できていません。判決に出てくる個人は、判決の表記(破産管財人など)で書いています。
Q. 破産管財人は、他社の商標が付いた在庫をどう処分すればよいのですか?
この判決が示したのは、許諾された売り切り期間を過ぎた後に、商標を付けたまま売ることは侵害になるという点だけです。商標を外して売ることや、ライセンサーに買い取ってもらうことの可否は判断されていません。パイオニアは、商標を変えるか消さない限り廃棄するほかないと主張していました。
Q. 並行輸入で使われる「真正品」の考え方は、ライセンス終了後の在庫には使えないのですか?
東京地裁は、最高裁平成15年判決は別の業者による並行輸入の事件であり、本件はかつての使用権者自身の行為が問われているとして、事案が異なるとしました。通常使用権の範囲や期間は使用許諾契約で決まり、期間後の販売は契約と解約合意に違反する、というのが判断の筋です。
Q. 差止請求権不存在確認訴訟とは、どんな裁判ですか?
権利者が差止めを求める権利を持っていないことを、相手方の側から確認してもらう訴えです。本件では、管財人が在庫を売る前に、パイオニアが販売を差し止める権利を持たないことの確認を求めましたが、裁判所は逆に、パイオニアは差止めを求める権利を持つと判断して請求を棄却しました。
Q. ライセンス料をまとめて払うと申し出れば、期間後でも売れるのですか?
この事件では、管財人がロイヤルティ相当額程度の支払いを申し出ていましたが、知財高裁は、自ら合意した期間を過ぎた以上、権利濫用には当たらないとしました。支払いの申出をしたことだけでは、差止めを免れる理由にならなかったことになります。
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この記事は、裁判所が公開している判決文(2026-10-12時点)をもとに、判決が認定した事実と判断を整理したものです。判決の評価にあたる言葉は、判決の文言をカギカッコで引用したものに限っています。判決に出てくる個人は、判決自身の伏せた表記か続柄だけで書いています。株式会社日本財務戦略センターが当事者の主張の当否や、現在の会社・商品について評価するものではありません。上級審や確定の有無は、記事中に書いたもの以外は確認できていません。個別の契約や紛争については、弁護士などの専門家にご相談ください。
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