子会社株式の売却でアドバイザーに代金の約38%を払ったら――取締役会決議のない業務委託と元役員の責任(名古屋地裁 平成27年6月30日判決)

子会社株式の売却でアドバイザーに代金の約38%を払ったら――取締役会決議のない業務委託と元役員の責任(名古屋地裁 平成27年6月30日判決)

株式を売るときにアドバイザーや仲介者に報酬を払うのは、珍しいことではありません。では、売却代金の約38%にあたる報酬を、取締役会に諮らずに払っていたら、払った役員は会社に責任を負うのか。名古屋地方裁判所は平成27年6月30日、上場会社が子会社株式を売った際のアドバイザリー報酬などについて、元役員らの責任を認める判決を言い渡しました。この記事では、判決文をもとに、何が起きたか、何が争われたか、株式譲渡でアドバイザーに報酬を払う前に確かめることを整理します。

この事件は、株式譲渡のトラブル・判例74件の分析の類型6「買い手側の判断と専門家の責任」の事例です。

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<a href="https://jfsc.jp/research/ma-hanrei/advisor-houshuu-38pct-yakuin-sekinin/">子会社株式の売却でアドバイザーに代金の約38%を払ったら――取締役会決議のない業務委託と元役員の責任(名古屋地裁 平成27年6月30日判決)|株式会社日本財務戦略センター</a>文章での出典表記:株式会社日本財務戦略センター「子会社株式の売却でアドバイザーに代金の約38%を払ったら――取締役会決議のない業務委託と元役員の責任(名古屋地裁 平成27年6月30日判決)」(2026年10月12日) https://jfsc.jp/research/ma-hanrei/advisor-houshuu-38pct-yakuin-sekinin/
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先に結論

事件の概要と時系列

原告は、東京証券取引所と名古屋証券取引所の各市場第一部に上場していた株式会社です(判決は会社名を伏字にしています)。主たる事業は、映像ソフト・音楽ソフト・ゲームソフト・書籍の制作・販売・レンタル等の事業を営む会社の株式を保有して、その事業活動を支配・管理することで、平成23年10月31日まではこれらの事業を原告自身が行っていました。被告は、原告の代表取締役会長だったY1、代表取締役社長だったY3、取締役副社長だったY2の3人です。

売られたのは、名古屋証券取引所セントレックス市場に上場していた不動産会社Bの株式です。Bは原告の連結子会社でした。アドバイザリー契約の相手方は、原告の顧問と称していたことのある人物cが代表取締役を務めるDと、cが実質的に支配するGです。

時期出来事
平成22年9月14日Y3が、Y1・Y2以外の取締役や監査役には知らせずに、原告を代表してDとアドバイザリー契約①を結び、同日、着手金1365万円(税込)を支払う
平成22年9月28日取締役会で、Y3がB株式の売却に向けた検討を進めていると説明し、出席した取締役・監査役全員の賛同を得る
平成23年2月1日Y3が、同様に他の取締役や監査役には知らせずに、DとGのそれぞれとアドバイザリー契約②を結ぶ。成功報酬は各5000万円(税別)
平成23年2月28日原告がB株式49万株を1株355円(前日の終値)、代金1億7395万円で売却。同日、DとGに5250万円(税込)ずつ、計1億0500万円を支払う
平成23年3月30日原告がB株式46万株を1株285円(前日の終値)、代金1億3110万円で別の会社に売却。Bは連結子会社でなくなる
平成23年6月〜12月cに関係する支出を調べる社内調査委員会、続いて弁護士・公認会計士による社外調査委員会が設けられ、12月16日付けで調査報告書が作られる
平成23年11月1日Y1とY3が代表取締役を退任
平成27年6月30日名古屋地裁が、元役員らに賠償を命じる判決

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株式の売却代金は合計3億0505万円、DとGに払った着手金と成功報酬は合計1億1865万円(税込)です。契約①・②の締結と支払いのいずれについても、取締役会決議は行われていません。原告の職務権限基準表では、1件1億円以上の固定資産の取得や、月額50万円以上の顧問・コンサルティング契約などが取締役会決議事項とされていました。

社外調査委員会の報告書によれば、cは当初、報酬を2社に分けたのはそれぞれの会社が業務を行ったからだと説明していましたが、その後、2社に分割して支払った意味はなく、全てDに支払われてもよかったと考えているなどと説明を変えました。

何が争われたか

  1. 取締役会決議が必要だったか:原告は、支出は1億1865万円にのぼり「重要な業務執行」に当たるのに、2社への支払いに分けて1件1億円未満として処理し、取締役会決議を経なかったと主張しました。被告らは、2社との契約を求めたのはcの側で、手続を免れる意図はなく、職務権限基準表は厳格に運用されておらず、取締役会の承認が必要だとの認識もなかったと主張しました。
  2. 契約の必要性と業務の実体:原告は、B株式を時価で売っただけで原告にメリットはなく、契約はcに金銭を払うための仮装の契約だと主張しました。報酬についても、株式売却合計金額の38%超は、M&Aアドバイザリーの一般的な報酬相場が取引金額の1〜5%であることに照らして高すぎると主張しました。被告らは、Bが保有する不動産に30億円を超える減損が生じる可能性が指摘されており、Bの切り離しが急務だった、cは人脈を駆使して株式譲渡に尽力したと主張しました。
  3. 損害との因果関係:被告らは、仮に取締役会に諮っていても、ほかの取締役が反対することはあり得ず、承認されたはずだと主張しました。

裁判所の判断

名古屋地裁――取締役会決議を欠き、業務の実体も不明

取締役会決議について。 判決は、契約が形式的には着手金の契約①と成功報酬の契約②に分かれ、それぞれは1億円を下回っていることを認めました。しかし、被告らとcが、全額が実質的にcへの報酬支払だと認識していたことを自認しているとして、分けたことに合理的な理由は見出せず、「実質的には1件1億1865万円(税込)の支出があったと見るべきである。」としました。そのうえで、職務権限基準表の取締役会決議事項に当たるとともに、会社法362条4項の「重要な業務執行」として法令上も取締役会決議事項に当たり、決議を経なかったことは善管注意義務違反(法令違反)に当たるとしました。判決は、別の契約(Bの借換えに関するコンサルティング契約)の判断の中で、原告の職務権限基準表上の取締役会決議事項は、原告にとっての「重要な業務執行」を類型化したものと解するのが相当だと述べています。1億円という線は原告の内部規程の金額で、1億円以上の支出が一般に「重要な業務執行」に当たると判断したものではありません。

必要性について。 判決は、B株式の売却そのものは取締役会で承認されていたことなどから、売却については役員の間で合意されていたと認めました。そして、次のように述べました。

株式譲渡に当たって,株式譲渡先のあっせんや譲渡価格等に関するコンサルティングを内容とするアドバイザリー契約を締結する一般的必要性がないとまではいえない。

業務の実体について。 一方で、被告らが主張したcの貢献は、株式買受人の紹介をした以外に客観的に裏付ける証拠がないとしました。

株式売却代金合計3億0505万円の約38%(消費税を考慮しなければ約37%)という高額の報酬を支払うような株式譲渡のアドバイザリーにおいて,譲渡先との交渉経過や条件面の検討状況等を示す報告書等の成果物が一切存在しないというのは極めて不自然である。

被告らがcの活動実績として出した書面も、作成日や提出の事実が不明で、各話し合いの議事録なども出ていないとされました。売却価格は取引日の前日の市場終値で合意されており、「譲渡価格が原告にとって特に有利であったともいえない」とも述べています。結論として、判決は「cによる株式譲渡アドバイザリー契約に基づく業務提供の実体は株式買受人の紹介以外は不明であり,多額の報酬を支払うのが相当な業務提供があったとは認められない。」とし、契約を結んで支出した行為は「正当な理由なく原告の財産を流出させたものとして,善管注意義務違反に該当する」としました。

故意・過失について。 職務権限基準表に1件1億円以上の契約案件には取締役会決議を要すると明記されていたことなどから、被告らには取締役会決議を経なかったことについて故意あるいは少なくとも過失があるとしました。

損害と因果関係について。 cが役務を提供した事実は認められないとして、1億1865万円(税込)全額を原告の損害としました。報酬のうち相当な部分を差し引くといった判断はしていませんが、これは本件で多額の報酬に見合う業務提供が認められなかったことを前提にしたものです。取締役会に諮っても承認されたはずだという主張については、次のように述べて退けました。

株式売却合計金額の38%超に及ぶ合計1億1865万円(税込)ものアドバイザリー報酬を支払うという株式譲渡アドバイザリー契約の内容が,取締役会で適時に告知されていれば,そのような多額の報酬を支払う必要性について疑問が提起され,cが介入したB株式売却の必要性についてまで疑義を生じかねなかったことは容易に推認される

この部分について、判決は被告ら3人に連帯して、弁護士費用相当額を加えた1億2705万円と遅延損害金の支払いを命じました。

同じ判決が判断したほかの支出

この判決は、B株式の売却のほかにも、cやその関係者に関わる複数の業務委託契約などの支出を扱っています。Bの借換えに関するコンサルティング契約(1億5750万円・税込)は、取締役会決議を欠き、cによる業務提供の実体が融資先の紹介以外は不明だとして、Y1とY2の責任を認めました。店舗用複合機・車両の調達・金融商品仲介業・震災対応・ゲーム機の仕入れを名目とする契約については、判決は「架空名目の契約」と認定し、Y1とY3の責任を認めています。臨時株主総会の招集請求の後に結んだアドバイザリー契約なども、被告らの「自己保身ひいては被告ら自身の経営支配権維持」の目的によるものと認定されました。認容額の合計は、Y1が4億5265万5000円、Y2が3億3340万5000円、Y3が2億8415万5000円です(遅延損害金は別)。

この判決から何がいえるか

この判決から読み取れるのは、株式の売却でアドバイザーを使うこと自体は否定されていない、ということです。判決は、アドバイザリー契約を結ぶ一般的な必要性がないとまではいえないと明言しています。責任が認められたのは、次の事情が重なったためです。

また、本件では、契約を3本に分けて1件ごとの金額を基準より下げていても、実質的に1件の支出と判断されました。被告らとcが、全額が実質的にcへの報酬だと認識していたことを自認していたという事実関係が前提です。契約を分ければ常に合算されるという一般的なルールを示したものではなく、本件では、分けたことに合理的な理由が見出せないとされたことが、合算して判断した理由でした。

一方、限界もあります。判決はアドバイザー報酬の適正な割合を示していません。原告が主張した「取引金額の1〜5%」という相場は、原告の主張であって、判決が認定したものではありません。また、この事件は上場会社が子会社株式を売った事案で、原告の職務権限基準表が取締役会決議の範囲を具体的に決めていたことが判断の前提になっています。取締役会を置いていない会社や、内部規程の内容が違う会社に、そのまま当てはまるとは限りません。遅延損害金の年5分は、平成29年改正前の民法の法定利率によるものです。

役員やアドバイザーの責任が問われた他の事件は、株式譲渡のトラブル・判例74件の分析の類型6で整理しています。

株式譲渡で確認すること(この判決から導ける示唆)

以下は判決から導いた確認事項で、裁判所が述べたものではありません。

  1. 報酬を合算して、自社の決裁基準に照らす:着手金・成功報酬・関係会社への支払いを、実質的に同じ相手への報酬であれば合算し、職務権限基準表などの内部規程で取締役会決議が必要な金額かを確認します。この事件では、1件1億円以上の契約案件が取締役会決議事項とされていたのに、着手金の契約と2社との成功報酬の契約に分けて各1億円未満とされていましたが、実質1件と判断されました。
  2. 業務の範囲と成果物を契約で決め、記録を残す:何をしてもらい、何を報告してもらうかを契約に書き、交渉経過や検討状況の記録を残します。この事件では、報告書などの成果物が一切ないことが、業務の実体を否定する事情の一つになりました。
  3. 報酬の算定根拠を説明できるようにしておく:報酬の割合や金額について、なぜその水準なのかを取締役会で説明できるようにしておきます。判決は、高額の報酬の内容が取締役会で適時に告知されていれば、必要性に疑問が提起されたはずだと述べています。
  4. 支払先が業務を行う相手と一致しているかを確かめる:業務を行う人と、報酬を受け取る会社が違う場合は、その理由を確認します。この事件では、報酬を2社に分けた理由について、cの説明が変わりました。
  5. アドバイザーの貢献を、価格や条件の成果と結び付けて記録する:この事件では、売却価格は取引日の前日の市場終値で合意されており、判決は譲渡価格が原告に特に有利だったともいえないとしました。成功報酬を払う場合は、買受人の紹介にとどまらず、価格や条件の交渉でどんな成果があったかを、報酬の根拠として残しておくことが考えられます。

判決の出典

判決は原告の会社名・関係会社名・個人名を伏字にしており、この記事も伏字か立場で書いています。原告の主幹事証券会社が被告らの補助参加人として訴訟に加わっていますが、名前は書いていません。控訴の有無や確定したかは、2026年10月12日時点の公開情報では確認できていません。

よくある質問

Q. 株式の売却でアドバイザーに高額の報酬を払うと、役員の責任になりますか?

報酬が高額であることだけで責任が認められたわけではありません。この判決では、取締役会決議を経なかったこと、業務提供の実体が株式買受人の紹介以外は不明で、成果物も一切なかったことなどが重なって、元役員らの責任が認められました。判決は、株式譲渡でアドバイザリー契約を結ぶ一般的な必要性がないとまではいえないとも述べています。

Q. 契約を分けて1件ごとの金額を小さくすれば、取締役会決議はいりませんか?

この判決は、着手金の契約と、2社との成功報酬の契約に分かれていても、分けたことに合理的な理由はなく、実質的には1件1億1865万円の支出だとして、取締役会決議事項に当たるとしました。ただし、これは被告らとcが全額を実質的にcへの報酬と認識していたと自認していた本件の事実関係による判断で、原告の内部規程(1件1億円以上は取締役会決議事項)を前提にしています。

Q. M&Aアドバイザーの報酬は取引金額の何%までなら認められますか?

この判決は、適正な割合を示していません。原告は一般的な相場は取引金額の1〜5%だと主張しましたが、これは原告の主張で、判決の認定ではありません。報酬の水準は、業務の内容と成果、契約の決裁の手続とあわせて検討する必要があります。

Q. 取締役会に諮っても承認されたはずだと言えば、責任を免れますか?

この判決では認められませんでした。判決は、売却代金の38%超にあたる報酬の内容が取締役会で適時に告知されていれば、報酬の必要性や、B株式の売却の必要性についてまで疑問が出たことは容易に推認されるとして、損害との因果関係を認めました。

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この記事は、裁判所が公開している判決文(2026-10-12時点)をもとに、判決が認定した事実と判断を整理したものです。判決の評価にあたる言葉は、判決の文言をカギカッコで引用したものに限っています。判決に出てくる個人は、判決自身の伏せた表記か続柄だけで書いています。株式会社日本財務戦略センターが当事者の主張の当否や、現在の会社・商品について評価するものではありません。上級審や確定の有無は、記事中に書いたもの以外は確認できていません。個別の契約や紛争については、弁護士などの専門家にご相談ください。
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五十嵐悠一
監修・執筆責任者
株式会社日本財務戦略センター 代表取締役。京都大学経済学部経営学科(マーケティングゼミ専攻)卒。損害保険ジャパン本店営業部(企業リスク・法務)を経て、東証上場M&A仲介会社にて多数の成約に従事。2020年に株式会社日本財務戦略センターを創業し、M&A・事業承継・財務戦略を専門としています。中小企業庁 M&A支援機関登録事業者/一般社団法人M&A支援機関協会 正会員です。