譲渡制限株式を承認なしに譲渡したら有効か――一人会社・競売・譲渡担保をめぐる最高裁4判決(昭和48年・昭和63年・平成5年・平成9年)

譲渡制限株式を承認なしに譲渡したら有効か――一人会社・競売・譲渡担保をめぐる最高裁4判決(昭和48年・昭和63年・平成5年・平成9年)

非上場の会社では、定款で、株式を譲渡するには会社の承認が要ると定めていることがあります。では、承認を得ないまま株式を売ったり、担保に入れたり、競売で落札されたりしたら、その株式は誰のものになるのか。最高裁判所は、昭和48年から平成9年にかけての4つの判決で、この問題に答えてきました。この記事では、判決文をもとに、それぞれの事件で何が起き、裁判所が何を判断したかを整理し、株式譲渡の前に確かめることをまとめます。4つの判決はいずれも当時の商法の規定によるもので、現在の会社法にそのまま当てはまるとは限りません。

この事件は、株式譲渡のトラブル・判例74件の分析の類型1「株式の帰属・株主権――譲渡承認・株券・名義株」の事例です。

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<a href="https://jfsc.jp/research/ma-hanrei/jouto-seigen-kabushiki-shounin/">譲渡制限株式を承認なしに譲渡したら有効か――一人会社・競売・譲渡担保をめぐる最高裁4判決(昭和48年・昭和63年・平成5年・平成9年)|株式会社日本財務戦略センター</a>文章での出典表記:株式会社日本財務戦略センター「譲渡制限株式を承認なしに譲渡したら有効か――一人会社・競売・譲渡担保をめぐる最高裁4判決(昭和48年・昭和63年・平成5年・平成9年)」(2026年10月12日) https://jfsc.jp/research/ma-hanrei/jouto-seigen-kabushiki-shounin/
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先に結論

事件の概要と時系列

4つの判決のうち、昭和63年判決と平成9年判決は同じ会社の同じ株式(1万3082株)をめぐるものです。会社名は判決で伏せられています(平成9年判決は「D自動車株式会社」と表記しています)。

時期出来事
昭和48年6月15日【譲渡担保】最高裁第二小法廷が、承認のない株式の譲渡担保も当事者の間では有効とした福岡高裁(原審)の判断を正当とし、上告を棄却(株式譲渡担保契約無効確認請求事件)
昭和53年8月4日【競売】ある株主の株式1万3082株が京都地方裁判所の競売で落札され、落札した会社に株券が交付される。落札した会社は会社に承認を求めず、株主名簿には元の株主が載ったまま
昭和60年6月23日の株主総会以降、会社が元の株主の権利行使を拒む。元の株主は同年、株主であることの確認などを求めて提訴
昭和61年1月31日・5月30日一審が請求を退け、大阪高裁も控訴を棄却。元の株主が上告
昭和61年8月16日・20日会社が株主総会を開き、第三者への特に有利な価額での新株発行(2万株・1株1000円。当時の評価額は1株約3900円)を決議し、発行。元の株主には招集の通知をしていない
昭和63年3月15日最高裁第三小法廷が原判決を破棄し、一審判決を取り消して、元の株主が1万3082株の株主であることを確認
平成5年3月30日【一人会社】最高裁第三小法廷が、全株式2万株を持つ代表者が承認なしに1万2000株と3000株を譲渡した件で、譲渡は会社に対しても有効とした東京高裁(原審)の判断を正当とし、上告を棄却
平成9年9月9日【取締役の責任】最高裁第三小法廷が、招集通知を出さずに新株を発行した取締役らへの損害賠償請求を退けた大阪高裁の判決を破棄し、差し戻す

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昭和48年判決の判決文には、誰が誰に株式を担保として差し入れたかなどの事実関係は書かれていません。

何が争われたか

  1. 承認のない譲渡の効力:当時の商法204条1項ただし書は、株式の譲渡について、定款で取締役会の承認を要すると定めることを妨げないとしていました。承認のない譲渡は、譲渡した人と譲り受けた人の間でも無効なのか、会社に対してだけ効力がないのか。
  2. 譲渡担保・競売にも当てはまるか:株式を担保として譲り渡す場合(譲渡担保)や、競売で株式が落札された場合も、同じ扱いになるのか。
  3. 一人会社では承認が要るか:全株式を一人で持っている株主が譲渡する場合も、承認がなければ会社に対して効力がないのか。
  4. 取締役の責任:会社に対してはなお株主である元の株主に、取締役が株主総会の招集通知を出さなかったことは、取締役の責任(当時の商法266条ノ3第1項〈現在の会社法429条1項に当たる規定〉または民法709条)につながるか。

裁判所の判断

昭和48年6月15日判決――当事者の間では有効、会社に対しては効力なし

最高裁第二小法廷は、譲渡制限の立法趣旨を「もつぱら会社にとつて好ましくない者が株主となることを防止することにある」としたうえで、譲渡はもともと自由であるべきことも考えあわせ、「取締役会の承認をえずになされた株式の譲渡は、会社に対する関係では効力を生じないが、譲渡当事者間においては有効であると解するのが相当である。」と判断しました。さらに、株式を譲渡担保に入れることも株式の譲渡にあたるとして、承認がなくても当事者の間では株式の権利移転の効力を生じるとしました。

昭和63年3月15日判決――競売で落札されても、会社に対しては元の株主

大阪高裁(原審)は、承認を求めていない落札は会社に対して効力を生じないとしつつ、元の株主は譲渡制限に反することを理由に譲渡の無効を主張することは許されないとして、元の株主の請求を退けました。

最高裁第三小法廷は、承認のない譲渡は会社に対しては効力を生じないから、会社は譲渡人を株主として扱う義務があり、「その反面として、譲渡人は、会社に対してはなお株主の地位を有するものというべきである。」としました。競売による譲渡についても、商法に特別の規定はなく、「任意譲渡の場合と別異に解すべき実質的理由もない」として、同じに考えるべきだとしました。そのうえで原判決を破棄し、一審判決を取り消して、元の株主が株主であることを確認し、会社に株主総会での権利行使を妨げないよう命じました(裁判官全員一致)。

平成5年3月30日判決――一人会社の譲渡は承認がなくても会社に対して有効

最高裁第三小法廷は、譲渡制限の趣旨は、会社にとって好ましくない者が株主となることを防いで、譲渡人以外の株主の利益を守ることにあるとして、昭和48年判決を引用し、「本件のようないわゆる一人会社の株主がその保有する株式を他に譲渡した場合には、定款所定の取締役会の承認がなくとも、その譲渡は、会社に対する関係においても有効と解するのが相当である。」と判断しました(裁判官全員一致)。

この判決は、取締役と会社の間の訴訟で誰が会社を代表するか(当時の商法特例法24条1項)についても判断していますが、この記事では扱いません。

平成9年9月9日判決――招集通知を出さなかった取締役の責任

元の株主らは、取締役らに対し、元の株主に招集通知を出さないまま新株を発行したなどとして、損害の賠償を求めました。大阪高裁(原審)は、当時は元の株主の請求を退ける控訴審判決が出ていたこと、新株発行の差止めの仮処分の申立てが却下されていたことなどから、取締役らに悪意または重大な過失による職務上の義務違反があったとはいえないとして、請求を退けました。

最高裁第三小法廷は、承認のない譲渡があっても会社に対しては元の株主がなお株主であり、会社はその人を株主として扱う義務を負うから、取締役らは元の株主に招集通知を出す職務上の義務を負っていたとしました。通知の欠如は、すべての株主に対する関係で取締役らの職務上の義務違反になるとしました。控訴審判決は確定してはじめて効力を生じるので、確定までは会社の義務に影響しないこと、早く新株を発行する必要があったとしても「取締役における事務処理上の便宜のいかんによって、右通知を行う義務が免除されることはあり得ない」ことも述べています。

また、決議の取消しの訴えが出されていないことや、新株発行の無効の訴えで請求を棄却する判決が確定していることによっても、取締役らの責任は否定されないとしました。元の株主が議決権を行使していれば、賛成の議決権数は当時の商法が求める多数に届かなかったことが予想されるとも指摘しています。そのうえで、損害についてさらに審理させるため、大阪高裁に差し戻しました(裁判官全員一致)。

この判決から何がいえるか

4つの判決を合わせると、取締役会の承認による譲渡制限がある会社で、承認のないまま株式が動いた場合の扱いは、次のように整理できます。

平成5年判決は一人会社についての判断で、株主が複数いる会社で、株主全員が譲渡に同意していた場合などについては判断していません。平成9年判決は取締役の義務違反と悪意・重大な過失について判断したもので、損害の有無や額は差戻し後の審理に委ねられました。取締役らが最終的に賠償責任を負うと決まった判決ではありません。

また、4つの判決は当時の商法の規定を解釈したものです。現在の会社法では、株式の取得者が会社に承認を求める手続(137条)や、承認を得ていない譲渡制限株式の取得者は原則として名義書換を求められないこと(134条)などが定められています。判決の考え方が現在の会社法のもとでどこまで及ぶかは、条文に照らして検討する必要があります。判例の全体像は株式譲渡のトラブル・判例74件の分析の類型1で整理しています。

株式譲渡で確認すること(この判決から導ける示唆)

以下は判決から導いた確認事項で、裁判所が述べたものではありません。

  1. 過去の譲渡ごとに承認の記録を確かめる:株主名簿に載っている人と、実際に代金を払って株式を譲り受けた人が違うことがあります。過去の譲渡ごとに、取締役会(または株主総会)の承認の議事録が残っているかを確認します。承認のない譲渡があれば、会社に対しては元の株主がなお株主として扱われる可能性があります。
  2. 株式が担保に入っていないか、競売にかかったことがないかを確かめる:承認のない譲渡担保も当事者の間では有効とされ、競売で落札された株式も、承認がなければ会社に対しては元の株主のものとして扱われました。売り手から、株式に担保を設定していないか、差押えや競売の経緯がないかを聞き取り、表明保証の対象に入れることが考えられます。
  3. 一人会社かどうかを時点ごとに確かめる:平成5年判決は、譲渡の時点で全株式を一人が持っていたことを前提にしています。株主が複数いた時期の譲渡には当てはまりません。株主の構成が時期によってどう変わったかを確認します。
  4. 株主の地位を争う訴訟中の会社では、確定前の判決を根拠に招集通知を省かない:平成9年判決の事件では、元の株主の請求を退ける控訴審判決が出た後、上告中に招集通知を出さずに株主総会を開き、新株を発行していました。最高裁は、控訴審判決は確定するまで会社の義務に影響しないとしました。株式を買う側は、株式の帰属を争う訴訟の有無と、その間に開かれた株主総会の招集通知の送り先を確認し、通知を欠いた総会で新株発行などをしていないかを確かめることが考えられます。

判決の出典

原審は、昭和48年判決が福岡高裁、昭和63年判決と平成9年判決が大阪高裁、平成5年判決が東京高裁です。平成9年判決の差戻し後の判決は、2026年10月12日時点の公開情報では確認できていません。個人は判決の伏字か立場で書いています。

よくある質問

Q. 譲渡制限株式を会社の承認なしに売った場合、売買は無効ですか?

最高裁 昭和48年6月15日判決は、取締役会の承認を得ずにした株式の譲渡は、会社に対しては効力を生じないが、売り手と買い手の間では有効としました。株式を譲渡担保に入れる場合も同じです。ただし、当時の商法の規定によるもので、現在の会社法では承認の手続などが別に定められています。

Q. 株式が競売で落札されたら、落札者が株主になりますか?

最高裁 昭和63年3月15日判決は、競売による譲渡も任意の譲渡と同じに考え、落札者が会社に承認を求めていない以上、会社に対しては元の株主がなお株主だとしました。会社は元の株主を株主として扱う義務があります。

Q. 株式を全部持っている社長が、承認の手続をせずに株式を譲渡したら?

最高裁 平成5年3月30日判決は、いわゆる一人会社の株主が株式を譲渡した場合は、定款の取締役会の承認がなくても、会社に対しても有効としました。譲渡の時点で株主が複数いた場合には、この判決の前提が異なります。株主が複数いる会社で株主全員が譲渡に同意していた場合などについては、この判決は判断していません。

Q. 株主かどうか争っている相手に、株主総会の招集通知を出さなくてもよいですか?

最高裁 平成9年9月9日判決は、会社に対して株主である元の株主に招集通知を出さなかった取締役について、通知を出す職務上の義務を負っていたとし、悪意または重大な過失による義務違反があったとは認められないとした原判決を破棄して差し戻しました。相手の請求を退ける控訴審判決が出ていても、確定するまでは通知の義務に影響しないとしています。ただし、損害の有無や額は差戻し後の審理に委ねられ、取締役らが最終的に賠償責任を負ったかどうかは、2026年10月12日時点の公開情報では確認できていません。

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この記事は、裁判所が公開している判決文(2026-10-12時点)をもとに、判決が認定した事実と判断を整理したものです。判決の評価にあたる言葉は、判決の文言をカギカッコで引用したものに限っています。判決に出てくる個人は、判決自身の伏せた表記か続柄だけで書いています。株式会社日本財務戦略センターが当事者の主張の当否や、現在の会社・商品について評価するものではありません。上級審や確定の有無は、記事中に書いたもの以外は確認できていません。個別の契約や紛争については、弁護士などの専門家にご相談ください。
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五十嵐悠一
監修・執筆責任者
株式会社日本財務戦略センター 代表取締役。京都大学経済学部経営学科(マーケティングゼミ専攻)卒。損害保険ジャパン本店営業部(企業リスク・法務)を経て、東証上場M&A仲介会社にて多数の成約に従事。2020年に株式会社日本財務戦略センターを創業し、M&A・事業承継・財務戦略を専門としています。中小企業庁 M&A支援機関登録事業者/一般社団法人M&A支援機関協会 正会員です。