株式を買って合併した会社の商標に、書面のない使用許諾は残るか――ほっかほっか亭の商標をめぐる東京地裁 平成20年4月25日判決

株式を買って合併した会社の商標に、書面のない使用許諾は残るか――ほっかほっか亭の商標をめぐる東京地裁 平成20年4月25日判決

商標権を持つ会社の株式を買い、その会社を合併すれば、商標権は買い手のものになります。では、その商標を契約書のないまま長年使ってきた別の会社に、買い手は使用料を求められるのか。持ち帰り弁当のフランチャイズ「ほっかほっか亭」の商標をめぐって、東京地方裁判所は平成20年4月25日、この点について判断しました。この記事では、判決文をもとに、何が起きたか、何が争われたか、株式を買う前に確かめることを整理します。

この事件は、株式譲渡のトラブル・判例74件の分析の類型2「買収後に判明した問題――表明保証・説明・引き継いだ契約」の事例です。

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先に結論

事件の概要と時系列

ほっかほっか亭のフランチャイズでは、商標権を持つ会社(訴外会社)と、マスターフランチャイザーとして加盟店を統括する会社(被告)が別々でした。どちらも創業者のA氏らが設立した会社です。原告は、被告とフランチャイズ契約を結んだサブフランチャイザーで、九州の地域本部などを担当していました。

時期出来事
昭和51年6月A氏らが1号店を埼玉県草加市に開店
昭和53年5月・9月A氏が個人で商標1を出願。A氏らが訴外会社を設立
昭和56年5月商標1の出願人の名義をA氏から訴外会社に変更
昭和56年7月・10月A氏らが被告を設立。10月、地域本部・地区本部のロイヤリティの支払先が訴外会社から被告に変わる
昭和58年1月商標1が訴外会社を権利者として登録
昭和59年1月・3月被告が商標2・3を出願。株式会社ダイエーが被告と業務提携
昭和60年3月・10月ダイエーが訴外会社の株式17%と被告の株式15%を取得。10月、商標2・3の出願人の地位を被告から訴外会社に譲渡
昭和61年3月ダイエーが訴外会社に50%以上を出資して子会社化。被告への出資比率は30%に
平成11年3月・4月ダイエーと原告が「株式譲渡等に関する基本合意書」を交わし、原告がダイエーから被告の株式44.4%と訴外会社の株式85.2%を取得
平成12年10月原告がA氏らから訴外会社の株式を取得し、100%に
平成16年3月原告が訴外会社を吸収合併
平成16年7月原告が商標4を出願(平成17年3月に登録)
平成18年原告が提訴。被告は平成19年に反訴
平成20年4月25日東京地裁が本訴請求を棄却し、反訴の予備的請求の一部を認容

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商標1から3が、訴外会社の名義のまま、合併によって原告の権利になりました。一方、被告は、マスターフランチャイザーとして、地域本部や地区本部、その傘下の加盟店を通じて、これらの商標に類似する標章を看板や包装紙などに使っていました(標章が類似していることには争いがありません)。

何が争われたか

判決が掲げた争点は6つです(標章の使用の意味、使用許諾の合意、合意の終了、自己の名称の表示、権利の濫用、被告の責任と損害)。結論を分けたのは、次の2点です。

  1. 書面のない使用許諾があったか:被告は、昭和56年10月までに、訴外会社との間で商標を無償・独占で使わせる黙示の合意があったと主張しました。原告はこれを否認し、ダイエーの子会社だった時期の訴外会社の社内文書に、商標権の帰属の問題が未解決だと書かれていることなどを挙げました。
  2. 株主の変動で許諾は終わったか:原告は、仮に黙示の合意があったとしても、それは創業者が両社の株式をほぼすべて持っていた密接な関係によるもので、ダイエーが訴外会社の過半数の株式を取得した昭和61年3月に終了したと主張しました。被告は、株主が替わったことや合併で包括承継されたことだけで合意が終わるはずはないと主張しました。

裁判所の判断

被告の使い方は商標としての使用にあたる

まず裁判所は、被告の主張を退け、包装紙や持ち帰り用の袋、看板、ちらしなどへの標章の表示は、商標法2条3項1号・2号・8号のいずれかにあたる使用だとしました。そのうえで、その使用が許されていたかを検討しています。

創業者が両社を支配していた時期に、黙示の使用許諾が成立していた

裁判所は、商標1の出願人の名義変更から登録までの間に被告が設立され、マニュアルの提供が始まり、ロイヤリティの支払先が被告に変わったことから、マスターフランチャイザーの地位は被告の設立後ほどなく訴外会社から被告に移ったと認めました。当時は創業者のA氏が両社の支配株主で代表取締役を兼ねており、被告は、商標権者でなくても商標を現実に使えればよく、使わせることにも支障はなかったとしています。

そして、遅くとも昭和56年10月に、「本件フランチャイズシステムが存続することと被告がマスターフランチャイザーの役割を果たせることを前提に」、商標1を無償かつ再許諾権付きで独占的に使わせる黙示の合意があったと認めました。商標2・3は商標1に従属する関係にあるとして、出願人の地位が譲渡された昭和60年10月ころに同じ内容の黙示の合意が成立したとしています。

原告が挙げた社内文書については、サービスマーク制度の導入をきっかけに帰属関係を改めて問題にしたもので、「契約書面が存在しないことにより,社内的に説明できないことが正に問題とされたにすぎない」として、合意の存在を否定する根拠にはならないとしました。

なお、黙示の合意に基づく以上、その法的な性質は専用使用権ではなく、「独占的な通常使用権にとどまるものというべきである」としています。

株主が替わっても、合意は終わらない

原告の、昭和61年3月に合意が終わったという主張について、裁判所は、ダイエーの資本参加はフランチャイズの事業を促進させることを目的とするもので、事業を覆すことを目的とするものではないとしました。そのうえで、「訴外会社と被告における資本関係の変遷があったからといって,両社の間に存在する権利義務関係に変動をもたらすようなものと解することはできない」と判断しました。

ダイエーと原告の間の基本合意書には、譲渡代金を決める前提として、訴外会社が登録商標「ほっかほっか亭」を所有していることを確認する規定がありました。裁判所は、この規定は「昭和61年3月時点での本件黙示合意1ないし3の終了を何ら裏付けるに足りるものではない」としています。

合併で、許諾の負担も引き継がれた

裁判所は、原告が平成16年3月1日に訴外会社を吸収合併して「訴外会社に帰属する権利義務の一切を包括的に承継しているから,被告との関係において,本件黙示合意1ないし3の権利義務を当然に引き継いでいることになる」としました。結論として、「本件黙示合意1ないし3は,いまだ終了しておらず,被告と訴外会社の権利義務関係を包括承継した原告との間で,なお存続しているものと認められる」と判断し、本訴の請求は、ほかの争点を判断するまでもなく理由がないとしました。

合併後に出願した商標4は別扱い

商標4は、原告が合併後に出願したもので、商標1から派生したデザインのロゴとして商標1の禁止権の範囲に属するとされました。そのため原告は、商標4に基づいて被告の標章の使用を妨げることはできないとされました。ただし、商標4そのものについての使用許諾までは認められず、商標4の使用権の確認請求は棄却されています。訴訟費用は10分の9が原告の負担とされました。

この判決から何がいえるか

契約書がなくても、商標の使用許諾が黙示に成立していたと認められることがある、ということです。この事件では、創業者が両社を支配していたこと、マスターフランチャイザーの役割が移った時期、ロイヤリティの流れ、その後のフランチャイズ契約の積み重ねといった事実から、無償・独占・再許諾権付きという具体的な内容まで認定されました。

そして、本件では、成立した許諾は、許諾した会社の株主が替わっても終わらず、その会社を吸収合併した会社にそのまま引き継がれる、と判断されました。判決が終了の有無を検討したのは、原告が主張した昭和61年3月のダイエーによる過半数の取得で、その資本参加がフランチャイズの事業を促進させることを目的とするものだったことを理由に挙げています。株主が替わっても許諾は常に続くという一般的なルールを示した判決ではありません。株式を買った側が、その時点で許諾の存在を認識していたかどうかは、判断の分かれ目として扱われていません。

一方で、限界もあります。この判決は、黙示の合意の内容を「フランチャイズシステムが存続すること」と「被告がマスターフランチャイザーの役割を果たせること」を前提として認定しています。その前提が崩れた場合の扱いは判断していません。また、権利の濫用、自己の名称の表示(商標法26条1項1号)、損害の額などの争点は判断されていません。合併は平成16年のもので、会社法の施行(平成18年5月)より前の、当時の商法の規定によるものです。現在は会社法750条1項が、吸収合併の存続会社は効力発生日に消滅会社の権利義務を承継すると定めています。

この判決は、株式譲渡のトラブル・判例74件の分析の類型2「買収後に判明した問題」の一件として整理しています。

株式譲渡で確認すること(この判決から導ける示唆)

以下は判決から導いた確認事項で、裁判所が述べたものではありません。

  1. 対象会社の知的財産権を、誰が実際に使っているかを確かめる:登録の名義だけでなく、グループ会社、フランチャイズの本部や加盟店、取引先など、名義人以外に使っている者がいないかを洗い出します。この事件では、商標権者とマスターフランチャイザーが別の会社でした。
  2. 書面のない許諾がないかを確かめる:契約書がないことは、許諾がないことを意味しません。設立の経緯、創業者の持株関係、ロイヤリティなどのお金の流れ、他の契約の記載、過去の社内文書を確認し、売り手や役員に経緯を聞き取ります。
  3. 株主が替われば許諾が終わると考えない:この判決では、ダイエーの資本参加がフランチャイズの事業を促進させる目的だったことなどから、許諾した会社の株主が替わっても、合意は続くとされました。許諾がどのような前提で成立したかによって結論は変わり得るため、株主の交代で終わることを前提に価格や事業計画を立てないようにします。許諾を整理したいなら、株式を買う前に、売り手と許諾先の協力を得て書面で条件を定めることを検討します。
  4. 合併を予定するなら、引き継ぐ負担を価値に織り込む:株式を取得した後に対象会社を合併すると、許諾の負担も包括的に引き継ぎます。商標の価値を買収価格に含める場合は、無償・独占の許諾が付いた状態で評価する必要があります。
  5. 契約書の確認条項で足りるかを見直す:この事件の株式譲渡の基本合意書には、対象会社が登録商標を所有していることを確認する規定がありましたが、昭和61年3月時点での許諾の終了を裏付けるものではないとされました。登録商標の所有に加え、第三者への使用許諾(書面のないものを含む)の有無を表明保証の対象にすることを検討します。

判決の出典

控訴の有無と判決の確定は、2026年10月12日時点の公開情報では確認できていません。個人は判決の伏字か立場で書いています。

よくある質問

Q. 契約書がなくても、商標の使用許諾は認められますか?

この判決では認められました。創業者が両社を支配していたこと、マスターフランチャイザーの地位が移った時期、ロイヤリティの支払先の変更、その後のフランチャイズ契約などの事実から、無償・独占・再許諾権付きの黙示の合意が認定されています。ただし、黙示の合意に基づくため、専用使用権ではなく独占的な通常使用権にとどまるとされました。

Q. 商標権を持つ会社の株式を買えば、それまでの許諾を打ち切れますか?

この判決は、ダイエーの資本参加がフランチャイズの事業を促進させることを目的とするものだったことなどから、許諾した会社の資本関係が変わっても、両社の間の権利義務関係は変わらないとしました。株式を買って合併した会社は、許諾の負担もそのまま引き継いだとされています。ただし、本件の事実関係に即した判断で、株主が替わっても許諾が常に続くという一般的なルールを示したものではありません。黙示の合意の前提(フランチャイズシステムの存続など)が崩れた場合の扱いも、判断されていません。

Q. 株式譲渡の契約で「対象会社が商標を所有している」と確認していれば安心ですか?

この事件の基本合意書にも同じ趣旨の規定がありましたが、裁判所は、昭和61年3月時点での許諾の終了を裏付けるものではないとしました。所有しているかどうかと、他人に使わせる負担があるかどうかは別の問題です。

Q. 合併した後に出願した商標なら、相手に使用をやめさせられますか?

この事件の商標4は、合併後に出願されたものですが、元の商標1の禁止権の範囲に属するとされ、原告は商標4に基づいて被告の使用を妨げられないとされました。一方、商標4そのものの使用許諾までは認められていません。

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この記事は、裁判所が公開している判決文(2026-10-12時点)をもとに、判決が認定した事実と判断を整理したものです。判決の評価にあたる言葉は、判決の文言をカギカッコで引用したものに限っています。判決に出てくる個人は、判決自身の伏せた表記か続柄だけで書いています。株式会社日本財務戦略センターが当事者の主張の当否や、現在の会社・商品について評価するものではありません。上級審や確定の有無は、記事中に書いたもの以外は確認できていません。個別の契約や紛争については、弁護士などの専門家にご相談ください。
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五十嵐悠一
監修・執筆責任者
株式会社日本財務戦略センター 代表取締役。京都大学経済学部経営学科(マーケティングゼミ専攻)卒。損害保険ジャパン本店営業部(企業リスク・法務)を経て、東証上場M&A仲介会社にて多数の成約に従事。2020年に株式会社日本財務戦略センターを創業し、M&A・事業承継・財務戦略を専門としています。中小企業庁 M&A支援機関登録事業者/一般社団法人M&A支援機関協会 正会員です。