
会社が持っている他社の株式を売るとき、取締役会の決議は要るのか。会社の総資産から見れば2%に満たない金額なら、代表取締役の判断だけで売ってよいのか。最高裁判所第一小法廷は平成6年1月20日、取締役会の決議を経ずに売られた約8千万円の株式について、当時の商法260条2項1号の「重要な財産の処分」にあたらないとした東京高裁の判断を改め、判断の基準を示しました。この記事では、判決文をもとに、何が起きたか、何が争われたか、会社の資産を売買するときに確かめることを整理します。
この事件は、株式譲渡のトラブル・判例74件の分析の類型1「株式の帰属・株主権――譲渡承認・株券・名義株」の事例です。
<a href="https://jfsc.jp/research/ma-hanrei/kaisha-hoyuu-kabushiki-juuyou-zaisan/">代表取締役が会社の持つ他社株式を取締役会の決議なしに売ったら――「重要な財産の処分」の判断(最高裁 平成6年1月20日)|株式会社日本財務戦略センター</a>文章での出典表記:株式会社日本財務戦略センター「代表取締役が会社の持つ他社株式を取締役会の決議なしに売ったら――「重要な財産の処分」の判断(最高裁 平成6年1月20日)」(2026年10月12日) https://jfsc.jp/research/ma-hanrei/kaisha-hoyuu-kabushiki-juuyou-zaisan/上告人(一審原告)は、ショッピングセンター等の経営を目的とする株式会社です。平成元年2月末日の時点で、資本金は1億6700万円、資産の価額は合計47億8640万円余でした。上告人は、茶の製造販売を営む株式会社E(判決の伏字)の額面50円の株式12万1000株(以下「本件株式」)を持っており、帳簿価額は7800万円でした。本件株式はEの発行済株式の7.56%にあたり、逆にEは上告人の発行済株式の17.86%を持っていました。上告人とEの間に商品の取引はなく、上告人はEの株主総会に出席したことがありませんでした。Eは昭和63年と平成元年に株主に1割の配当をしていました。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 昭和63年6月15日 | 上告人の取締役会が、上告人の持つ他社の株式(2社分)の譲渡を承認する決議をする |
| 平成元年2月末日 | 上告人の資産合計47億8640万円余、本件株式の帳簿価額7800万円 |
| 平成元年9月19日 | 上告人を設立・支配してきたD家と代表取締役Fらとの内紛の中で、D家の親戚でEの代表取締役でもあるDが、上告人の取締役・代表取締役に選任される |
| 平成元年12月1日 | Fが代表取締役を解任される |
| 平成2年1月18日 | Dが被上告人に本件株式を代金7986万円で譲渡。上告人の取締役会の承認決議はない |
| 平成2年1月19日 | D家とFらの和解の後、Dが代表取締役を解任され、Fが再び代表取締役に。この日の取締役会で、本件株式と別の会社の株式400株をHに譲渡することの承認決議がされたことがうかがわれる(証拠による) |
| 平成2年5月30日 | Eが上告人の株主総会に出席し、取締役選任に関する動議を出したことがうかがわれる(証拠による) |
| その後 | 上告人が、譲渡は無効だとして、本件株式の株主であることの確認を求める。東京高裁は請求を棄却すべきものとする |
| 平成6年1月20日 | 最高裁が原判決を破棄し、東京高裁に差し戻す |
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Dは、本件株式はもとはD家が持っていたもので、利回りもさほどよくなかったので、処分して資金を調達した方が当時の上告人の財務状況から適当だと考え、被上告人に買取りを頼んだと認定されています。
当時の商法260条2項1号は、重要な財産の処分を取締役会の決議で決めるべき事項としていました。上告人は、本件株式の譲渡はこの規定に違反するなどとして、譲渡は無効で、自分が今も本件株式の株主であることの確認を求めました。
争点は、総資産の約1.6%にあたる株式の譲渡が「重要な財産の処分」にあたるか、そしてそれをどのような事情から判断するかでした。
原審は、本件株式は価格の面では相当な財産だが、配当を受けていただけで上告人の営業の維持発展に必要不可欠な財産ではないこと、譲渡の代価を得られること、本件株式の帳簿価額と上告人の資産額との対比などを合わせて考え、重要な財産の処分にはあたらないとしました。そのうえで、上告人の請求を棄却すべきものとしました。
最高裁は、まず判断の基準として、「商法二六〇条二項一号にいう重要な財産の処分に該当するかどうかは、当該財産の価額、その会社の総資産に占める割合、当該財産の保有目的、処分行為の態様及び会社における従来の取扱い等の事情を総合的に考慮して判断すべきものと解するのが相当である。」と述べました。
そのうえで、この事件の事情を次のように見ました。
保有の意味と従来の取扱いについて、最高裁は証拠から「うかがわれる」事情をもとに、重要性を「みることもできる」と述べています。これらを事実として確定したのではなく、こうした事情を含めて更に審理を尽くさせるために差し戻しています。
こうして最高裁は、「原判決には審理不尽、ひいては法令の解釈適用を誤った違法があり」、その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかだとして、原判決を破棄し、さらに審理させるため東京高裁に差し戻しました。上告理由のうちほかの点については、判断を省略しています。
この判決は、「重要な財産」かどうかを、総資産に占める割合という一つの数字だけで決めないことを示しました。最高裁が挙げたのは、価額、総資産に占める割合、保有目的、処分行為の態様、会社における従来の取扱いなどで、これらを総合して判断するとしています。この事件では、割合は約1.6%でしたが、時価がつかみにくく代価によって資産と損益に大きな影響を与え得ること、通常の営業の取引ではないこと、相手の会社と株式を持ち合う関係にあったこと、少額の株式の譲渡でも取締役会で決めてきたとみることもできることが、重要性を認める方向の事情として挙げられました。約1.6%という割合の評価は、これらの事情と合わせたこの事件での判断で、一定の割合以下なら決議が要らない、あるいは要るという一般的なルールを示したものではありません。
この判決が適用したのは当時の商法260条2項1号です。現在の会社法362条4項は、取締役会は「重要な財産の処分及び譲受け」(同項1号)などの重要な業務執行の決定を取締役に委任することができないと定めています。文言は同じ「重要な財産の処分」ですが、判決の示した基準が現在の会社法の下でもそのまま使われるとは限りません。また、現在の会社法では、会社の機関設計(指名委員会等設置会社など)によっては、重要な業務執行の決定を執行役などに委ねられる場合があります。
最高裁が判断しなかったこともあります。第一に、この株式の譲渡が最終的に重要な財産の処分にあたるかどうかは、差戻し後の審理に委ねられました。第二に、重要な財産の処分にあたるのに取締役会の決議がなかった場合、買った相手との関係で譲渡が無効になるかどうかについて、この判決は述べていません。この点については、代表取締役が取締役会の決議を経ずにした取引は、相手方が決議のないことを知り、または知ることができたときに限って無効になるとした別の最高裁判例(昭和40年9月22日判決)があります。
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以下は判決から導いた確認事項で、裁判所が述べたものではありません。
原審は東京高裁(平成4年(ネ)第967号)です。最高裁は原判決を破棄し、東京高裁に差し戻しています。2026年10月12日時点の公開情報では、差戻し後の判決は確認できていません。会社と個人は判決の伏字(D、E、F、H)か業種・立場で書いています。
Q. 総資産の数%程度の財産なら、取締役会の決議なしに売ってよいのですか?
割合だけでは決まりません。この判決は、総資産の約1.6%の株式の譲渡について、価額、総資産に占める割合、保有目的、処分行為の態様、会社における従来の取扱いなどを総合的に考慮して判断すべきだとし、重要な財産の処分にあたらないとした原判決を破棄しました。ただし、この株式の譲渡が重要な財産の処分にあたると最高裁が確定的に判断したわけではなく、何%以下なら決議が要らないという線を示したものでもありません。
Q. 取締役会の決議なしに売られた株式の譲渡は無効になりますか?
この判決は、重要な財産の処分にあたるかどうかの判断基準を示して差し戻したもので、決議がない譲渡の効力については述べていません。別の最高裁判例(昭和40年9月22日判決)は、代表取締役が取締役会の決議を経ずにした取引は、相手方が決議のないことを知り、または知ることができたときに限って無効になるとしています。
Q. この判決の基準は、現在の会社法でも使えますか?
判決が適用したのは当時の商法260条2項1号です。現在の会社法362条4項1号も「重要な財産の処分及び譲受け」を取締役会が取締役に委任できない事項としていますが、判決の基準が現在の会社法の下でそのまま使われるとは限りません。個々の取引の判断は専門家に確認してください。
Q. この事件で、株式は会社に戻ったのですか?
最高裁は原判決を破棄して東京高裁に差し戻しただけで、株式の譲渡が無効かどうか、会社が株主と認められたかどうかを最終的に決めてはいません。差戻し後の結論は、2026年10月12日時点の公開情報では確認できていません。
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この記事は、裁判所が公開している判決文(2026-10-12時点)をもとに、判決が認定した事実と判断を整理したものです。判決の評価にあたる言葉は、判決の文言をカギカッコで引用したものに限っています。判決に出てくる個人は、判決自身の伏せた表記か続柄だけで書いています。株式会社日本財務戦略センターが当事者の主張の当否や、現在の会社・商品について評価するものではありません。上級審や確定の有無は、記事中に書いたもの以外は確認できていません。個別の契約や紛争については、弁護士などの専門家にご相談ください。
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