破産した父の会社から株式を譲り受けたという主張は認められるか――議事録・贈与税・担保・決算書類から判断した甲府地裁 平成18年1月27日判決

破産した父の会社から株式を譲り受けたという主張は認められるか――議事録・贈与税・担保・決算書類から判断した甲府地裁 平成18年1月27日判決

株式を譲り受けたと主張する人が、手元に株券を持っている。それでも、譲渡があったと裁判所に認めてもらえるとは限りません。甲府地方裁判所は平成18年1月27日、破産した会社から8年前に株式を譲り受けたという主張について、取締役会議事録、贈与税の扱い、株券の担保差入れ、会社の決算書類を一つずつ検討し、譲渡の事実を認めませんでした。この記事では、判決文をもとに、何が起きたか、何が争われたか、株式譲渡の際に残しておくべき記録を整理します。

この事件は、株式譲渡のトラブル・判例74件の分析の類型1「株式の帰属・株主権――譲渡承認・株券・名義株」の事例です。

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<a href="https://jfsc.jp/research/ma-hanrei/hasan-gaisha-kara-kabushiki-jouto/">破産した父の会社から株式を譲り受けたという主張は認められるか――議事録・贈与税・担保・決算書類から判断した甲府地裁 平成18年1月27日判決|株式会社日本財務戦略センター</a>文章での出典表記:株式会社日本財務戦略センター「破産した父の会社から株式を譲り受けたという主張は認められるか――議事録・贈与税・担保・決算書類から判断した甲府地裁 平成18年1月27日判決」(2026年10月12日) https://jfsc.jp/research/ma-hanrei/hasan-gaisha-kara-kabushiki-jouto/
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先に結論

事件の概要と時系列

被告会社は、株式を譲渡するには取締役会の承認を受けなければならないと定款で定めている株式会社です(判決は業種を書いていません)。平成10年5月13日の時点で、A社が被告会社の発行済株式4万4160株のうち2万2080株(以下「本件株式」)を持っていました。原告はBの子で、判決はBの証言を前提に、原告がBの秘書をしていたと書いています。

表のうち「Bの証言」とある部分は、裁判所が事実として認めたものではなく、証言の内容です。

時期出来事
平成9年3月被告会社からBの父への死亡退職慰労金2557万円が、相続人としてのBの口座に振り込まれる。A社の取締役の一人がこれを引き出してA社の運転資金に使う(Bの証言)
平成10年5月13日A社が本件株式を保有(争いなし)。原告はこの日にA社から譲り受けたと主張。Bは、金銭の返還に代えて本件株式を原告が譲り受けることにし、A社の臨時取締役会で承認したと証言
平成13年4月〜平成14年3月の事業年度A社の決算書類で、A社が本件株式の株主であることを前提とした処理がされる
平成14年8月か9月A社がDから3000万円を借り、Bがその担保として本件株式の株券をDに差し入れる(Bの証言)
平成14年11月以降Bが、平成10年5月の取締役会の議事録を2通、相次いで作る(Bの証言)
平成15年3月27日A社が東京地裁で破産宣告を受ける。B個人も同じ時期に破産宣告
平成15年7月原告が借入金の残金約1500万円を自分で工面してDに払い、株券を取り戻す(Bの証言)
平成16年1月17日原告が被告会社に本件株式の名義書換を請求
平成16年1月27日・28日被告会社の取締役会が承認しないと決定し、内容証明郵便で原告に通知
平成16年1月31日被告会社が新株を発行し、発行済株式は5万6256株に
平成16年12月20日A社の破産手続が費用不足により廃止される
平成18年1月27日甲府地裁が原告の請求を棄却

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何が争われたか

  1. 譲渡の事実があったか:原告は、平成10年5月13日にA社から本件株式を譲り受けたと主張し、被告会社はこれを否認しました。
  2. 承認しない決議は違法無効か:原告は、Bの関係する会社と親族の株式が発行済株式の77%を占めていた会社で、Bの子である原告の取得を拒む理由はなく、承認しない決議は現取締役らがBの一族を排除し会社を支配する意図でしたもので、取締役の善管注意義務・忠実義務に反すると主張しました。平成16年1月の新株発行も、増資の必要がないのに支配権を得るためにしたものだと主張しました。
  3. 被告会社の反論:被告会社は、新株発行はA社の破産の影響でメインバンクから融資を受けられなくなり、資金調達と自己資本の充実のために必要だったと主張しました。また、譲渡承認を拒むのに正当な理由は要らず、仮に義務違反があっても取締役の損害賠償の問題にとどまり、決議が違法無効になるわけではないと主張しました。

裁判所の判断

判決は一審の甲府地裁の判決です。裁判所は、まず譲渡の事実を検討し、それが認められないことで結論を出したうえで、念のため、譲渡があったと仮定した場合も検討しています。

株券を持っていることだけでは足りない

原告は本件株式の株券を証拠として出しました。裁判所は、これが譲渡の根拠になり得ることを認めつつ、株券はもともとA社の社長室で保管されていたこと、BがA社の代表取締役で、原告がBの子であることから、仮に譲渡がなかったとしても原告が株券を出すことは十分に可能だとしました。そのため、「原告が本件株式の株券を証拠として提出していることだけから,原告の主張する譲渡があったと認定することはできない。」としました。

Bの証言の不自然な点

裁判所は、Bの証言について三つの点を挙げました。

第1に、取締役会議事録です。 平成10年5月13日の取締役会について、原告が出した議事録と被告会社が出した議事録の二つがあり、内容が微妙に異なり、どちらも当時の登記簿上の取締役の記載と違っていました。Bは、平成14年11月以降に一方を作り、その10日ほど後にもう一方を作った、秘書に作らせたので役員欄を間違えたと思う、と証言しました。裁判所は、「平成10年5月の取締役会について4年以上もたった平成14年11月以降に議事録を作るということ自体不自然である。」とし、二つを相次いで作った経過も不明で、どちらも不正確であることから、「この取締役会議事録の内容の信用性には大きな疑問が残り」、議事録を根拠に譲渡を認定するのは困難だとしました。

第2に、原告とBの行動です。 裁判所は、証言された行動は「本件株式が真に原告に譲渡されたとすればとても考えられないようなものである。」としました。挙げた事情は次のとおりです。

第3に、A社の決算書類です。 Bが代表取締役だった平成13年4月から平成14年3月までの事業年度の決算書類では、A社が本件株式の株主であることを前提とした処理がされていました。裁判所は、「この事実はBの証言とは根本的にあいいれず,その証言の信用性を疑わせる。」としました。

このほか、Bは破産管財人も原告への譲渡を了解していたという趣旨の証言をしましたが、裏付けがなく、仮に破産管財人が本件株式のことを不問にしたとしても、それだけで譲渡を認定することはできないとされました。こうして裁判所は、原告が本件株式を取得したとは認められず、ほかの点を検討するまでもなく請求には理由がないとしました。

譲渡があったと仮定しても請求は認められない

念のための検討として、裁判所はまず、原告の主張は譲渡の承認の請求があったことを前提にしているが、承認の請求があった事実自体を認定できず、「原告がしたのは名義書換請求にすぎないのである」としました。

仮に承認の請求があったとしても、原告の主張する事実関係を前提にして、取締役が会社よりも私益を優先させたとは認めにくいとしました。その理由として、「A社が破産した経緯に照らすと,Bの影響力を排除することこそが被告の利益になるという判断も十分可能だと考えられるからである。」と述べています。さらに一般論として、取締役が善管注意義務・忠実義務を負うのは会社に対してであり、義務違反があったとしても、そこから「ただちに承認決議と同じ効果が生じるというのは論理の飛躍であるといわざるをえない。」とし、根拠となる商法の条文も見当たらないとしました。

結論として、「原告の主張は,事実の点においても,法律上の点においても,いずれも採用することができない。」として、請求を棄却しました。

この判決から何がいえるか

この判決は、株式の譲渡があったかどうかを、株券の所持だけでなく、譲渡の時点で作られた記録と、その後の当事者のふるまいから判断した事例です。議事録が後から作られたこと、贈与であれば当然あるはずの税金の処理がないこと、譲り受けたはずの人ではなく譲渡人側が株券を担保に使ったこと、譲渡人の決算書類が自社を株主として扱っていたことが、それぞれ譲渡を否定する方向に働きました。

一方、この判決は一つの地方裁判所の判断で、結論はこの事件の証拠関係に強く依存しています。贈与税の申告がないことや議事録の作成時期が、それだけで譲渡を否定する決め手になると述べたものではありません。裁判所は複数の事情を合わせて、Bの証言は採用できないとしています。

譲渡承認を拒む決議が取締役の義務違反にあたる場合に承認と同じ効果が生じるか、という原告の法律論は、当時の商法を前提に退けられました。ただし、これは譲渡の事実が認められないとした後の「念のため」の検討で、一つの地方裁判所の判断です。現在の会社法では、譲渡制限株式の株主や取得者が会社に承認を求める手続(会社法136条・137条)、承認しない場合に会社または会社の指定する者が買い取るよう求める手続(同138条・140条)などが定められており、事案によって検討の仕方が異なり得ます。

譲渡承認・株券・名義株をめぐるほかの判例は、株式譲渡のトラブル・判例74件の分析の類型1で整理しています。

株式譲渡で確認すること(この判決から導ける示唆)

以下は判決から導いた確認事項で、裁判所が述べたものではありません。

  1. 債務の返済に代えて第三者に株式を渡すなら、三者の合意をその時点で書面にする:この事件では、A社がBに返すべき金銭の代わりに、Bの子である原告が株式を受け取ったと証言されましたが、契約書面がなく、三者の間でどのような合意が成立したのか分からないとされました。誰が誰に株式を渡し、それによってどの債務がいくら消えるのかを譲渡の時点の契約書に書き、譲渡人側の取締役会の議事録もその時点で作ります。この事件では、4年以上後に作られた議事録の信用性が否定されました。M&Aで株式を買う側は、売り手が株式を取得した経緯について、当時の書面がそろっているかを確認します。
  2. 税務と会計の扱いが譲渡と合っているかを見る:無償の譲渡なら贈与としての税務の処理、有償なら代金と会計の処理があるはずです。この事件では、贈与税の処理がないことや、譲渡したはずの会社の決算書類が自社を株主として扱っていたことが、譲渡を否定する事情になりました。株主の地位を確かめるときは、株主名簿だけでなく、元の株主側の決算書類や申告の記載とも照らし合わせます。
  3. 株券を誰が保管し、どう使われたかを確認する:株券を持っていることは譲渡の根拠になり得ますが、この事件では、株券が譲渡人側の社長室にあったことから、それだけでは足りないとされました。株券の保管場所、担保に入れられた経緯、取り戻した経緯と、その後の精算の記録を確認します。
  4. 元の株主の破産・倒産の時期に注意する:この事件では、A社とBが破産宣告を受けた後に、譲渡を受けたとして名義書換が請求されました。元の株主が破産している場合、破産管財人の関与や判断の記録があるかを確認します。この事件では、管財人が了解していたという証言は裏付けがなく採用されませんでした。
  5. 名義書換の請求と譲渡承認の請求を区別する:裁判所は、原告がしたのは名義書換の請求にすぎず、承認の請求があったとは認定できないとしました。譲渡制限株式を取得した側が会社に求める手続は、現在の会社法の条文(会社法136条〜140条)に沿って確認します。現在の会社法では、株式を取得した人が承認を求めるときは、原則として株主名簿に株主として記載された人(またはその相続人などの一般承継人)と共同で請求する必要があります(会社法137条2項)。

判決の出典

判決は一審の判決で、控訴の有無と確定したかどうかは、2026年10月12日時点の公開情報では確認できていません。会社と個人は判決の伏字(A社、B、D)か立場で書いています。

よくある質問

Q. 株券を持っていれば、株式を譲り受けたと認められますか?

株券を持っていることは譲渡の根拠になり得ますが、それだけで認められるとは限りません。この判決では、株券がもともと譲渡人側の会社の社長室で保管されており、原告が代表取締役の子であったことから、譲渡がなかったとしても株券を出すことはできたとして、株券の提出だけでは譲渡を認定できないとされました。

Q. 後から作った取締役会議事録は証拠になりませんか?

証拠として出すことはできても、信用されるとは限りません。この判決では、平成10年の取締役会の議事録を平成14年11月以降に作ったこと自体が不自然とされ、内容の異なる議事録が二つあり、どちらも登記簿の記載と違っていたことから、信用性に大きな疑問が残るとされました。

Q. 親族の会社から無償で株式をもらったのに、贈与税の申告をしていないと不利になりますか?

この判決では、1100万円の価値があったという株式を無償で取得したのに、贈与を前提とした税金の処理がされていないことが、譲渡の経緯についての証言を不自然とする事情の一つとされました。ただし、裁判所はこれだけで判断したのではなく、議事録、株券の扱い、決算書類などの事情を合わせて判断しています。税務上の扱いは、税理士などの専門家に確認してください。

Q. 譲渡承認を拒んだ取締役会の決議が不当なら、承認されたことになりますか?

この判決は、取締役の善管注意義務・忠実義務は会社に対して負うもので、仮に義務違反があっても、そこからただちに承認決議と同じ効果が生じるというのは論理の飛躍だとしました。ただし、これは当時の商法を前提にした、譲渡の事実が認められないとした後の念のための検討です。裁判所は、譲渡の事実が認められない時点で「そのほかの点について検討するまでもなく」請求に理由がないとしており、論理の飛躍だとした部分は、結論に必要な判断として示されたものではありません。現在の会社法では、承認しない場合に会社などが買い取るよう求める手続(会社法138条・140条)があります。

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この記事は、裁判所が公開している判決文(2026-10-12時点)をもとに、判決が認定した事実と判断を整理したものです。判決の評価にあたる言葉は、判決の文言をカギカッコで引用したものに限っています。判決に出てくる個人は、判決自身の伏せた表記か続柄だけで書いています。株式会社日本財務戦略センターが当事者の主張の当否や、現在の会社・商品について評価するものではありません。上級審や確定の有無は、記事中に書いたもの以外は確認できていません。個別の契約や紛争については、弁護士などの専門家にご相談ください。
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五十嵐悠一
監修・執筆責任者
株式会社日本財務戦略センター 代表取締役。京都大学経済学部経営学科(マーケティングゼミ専攻)卒。損害保険ジャパン本店営業部(企業リスク・法務)を経て、東証上場M&A仲介会社にて多数の成約に従事。2020年に株式会社日本財務戦略センターを創業し、M&A・事業承継・財務戦略を専門としています。中小企業庁 M&A支援機関登録事業者/一般社団法人M&A支援機関協会 正会員です。