譲渡承認の請求はいつまで撤回できるか――買受人の指定と売渡請求をめぐる最高裁 平成15年2月27日決定と福岡高裁 平成14年10月31日判決

譲渡承認の請求はいつまで撤回できるか――買受人の指定と売渡請求をめぐる最高裁 平成15年2月27日決定と福岡高裁 平成14年10月31日判決

譲渡制限のある株式を第三者に売りたい株主は、会社に譲渡の承認を求め、承認しないなら別の買受人を指定するよう請求することができます。会社が指定した買受人が、株主の意に沿わない相手だったら、株主は請求を取り下げられるのか。この点について、福岡高等裁判所は平成14年10月31日に、指定の後は取り下げられないと判断し、その4か月後、最高裁判所第一小法廷は平成15年2月27日に、指定された者が売渡しを請求するまでは撤回できると判断しました。この記事では、二つの判決文をもとに、何が起きたか、何が争われたか、株式譲渡の前に確かめることを整理します。

この事件は、株式譲渡のトラブル・判例74件の分析の類型1「株式の帰属・株主権――譲渡承認・株券・名義株」の事例です。

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<a href="https://jfsc.jp/research/ma-hanrei/jouto-shounin-kaitorinin-shitei/">譲渡承認の請求はいつまで撤回できるか――買受人の指定と売渡請求をめぐる最高裁 平成15年2月27日決定と福岡高裁 平成14年10月31日判決|株式会社日本財務戦略センター</a>文章での出典表記:株式会社日本財務戦略センター「譲渡承認の請求はいつまで撤回できるか――買受人の指定と売渡請求をめぐる最高裁 平成15年2月27日決定と福岡高裁 平成14年10月31日判決」(2026年10月12日) https://jfsc.jp/research/ma-hanrei/jouto-shounin-kaitorinin-shitei/
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先に結論

事件の概要と時系列

最高裁の事件

株主(抗告人)は、取締役会の承認を要する旨の定款の定めがある会社の株式180株を持っていました。判決は会社の業種を書いていません。

時期出来事
平成12年4月21日ころ株主の書面が会社に到達。ある株式会社への譲渡の承認と、承認しない場合の譲渡の相手方の指定を請求
その後取締役会は譲渡を承認せず、譲渡の相手方(本件の相手方)を指定
平成12年5月1日会社からの通知が株主に到達
平成12年5月6日株主の撤回の通知が、会社と指定された相手方に到達
平成12年5月8日相手方が、商法204条ノ3第2項の金銭を供託
平成12年5月9日相手方の売渡請求が株主に到達
その後相手方が売買価格の決定を申し立てる。原々審は撤回を有効とし、原審(福岡高裁)はこれを取り消して差し戻す
平成15年2月27日最高裁が原決定を破棄し、原々決定に対する抗告を棄却

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福岡高裁の事件

木材の委託販売、生産加工等を目的とする、発行済株式総数2400株の会社です。昭和35年に、二人の従兄弟が中心となって設立し、株主構成は両者の側が平等の割合とされてきました。

株主持株数
一方の一族(被控訴人とその夫、子2人)1200株(うち被控訴人は96株)
もう一方の一族(控訴人とその妻、子、子の妻、孫)1200株(うち控訴人は588株)
時期出来事
平成10年〜12年会社の運営が控訴人側中心になり、被控訴人側の一族が持株の買取りを控訴人に求める。交渉も簡易裁判所の調停も、買取価格が折り合わず不調
平成13年5月15日被控訴人側の4人が、それぞれ書面で、持株を同じ第三者に譲渡することの承認と、承認しない場合の相手方の指定を請求
平成13年5月25日取締役会が、被控訴人の96株の譲渡だけを承認しない。他の3人の請求には法定の期間内に不承認の通知をしなかった
平成13年5月30日譲渡の相手方として控訴人を指定した旨の通知が被控訴人に到達
平成13年6月1日付被控訴人が、譲渡承認等請求を取り下げる旨を書面で通知
平成13年6月1日控訴人が534万4608円を供託
平成13年6月5日控訴人の売渡請求が被控訴人に到達
その後被控訴人が売買契約の不存在確認(予備的に無効確認)を求めて提訴。原判決は不存在確認を認める
平成14年10月31日福岡高裁が原判決を取り消し、請求をいずれも棄却

判決の数字では、他の3人の持株は合計1104株(46%)、被控訴人の96株を加えると1200株(50%)になります。

何が争われたか

  1. 買受人の指定の後に撤回できるか(両事件):当時の商法では、会社は請求から2週間以内に承認するかどうかと指定した相手方を通知し、指定された者は通知から10日以内に売渡しを請求でき、期間を過ぎると承認があったものとみなされました。指定の請求を契約の申込み、売渡請求をその承諾とみて、申込みの撤回を制限する民法521条1項・524条を類推し、指定の後は撤回できないと考えるかが争われました。
  2. 一部だけの不承認は許されるか(福岡高裁):被控訴人は、4人の請求は一括して承認か指定を求める趣旨で、同一に扱うことが条件だったと主張しました。控訴人は、請求に条件を付けることは法が予定していないと主張しました。
  3. 錯誤による無効か(福岡高裁):被控訴人は、一括の請求のつもりだったのだから、売買が成立するなら錯誤(当時の民法95条)により無効だと主張しました。

裁判所の判断

福岡高裁(平成14年10月31日)――一部の不承認は有効、指定後の取下げは無効

福岡高裁は、4人の請求は主体が異なり、書面に一括の趣旨や条件の記載もないとして、「各譲渡承認等請求における譲渡の相手方が同一であったからといって、これを不可分と解することは困難である。」としました。過去に一族が持株全部の買取りを求めていたことからも、一括の請求とは断定できないとしています。

そのうえで、閉鎖的会社では株主の個性が重要で、譲渡制限は株主の持株数をコントロールできるようにするためでもあるとして、本件のような場合は「特定人の持株数が過半数にならないように一部の株主からの譲渡承認等請求につき不承認とすることは許されてしかるべきであり」、被控訴人の分だけを承認しなかった決議は有効だとしました。

取下げについては、指定の請求は実質的には株式の売却の申込みに、売渡請求はその承諾に当たり、10日の期間は売渡請求をするかどうかの考慮期間だとして、「譲渡の相手方と指定された者が売渡請求権を行使できるまでの間は、譲渡承認等請求をした者は、株式売却の申込みをしたのと同様の拘束力を受け、これを取り下げたり、撤回したりすることはできないと解すべきである。」としました。

錯誤については、一括で求める意思があったとしても、「その意思内容は、各譲渡承認等請求をした動機に過ぎず、かつ、本件においてはその動機が表示されているとはいえないから、被控訴人に要素の錯誤があったということはできない。」と判断しました。結論として、売買は有効に成立しているとして、請求をいずれも棄却しました。

最高裁(平成15年2月27日)――売渡請求までは撤回できる

最高裁の事件の原審(福岡高裁)も、民法521条1項・524条を類推適用し、「株主は、取締役会が譲渡の相手方を指定した後は、その請求を撤回することができないと解するのが相当である。」としていました。最高裁は、これを次の理由で改めました。

そのうえで、株主は売渡請求があるまで請求を撤回できるとして、原決定を破棄し、撤回を有効とした原々決定に対する抗告を棄却しました。

裁判官1名の反対意見は、撤回を自由に認めると、株主は「会社が自己の意に沿う者を先買権者として指定するまで何回でも請求と撤回を繰り返すことができる」ことになり、指定された者と会社に負担を強いるとして、原審の判断を支持しました。

この判決から何がいえるか

最高裁決定の判断は、当時の商法の手続のもとで、譲渡承認と買受人の指定を請求した株主は、指定された買受人の売渡請求が届くまでは請求を撤回できる、というものです。指定された相手が意に沿わなければ、売渡請求の前に撤回して株式を持ち続ける道が残ります。

二つの事件は、指定の通知の後、売渡請求の前に株主が撤回(取下げ)を通知した点で、よく似ています。福岡高裁は指定の後は取り下げられないとし、最高裁は売渡請求までは撤回できるとしました。福岡高裁の事件で取下げの通知が売渡請求より前に届いていたとすれば、最高裁決定の基準では結論が異なり得ます(これは記事の分析で、裁判所が述べたものではありません)。一方、一部だけを承認しなかった点と錯誤についての福岡高裁の判断は、最高裁決定が扱っていない論点です。福岡高裁が一部の不承認を有効としたのは、二つの一族が半分ずつ株式を持つ閉鎖的な会社で、複数の株主から同じ相手への譲渡の承認が求められたという本件の事情のもとでの判断で、一部だけの不承認が一般に許されるというルールを示した判決ではありません。

現在の会社法では、手続が変わっています。会社が承認しないと決めたときは、会社が買い取るか(140条1項)、取締役会設置会社では取締役会の決議で指定買取人を指定します(140条4項・5項)。指定買取人は、供託をして買い取る旨を通知します(142条)。撤回については、買取請求をした株主は、指定買取人から買い取る旨の通知を受けた後は、指定買取人の承諾を得た場合に限り請求を撤回できると定められています(143条2項。会社が買い取る場合は同条1項)。最高裁決定と同じく、買い取る側の通知の時点で区切る考え方ですが、条文の要件は条文に従って確かめる必要があります。錯誤も、平成29年の民法改正で、効果は無効から取消しに変わりました(民法95条)。

類型1のほかの判決は、株式譲渡のトラブル・判例74件の分析で整理しています。

株式譲渡で確認すること(この判決から導ける示唆)

以下は判決から導いた確認事項で、裁判所が述べたものではありません。

  1. 買取請求を付けるかを決めてから出す:会社法では、承認しない場合に会社か指定買取人が買い取ることを請求するかどうかは、請求書に書く事項です(138条1号ハ)。付けなければ、承認されない限り譲渡しないだけで済みます。反対意見も、リスクを負いたくなければ承認の請求だけをすることもできると述べています。
  2. 撤回できる時点を把握しておく:会社や指定買取人の買取りの通知が届いた後は、相手の承諾がなければ撤回できません(143条)。社内で検討する時間は、通知が届くまでと考えておく必要があります。
  3. 複数の株主で売るときは、一括であることを書面に書く:福岡高裁は、同じ日に同じ相手への請求でも、書面に一括の趣旨や条件の記載がなければ別々の請求と扱いました。一族で持株をまとめて売りたい場合、そのことが書面にないと、一部だけ承認されない事態が起こり得ます。条件を付けた請求がどう扱われるかについては、福岡高裁は、本件の書面に条件の記載がないとしただけで、判断していません。
  4. 株主構成が拮抗する会社の買収は、承認の見通しを先に確かめる:二つの一族が半分ずつ持つ会社で、外部の買い手への譲渡のうち一部だけが承認されず、残りを相手方の一族が買い取る結果になりました。買い手は、売り手の株主だけでなく、取締役会の構成と、承認されない場合に誰が買受人に指定され得るかを、契約の前に確かめておくことが考えられます。

判決の出典

最高裁の事件の原審は福岡高裁の平成12年(ラ)第227号事件で、福岡高裁 平成14年10月31日判決の事件とは別の事件です。福岡高裁 平成14年10月31日判決の第一審の裁判所名は判決文に書かれておらず、上告の有無や確定したかどうかは、2026年10月12日時点の公開情報では確認できていません。個人は判決の伏字か立場で書いています。

よくある質問

Q. 譲渡承認を請求した後、会社が指定した買受人が気に入らなければ撤回できますか?

最高裁 平成15年2月27日決定は、当時の商法のもとで、指定された者が売渡しを請求するまでは撤回できると判断しました(裁判官1名の反対意見があります)。現在の会社法では、指定買取人から買い取る旨の通知を受けた後は、指定買取人の承諾がなければ撤回できません(会社法143条2項。会社が買い取る場合は同条1項)。

Q. 複数の株主が同時に譲渡承認を求めたのに、会社が一部だけを承認しないことはできますか?

福岡高裁 平成14年10月31日判決は、二つの一族が半分ずつ株式を持つ会社で、特定の人の持株数が過半数にならないように一部の株主の請求だけを承認しないことは許されるとしました。請求書に一括の趣旨や条件が書かれていなかったことも理由に挙げています。これは高等裁判所の、本件の事情のもとでの判断で、最高裁が判断したものではなく、事情の違う会社に同じ結論が当てはまるとは限りません。

Q. 一括で売るつもりだったのに一部だけ売買が成立したら、錯誤を主張できますか?

福岡高裁は、一括で求める意思は請求の動機にすぎず、表示されていなかったとして、錯誤の主張を退けました。判決が適用したのは平成29年改正前の民法95条で、現在の民法では錯誤の要件と効果(取消し)が条文に定められています。

Q. 最高裁と福岡高裁の判断は食い違っていませんか?

指定の後、売渡請求の前の撤回(取下げ)について、福岡高裁は効力を否定し、その4か月後の最高裁決定は撤回を認めました。考え方は異なります。最高裁決定は別の事件についての判断で、福岡高裁判決のその後は、2026年10月12日時点の公開情報では確認できていません。

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この記事は、裁判所が公開している判決文(2026-10-12時点)をもとに、判決が認定した事実と判断を整理したものです。判決の評価にあたる言葉は、判決の文言をカギカッコで引用したものに限っています。判決に出てくる個人は、判決自身の伏せた表記か続柄だけで書いています。株式会社日本財務戦略センターが当事者の主張の当否や、現在の会社・商品について評価するものではありません。上級審や確定の有無は、記事中に書いたもの以外は確認できていません。個別の契約や紛争については、弁護士などの専門家にご相談ください。
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五十嵐悠一
監修・執筆責任者
株式会社日本財務戦略センター 代表取締役。京都大学経済学部経営学科(マーケティングゼミ専攻)卒。損害保険ジャパン本店営業部(企業リスク・法務)を経て、東証上場M&A仲介会社にて多数の成約に従事。2020年に株式会社日本財務戦略センターを創業し、M&A・事業承継・財務戦略を専門としています。中小企業庁 M&A支援機関登録事業者/一般社団法人M&A支援機関協会 正会員です。