2021.12.14 業種別解説

建設業M&A 2026年実務ガイド|建設業法第17条の2・第17条の3の事前認可制度・経審引継ぎ・2024年問題まで徹底解説

3行まとめ


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はじめに——建設業M&Aを取り巻く構造変化

この章のポイント
2024年は建設業の倒産・休廃業がともに高水準。後継者不在率は59.3%まで改善したものの、後継者難倒産は全業種の25.0%を建設業が占めます。2024年問題(時間外労働上限規制)と担い手不足を背景に、M&Aは「成長戦略」と「廃業回避策」の双方の文脈で活用が広がっています。

建設業の経営環境は、2024年を境に大きく転換しました。帝国データバンクの調査によれば、2024年の建設業倒産は1,890件と過去10年で最多、休廃業・解散は8,162件で2016年以来8年ぶりの高水準に達しています。2025年上半期も986件(前年同期比+7.5%)と4年連続で増勢が続いており、通年では2,000件台(2013年以来12年ぶり)への到達も視野に入っています。

背景には、2024年4月1日から建設業に適用開始された時間外労働の上限規制(原則・月45時間/年360時間、違反には罰則あり)の影響があります。国土交通省「建設業の時間外労働の上限規制は2024年4月から!」では、特に中小事業者にとって労務管理体制の整備と人員確保が経営の存続条件になりつつあると指摘されています。この規制適用が、結果として「自社単独での継続が難しい」と判断する経営者の決断を加速させており、M&A仲介への相談件数も増加傾向にあります。

一方で、後継者不在率は2024年に59.3%と、2018年の71.4%から約12ポイント改善しました(帝国データバンク「全国 後継者不在率動向調査」)。親族外承継や内部昇格、第三者承継としての建設業M&Aの活用が広がった結果ですが、それでも建設業の後継者難倒産は2024年度で127件・全業種の25.0%を占め、業種別では依然最多です。

令和7年版国土交通白書も、第1章で「担い手不足等によるサービスの供給制約」を国土交通行政の最重要課題に位置付けています。建設技術者数・建設技能労働者数は2025年以降も減少が続く見込みであり、社会インフラの維持・更新を担う事業者の集約・再編は、もはや業界全体の構造的課題です。

本記事は、こうした構造変化を踏まえ、建設業M&Aを検討する売り手・買い手の双方が、最低限押さえるべき実務論点を整理するものです。なお、許認可・税務・労務に関する個別判断は、必ず弁護士・税理士・公認会計士・行政書士等の各専門家にご相談ください。


1. 建設業M&Aが急増する背景——2024年問題・倒産最多・後継者不在の三重苦

この章のポイント
①倒産1,890件・休廃業8,162件という市場退出の加速、②2024年4月の時間外労働上限規制適用、③後継者難倒産127件のうち建設業が25.0%——この三重苦が、中小建設業者を「自社単独での継続」から「第三者承継・統合」へと押し出しています。

1-1. 倒産・休廃業の最新数字(2024年・2025年上半期)

建設業の市場退出は、2024年に明確な転換点を迎えました。帝国データバンクの集計によれば、2024年の建設業倒産(負債1,000万円以上・法的整理)は1,890件に達し、過去10年で最多を記録しています。リーマンショック後の2009年以来の高水準であり、コロナ禍の資金繰り支援策(実質無利子・無担保融資、いわゆるゼロゼロ融資)の返済本格化と、人件費・資材費の高騰が同時に効いた結果です。

休廃業・解散も同年8,162件(前年比+7.0%)と、2016年以来8年ぶりの高水準でした。倒産は「破綻」ですが、休廃業・解散は「自主的な事業終了」であり、経営者が「これ以上続けても負担が増えるだけ」と冷静に判断した結果と読み解けます。手元に資産が残るうちに事業を畳む選択は合理的ですが、長年積み上げた許認可・取引先・職人ネットワークが断絶することは、地域社会と社会インフラ維持にとっても大きな損失です。

2025年上半期も建設業倒産は986件(前年同期比+7.5%)と4年連続で増勢が続いており、通年で2,000件台(2013年以来12年ぶり)に到達する可能性も指摘されています。

1-2. 2024年問題(時間外労働上限規制)の直接的影響

2024年4月1日から、建設業にも時間外労働の上限規制が適用開始されました。原則は月45時間・年360時間、特別条項を結んだ場合でも年720時間以内(休日労働を含めて単月100時間未満・複数月平均80時間以内)が上限となり、違反には罰則(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)が科される可能性があります(国土交通省・厚生労働省)。

建設業はこれまで、工期遵守・天候による工程ずれ・元請の都合による突発作業など、長時間労働が常態化しやすい構造を抱えてきました。上限規制への対応は、①36協定の整備、②勤怠管理システムの導入、③要員増員、④工期交渉力の強化のすべてが必要であり、人手不足下の中小事業者にとっては短期間での対応が極めて困難です。

結果として、「単独で2024年問題に対応するのは難しい」と判断した経営者が、労務管理体制を持つより大きな同業他社への譲渡を選ぶケースが増えています。M&Aは、廃業による許認可・人材・顧客の散逸を回避しつつ、規制対応コストを統合先で吸収できる現実的な選択肢として機能しています。

1-3. 後継者不在と後継者難倒産

建設業の後継者不在率は、2024年に59.3%(前年比▲2.0pt)まで改善しました(帝国データバンク「全国 後継者不在率動向調査」)。2018年の71.4%から約12ポイントの改善であり、内部昇格や第三者承継としてのM&A活用が広がった結果と考えられます。

ただし、後継者難倒産(経営者の死亡・体調不良・後継者不在を直接原因とする倒産)は、2024年度に建設業で127件発生し、これは全業種の25.0%を占めます。業種別では依然として最多であり、「後継者を立てたいが立てられないまま、経営者の体力・気力が尽きる前に決断する」局面が、業界全体で同時並行的に進行している状況です。

令和7年版国土交通白書も、建設技術者数・建設技能労働者数の減少が2025年以降も続く見込みであることを示し、担い手不足によるサービス供給制約を最重要課題に位置付けています。事業承継の観点からも、「自社の経営資源を地域に残すために、誰に渡すか」を能動的に設計する時期に入りました。


2. 建設業許可の承継実務——建設業法第17条の2・第17条の3の事前認可制度

この章のポイント
2020年10月施行の改正建設業法により、事業譲渡・合併・会社分割には許可行政庁の事前認可が必要となりました。認可前の引渡しは建設業法違反です。一方、株式譲渡は法人格が変わらないため事前認可は不要——この差が、M&A手法選択の決定的論点となります。

2-1. 建設業法第17条の2・第17条の3の概要

建設業の許可は、許可業者の人格(法人格・個人)に紐づく性格を持ちます。2020年10月の改正建設業法施行により、第17条の2(事業譲渡・相続)・第17条の3(合併・会社分割)に基づく地位承継の事前認可制度が導入され、事業の譲り渡し・合併・分割を行う場合には、許可行政庁(国土交通大臣許可または都道府県知事許可)の事前認可を取得する必要があります(国土交通省「建設業者の地位の承継について」)。

承継認可を受ければ、譲渡・合併・分割の効力が生じた日から、譲受人・存続会社・新設会社等が建設業者の地位を承継することができます。これにより、許可番号や許可年月日が変わらず、入札参加資格や取引先との関係も継続できる利点があります。一方、事前認可を受けないまま事業を引き渡すと、譲受人は無許可で建設業を営むこととなり、建設業法違反として処分対象になり得ます(国土交通省関東地方整備局「事業承継等の事前認可制度」)。

2-2. 株式譲渡 vs 事業譲渡・合併・分割——許認可上の取扱いの違い

M&A手法の選択にあたり、許認可承継の観点から最も重要なのは、「法人格が変わるかどうか」です。以下に、主要4手法の建設業法上の取扱いを整理します。

図1:M&A手法別 建設業法上の取扱い比較
手法建設業許可の事前認可経審評点主な実務上の留意点
株式譲渡不要(法人格は不変)原則継続経営業務管理責任者・専任技術者の異動届は必要。簿外債務・偶発債務の包括承継リスク。
事業譲渡必要(法第17条の2)譲受側は新規申請扱い認可前引渡しは建設業法違反。承継対象資産・債務を契約で明確化。
合併必要(法第17条の3)存続会社で再申請扱い合併期日前に認可取得が必要。経審評点が一時的に下落するリスク。
会社分割必要(法第17条の3)承継会社で新規申請扱い分割計画書の作成・承認手続が必要。許可業種ごとに実態的な承継範囲を検討。
出典:国土交通省「建設業者の地位の承継について(建設業法第17条の2・3)」、関東地方整備局「事業承継等の事前認可制度」、北陸地方整備局「合併・譲渡等における許可申請及び経営事項審査」を基に株式会社 日本財務戦略センターで整理。具体的な手続要件は許可行政庁・都道府県によって細部が異なるため、所管の行政書士・許可行政庁にご確認ください。

この比較表が示すように、株式譲渡を選択すれば事前認可は不要であり、許可番号・許可年月日もそのまま維持されます。一方、事業譲渡・合併・会社分割を選択する場合は、許可行政庁の事前認可を取得した後でなければ、事業を譲り渡すことができません。

2-3. 認可申請に必要な書類と所要期間

地位承継の事前認可申請には、おおむね以下の書類の添付が必要です(具体的な書類は許可行政庁・案件内容により異なるため、所管の行政書士・許可行政庁にご確認ください)。

標準的な所要期間は申請から認可まで概ね1〜3か月程度とされていますが、書類不備や許可行政庁の繁忙期を考慮し、M&Aクロージングのスケジュール設計には十分な余裕を確保することが必要です。許可行政庁が国土交通大臣許可(複数都道府県に営業所を持つ場合)か都道府県知事許可(一の都道府県内に営業所を持つ場合)かによって、申請窓口と運用も異なります。

2-4. 「事業譲渡だが認可待ちの間は売り手が施工する」運用上の注意

事業譲渡や合併では、認可前の段階で買い手側が施工を開始してしまうと建設業法違反となります。認可日までの間は売り手が引き続き施工し、認可日をもって地位を承継するという段取りが基本です。進行中の工事の工程と認可日のすり合わせ、発注者への事前説明、下請契約の引継ぎ手順など、契約実務面での詳細設計が欠かせません。

以上の論点は、M&A契約条項(前提条件・クロージング条件・補償条項)の設計と密接に絡むため、建設業法に詳しい弁護士・行政書士に必ずご相談のうえ、契約書を整備されることを強くお勧めします。


3. 経営事項審査(経審)引継ぎの実務リスク——評点下落とスケジュール設計

この章のポイント
合併・分割後の経営事項審査(経審)は新規申請扱いとなり、評点が一時的に大幅低下するリスクがあります。入札参加資格の有効期間(通常2年)との兼ね合いで、M&A時期と経審申請スケジュールの事前設計が不可欠です。

3-1. 経営事項審査(経審)とは

経営事項審査(経審)は、公共工事の入札参加を希望する建設業者が必ず受けなければならない経営状況・経営規模等の客観的審査です。完成工事高(X1)、自己資本額・利益額(X2)、技術職員数・元請完成工事高(Z)、その他の審査項目(W:労働福祉、建設業の経理状況、研究開発、建設機械保有状況、若手技術者の育成等)など、複数の評点を組み合わせて総合評定値(P点)が算出され、これが入札参加資格の格付に直結します。

P点・各評価項目の具体的な計算式は省令で定められており、年次の経営状況分析と経営規模等評価申請を経て決定されます。詳細な計算については、顧問税理士・公認会計士・行政書士等の専門家にご相談ください。

3-2. 合併・分割後の経審が「新規申請扱い」になる構造

国土交通省北陸地方整備局「合併・譲渡等における許可申請及び経営事項審査」資料が示すように、合併・会社分割が行われた場合、存続会社・新設会社の経審は新規申請扱いとなり、合併・分割前の評点をそのまま引き継ぐことはできません。

新規申請扱いになると、たとえば過去2〜3年の完成工事高平均(X1)が「新会社としての実績」として再カウントされるため、合併・分割直後は実績年数が不足し、評点が一時的に大幅低下するリスクがあります。技術職員数・建設機械保有状況・経理状況等も新会社単位での評価となり、組織再編から1〜2年は評点回復の過渡期に置かれます。

3-3. 入札参加資格の有効期間との兼ね合い

入札参加資格は通常2年間の有効期間で設定されているため(発注機関により異なります)、合併・分割を実施する時期によっては、評点回復前に資格更新を迎えてしまい、大型公共工事への入札参加資格の格付(A・B・C等)が一時的に下がる可能性があります。

このため、M&Aクロージング時期の決定にあたっては、以下のような実務的工夫が考えられます(具体的判断は専門家とご検討ください)。

3-4. 株式譲渡を選択するメリット——経審評点の継続性

これに対し、株式譲渡では法人格が変わらないため、経審評点は原則として継続されます。経営業務管理責任者の交代や役員構成の変更があった場合も、必要な変更届を提出すれば評点自体は維持されるため、「公共工事の入札実績を主な企業価値の源泉とする建設業者」のM&Aでは、株式譲渡が選好されるケースが多くなります。

もっとも、株式譲渡には簿外債務・偶発債務の包括承継リスク(過去工事の瑕疵担保責任、未払残業代、税務リスク等)が伴うため、M&Aデューデリジェンスを十分に実施し、表明保証条項や補償条項で適切にリスク配分する設計が不可欠です。具体的なM&A手法の選択は、弁護士・税理士・公認会計士・行政書士等の各専門家と協議のうえご検討ください。


4. 専任技術者・経営業務管理責任者の確保——M&Aで最も頻発するヒューマンリスク

この章のポイント
建設業許可の維持には経営業務管理責任者と各営業所の専任技術者が必須要件。M&A後にキーパーソンが退職すると許可要件を満たさなくなり、最悪の場合は許可取消の事態にもなり得ます。2024年12月施行の省令改正でICT活用による技術者専任の合理化が一部進みましたが、人の確保は依然として最大の論点です。

4-1. 建設業許可の人的要件——経営業務管理責任者と専任技術者

建設業許可を維持するためには、以下の人的要件を継続的に満たす必要があります(建設業法第7条・第15条等、e-Gov)。

これらは「いれば足りる」のではなく、常勤性・専任性の継続的な担保が許可維持の必須条件です。M&A後にこれらのキーパーソンが退職すると、最悪の場合許可要件を満たさなくなり、廃業届の提出や許可取消の事態にもなり得ます。

4-2. M&A後にキーパーソンが流出する典型シナリオ

建設業M&Aで頻発するヒューマンリスクの典型は、以下のようなパターンです。

これらのリスクに対しては、M&A契約段階で以下を設計することが標準実務です。

4-3. 2024年12月施行の省令改正——ICT活用による技術者専任合理化

2024年12月13日に施行された「建設業法施行規則等の一部を改正する省令」により、技術者専任のICT活用・遠隔管理に関する要件が一部合理化されました(国土交通省報道発表)。これは、現場常駐が原則だった監理技術者・主任技術者について、一定の要件を満たすICT環境(カメラ・通信機器・現場管理システム等)を整えれば、複数現場の遠隔管理を可能とする方向の改正です。

これにより、技術者1人が複数現場をカバーできる柔軟性が増したため、M&A後の体制設計においても、人員配置の効率化が図りやすくなりました。ただし、改正の細部運用は今後の通達・指針の整備によるところもあり、実際の現場での運用にあたっては、所管の許可行政庁・行政書士に最新の運用指針をご確認ください。

4-4. デューデリジェンスにおけるヒューマンリスクのチェックポイント

買い手のデューデリジェンスでは、以下のヒューマンリスクチェックを必ず組み込みます。

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5. 建設業M&Aのデューデリジェンス(DD)(デューデリジェンス)実務論点

この章のポイント
建設業特有のDD論点は、①工事経歴書による発注者集中度・元下構造の把握、②未成工事支出金と会計基準(進行基準・完成基準)の確認、③経審評点と実態決算書の乖離チェック、④過去商慣行リスク、⑤2024年問題対応状況——の5本柱です。

5-1. 工事経歴書による事業実態の把握

建設業者は、年次の経営事項審査申請にあわせて工事経歴書を作成します。これには発注者名、工事形態(元請・下請)、工事種別、請負金額、工期、施工地(エリア)、JV参画の有無等が記載されており、譲渡対象会社の事業実態を最も具体的に把握できる一次資料です。

DD実務では、過去3〜5年分の工事経歴書を時系列で並べ、以下の観点を評価します。

5-2. 未成工事支出金と会計基準(進行基準 vs 完成基準)

建設業特有の会計論点として、未成工事支出金(工事完成前にかかった原材料費・労務費・外注費等の累計)の適正計上があります。会計基準として原則は工事進行基準(進捗度に応じて売上・原価を計上)ですが、中小企業では工事完成基準(工事完成時点で一括計上)が採用されることもあります(一定の要件のもと)。

工事完成基準が適用されている場合、未成工事支出金が決算書上で過大に計上されているケースがあり、これが含み損の温床となっている可能性があります。DD実務では、過去3期分の決算書を比較し、未成工事支出金の残高推移と工事ごとの月次進行表を突合して、不審な点があれば個別工事ベースで詳細を確認することが不可欠です。

会計基準の選択と適用の妥当性、未成工事支出金の評価については、必ず公認会計士・税理士とともに精査されることをお勧めします。

5-3. 経審評点と実態決算書の乖離チェック

経審評点は、建設業者の客観的な経営指標として公的に開示されるため、「評点を良く見せたい」というインセンティブが構造的に働きます。完成工事高の前倒し計上、自己資本額の水増し、外注費の付け替え、技術職員数のかさ上げ等、論理的にあり得る粉飾パターンは複数存在します。

DD実務では、経審申請書類と実態決算書(月次試算表・元帳・工事別損益)を突合し、説明のつかない乖離がないかをチェックします。経審申請書類は許可行政庁に開示請求できる場合もあるため、買い手として入手可能な情報は最大限活用することが原則です。

5-4. 過去商慣行リスクの確認

建設業界には、地域・業種によっては過去に談合・不当廉売・発注者へのリベート・下請単価の不当圧縮といった商慣行が存在した時期があります。これらは独占禁止法・建設業法・刑法の各観点から重大なリスクとなり、M&A後に発覚すれば買い手の信用毀損と多額の損害賠償リスクを生みます。

DDでは、過去5年程度の対象会社の取引慣行について、経営層・営業責任者・経理責任者へのヒアリングを通じて、リスクの存否を慎重に確認します。発覚した場合は、表明保証条項・補償条項・特別補償条項での明示的なリスク配分を、弁護士の関与のもとで設計することが必要です。

5-5. 2024年問題対応状況の評価

2024年4月以降のM&A案件では、時間外労働上限規制への対応状況が新たな評価軸として加わっています。具体的には、以下の点をDDで確認します。

2024年問題への対応が遅れている対象会社を買収する場合、統合後の追加コスト(システム導入、人員増員、給与水準引上げ)を保守的に見積もる必要があります。M&Aの流れのうち、特にDD・バリュエーションの段階での織り込みが重要です。

これらDD全般の実施にあたっては、弁護士・公認会計士・税理士・社会保険労務士・行政書士等の各専門家と連携してチームを組成されることを強くお勧めします。


6. まとめ——建設業M&Aを成功に導く3つの視点

この章のポイント
①許認可と経審のスケジュール設計を最優先に(M&A手法の選択に直結)。②専任技術者・経営業務管理責任者のヒューマンリスクをDDの核心に据える。③2024年問題・担い手不足対応状況を「統合後の成長ポテンシャル」として評価する視点——この3点が、建設業M&Aの実務的な成功要因です。

6-1. 許認可と経審のスケジュール設計を最優先に

建設業M&Aでは、「いつ、どの手法で、どの段階で許認可を承継するか」がスケジュール全体を規定します。事業譲渡・合併・分割を選択する場合、許可行政庁の事前認可取得に1〜3か月、経審の新規申請から評点取得までさらに1〜3か月を要するため、クロージングまでの逆算スケジュールが極めてタイトになります。

株式譲渡を選択すれば許認可承継は不要ですが、簿外債務・偶発債務の包括承継リスクが伴います。「許認可承継の手間」と「包括承継リスク」のトレードオフを、案件ごとの個別事情を踏まえて慎重に評価することが、第一の成功要因です。

6-2. ヒューマンリスクをDDの核心に据える

建設業の真の経営資源は、許可番号でも工事経歴書でもなく、経営業務管理責任者・専任技術者・主任技術者・監理技術者・職人といった「人」にあります。M&A契約上どれだけ完璧な条項を整えても、キーパーソンが流出すれば許可要件を満たさなくなり、事業継続そのものが危うくなります。

キーパーソンの雇用継続意向の事前確認、リテンション・パッケージの設計、競業避止条項、代替要員確保計画——これらをDD段階から具体的に詰めることが、第二の成功要因です。

6-3. 2024年問題・担い手不足対応を「成長ポテンシャル」として評価する

2024年問題への対応が進んでいる事業者は、統合後に他社の遅れた対応を吸収する受け皿として機能します。逆に、対応が遅れている事業者を買収する場合は、追加投資コストを織り込む必要がある一方、「対応支援」を統合シナジーの源泉として位置付けることも可能です。

担い手不足が業界の構造的課題となるなか、労務管理体制・若手育成体制・ICT活用に投資できる体力を持つ事業者が、地域の集約・再編の中核となっていく可能性が高いと考えられます。M&Aを単なる規模拡大ではなく、業界の構造変化への戦略的対応として位置付けることが、第三の成功要因です。


結び——地域の社会インフラを次世代に渡すために

建設業は、社会インフラの新設・維持・更新を担う、地域社会の根幹的な産業です。倒産1,890件・休廃業8,162件という2024年の数字は、単なる経営指標ではなく、地域の建設能力そのものが失われていく現実を示しています。担い手不足が進行するなか、長年積み上げた許認可・取引先・職人ネットワーク・施工ノウハウを次世代に渡すための選択肢として、建設業M&Aの戦略的活用は今後さらに重要性を増すと考えられます。

株式会社 日本財務戦略センター(中小企業庁 M&A 支援機関 登録、一般社団法人 M&A 支援機関協会 正会員)では、建設業のオーナー経営者の皆様の事業承継・M&Aについて、売り手の利益最大化とリスク回避を最優先するセカンドオピニオン的な立場でご相談を承っています。許認可承継・経審スケジュール・ヒューマンリスクの設計など、案件特性に応じて弁護士・税理士・公認会計士・司法書士・行政書士等の各専門家と連携しながら、最適な進め方をご一緒に検討します。

いつでもお気軽にご相談ください(初回相談無料・秘密厳守)。


よくあるご質問(FAQ)

この章のポイント
日本財務戦略センターへのご相談に関する共通の10問と、本記事に関する5問の計15問。
共通Q1. 日本財務戦略センターはどのような会社ですか?
A. 株式会社日本財務戦略センター(JFSC)は、中小企業オーナーの M&A・事業承継を「自分事として最後まで完結する」ためのご相談先です。仲介の独断ではなく、売り手の判断材料を整える立場を貫いています。会社概要もご覧ください。
共通Q2. 相談したら、必ず M&A しなければいけませんか?
A. いいえ、ご相談のみで結構です。相談後に「今回は見送ります」と判断いただいても問題ありません。M&A 以外の選択肢(廃業・親族承継・事業再生)も含めてご一緒に整理します。まずは無料相談からお気軽にどうぞ。
共通Q3. 相談料・着手金は発生しますか?
A. 初回相談・簡易査定・進行中の段階まで、すべて無料です。日本財務戦略センターは完全成功報酬制を採用しており、M&A 成約時のみご報酬が発生します。着手金・中間金・月額顧問料は一切いただきません。なお、案件特性により外部専門家への依頼や登記等の実費(例:司法書士の登記費用、外部監査法人による資産査定、譲受企業側からの弁護士・公認会計士による DD 費用 等)が発生する場合は、必ず事前にご相談・ご同意のうえ進めますので、不意の費用負担は生じません。詳細は弊社の報酬体系をご確認ください。
共通Q4. 一般的な M&A 仲介会社と、どこが違いますか?利益相反はどう開示されますか?
A. M&A 仲介は売主・買主の双方から報酬を得る「両手仲介」が業界慣行で、構造的な利益相反のリスクがあります。そのうえで、業界には「誘い込む仲介」と「公開する仲介」の二類型があると当社は考えています。日本財務戦略センターは後者の立場で、契約締結時に重要事項説明書を交付し、両手仲介の構造を含めて文書でご説明したうえで、売り手の判断材料となる情報を整え、買い手の都合で交渉を急がせない姿勢を貫きます。これは経済産業省・中小企業庁中小 M&A ガイドライン(第 3 版・2024 年 8 月改訂、手数料算定基準の開示・買い手信用調査等を留意事項として明示)に則った対応です。二類型化の根拠は弊社独自の業界 20 社研究レポート、構造論の詳細は仲介契約 vs FA 契約の構造分析もご参照ください。
共通Q5. どれくらいの規模から相談できますか?
A. 年商数千万円規模の小規模事業から、数億円規模まで対応します。業界の多くの仲介会社では最低手数料を 2,000 万円以上に設定している傾向で、各社の最低手数料は中小企業庁M&A 支援機関登録制度・登録情報で確認いただけます。日本財務戦略センターの最低手数料は 700 万円で、小規模案件もお引き受けしています。具体的な報酬構造は弊社の報酬体系をご確認ください。
共通Q6. 税金・法律のことを詳しく教えてもらえますか?
A. 税務・法務は税理士法・弁護士法により、具体的な提案は弁護士・税理士等の専門家のみが行えます。当社は業界慣行の一般論をご説明した上で、顧問の先生方にご確認いただく形でご案内します。必要に応じて専門家ネットワークのご紹介も無料で行っています。
共通Q7. 家族や従業員に知られたくないのですが、可能ですか?
A. ご相談段階から NDA(秘密保持契約)を締結し、徹底管理します。社名を公開せずに買い手候補へ打診する「ノンネーム打診」の進め方も可能です。守秘義務体制については情報管理ポリシーでご確認いただけます。
共通Q8. 成約までどれくらいの期間がかかりますか?
A. 半年から 1 年程度が目安ですが、案件によって異なります。買い手候補と事前に綿密な調整を行い、売主オーナー様のペースで進行します。スピード優先で売主の利益を損なう進め方は致しませんが、売主オーナー様のご事情・ご要望に応じて、最短 60 日での成約実績もございます。
共通Q9. デューデリジェンス(DD)では、どのような立場をとりますか?
A. 日本財務戦略センターは仲介者として、売り手・買い手のどちらかに偏らない立場で臨み、売主オーナー様が判断に必要な情報を得られるよう整えます。仲介業の構造的な利益相反論点については仲介契約 vs FA 契約の構造分析で詳述しており、DD 費用負担の判例実務は東京地裁 DD 費用判決の射程でご確認いただけます。必要に応じて第三者の公認会計士・弁護士・税理士等の専門家をご紹介し、買い手寄りに偏らない査定体制を整えます。中小企業庁中小 M&A ガイドラインの遵守事項に則り、適切な情報開示を行います。
共通Q10. 対応エリアは限られますか?
A. 全国対応可能です。首都圏はもちろん、各地方都市でもご相談実績があります。オンライン面談と現地訪問を組み合わせ、所在地を問わず売主様のペースで進行します。まずは所在地を問わない無料相談をご利用ください。
本記事Q11. 建設業M&Aで株式譲渡と事業譲渡では、許認可の取扱いはどう違いますか?
A. 株式譲渡は法人格が変わらないため、建設業許可の事前認可は不要で、許可番号・許可年月日もそのまま継続されます。一方、事業譲渡・合併・会社分割は、建設業法第17条の2・第17条の3に基づき許可行政庁の事前認可が必須であり、認可前の引渡しは建設業法違反となります。標準的な認可所要期間は1〜3か月程度のため、クロージングまでの逆算スケジュールがタイトになります。一方、株式譲渡には簿外債務・偶発債務の包括承継リスクが伴うため、デューデリジェンスを十分に実施することが必要です。具体的な手法選択は、弁護士・税理士・行政書士等の専門家にご相談ください。
本記事Q12. 経営事項審査(経審)はM&A後にどうなりますか?評点が下がるリスクはありますか?
A. 合併・会社分割の場合、経審は新規申請扱いとなり、過去の完成工事高や技術職員数等が「新会社としての実績」として再カウントされるため、合併・分割直後は評点が一時的に大幅低下するリスクがあります。入札参加資格の有効期間(通常2年)との兼ね合いで、大型公共工事の格付(A・B・C等)が一時的に下がる可能性もあります。一方、株式譲渡では法人格が変わらないため、経審評点は原則継続されます。公共工事の入札実績を主な企業価値の源泉とする建設業者では、株式譲渡が選好される傾向があります。経審のスケジュール設計は専門家とご検討ください。
本記事Q13. 2024年問題(時間外労働上限規制)は建設業M&Aにどう影響しますか?
A. 2024年4月1日より建設業に時間外労働上限規制(原則・月45時間/年360時間、違反には罰則あり)が適用開始され、これが中小事業者の廃業・M&A決断を加速する要因となっています。M&Aデューデリジェンスでは、36協定の締結状況、勤怠管理システムの運用、月別労働時間データ、未払残業代の潜在的リスク、工期交渉力を必ず確認します。対応が遅れている対象会社を買収する場合、システム導入・人員増員・給与水準引上げ等の追加コストを保守的に見積もる必要があります。労務関係の判断は社会保険労務士・弁護士にご相談ください。
本記事Q14. 建設業M&Aで「経営業務管理責任者」「専任技術者」が退職するとどうなりますか?
A. 建設業許可の維持には、経営業務管理責任者(5年以上の経営経験者)と各営業所の専任技術者の継続的な配置が必須要件です。M&A後にこれらのキーパーソンが退職すると、許可要件を満たさなくなり、最悪の場合許可取消の事態にもなり得ます。対策として、M&A契約段階で①雇用継続意向の事前確認、②リテンション・パッケージの設計、③創業オーナーの引継期間(顧問・嘱託)合意、④競業避止条項、⑤代替要員確保計画を必ず織り込みます。2024年12月施行の省令改正でICT活用による技術者専任の遠隔管理が一部合理化されましたが、運用細部は所管の許可行政庁・行政書士にご確認ください。
本記事Q15. 建設業の倒産・休廃業はなぜ2024年に増えているのですか?
A. 帝国データバンクの調査によれば、2024年の建設業倒産は1,890件で過去10年最多、休廃業・解散は8,162件で8年ぶりの高水準に達しました。背景には①コロナ禍の実質無利子・無担保融資の返済本格化、②人件費・資材費の高騰、③2024年4月適用開始の時間外労働上限規制への対応負担、④後継者不在(後継者難倒産は建設業が全業種の25.0%で最多)、⑤担い手不足の構造的進行——という複合要因があります。令和7年版国土交通白書も「担い手不足によるサービス供給制約」を最重要課題に位置付けています。長年積み上げた許認可・取引先・職人ネットワークを次世代に渡す手段として、建設業M&Aの戦略的活用が広がっています。

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本記事は、公表されている一次ソース(国土交通省・中小企業庁・経済産業省・e-Gov 法令検索、帝国データバンク等の公開資料)に基づき、株式会社 日本財務戦略センター(中小企業庁 M&A 支援機関 登録、一般社団法人 M&A 支援機関協会 正会員)が独自の視点で構成・整理した解説記事です。記載内容は記事公開時点(2026年4月)のものです。

個別の法務・税務・財務・労務的判断、特に建設業法・経営事項審査・労働関係法令・各種許認可に関連する論点については、必ず弁護士・税理士・公認会計士・司法書士・行政書士・社会保険労務士等の各専門家にご相談ください。許可行政庁・都道府県によって運用細部が異なる手続きについては、所管の許可行政庁または行政書士にご確認ください。本稿はあくまで、業界構造・最新統計・公開情報に基づく一般的な解説を目的としています。

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公開日: 2021年12月14日 / 最終更新日: 2026年5月22日
五十嵐 悠一

執筆者

五十嵐 悠一(いからし ゆういち)

株式会社日本財務戦略センター 代表取締役

京都大学経済学部経営学科卒業。株式会社損害保険ジャパン本店営業部、東証上場M&A仲介会社を経て、2020年5月に日本財務戦略センターを設立。中小企業のM&A仲介・事業承継支援を専門とし、医療・介護・食品製造・流通卸・機械製造分野の成約実績を持つ。

資格:プロフェッショナルCFO(日本CFO協会)/M&Aエキスパート(金融業務2級 事業承継・M&Aコース)

公的登録:中小企業庁 M&A支援機関 登録事業者/一般社団法人 M&A支援機関協会 正会員

メディア登壇:株式会社サイゾー Business Journal ウェブセミナー講師「【売り手向け】M&Aを成功させるための具体的な行動・プロセス・知識」(2022年6月)[公式告知]

専門家コラム寄稿:BATONZ(国内最大級M&A プラットフォーム)に M&A・事業承継 74本(2021年〜継続)[コラム一覧]

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本記事は 2021年12月14日 公開時点の情報に基づきます。税制・法令等は改正される場合があるため、最新の制度・税制は公的機関の公式情報をご確認ください。

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