
非上場の会社の株式は、上場株式のように市場で売ることができません。そのため、株式の価値を算定したあと、市場性がないことを理由に一定の割合を差し引く「非流動性ディスカウント」が行われることがあります。会社と株主の間で株式の価格が決まらず、裁判所が価格を決めるとき、この減価は認められるのか。最高裁判所は、平成27年3月26日には認めず、令和5年5月24日には認めました。この記事では、二つの決定の文面をもとに、何が起きたか、何が争われたか、なぜ結論が分かれたのか、株式の価格を決める前に確かめることを整理します。
この事件は、株式譲渡のトラブル・判例74件の分析の類型4「株式の代金・価格」の事例です。
<a href="https://jfsc.jp/research/ma-hanrei/hijoujou-kabushiki-kaitori-kakaku/">非上場株式の買取価格から非流動性ディスカウントを差し引けるか――譲渡承認を拒んだ会社の買取り(最高裁 令和5年5月24日決定)と合併に反対した株主の買取請求(最高裁 平成27年3月26日決定)|株式会社日本財務戦略センター</a>文章での出典表記:株式会社日本財務戦略センター「非上場株式の買取価格から非流動性ディスカウントを差し引けるか――譲渡承認を拒んだ会社の買取り(最高裁 令和5年5月24日決定)と合併に反対した株主の買取請求(最高裁 平成27年3月26日決定)」(2026年10月12日) https://jfsc.jp/research/ma-hanrei/hijoujou-kabushiki-kaitori-kakaku/二つの事件の会社は、いずれも株式の譲渡に取締役会の承認を要する旨の定款の定めがある非上場会社です(令和5年決定は会社名を実名で書いていますが、この記事では伏せます。平成27年決定では会社名は伏字です)。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 平成28年2月 | 株主ら(抗告人ら)が、非上場の2社に対し、株式の譲渡承認を請求(会社法136条) |
| 平成28年3月 | 2社が、譲渡を承認しない旨を通知 |
| 平成28年4月 | 2社が、株式を買い取る旨を通知し、売買価格の決定を申し立てる(会社法144条2項) |
| 原審 | 鑑定に依拠し、DCF法による評価額(1株7524円・6448円)から30%を減価して、1株5266円・4514円と定める |
| 令和5年5月24日 | 最高裁が株主らの抗告を棄却(裁判官全員一致) |
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| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 平成24年6月当時 | 消滅会社(A社)は発行済株式338万7000株の非上場会社 |
| 平成24年6月6日 | A社が、相手方を存続会社とする吸収合併の契約を締結(効力発生日は同年10月1日) |
| 平成24年8月8日 | A社の株主総会が合併契約を承認。32万5950株を持つ株主(抗告人)は事前に反対を通知し、総会でも反対 |
| 平成24年9月12日 | 株主が、A社に株式を公正な価格で買い取るよう請求(会社法785条1項) |
| 平成24年10月1日 | 合併の効力が発生 |
| 平成24年11月21日 | 株主が、買取価格の決定を申し立てる(会社法786条2項) |
| 原々審・原審 | 鑑定に依拠し、収益還元法による価値(約3億6158万3000円)から25%を減価して、1株80円と定める |
| 平成27年3月26日 | 最高裁が原決定を破棄し、原々決定を取り消し、1株106円と定める(裁判官全員一致) |
最高裁は、まず、非上場会社の株式の価格の算定にはさまざまな評価手法があり、「どのような場合にどの評価手法を用いるかについては,裁判所の合理的な裁量に委ねられていると解すべきである。」としました。そのうえで、ある評価手法を用いることにした場合に、「その評価手法の内容,性格等からして,考慮することが相当でないと認められる要素を考慮して価格を決定することは許されないというべきである。」と述べました。
次に、非流動性ディスカウントは、上場株式に比べて流動性が低いことを理由とする減価であるのに対し、収益還元法は将来期待される純利益を一定の資本還元率で還元して株式の現在の価格を算定するもので、「同評価手法には,類似会社比準法等とは異なり,市場における取引価格との比較という要素は含まれていない。」としました。反対株主の株式買取請求権が、会社からの退出の機会を与えるとともに、「退出を選択した株主には企業価値を適切に分配するものであることをも念頭に置く」と、収益還元法で算定した価格について、市場における取引価格との比較によってさらに減価を行うことは相当でないとしました。
結論として、「裁判所が収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合に,非流動性ディスカウントを行うことはできないと解するのが相当である。」と判断しました。最高裁は自ら価格を定め、原々審の鑑定が収益還元法で算定した約3億6158万3000円を発行済株式338万7000株で割って、株主の主張どおり1株106円としました。この株主の持株数で計算すると、80円との差は約847万円になります(記事の筆者による計算です)。106円という金額は、本件の鑑定で算定された価値から減価を除いた結果で、価格の算定方法そのものを一般的に示したものではありません。鑑定料120万円は、当事者の合意に照らして、鑑定結果と各当事者の主張額との開きに応じて分担させています。
最高裁は、会社法144条2項の売買価格の決定の手続は、会社が譲渡を承認しない場合に、「譲渡を希望する株主に当該譲渡に代わる投下資本の回収の手段を保障するために設けられたものである。」としました。そうすると、「当該譲渡制限株式に市場性がないことを理由に減価を行うことが相当と認められるときは、当該譲渡制限株式が任意に譲渡される場合と同様に、非流動性ディスカウントを行うことができるものと解される。」とし、「このことは、上記譲渡制限株式の評価方法としてDCF法が用いられたとしても変わるところがないというべきである。」と述べました。
ただし、評価額の算定過程で市場性がないことがすでに十分に考慮されている場合に、さらに減価を行うことは、「市場性がないことを理由とする二重の減価を行うこととなるから、相当ではない。」としています。この事件では、DCF法で割り引く際に類似する上場会社の株式に係る数値が用いられる一方で、「本件各株式に市場性がないことが考慮されていることはうかがわれない。」として、30%の減価を認めた原審の判断を正当としました。30%という割合は鑑定意見によるもので、最高裁は割合の当否について一般的な基準を述べていません。平成27年決定については、事案を異にし、本件に適切でないとしています。
二つの決定の理由を並べると、次の二つの点が挙げられています。
一方で、令和5年決定は、平成27年決定を事案が異なるとしただけで、反対株主の買取請求でDCF法を用いた場合や、譲渡制限株式の売買価格の決定で収益還元法を用いた場合にどうなるかは判断していません。どちらの決定も、その事件の手続と評価方法の組合せについての判断で、非上場株式の価格の決め方について一般的なルールを示したものではありません。また、減価の割合(30%)そのものについて、最高裁は一般的な基準を示していません。
ハブ記事の類型4では、二つの決定を株式の代金・価格をめぐる紛争として整理しています(株式譲渡のトラブル・判例74件の分析)。
以下は判決から導いた確認事項で、裁判所が述べたものではありません。
いずれも最高裁の決定で、令和5年決定は抗告を棄却し、平成27年決定は最高裁が自ら買取価格を定めています。原審・原々審の裁判所名は決定文からは分からないため、書いていません。個人は判決の伏字か立場で書いています。
Q. 非上場株式の価格は、市場で売れない分だけ必ず安くなりますか?
必ずではありません。平成27年3月26日決定は、合併に反対した株主の買取請求で、裁判所が収益還元法を用いて価格を決める場合には、非流動性ディスカウントはできないとしました。令和5年5月24日決定は、譲渡制限株式の売買価格の決定では、減価が相当と認められるときにはできるとしています。どちらも、その事件の手続と評価方法についての判断です。
Q. DCF法で評価すれば、非流動性ディスカウントは認められるのですか?
令和5年決定は、譲渡制限株式の売買価格の決定の手続で、評価方法としてDCF法が用いられても、減価できることに変わりはないとしました。ただし、算定過程で市場性がないことがすでに十分に考慮されている場合は、二重の減価になるから相当でないとしています。合併に反対した株主の買取請求でDCF法を用いた場合にどうなるかは、どちらの決定も判断しておらず、確定していません。
Q. 非流動性ディスカウントは何%と決まっていますか?
二つの決定から一般的な割合は分かりません。令和5年決定の30%、平成27年決定の原審の25%は、いずれもその事件の鑑定意見によるものです。
Q. 会社が譲渡を承認しなかったら、株主はどうなりますか?
令和5年決定の事件では、会社が譲渡を承認せず、自ら株式を買い取る旨を通知し、売買価格の決定を裁判所に申し立てました。最高裁は、この手続を、譲渡に代わる投下資本の回収の手段を保障するものと位置づけています。
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この記事は、裁判所が公開している判決文(2026-10-12時点)をもとに、判決が認定した事実と判断を整理したものです。判決の評価にあたる言葉は、判決の文言をカギカッコで引用したものに限っています。判決に出てくる個人は、判決自身の伏せた表記か続柄だけで書いています。株式会社日本財務戦略センターが当事者の主張の当否や、現在の会社・商品について評価するものではありません。上級審や確定の有無は、記事中に書いたもの以外は確認できていません。個別の契約や紛争については、弁護士などの専門家にご相談ください。
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