2026.04.25 M&A実務

競業避止義務 — 会社法21条の射程と、売り手側の交渉余地(2年・地理的限定・業界活動の例外設計)

M&A の業界記事は「M&A 後は同業を一定期間できない、それは当然のこと」と説明します。しかし弊社が現場で売り手のオーナー様と対話してきた経験では、「全国禁止・5年」を当然と思って署名した結果、引退後の第二のキャリアが大幅に狭まった というご相談が多発しています。実は 株式譲渡では法定義務ゼロ株式譲渡契約書(SPA) 特約次第。6 要素判定で交渉余地が大きく、過大な特約は 民法 90 条(公序良俗)違反で無効 となる可能性もあります。本記事では、会社法 21 条と判例ベースで、売り手の交渉余地を整理します。

1. 「競業避止は当然の義務」は半分嘘

競業避止義務とは、M&A の売り手(旧オーナー)が、譲渡後に同種の事業を行うことを禁じる契約上の義務です。業界の解説記事の多くは「M&A 後は同業を一定期間できない、当然のこと」と説明しますが、これは半分嘘です。

正確な整理は以下のとおりです。

中小 M&A の多くは株式譲渡で行われるため、競業避止義務は SPA 特約の交渉 の問題です。「全国禁止・5 年」を当然と思って署名すると、引退後の第二のキャリア(顧問業・業界活動・講師業)が大幅に制約されます。逆に、過大な特約は 民法 90 条(公序良俗)違反で無効 となるリスクがあり、買い手にとっても望ましくありません。

本記事では、中小 M&A ガイドライン第 3 版と判例の 有効性 6 要素 を踏まえ、売り手の交渉余地を整理します。

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競業避止特約の交渉は、引退後にどんな活動をしたいか(業界団体役員・顧問業・新規事業)を売り手が明確にしていないと判断できません。弊社の 自社把握度セルフチェック で、譲渡後の生活設計を整理いただけます。

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2. 通説論難 — 競業避止義務 4 つの誤解

誤解 1:「競業避止は会社法で 20 年義務」

会社法 21 条 1 項の 20 年の法定義務は 事業譲渡限定 です。同条 2 項は特約による最長 30 年を認めますが、これも事業譲渡の話です。

株式譲渡では法定義務はなく、SPA 特約次第 です。会社自体は変わらないため、会社法 21 条は適用されません。売り手としては「特約をどこまで認めるか」が交渉論点になります。

誤解 2:「30 年特約は普通/逆に 1 年で十分」

業界実務水準は 2 〜 5 年です。弊社は 2 年を標準としています。

長くしてほしいと買い手から頼まれる場合:弊社は「期間が長すぎるとブレイク(成約破談)の可能性が高まる」旨を伝えて 2 年程度に収めるよう交渉します。

短くしてほしいと売り手から頼まれる場合:「事業譲渡なら会社法 21 条 1 項で 20 年が法定です。記載しないと類似ルールが 主張される可能性 があります」と伝え、2 年程度ですり合わせをします。

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5 年を超える特約は 公序良俗違反(民法 90 条)で無効 となるリスクが高まります。

誤解 3:「全国禁止が標準」

地理的範囲は判例上、「当該事業を行っていた地域」 が原則です。全国展開している企業のみ全国禁止が認められやすい傾向にあります。

地方中小企業の譲渡で全国禁止特約を結ぶと、引退後の活動を不当に制約することになり、公序良俗違反として無効となるリスクが高くなります。

誤解 4:「業界活動も全部禁止される」

これが最も売り手が見落とす論点です。競業会社への就職禁止 ≠ 業界活動禁止 です。

引退後に以下のような活動を希望する売り手は多くいらっしゃいます。

これらは「競業」とは別概念です。SPA 特約に「業界団体活動・顧問業・講師業は除外」と明記しないと、後日「競業に当たる」と買い手から主張されるリスクがあります。

そもそも、何のために M&A をするのか

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3. 弊社のスタンス — 競業避止義務 6 要素チェックリスト

判例が示す競業避止特約の有効性 6 要素を、売り手目線で整理しました。弊社は SPA 特約の交渉でこの 6 要素すべてを精査します。

要素弊社の交渉ガイドライン
① 守るべき企業の正当な利益譲渡対象事業の直接競合のみに限定
② 義務を負う者の地位・職責売り手オーナーのみ(家族・元従業員は別契約)
③ 地理的制限当該事業を行っていた地域に限定(全国禁止は要交渉)
④ 存続期間2 年が標準(5 年超は公序良俗違反リスク)
⑤ 禁止される競業行為の範囲「同一事業」を業種コードレベルで具体的に定義。業界団体活動・顧問業・講師業は除外明記
⑥ 代償措置M&A 対価が代償と解釈されるのが一般的。追加金は稀

業界活動・顧問契約はケースバイケース対応

業界団体役員のケースなど、売り手の 業界活動継続の要望 と買い手の 業界パイプを残してほしい要望 が一致することが少なくありません。弊社の運用は以下のとおりです。

これにより、売り手は引退後の業界活動を確保しつつ、買い手は売り手のパイプを活用できる、Win-Win の構造が作れます。

弊社の運用方針

競業避止特約の設計でお悩みの売り手オーナー様へ

引退後の業界活動継続、地理的範囲の交渉、業界団体役員のインセンティブ設計など、競業避止特約には個別の事情が大きく影響します。SPA 締結前にご相談いただくのが最も効果的です。

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4. 数年後に振り返って気づくこと

「全国禁止・5 年でサインしてしまった」が、引退後の売り手オーナー様の典型的な後悔です。第二のキャリア(顧問業・業界活動・講師業)を狭めてしまい、引退後の生活設計が大きく変わってしまうケースが多くあります。

6 要素を理解した上で交渉すること。「業界活動禁止」と「競業会社禁止」を区別して特約に落とし込むこと。業界団体役員などのケースは契約書に明記し、処遇項目で役職員インセンティブを設計すること。これらが、引退後の第二のキャリアを守る核心です。

競業避止特約は「拘束」ではなく「引退後の人生設計」の問題です。何のために M&A をするのか、譲渡後にどう生きたいのか。この問いに答えてから特約を交渉することが、後悔のない事業承継の出発点です。

公開日: 2026年4月25日 / 最終更新日: 2026年5月22日
五十嵐 悠一

執筆者

五十嵐 悠一(いがらし ゆういち)

株式会社日本財務戦略センター 代表取締役

京都大学経済学部経営学科卒業。株式会社損害保険ジャパン本店営業部、東証上場M&A仲介会社を経て、2020年5月に日本財務戦略センターを設立。中小企業のM&A仲介・事業承継支援を専門とし、医療・介護・食品製造・流通卸・機械製造分野の成約実績を持つ。

資格:プロフェッショナルCFO(日本CFO協会)/M&Aエキスパート(金融業務2級 事業承継・M&Aコース)

公的登録:中小企業庁 M&A支援機関 登録事業者/一般社団法人 M&A支援機関協会 正会員

メディア登壇:株式会社サイゾー Business Journal ウェブセミナー講師「【売り手向け】M&Aを成功させるための具体的な行動・プロセス・知識」(2022年6月)[公式告知]

専門家コラム寄稿:BATONZ(国内最大級M&A プラットフォーム)に M&A・事業承継 74本(2021年〜継続)[コラム一覧]

|LinkedIn|X (@jfsc2020)|BATONZ

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件における法務・税務・会計判断を提供するものではありません。法務・税務・会計の個別判断は、弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください。M&Aのスキーム設計・タイミング・買い手探し等のアドバイザリーは、株式会社日本財務戦略センターにご相談ください。記載内容は公開時点の情報に基づき、法令改正や市場変動により最新の状況と異なる場合があります。

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よくあるご質問(FAQ)

この章のポイント
日本財務戦略センターへのご相談に関する共通の10問と、本記事に関する5問の計15問。
共通Q1. 日本財務戦略センターはどのような会社ですか?
A. 株式会社日本財務戦略センター(JFSC)は、中小企業オーナーの M&A・事業承継を「自分事として最後まで完結する」ためのご相談先です。仲介の独断ではなく、売り手の判断材料を整える立場を貫いています。会社概要もご覧ください。
共通Q2. 相談したら、必ず M&A しなければいけませんか?
A. いいえ、ご相談のみで結構です。相談後に「今回は見送ります」と判断いただいても問題ありません。M&A 以外の選択肢(廃業・親族承継・事業再生)も含めてご一緒に整理します。まずは無料相談からお気軽にどうぞ。
共通Q3. 相談料・着手金は発生しますか?
A. 初回相談・簡易査定・進行中の段階まで、すべて無料です。日本財務戦略センターは完全成功報酬制を採用しており、M&A 成約時のみご報酬が発生します。着手金・中間金・月額顧問料は一切いただきません。なお、案件特性により外部専門家への依頼や登記等の実費(例:司法書士の登記費用、外部監査法人による資産査定、譲受企業側からの弁護士・公認会計士による DD 費用 等)が発生する場合は、必ず事前にご相談・ご同意のうえ進めますので、不意の費用負担は生じません。詳細は弊社の報酬体系をご確認ください。
共通Q4. 一般的な M&A 仲介会社と、どこが違いますか?利益相反はどう開示されますか?
A. M&A 仲介は売主・買主の双方から報酬を得る「両手仲介」が業界慣行で、構造的な利益相反のリスクがあります。そのうえで、業界には「誘い込む仲介」と「公開する仲介」の二類型があると当社は考えています。日本財務戦略センターは後者の立場で、契約締結時に重要事項説明書を交付し、両手仲介の構造を含めて文書でご説明したうえで、売り手の判断材料となる情報を整え、買い手の都合で交渉を急がせない姿勢を貫きます。これは経済産業省・中小企業庁中小 M&A ガイドライン第 3 版・2024 年 8 月改訂、手数料算定基準の開示・買い手信用調査等を留意事項として明示)に則った対応です。二類型化の根拠は弊社独自の業界 20 社研究レポート、構造論の詳細は仲介契約 vs FA 契約の構造分析もご参照ください。
共通Q5. どれくらいの規模から相談できますか?
A. 年商数千万円規模の小規模事業から、数億円規模まで対応します。業界の多くの仲介会社では最低手数料を 2,000 万円以上に設定している傾向で、各社の最低手数料は中小企業庁M&A 支援機関登録制度・登録情報で確認いただけます。日本財務戦略センターの最低手数料は 700 万円で、小規模案件もお引き受けしています。具体的な報酬構造は弊社の報酬体系をご確認ください。
共通Q6. 税金・法律のことを詳しく教えてもらえますか?
A. 税務・法務は税理士法・弁護士法により、具体的な提案は弁護士・税理士等の専門家のみが行えます。当社は業界慣行の一般論をご説明した上で、顧問の先生方にご確認いただく形でご案内します。必要に応じて専門家ネットワークのご紹介も無料で行っています。
共通Q7. 家族や従業員に知られたくないのですが、可能ですか?
A. ご相談段階から NDA(秘密保持契約)を締結し、徹底管理します。社名を公開せずに買い手候補へ打診する「ノンネーム打診」の進め方も可能です。守秘義務体制については情報管理ポリシーでご確認いただけます。
共通Q8. 成約までどれくらいの期間がかかりますか?
A. 標準的には 3〜6 ヶ月程度を目安としてお考えください。買い手候補と事前に綿密な調整を行い、売主オーナー様のペースで進行します。スピード優先で売主の利益を損なう進め方は致しませんが、売主オーナー様のご事情・ご要望に応じて、最短 60 日での成約実績もございます。
共通Q9. デューデリジェンス(DD)では、どのような立場をとりますか?
A. 日本財務戦略センターは、売主オーナー様の利益を最優先に検討する立場を貫きます。仲介業の構造的な利益相反論点については仲介契約 vs FA 契約の構造分析で詳述しており、DD 費用負担の判例実務は東京地裁 DD 費用判決の射程でご確認いただけます。必要に応じて第三者の公認会計士・弁護士・税理士等の専門家をご紹介し、買い手寄りに偏らない査定体制を整えます。中小企業庁中小 M&A ガイドラインの遵守事項に則り、適切な情報開示を行います。
共通Q10. 対応エリアは限られますか?
A. 全国対応可能です。首都圏はもちろん、各地方都市でもご相談実績があります。オンライン面談と現地訪問を組み合わせ、所在地を問わず売主様のペースで進行します。まずは所在地を問わない無料相談をご利用ください。
本記事Q11. 記事で「株式譲渡では法定義務ゼロ」とありましたが、これは事業譲渡と比べて、売り手にとって競業避止義務の交渉においてどのような違いがあるのでしょうか?
A. 株式譲渡の場合、競業避止義務は法律で一律に定められているわけではなく、株式譲渡契約書(SPA)の特約によってその内容が決定されます。そのため、売り手オーナー様は、事業譲渡に比べて、期間や地理的範囲、禁止される活動内容について、より柔軟な交渉の余地を持つことになります。
本記事Q12. 競業避止義務の期間について、記事では「業界実務水準は2〜5年」とありましたが、買い手から5年を超える期間を求められた場合、どのように対応すれば良いでしょうか?
A. 5年を超える競業避止特約は、民法90条(公序良俗)違反として無効となるリスクが高まる可能性があります。弊社では、期間が長すぎると成約破談(ブレイク)の可能性が高まることを買い手側にお伝えし、2年程度の期間に収めるよう交渉を進めることが一般的です。
本記事Q13. 地方で事業を営む中小企業の株式譲渡を検討していますが、「全国禁止」の競業避止特約を求められることはありますか?また、その場合の交渉余地はありますか?
A. 判例上、競業避止義務の地理的範囲は「当該事業を行っていた地域」が原則とされています。地方中小企業の譲渡で全国禁止特約を結ぶことは、売り手の引退後の活動を不当に制約し、公序良俗違反として無効となるリスクが高まるため、交渉によって事業地域に限定することが可能です。
本記事Q14. M&A後に顧問業や業界団体での活動を考えているのですが、競業避止義務によってこれらの活動も禁止されてしまうのでしょうか?
A. 競業避止義務は「競業会社への就職禁止」と「業界活動禁止」は別概念として整理されます。株式譲渡契約書(SPA)の特約に「業界団体活動、顧問業、講師業は除外する」旨を明記することで、引退後のこれらの活動を継続できるよう交渉することが重要です。
本記事Q15. 記事にあった「競業避止義務6要素チェックリスト」を参考に、具体的な交渉を進める上で、売り手として特に注意すべき点は何でしょうか?
A. 競業避止特約の交渉では、守るべき企業の正当な利益、義務を負う者の地位・職責、地理的制限など、6つの要素を総合的に考慮する必要があります。ご自身の引退後の人生設計と照らし合わせながら、過度な制約とならないよう、M&A支援機関や弁護士などの専門家にご相談いただき、契約内容を慎重にご確認ください。

📅 本記事の情報基準日

本記事は 2026年4月25日 公開時点の情報に基づきます。税制・法令等は改正される場合があるため、最新の制度・税制は公的機関の公式情報をご確認ください。

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