M&A の業界記事は「M&A 後は同業を一定期間できない、それは当然のこと」と説明します。しかし弊社が現場で売り手のオーナー様と対話してきた経験では、「全国禁止・5年」を当然と思って署名した結果、引退後の第二のキャリアが大幅に狭まった というご相談が多発しています。実は 株式譲渡では法定義務ゼロ、株式譲渡契約書(SPA) 特約次第。6 要素判定で交渉余地が大きく、過大な特約は 民法 90 条(公序良俗)違反で無効 となる可能性もあります。本記事では、会社法 21 条と判例ベースで、売り手の交渉余地を整理します。
1. 「競業避止は当然の義務」は半分嘘
競業避止義務とは、M&A の売り手(旧オーナー)が、譲渡後に同種の事業を行うことを禁じる契約上の義務です。業界の解説記事の多くは「M&A 後は同業を一定期間できない、当然のこと」と説明しますが、これは半分嘘です。
正確な整理は以下のとおりです。
- 事業譲渡の場合:会社法 21 条 1 項により、同一/隣接市町村で 20 年間の法定義務
- 株式譲渡の場合:法定義務なし、SPA の特約次第
中小 M&A の多くは株式譲渡で行われるため、競業避止義務は SPA 特約の交渉 の問題です。「全国禁止・5 年」を当然と思って署名すると、引退後の第二のキャリア(顧問業・業界活動・講師業)が大幅に制約されます。逆に、過大な特約は 民法 90 条(公序良俗)違反で無効 となるリスクがあり、買い手にとっても望ましくありません。
本記事では、中小 M&A ガイドライン第 3 版と判例の 有効性 6 要素 を踏まえ、売り手の交渉余地を整理します。
引退後の人生設計を、まず整理する
競業避止特約の交渉は、引退後にどんな活動をしたいか(業界団体役員・顧問業・新規事業)を売り手が明確にしていないと判断できません。弊社の 自社把握度セルフチェック で、譲渡後の生活設計を整理いただけます。
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2. 通説論難 — 競業避止義務 4 つの誤解
誤解 1:「競業避止は会社法で 20 年義務」
会社法 21 条 1 項の 20 年の法定義務は 事業譲渡限定 です。同条 2 項は特約による最長 30 年を認めますが、これも事業譲渡の話です。
株式譲渡では法定義務はなく、SPA 特約次第 です。会社自体は変わらないため、会社法 21 条は適用されません。売り手としては「特約をどこまで認めるか」が交渉論点になります。
誤解 2:「30 年特約は普通/逆に 1 年で十分」
業界実務水準は 2 〜 5 年です。弊社は 2 年を標準としています。
長くしてほしいと買い手から頼まれる場合:弊社は「期間が長すぎるとブレイク(成約破談)の可能性が高まる」旨を伝えて 2 年程度に収めるよう交渉します。
短くしてほしいと売り手から頼まれる場合:「事業譲渡なら会社法 21 条 1 項で 20 年が法定です。記載しないと類似ルールが 主張される可能性 があります」と伝え、2 年程度ですり合わせをします。
5 年を超える特約は 公序良俗違反(民法 90 条)で無効 となるリスクが高まります。
誤解 3:「全国禁止が標準」
地理的範囲は判例上、「当該事業を行っていた地域」 が原則です。全国展開している企業のみ全国禁止が認められやすい傾向にあります。
地方中小企業の譲渡で全国禁止特約を結ぶと、引退後の活動を不当に制約することになり、公序良俗違反として無効となるリスクが高くなります。
誤解 4:「業界活動も全部禁止される」
これが最も売り手が見落とす論点です。競業会社への就職禁止 ≠ 業界活動禁止 です。
引退後に以下のような活動を希望する売り手は多くいらっしゃいます。
これらは「競業」とは別概念です。SPA 特約に「業界団体活動・顧問業・講師業は除外」と明記しないと、後日「競業に当たる」と買い手から主張されるリスクがあります。
そもそも、何のために M&A をするのか
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3. 弊社のスタンス — 競業避止義務 6 要素チェックリスト
判例が示す競業避止特約の有効性 6 要素を、売り手目線で整理しました。弊社は SPA 特約の交渉でこの 6 要素すべてを精査します。
| 要素 | 弊社の交渉ガイドライン |
|---|---|
| ① 守るべき企業の正当な利益 | 譲渡対象事業の直接競合のみに限定 |
| ② 義務を負う者の地位・職責 | 売り手オーナーのみ(家族・元従業員は別契約) |
| ③ 地理的制限 | 当該事業を行っていた地域に限定(全国禁止は要交渉) |
| ④ 存続期間 | 2 年が標準(5 年超は公序良俗違反リスク) |
| ⑤ 禁止される競業行為の範囲 | 「同一事業」を業種コードレベルで具体的に定義。業界団体活動・顧問業・講師業は除外明記 |
| ⑥ 代償措置 | M&A 対価が代償と解釈されるのが一般的。追加金は稀 |
業界活動・顧問契約はケースバイケース対応
業界団体役員のケースなど、売り手の 業界活動継続の要望 と買い手の 業界パイプを残してほしい要望 が一致することが少なくありません。弊社の運用は以下のとおりです。
- 業界活動継続を 契約書に明記 して入れる(「競業避止義務の例外」として列挙)
- 処遇の項目 をつけ、(アーンアウトではなく)役職員としてのインセンティブ(報酬を含む) を盛り込む
- 後で「言った言わない」が起きないよう、すべて契約書化
これにより、売り手は引退後の業界活動を確保しつつ、買い手は売り手のパイプを活用できる、Win-Win の構造が作れます。
弊社の運用方針
- SPA 特約の 6 要素を売り手目線で交渉
- 「業界活動禁止」と「競業会社禁止」を明確に区別
- 第二のキャリア(顧問・コンサル・講師)への影響を事前確認
- SPA 同様 意向ヒアリング → ひな形提供 → 売り手確認 で非弁行為リスク(弁護士法 72 条)を回避
- 顧問弁護士チェック必須推奨
競業避止特約の設計でお悩みの売り手オーナー様へ
引退後の業界活動継続、地理的範囲の交渉、業界団体役員のインセンティブ設計など、競業避止特約には個別の事情が大きく影響します。SPA 締結前にご相談いただくのが最も効果的です。
初回相談無料・秘密厳守・完全成功報酬制。中小企業庁 M&A 支援機関登録事業者・一般社団法人 M&A 支援機関協会(M&A 支援機関協会)正会員(特定事業者リスト閲覧資格保有)。
4. 数年後に振り返って気づくこと
「全国禁止・5 年でサインしてしまった」が、引退後の売り手オーナー様の典型的な後悔です。第二のキャリア(顧問業・業界活動・講師業)を狭めてしまい、引退後の生活設計が大きく変わってしまうケースが多くあります。
6 要素を理解した上で交渉すること。「業界活動禁止」と「競業会社禁止」を区別して特約に落とし込むこと。業界団体役員などのケースは契約書に明記し、処遇項目で役職員インセンティブを設計すること。これらが、引退後の第二のキャリアを守る核心です。
競業避止特約は「拘束」ではなく「引退後の人生設計」の問題です。何のために M&A をするのか、譲渡後にどう生きたいのか。この問いに答えてから特約を交渉することが、後悔のない事業承継の出発点です。
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免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件における法務・税務・会計判断を提供するものではありません。法務・税務・会計の個別判断は、弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください。M&Aのスキーム設計・タイミング・買い手探し等のアドバイザリーは、株式会社日本財務戦略センターにご相談ください。記載内容は公開時点の情報に基づき、法令改正や市場変動により最新の状況と異なる場合があります。
よくあるご質問(FAQ)
📅 本記事の情報基準日
本記事は 2026年4月25日 公開時点の情報に基づきます。税制・法令等は改正される場合があるため、最新の制度・税制は公的機関の公式情報をご確認ください。
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