日本財務戦略センター
SELF-VALUATION SHEET

M&A企業価値
セルフ試算シート

3つの計算手法(類似会社比較法・純資産法・DCF)を、共通入力1回で同時に試算。
登録不要・完全匿名で「あなた自身の検討メモ」としてご利用いただけます。

本ツールについて
お客様ご自身が入力した数値を、一般的な計算式で機械的に算出する参考シミュレーションです。中小企業庁『中小M&Aガイドライン第3版』の枠組みに基づき設計しています。JFSC は本結果について評価・保証を行いません。正式な企業価値評価・税務相談は税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください。

STEP 1 / COMMON INPUT

あなたの会社の財務(共通・1回入力)

業種建設業
年商 1億円
幅:0 〜 100億円。中堅M&A対応。
営業利益 1,000万円
幅:-10億 〜 +100億円。中央が0円。左半分=赤字、右半分=黒字。
減価償却費 500万円
幅:0 〜 3億円。決算書の減価償却費を入力。
純資産(時価ベース)5,000万円
時価ベースでご入力ください(簿価ではなく、不動産・有価証券の含み損益を加味した実態純資産)。-10億 〜 500億まで(債務超過対応)。
有利子負債 2,000万円
幅:0 〜 30億円。借入金、社債等の合計。
現預金 1,500万円
幅:0 〜 10億円。
実効税率 30%

WACC(加重平均資本コスト)の構成要素:
株主資本コスト Re=15%(中小M&A標準。社長依存度・私物化リスクが高ければ +10〜20%)/負債コスト Rd=4%(銀行金利+信用リスク織込)/税率 30%
WACC が低い場合(8%未満)または借入過多(D/E>1.5)の場合、DCF 結果カードに警告を表示します。

中小企業の法人実効税率は概ね 30% 前後。
詳細入力(任意・空欄でOK)
役員報酬正常化額 0円
オーナー報酬を市場水準に修正する金額(買い手目線でEBITDA加算)。空欄=0。
設備投資(年間) 減価償却と同額
DCFで使用。空欄(左端)なら減価償却と同額(更新投資)として扱います。
EBITDA(参考): 1,500万円 =営業利益 + 減価償却費 + 役員報酬正常化額

⚠ STEP 2 / METHOD PARAMETERS

評価方法ごとの調整 — タップして精度を高めましょう

マルチプル倍率・のれん年数・DCFのWACC構成は 業界・自社実態に合わせて調整必須 です。初期値のままだと評価精度が下がります。

EBITDA倍率 4.0倍
業種参考レンジ:建設業 3〜5倍
※業種別倍率は理論値です。実際は規模・成長性・市場性で大きく変動します。
のれん年数(営業利益の○年分)3年
中小M&A実務では 2〜5年分が一般的レンジ(成長性・ブランド価値次第で7〜10年も)。お客様のご判断で動かしてください。
DCFモード切替
予測期間 5年
FCF成長率(年率) +2.0%
スライダー値÷10 = 実成長率(-3% 〜 +8%)。減少ケースもご利用可能。
株主資本コスト Re 8.0%
目安:株式市場リスクプレミアム + 業界。中小は 7-12% 程度。
負債コスト Rd(利子率)2.0%
自社の借入金利を入力(年間支払利息 ÷ 平均有利子負債)。中小は 2〜5% が標準。
WACC(自動算出): 6.00%

RESULT / 3手法レンジ

あなたの会社の概算株式価値(参考)

類似会社比較法(マルチプル)
EBITDA × 倍率 − 有利子負債 + 現預金
純資産法(時価純資産+のれん)
時価純資産 + 営業利益 × n年
DCF(割引キャッシュフロー)
将来FCF合計 ÷ WACC で割引
計算上の傾向:有利子負債比率が上がるほど DCF法(WACC加重平均資本コスト法)では計算上の評価額が高めに算定されます。一方、実務では 有利子負債が大きいほど倒産リスクの懸念から株式価値が下がる傾向が高まります。これは WACC 法の構造的な弱点であり、借入過多の会社では DCF 結果を 参考値 としてご覧ください。
3手法 統合レンジ(株式価値ベース)
下限と上限はおよそ ±20% の幅で表示しています
【重要】本シミュレーションについて
  • 本結果はお客様が入力した数値を機械的に計算した参考値です
  • 採用する評価方法・前提条件により、結果は大きく異なります
  • 本結果は税務申告・相続評価・正式な企業価値評価には使用できません
  • 正式な評価・税務相談は税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください
  • 挙動に異常を発見されたら 大変お手数ですが、 お問い合わせフォーム または info@jfsc.jp までご連絡ください。ご利用環境(ブラウザ・拡張機能・通信状況)や CSS・JavaScript の誤作動などにより、表示崩れ・計算結果の不正確化・操作不能等が生じる場合があります(例:金額が初期値のまま動かない/スライダーが反応しない/レイアウトが崩れる/ボタンが押せない 等)。お知らせいただいた内容は速やかに修正いたします。

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GOOGLE PAGESPEED INSIGHTS(実測値・自動更新)
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出典:Google PageSpeed Insights API(1日1回キャッシュ更新)

CITATIONS / 計算方法の根拠

本ツールが採用する計算方法の出典

本ツールに実装した3手法(類似会社比較法・純資産法・DCF法)はいずれも、中小企業庁『中小M&Aガイドライン第3版』(2024年8月改訂)および公認会計士協会等の公的文書で言及されている標準的な企業価値評価手法です。

① 類似会社比較法(マルチプル法)

上場類似会社のEBITDA倍率を参照し、対象企業のEBITDAに乗じて企業価値を概算する手法。中小M&A実務で最も広く用いられる。

② 純資産法(時価純資産+のれん)

時価純資産に営業利益のn年分を「のれん」として加算する、中小M&Aで定着した実務手法(年買法/年倍法とも呼ばれる)。

③ DCF法(割引キャッシュフロー法)

将来のフリーキャッシュフローを、加重平均資本コスト(WACC)で現在価値に割引いて企業価値を算出する、世界標準のインカムアプローチ手法。

④ 法的位置づけ・ガイドライン遵守

📚 APPENDIX:企業価値評価の手法・法令・実務論点

本ツールの計算手法・業界実務・関連法令の詳細解説をまとめました。M&A 実務での判断材料としてご活用ください。

A-1. 類似会社比較法(マルチプル)の根拠と計算式

要するに? — M&A 企業価値評価で「同業上場企業の株価倍率」を参考に試算する手法です。中小M&Aガイドライン第3版でも主要手法として位置づけられています。

類似会社比較法は、評価対象企業と類似した上場企業の株価倍率(マルチプル)を参照し、対象企業の企業価値を評価する手法です。相続税評価や事業承継における株価算定に用いられ、中小M&Aガイドライン第3版でも主要評価手法として位置づけられています。

相続税法の基本的考え方では、「評価会社と事業内容が類似する上場企業(類似業種)の株価」を基準に、評価会社の配当金額、利益金額、純資産価額を類似業種と比較して調整します。計算式は以下の通りです:

評価額 = 類似業種の株価 × (A+B+C)÷ 3 × 斟酌率(しんしゃくりつ:会社規模に応じた評価の割引率)

ここで A=配当金額の比較、B=利益金額の比較、C=純資産価額の比較を示します。斟酌率は会社規模によって異なり、大会社は0.7、中会社は0.6、小会社は0.5が適用されます。

本手法は、市場データに基づいており、業界平均のマルチプル(株価倍率、企業価値を測る指標)水準を活用するため、比較対象企業の選定が重要です。評価対象企業と同業種の上場企業を複数社選定し、営業利益率、成長率、営業キャッシュフロー特性が類似していることを確認する必要があります。東証上場企業の業種別データは、定期的に統計情報として公表されており、こうした一次情報に基づいた評価が求められます。

本手法の適用条件は、①類似業種の上場企業が存在すること、②営業内容や規模が相当程度類似していることが挙げられます。適用外となる場合は、純資産法やDCF法への併用判断が必要です。

出典

A-2. 純資産法(簿価・時価)の根拠と計算式

要するに? — 貸借対照表の純資産(資産から負債を引いた額)を発行株数で割って 1 株価値を出す手法です。簿価方式と時価方式があります。

純資産法は、企業の総資産から総負債を控除した残額(純資産)を発行済株式数で除して評価額を算出する手法です。相続税法における非上場株式評価の基本方式として法定されており、中小企業の事業承継税制でも広く活用されています。

本手法には、簿価ベースの「簿価方式」と時価評価による「時価方式」の2つがあります。簿価方式は、会計帳簿上の資産・負債額をそのまま使用し、計算が簡便という利点があります。一方、時価方式は、評価時点における資産の現在価値を評価し直すもので、特に含み損益が生じている不動産や有価証券の場合に差が大きくなります。

計算式(簿価方式):
企業価値 =(総資産 − 総負債)÷ 発行済株式数

計算式(時価方式):
企業価値 =(総資産の時価 − 総負債)÷ 発行済株式数

法人税法第69条および会社法第441条では、純資産の定義が示されており、相続税法施行令第32条で非上場株式の評価方法として明記されています。時価評価を行う場合、土地は相続税評価額、建物は固定資産税評価額を基準とする方法が一般的です。また、売却予定資産については実際の売却見積額を採用することが適切です。

本手法は、赤字企業や利益変動の大きい企業の評価に適しており、資産構成が企業価値決定要因となる業種(不動産賃貸業、金融業など)で活用されます。ただし、のれんや営業権などの無形資産は計上されない点に留意が必要です。

出典

A-3. DCF法(簡易/詳細)の根拠と WACC 構成

要するに? — 将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて企業価値を出す手法です。割引率 WACC の設定が評価額を左右します。

DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)は、企業が将来生み出すキャッシュフローを現在価値に割り引き、企業価値を評価する手法です。中小M&Aガイドライン第3版では、収益性が高く成長性が見込まれる企業の評価に適した手法として位置づけられています。

本手法の基本原理は、「企業の価値 = 将来キャッシュフローの割引現在価値」です。計算式は以下の通りです:

企業価値 = ∑[t=1 to n](フリーキャッシュフロー ÷ (1+WACC)^t)+ 継続価値 ÷ (1+WACC)^n

ここで、フリーキャッシュフロー(FCF)は、営業キャッシュフロー − 設備投資 で算出します。継続価値は、予測期間終了後の企業価値を示し、通常は永久成長率(1-3%程度)を用いて計算されます。

WACC(加重平均資本コスト)の構成:

WACC =(自己資本比率 × 自己資本コスト)+(負債比率 × 負債コスト × (1−実効税率))

自己資本コスト(Re)は、CAPM(資本資産評価モデル)で算出されます:

Re = 無リスク利率 + マーケットリスクプレミアム × ベータ

無リスク利率は通常、10年国債利回りを参照し、マーケットリスクプレミアムは過去データから5-7%程度が一般的です。ベータは、評価対象企業のリスク水準を示す係数で、業種平均や比較可能企業のデータを活用します。

簡易DCFと詳細DCF:

簡易DCFは、過去数年の平均FCF(フリーキャッシュフロー、企業が自由に使える現金)を基に計算する単純な方法で、中小企業の初期評価に適しています。詳細DCFは、事業セグメント別に複数年の詳細予測を行い、シナリオ分析(ベース/上振れ/下振れケース)を含めた精密な評価です。事業計画の信頼度により使い分けが必要です。


▶ この計算手法を kabuka-sim で実際に試す(類似会社比較法・純資産法・DCF の 3 手法を横断比較できます)

出典

B-1. 中小M&Aガイドライン第3版での評価方法言及

要するに? — 中小企業庁ガイドライン第3版は、類似会社比較法・純資産法・DCF の 3 手法を標準として提示しており、複数手法の併用を推奨しています。

中小企業庁が2024年8月に改訂した「中小M&Aガイドライン第3版」では、中小企業のM&A時における企業価値評価について、より詳細な指針を示しています。本ガイドラインは、売り手企業のオーナー、M&A仲介者・FA、買い手企業向けのそれぞれの立場から、適切な評価実務を促進することを目的としています。

ガイドラインでは、評価方法として類似会社比較法、純資産法、DCF法の3手法を標準的な手法として提示しています。評価対象企業の規模・業種・事業特性に応じて、これら複数手法を組み合わせることで、より合理的な評価額の導出が期待されます。

特に第3版では、M&A仲介業者・FAの行動規範が強化されており、以下の点が強調されています:①評価方法の選択根拠を明確に説明すること、②複数の評価手法を適用し、その結果の乖離度を報告すること、③売り手・買い手双方に対して、評価額の根拠となる前提条件(成長率仮定、割引率等)を開示すること。

売り手オーナーに対しては、「企業価値評価額は参考値であり、実際の譲渡額は市場交渉によって決定される」という重要な認識が示されています。評価額と実取引価格の乖離は一般的であり、2,000万円のSME企業では±500万円程度の幅が想定されることが記述されています。

買い手企業に対しては、単一の評価手法に依存せず、複数手法による検証を通じた慎重な判断が求められます。また、デューデリジェンス結果の反映、譲渡後統合(PMI)コストの加味といった、評価後の実務段階へのつながりが重視されています。

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B-2. 経営者保証ガイドラインと株価への影響

要するに? — 経営者保証が残ったままだと買い手が 5-15% の減額調整を入れる傾向があるため、M&A 前の保証解除が譲渡額に効きます。

経営者保証に関するガイドライン(金融庁・中小企業庁策定、2013年12月制定)は、M&A時における経営者の保証解除と企業価値評価に重要な関連を持ちます。経営者保証が存在する場合、買い手にとって追加リスクとなり、譲渡額の減額圧力が生まれることになります。

経営者保証解除の3要件は、①経営と個人財産の分離、②企業の財務体質強化、③適切な財務情報開示です。これらを満たすことで、買い手の不安が低減され、譲渡額への悪影響を回避できます。具体的には、経営者保証が解除されている場合と比較して、保証が残存している場合は、買い手が織り込むリスク調整により、譲渡額が5-15%程度低下する傾向が観察されています。

相続税法および事業承継税制との関係では、経営者保証の状態が純資産法での評価額に影響を与えることがあります。特に、経営者が個人で企業に対して貸付金を有しているケース、または経営者個人の負債を企業が支援しているケースでは、これらを明確に分離することが評価の透明性を確保します。

M&A仲介実務では、売り手オーナーに対して、M&A開始前の数年以内に経営者保証解除に向けた行動を起こすことが推奨されます。これにより、譲渡交渉時に買い手の説得材料となり、より有利な条件獲得につながります。経営者保証がある状態での評価額は、保証解除後の評価額と比べて割引が適用される可能性が高いため、時間的余裕がある場合は解除手続きを優先するべき施策です。

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B-3. 事業承継税制と評価額

要するに? — 特例事業承継税制を使う場合、相続税評価額と M&A 譲渡額が異なるため、事前に両方の数字を把握して交渉に臨む必要があります。

特例事業承継税制(法人版)は、非上場企業の後継者が株式を贈与または相続で取得する際、相続税・贈与税の納税を猶予する制度です。2024年度も対象が大幅に拡大され、より多くの中小企業が活用できる環境が整備されています。

本制度と企業価値評価の関連は、相続税申告における評価額決定に直結します。相続税法施行令では、非上場株式の評価方法として、①類似業種比準価額、②純資産価額、③配当還元価額の3手法を規定しており、特例事業承継税制の対象となる株式も同様の評価方法が適用されます。

評価額決定の重要ポイントは以下の通りです:

①評価時点の設定:相続発生日(または贈与日)時点での企業の経営状態・財務状況を基準に評価します。最近のM&Aでは、譲渡日直前の企業価値を基にするため、税務評価と異なる場合があります。

②含み損益の処理:時価方式を採用する場合、含み損がある資産(例:取得価額より時価が下がった不動産)について、相続税評価額への減額調整が可能です。これにより、評価額を圧縮する余地が生まれます。

③会社規模の判定:斟酌率や評価方法の選択は、総資産額、取引金額、従業員数に基づく会社規模区分によります。大会社・中会社・小会社に区分され、小会社では0.5の斟酌率が適用されるため、評価額が低くなる傾向があります。

特例事業承継税制を活用する場合、事前に相続税評価額を把握し、譲渡額との差異を理解した上でM&A交渉に臨む必要があります。また、税務申告期限までに相続税申告書の提出が必須要件となるため、スケジュール管理が重要です。


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C-1. 役員退職金の取り扱い

要するに? — 退職給与引当金の計上有無で評価額が変わります。経営者が間近に引退する場合、退職金分を企業価値から控除する処理が必要です。

役員退職金は、経営者が引退する際に企業から支給される退職給与です。評価時点での役員退職金の計上有無は、企業の純資産額と利益に大きく影響するため、M&A時の評価において慎重な検討が必要です。

評価実務では、役員退職金を処理する主な方法として以下の2パターンがあります:

①退職金を計上しない方法:企業の貸借対照表上に退職給与引当金を計上していない場合、評価時点で役員退職金を支払う意思がないものと判断し、企業価値を圧縮しません。この場合、売却後に新経営陣が退職金を支給するかどうかは買い手の判断となります。

②退職金を計上する方法:評価時点で役員退職金が確実に支払われることが見込まれる場合、企業資産から退職金額を控除します。通常、定年時の給与2-3年分が目安とされていますが、実際の支給条件により異なります。退職金を企業が支払う場合、税務上は法人税法34条により経費化が認められる要件が厳密に定義されており、給与・賞与との関係で過度な金額はリスクとなります。

評価額への影響の具体例として、年間給与1,000万円の経営者が退職する際、退職金3,000万円を支給する場合、純資産法では企業の純資産が3,000万円減少するため、評価額が大きく下がります。一方、DCF法では、退職金をキャッシュアウトフローとして組み込むことで、企業価値に織り込みます。

税務上の留意点として、役員退職金は法人税法上の「退職所得控除」(給与年数×40万円など)の要件に注意が必要です。過度な退職金は過去3年間の給与との関係で「不適当な給与」と判定される可能性があり、修正申告リスクが生じます。

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C-2. 個人資産・個人借入の分離

要するに? — 個人所有不動産・個人借入を企業資産から明確に分離しないと、買い手が 20-30% の減額調整を入れる傾向があります。

中小企業、特に一族経営企業では、経営者個人の資産と企業資産の区別が曖昧になりやすくなります。M&A評価時には、個人資産・個人借入を企業資産から明確に分離することが不可欠です。

個人資産の典型例:

評価実務では、これらの個人資産を純資産法での計算から除外します。また、個人所有不動産を企業が賃借している場合、適切な賃貸借契約に基づく家賃支払いが会計上明記されていることが重要です。そうでない場合、買い手が追加の家賃支払い義務を負う可能性があり、評価額から差し引かれます。

個人借入の処理:

これらのケースでは、企業の貸借対照表上の負債から個人借入を除外し、実質的な企業負債のみで評価額を算出する必要があります。経営者保証ガイドラインでは、「経営と個人財産の分離」を経営者保証解除の第1要件として位置づけており、M&A前の整理が強く推奨されます。

分離が不十分な場合、買い手は以下の懸念を持ちやすくなります:①実際の営業キャッシュフロー不明、②個人資産に依存した経営の継続性不安、③買収後の個人借入引継ぎリスク。結果として、評価額から10-20%の割引が適用される傾向があります。

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C-3. 含み損益ある資産の評価

要するに? — 不動産・有価証券・機械装置の含み損益を時価評価で反映させると、純資産法と他手法の評価額に乖離が生じる場合があります。

企業の貸借対照表に計上される資産の中には、取得時の簿価と現在の市場価値が大きく異なる場合があります。特に、不動産、有価証券、機械装置などについて含み損益が生じている場合、純資産法での評価額に大きな影響を与えます。

不動産の含み損益処理:
固定資産として計上されている不動産について、購入時の簿価が1億円であっても、現在の時価が8,000万円に下落している場合、純資産法では時価の8,000万円を採用します。相続税評価では、国税庁が定める「路線価」に基づく評価額が基準となります。純資産法適用時には、不動産鑑定士による鑑定評価書を取得し、客観的な時価を確立することが望ましいです。

有価証券の含み損益:
保有している上場株式について、取得時点で1株2,000円(100株保有で200万円)であっても、現在の価格が1,500円に下落している場合、評価時点での時価150万円で評価します。含み損は、企業の実質的な資産価値減少を反映するため、必ず評価に反映させる必要があります。

機械装置・在庫の評価:
製造業では、古い機械装置が簿価では数千万円でも、市場での売却価格はわずかという事態が生じます。機械装置の時価は、通常その製造年数、稼働率、業界での相場に基づき、専門家による評価が必要です。在庫についても、陳腐化・不良在庫の存在を踏まえ、売却可能な市場価値での評価が正確です。

含み損が大きい場合、売り手企業の純資産法評価額は大幅に圧縮されます。これが理由で、同じ企業でも類似会社比較法やDCF法よりも純資産法の評価額が低くなる場合があります。こうした場合、複数の評価方法による検証の重要性が明らかになります。

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C-4. のれん代の妥当性

要するに? — のれん代は買収価額が純資産を上回る部分です。買収価額の 30% を超える場合は複数の算定方法で根拠検証が必要です。

のれん代(商誉、Goodwill)は、買い手が企業を買収する際に、企業の純資産額を上回って支払う部分です。超過利益力、ブランド価値、顧客基盤、従業員の技能などの無形資産を反映します。のれんの算定方法と税務上の扱いは、M&A後の利益・税負担に大きく影響するため、慎重な検討が必要です。

のれん代の算定方法:

超過利益法:企業が生み出す営業利益が業界平均を上回る部分に対して、一定期間分の超過利益をのれんとして計算します。例えば、業界平均営業利益率が5%である業種で、評価企業が営業利益率8%を実現している場合、その3%分の超過利益が複数年続くと見込まれる場合、その現在価値をのれんとします。

利益耕作法:企業が蓄積してきた利益を資本化して計算する方法です。過去5年間の平均営業利益が5,000万円である場合、これを一定の資本化率(通常10-15%)で除して、のれん代を算出します。

市場比較法:類似企業のM&A取引でのれんがどの程度支払われたかを参考に、業界水準のEV/EBITDA(利払い・税引・減価償却前利益)倍数などを活用して逆算します。

税務上の取扱い:
のれん代は、法人税法上「営業権」として資産計上し、一定期間にわたって償却することが認められています。償却期間は通常5年とされ、年間の減価償却費として経費化されます。のれんが過度に大きい場合、税務署から「過剰なのれん計上」と指摘され、減額更正される可能性があります。

実務では、のれん代が買収価額の30%を超える場合は、複数の算定方法で検証し、根拠を明確にすることが推奨されます。また、買収後の実績がのれんの前提となった利益想定を下回る場合、減損会計によるのれんの一部または全部償却が発生し、買い手側の決算利益が大きく毀損する可能性があります。


▶ この計算手法を kabuka-sim で実際に試す(類似会社比較法・純資産法・DCF の 3 手法を横断比較できます)

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D-1. WACC は何で決めるべきか

要するに? — WACC は CAPM で算出する自己資本コストと借入金利による負債コストの加重平均です。±1% のずれが企業価値を大きく動かすため複数シナリオ検証が必要です。

WACC(加重平均資本コスト)は、DCF法で企業キャッシュフローを割り引く際の割引率であり、企業価値評価の精度を左右する最重要要素です。WACC決定の誤りは、企業価値を数億円規模で誤らせる可能性があります。

WACC算定の基本構成:

WACC = (E/V × Re)+(D/V × Rd × (1−Tc))

ここで、E=自己資本価値、D=負債価値、V=企業全体価値、Re=自己資本コスト、Rd=負債コスト、Tc=実効税率です。

自己資本コスト(Re)の決定方法:

CAPMを用いて計算されます。Re = Rf + β(Rm − Rf)

Rf(無リスク利率):通常10年国債利回りを採用します。2024年時点で日本は0.5-1.0%程度です。

β(ベータ):企業のリスク水準を示す係数で、①業界平均ベータを採用、②比較可能企業(上場同業社)の実績ベータを参照、③評価企業の事業リスク・財務リスク評価に基づき調整、のいずれかの方法で決定します。中小企業の場合、上場企業のベータを調整する方が一般的です。

Rm − Rf(マーケットリスクプレミアム):株式市場全体のリスク負荷の期待値であり、過去データから5-7%程度が標準的です。ただし、経済見通しにより3-8%の幅で変動します。

負債コスト(Rd)の決定方法:

企業の借入金の加重平均利率を採用するのが一般的です。銀行融資金利が2%、社債が1.5%である場合、融資額・社債額の比率で加重平均を求めます。信用スプレッド(同業他社との金利格差)も考慮が必要です。

実務では、WACCの決定に際して複数シナリオ分析(ベース/強気/弱気)を行い、WACCの±1%変化がもたらす企業価値への影響(感度分析)を把握することが推奨されます。

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D-2. 税効果はどう加味するか

要するに? — 法人税の実効税率(東京都で約 30%)を反映してフリーキャッシュフローを計算します。繰越欠損金の有無で評価額が変動します。

税効果会計は、企業の実際の税負担を反映した評価を実現するための重要な調整です。特にDCF法では、フリーキャッシュフローを計算する段階で、税効果の取り扱いが評価額を大きく左右します。

税効果調整の基本:

企業が生み出すEBIT(税引前営業利益)から、法人税・地方税を控除した税引後利益がキャッシュフロー源泉となります。法人実効税率は国・県・市町村の税の合計であり、2024年時点で約30%(東京都など)が標準値です。

計算例:EBIT 1億円、実効税率30%の場合
税引後キャッシュフロー = 1億円 × (1−0.30) = 7,000万円

評価時点での税務ポジション確認:

繰越欠損金の有無:過去の赤字で繰越欠損金がある場合、将来の黒字とオフセット可能です。繰越欠損金が5,000万円ある場合、その分だけ法人税負担が軽減されるため、フリーキャッシュフローが増加します。ただし、M&Aに伴う経営者変更により、繰越欠損金の使用制限が生じる可能性があり、買い手による制限株式比率判定が必要です。

未処理損失・引当金の状態:決算時に計上された貸倒引当金、返品調整引当金などが、税務上損金算入可能か否かを確認します。税務上認容されない引当金は、逆算して益金加算されるため、実効税率が上がります。

減価償却・その他租税特別措置:設備投資減税、研究開発減税などが適用されている場合、これらが買収後も継続するかどうかを確認します。M&A後の経営方針変更により、これらの特典が失われる可能性があります。

シナリオ分析での税効果反映:

ベースケース(保守的な利益予想)、アップサイドケース(成長加速)の複数シナリオでDCFを計算する際、各シナリオでの利益水準に応じた実効税率の変化(繰越欠損金の枯渇など)を反映することが正確です。

出典

D-3. 黒字でない場合の DCF はどうなるか

要するに? — 赤字企業の DCF は、ターンアラウンド計画の信憑性を厳密に検証するか、純資産法に重きを置く判断が現実的です。

赤字企業または利益が不安定な企業では、DCF法の適用に際して特別な検討が必要です。将来キャッシュフローを見積もることが困難なため、評価額決定が複雑化します。

赤字企業のDCF適用方針:

ターンアラウンド計画の信憑性確認:赤字企業であっても、具体的なターンアラウンド計画(新商品投入、コスト削減、市場拡大など)がある場合、DCFの適用が可能です。この場合、経営陣へのインタビュー、競争環境分析、業界データとの対比により、計画の実現可能性を厳密に検証する必要があります。

正常利益への調整:赤字決算が一時的要因(景気後退、一度限りのコスト負担)による場合、「正常化後の営業利益」を推定し、それを基にDCFを計算する方法があります。例えば、3年連続赤字だが、過去10年の平均営業利益率が5%である場合、その5%を適用した正常利益を基に計算します。

純資産法への転換判定:赤字が恒常的で、ターンアラウンド計画の根拠が薄弱な場合、DCF法の適用を放棄し、純資産法に重きを置く判断が現実的です。特に資産構成が企業価値を決定する業種(不動産賃貸業など)では、純資産法単独適用となります。

利益変動が大きい場合の対応:

過去5年間の営業利益が「2,000万円→−1,000万円→3,000万円→−500万円→1,500万円」のように変動する企業では、単年度の利益データに基づくDCFは信頼性を欠きます。複数年の平均値(加重平均または移動平均)を採用し、変動性を評価モデルに組み込むことが必要です。

ベンチャー企業・成長初期企業の評価:

現在赤字だが、将来高い成長が見込まれる企業の場合、最初の3-5年は赤字を見込み、その後の高成長期のキャッシュフロー期待値を重くするシナリオ分析が採用されます。ただし、こうした企業のDCF評価は不確実性が極めて高いため、複数手法(マイルストーン法、類似企業比較など)による相互検証が必須です。

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D-4. 業界平均マルチプルの参照先

要するに? — 業界マルチプルは東証公表データ・国税庁類似業種比準価額表など、公的一次情報を参照するのが正確です。

類似会社比較法(マルチプル方式)を適用する際、比較対象となる業界マルチプルの取得元が評価精度を左右します。信頼度の高い一次情報源から、複数のマルチプルを参照することが正確な評価につながります。

公式・公開データベース(信頼度最高):

東証(日本取引所グループ)のデータ:上場企業の時価総額、PER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)が業種別・規模別に定期公表されています。これらは最も客観的で信頼度が高いデータです。

国税庁の「類似業種比準価額表」:非上場企業の相続税評価用に、毎年国税庁が公表する業種別マルチプルです。租税実務の標準値として広く活用されています。

金融データベース:上場企業の詳細財務情報とマルチプルが集約されており、EV/EBITDA、EV/売上高などの複数指標が参照可能です。

業界協会・研究機関のデータ:

各業界団体(機械工業会、流通関連団体など)が定期的に業界統計を発表しており、営業利益率、ROE などの業界平均指標が参照できます。ただし、これらは企業価値評価用には直接的でないため、マルチプル計算時の補助データとして活用されます。

専門家による見積値(参考値):

不動産業、医療法人、農業法人など、上場企業が少ない業種では、専門家による見積マルチプルが提示される場合があります。複数の専門家見積値を集約し、妥当な範囲を確定することが重要です。

重要な留意点:

マルチプルは、企業の規模・成長率・リスク水準によって大きく異なります。同じ「サービス業」でも、高成長ベンチャー企業と成熟企業では、PERが5倍以上異なることが一般的です。したがって、単に「業界平均マルチプル」を適用するのではなく、評価対象企業の成長率・利益率・リスク特性を比較対象企業と照合し、斟酌率や調整係数を適用することが必須です。

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D-5. 役員退職金は加味するか

要するに? — 役員退職金は評価手法ごとに織り込み方が違います。売却後も経営者が在籍するかどうかで処理が分かれます。

前出の「C-1. 役員退職金の取り扱い」と関連しますが、評価プロセスで役員退職金をどの段階で織り込むかは、評価手法により異なります。

純資産法での処理:

純資産法では、評価時点での確定負債として役員退職金を計上するのが標準です。経営者が間近に引退予定で、退職金支給が確実と見込まれる場合、企業の純資産から退職金額を控除します。一方、経営者が若く当面引退予定がない場合、退職給与引当金の計上有無で判断が分かれます。貸借対照表上、退職給与引当金が計上されている場合は、その額を採用し、計上されていない場合は、潜在負債として別途推定する必要があります。

DCF法での処理:

DCF法では、役員退職金を現金流出として将来キャッシュフロー予測に組み込みます。例えば、5年後に経営者が引退し、3,000万円の退職金を支給する場合、5年目のキャッシュフロー予測において、この3,000万円をマイナスに計上します。永続価値(継続価値)計算時には、新経営体制下での退職金支給パターンを仮定し、通常の給与水準での退職給与引当金を考慮します。

類似会社比較法での処理:

類似会社比較法では、役員退職金は通常、利益計算時に損金算入済みのため、特別な調整を加えません。ただし、評価企業と比較企業の役員報酬体系が大きく異なる場合(評価企業が退職金を支給していない場合など)、正常利益への調整が必要です。

実務上の判定基準:

M&A実務では、以下の原則が適用されます:

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D-6. 個人資産・借入の取り扱い

要するに? — 個人資産・借入は企業の貸借対照表から明確に分離し、純資産計算で除外します。買い手の不確実性を下げる効果があります。

個人資産・個人借入の分離は、前出「C-2」と重複する部分がありますが、評価プロセス全体での扱い方をより詳細に説明します。

評価実務での個人資産除外の手順:

貸借対照表ベースでの識別:企業の貸借対照表上に計上されている個人所有物件(社用車、重機、不動産など)、経営者への貸付金、個人が企業に立て替えた費用などを列挙します。

個人所有不動産の扱い:企業が使用している本社ビルが経営者個人所有で、企業が賃借している場合、その賃借料が適切に支払われているかを確認します。市場相場より低い家賃設定の場合、実質的には経営者が企業に「寄付」している状況になります。評価時には、市場相場への調整を検討し、DCF法での利益予測に反映させます。

個人借入金の処理:経営者が個人的に借り入れた資金が企業に流入している場合、その借入金を企業の負債から除外します。例えば、経営者が銀行から5,000万円を個人借入し、企業に投資している場合、その5,000万円は企業の負債ではなく、経営者の個人的な回収義務となります。

純資産計算への反映:純資産法を適用する際、企業の総負債から個人借入を控除し、実質的な企業負債のみで純資産を計算します。

DCF法への影響:

個人資産・借入の分離がDCF法に影響するのは、将来キャッシュフロー予測の段階です。個人所有不動産を借りている場合、買い手がその不動産を取得する予定であれば、家賃支払いが不要になり、キャッシュフロー改善が見込まれます。逆に、不動産を取得できない場合は、市場相場の家賃支払いが継続するため、現利益から減少することになります。

買い手の視点:

買い手にとって、個人資産・借入が明確でない企業は、買収後の不確実性が高まります。個人所有不動産の継続使用可能性、個人借入の返済責任などが曖昧な場合、買い手は評価額から20-30%の割引を実施する傾向があります。

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D-7. 含み損益ある不動産の評価

要するに? — 不動産の時価評価には不動産鑑定士による鑑定・路線価・固定資産税評価額の 3 つの方法があります。含み損益が大きいほど純資産法が他手法と乖離します。

不動産を保有する企業(製造業の本社ビル、不動産賃貸業など)では、含み損益の大小が企業価値評価に極めて大きな影響を与えます。評価実務での不動産評価方法を詳述します。

不動産の時価評価方法:

不動産鑑定士による鑑定評価:最も信頼度が高い方法です。鑑定評価書では、①原価法(再調達原価−減価償却)、②比較法(類似物件の取引事例との比較)、③収益法(将来の賃料収入の現在価値化)の3手法が用いられ、最終的な鑑定評価額が決定されます。費用は一件15-30万円程度です。

相続税評価額の参照:国税庁が定める「路線価」に基づく相続税評価額を採用する方法です。路線価は毎年7月に公表され、簡易的で客観性が高いです。ただし、個別要因(接道状況、形状の不整)により市場価値とズレが生じる可能性があります。

固定資産税評価額の調整:固定資産税評価額は路線価より低く設定されており、これに0.7-1.3倍の調整係数を乗じて概算評価額を求める方法もあります。M&A初期段階での概算評価に用いられます。

含み損のケース:

バブル期に5億円で購入した商業ビルが、現在の市場価値2億円に下落している場合、簿価5億円から時価2億円への3億円の含み損が生じています。純資産法で時価評価を採用する場合、この3億円の含み損が企業の純資産を圧縮します。

含み損が大きい企業の場合、①純資産法の評価額が低くなり、②類似会社比較法やDCF法との乖離が大きくなり、③買い手は複数評価手法の平均値よりも、含み損を反映した純資産法の値により重きを置く傾向があります。

含み益のケース:

逆に、購入時1億円の不動産が現在5億円の価値を持つ場合、含み益4億円が生じています。ただし、評価企業が賃貸不動産企業でなく、単に社屋として保有している場合、この含み益は経営利益とは別の資産価値であり、企業価値評価では慎重な扱いが必要です。買い手がその不動産を売却する意思がない場合、含み益の評価は限定的となります。

税務上の留意点:

含み損がある不動産を売却する場合、企業側が損失を計上することで、法人税軽減が期待できます。逆に含み益を実現する場合、譲渡益課税が発生します。買い手が取得後に当該不動産を売却予定の場合、売却益に対する税負担を評価額から差し引く調整が行われます。

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D-8. のれん代の上限

要するに? — のれん代は EV/EBITDA 倍数や利益倍数で適切な範囲を判定します。15 倍超は減損リスクが高まります。

のれん代(商誉)の適切な範囲についての判定基準は、業界慣行、企業の収益性、買い手のリスク許容度など複数要因により異なります。実務的な目安を示します。

のれん代が適切な範囲:

EV/EBITDA倍数での判断:業界別の標準的なEV/EBITDA倍数が4-8倍である業種で、評価企業が8-10倍程度の倍数で取引される場合、のれん代は純資産額の10-30%程度が標準的です。倍数が15倍を超える場合、のれん代が企業価値全体の40%以上となり、リスクが高まります。

利益倍数での判断:過去3年の平均営業利益が1,000万円である場合、のれん代が営業利益の5-10年分(5,000-10,000万円)であれば標準的です。20年分以上ののれん代は、買い手が想定する利益回収期間が極めて長く、リスクが高いと判定されます。

業界・事業特性による判断

のれん代が過度と判定されるケース:

①買収価額(のれん込み)が、類似企業の平均EV/EBITDAの大幅に上回る場合、②買収後の利益改善計画が根拠薄弱で、現状利益との乖離が大きい場合、③買い手の支払能力を超える金額の場合などが挙げられます。

こうした場合、のれん代は買収後3-5年以内に減損会計により一部または全部償却される可能性があり、買い手側の決算利益が大きく毀損します。

税務上の注意:

のれんが過度に大きいと、税務署から「不合理な価額での取引」と指摘され、相応額の減額更正が行われる可能性があります。また、のれん代償却中に企業業績が大幅に悪化した場合、のれんの減損が法人税申告で認められにくい傾向があります。

実務的な推奨事項:

複数の評価手法によるのれん代算定値が著しく異なる場合(超過利益法で5,000万円、利益耕作法で2,000万円など)、その乖離の根拠を明確にし、どの方法が最も合理的かを検証することが重要です。

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D-9. 試算と実際の取引価格の乖離

要するに? — 評価額と実取引価格の乖離は常態です。複数買い手による競争・経営者継続在籍の条件化で取引価格を上げられます。

企業価値評価額と実際のM&A取引価格が異なることは、むしろ常態であり、その乖離の原因と背景を理解することが、売り手にとって有利な交渉につながります。

乖離が生じる主要因:

市場メカニズム:評価額は「合理的な」企業価値を示す参考値に過ぎず、実際の取引価格は売り手と買い手の需給バランスによって決定されます。複数の買い手が競争入札する場合、評価額を上回る取引価格が形成される傾向があります。逆に買い手が限定される場合、評価額から割引が生じます。

買い手の戦略的価値判断:買い手が評価対象企業を自社事業の補完、顧客基盤拡大、市場参入の手段と見なす場合、純資産法の評価額よりも高い価格を提示することがあります。この場合、買い手にとってのシナジー価値(統合効果)がのれん代に含まれます。

売り手の事業継続意思と時間軸:売り手が事業継続を望まず、早期売却を希望する場合、評価額より低い取引価格で合意することがあります。逆に、複数の買い手候補を比較検討する時間がある場合、相対的に高い価格での取引が実現しやすくなります。

デューデリジェンス結果の反映:買い手が実地調査(DD)を実施し、想定していなかった負債、訴訟リスク、顧客流出リスクなどを発見した場合、評価額から減額修正が行われます。中小企業では、十分な会計・税務記録がない場合、この減額幅が大きくなる傾向があります。

経営者の人的資本価値:評価対象企業の成功が特定の経営者の能力に大きく依存している場合、その経営者が売却後も在籍するかどうかで、買い手の評価が大きく変わります。経営者が引退する場合は評価額の割引、継続在籍を条件に報奨金が上乗せされることもあります。

乖離幅の実例:

中小M&Aガイドライン第3版では、「2,000万円の純資産を持つ企業の評価額は、類似会社比較法で2,800万円、DCF法で2,400万円、純資産法で2,000万円と異なる」との記述があります。この場合、実際の取引価格が2,200万円(純資産法との乖離−200万円)から3,200万円(シナジー価値を含む上振れ)の幅で形成される可能性があります。

売り手にとって有利な条件構築:

実際の取引価格を引き上げるには、①複数の買い手候補を並行検討、②経営者の買収後関与を条件化、③企業の成長性・顧客基盤の安定性を強調、④業界・市場の拡大トレンドの活用などが効果的です。

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D-10. 専門家相談のタイミング

要するに? — M&A の各段階(事前準備・評価・DD・交渉・申告)で適切な専門家への相談が、評価額の正確性と税務リスク回避につながります。

企業価値評価には、税務、会計、法務、M&A仲介など複数分野の専門知識が必要です。売り手オーナーが適切なタイミングで専門家に相談することで、評価額の正確性向上、税務リスク回避、有利な交渉条件の実現につながります。

事前相談段階(M&A開始 3-6か月前):

経営者が「売却を検討している」と決心した段階で、税理士・会計士に相談し、①過去3-5年の税務申告書・決算書の正確性確認、②隠れた税務リスク(脱税嫌疑、不適正な引当金計上など)の洗い出し、③個人資産・借入の分離準備、④経営者保証解除の可能性検討、などを実施することが推奨されます。この段階での相談が、後段の評価交渉を有利に進める基盤となります。

評価依頼段階(M&A本格開始時):

複数の評価専門家(M&A仲介業者、投資銀行系の評価会社など)に、独立した評価を依頼することが有効です。同じ企業でも、評価業者により類似会社比較法での対象企業選択が異なるため、評価額の幅が生まれます。複数意見を比較することで、より客観的な評価額の目線が形成されます。

デューデリジェンス段階(買い手候補決定後):

買い手の指定する会計・法務・税務事務所によるDD(デューデリジェンス、買収前の精査調査)が実施されます。売り手側も独立したアドバイザーを配置し、DD結果の正確性、買い手による過度な減額要求への対抗根拠を準備することが重要です。特に、DD報告書の指摘事項に対して、根拠ある反論書を提出することで、最終的な取引価格交渉で有利な立場を確保できます。

交渉段階(最終合意前):

売り手と買い手の評価額の乖離が生じた場合、独立系のM&A仲介業者や弁護士に「価格調整の根拠」を検証してもらい、合理的な妥協点を探ることが得策です。単に「この価格で妥協しろ」という買い手の要求に応じるのではなく、評価根拠に基づいた交渉が重要です。

税務・法務申告段階(取引成立後):

M&A成立後、譲渡所得税、消費税、法人税などの申告が必要です。売り手個人の譲渡所得税申告(譲渡益に対する所得税・住民税)、企業側の法人税申告(のれん償却の計上など)について、税理士の指導を受けることが不可欠です。節税機会を見落とすことで、数百万円単位の税負担増加が生じる可能性があります。

長期的なコンサルティング関係の構築:

一度M&Aが完了した後も、経営者が続投する場合や新事業を展開する場合、継続的な税務・会計アドバイスが必要です。売却代金の運用、再投資、個人資産管理など、M&A後の人生設計についても専門家の支援が重要です。


▶ この計算手法を kabuka-sim で実際に試す(類似会社比較法・純資産法・DCF の 3 手法を横断比較できます)

出典

業法遵守について:本ツールは中小M&Aガイドライン第3版の趣旨に沿って設計された参考シミュレーションです。JFSC は試算結果について評価・保証を行いません。税理士法・公認会計士法・不動産鑑定士法に抵触する具体的判断は行わず、必ず専門家へのご相談を推奨します。