2022.04.18 法令・税務

粉飾決算とMA——買い手DDで見抜く8つの兆候と、売り手が健全経理で企業価値を守る方法【中小MAガイドライン第3版対応】

3行まとめ


Table of Contents

はじめに——なぜ今、粉飾決算とM&Aを論じるのか

この章のポイント
2024年は粉飾決算が起因する倒産が過去最多を記録し、ゼロゼロ融資終了後の金融機関の資産査定で老舗企業の財務破綻が表面化しています。M&A局面では、買い手のDDが「最後の防衛線」として機能する重要性が、過去にないほど高まっています。

2024年は、日本の中小企業財務の健全性に関して、ひとつの転換点となった年でした。東京商工リサーチが集計した「2024年コンプライアンス違反倒産」は320件(暦年)で過去最多、前年比66.6%増という極めて高い増加率を記録しています。このうち粉飾決算型は20件と件数こそ少ないものの、その80%(16件)が負債10億円以上の大型倒産であり、件数以上に経済的インパクトの大きさが目立ちます。

帝国データバンクの集計でも、粉飾決算が直接の原因となった倒産は2024年通年(暦年)で95件と過去最多を更新しました。注目すべきは、業歴30年以上の老舗企業がそのうち50.0%、業歴20年以上を含めると75.7%を占めている点です。長年地域経済を支えてきた企業が、財務の歪みを抱えたまま事業を継続し、最終的に表面化したという構図が読み取れます。

表面化のトリガーとなっているのは、新型コロナウイルス感染症対応で実施された実質無利子・無担保融資(いわゆる「ゼロゼロ融資」)の据置期間終了に伴う、金融機関による資産査定です。返済猶予や追加融資の申請をきっかけに、これまで見過ごされていた粉飾の実態が浮上するケースが相次いでいます(帝国データバンク調査)。

こうした環境下で、M&Aを検討する売り手・買い手の双方にとって、財務の信頼性確認は単なる形式手続きではなく、案件の成否そのものを左右する論点となっています。本記事では、買い手側がDDで粉飾の兆候を見抜く実務的な観点と、売り手側が健全な経理運営によって企業価値を守るための論理を、2024年の最新統計と公的ガイドラインに基づいて整理いたします。

なお本記事は不正行為の手法を肯定・推奨するものではなく、あくまでM&A実務におけるリスク認識と対応策の整理を目的としています。個別の判断にあたっては、必ず公認会計士・税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。


1. 粉飾決算とM&A──なぜ今、問題が急増しているのか

この章のポイント
2024年の粉飾関連倒産は東京商工リサーチ・帝国データバンクの両調査で過去最多を更新。ゼロゼロ融資終了後の金融機関資産査定で老舗企業の財務歪みが表面化しており、M&A局面では買い手DDが「最後の防衛線」として機能する重要性が増しています。

1-1. 2024年の倒産統計が示す現実

東京商工リサーチが2025年1月に公表した「2024年コンプライアンス違反倒産」調査によれば、2024年(暦年・1月〜12月)のコンプライアンス違反倒産は320件(前年比66.6%増)で過去最多、負債総額は3,790億6,400万円(前年比28.2%増)に達しました。違反類型別の主要内訳は、税金関連176件、不正受給39件、粉飾決算20件となっています。

粉飾決算型の20件は件数としては多くありませんが、そのうち16件(80%)が負債10億円以上の大型倒産であり、1件あたりの経済的影響が突出して大きいという特徴があります。前年比では42.8%増と急増しています。

帝国データバンクが2024年10月に公表した「粉飾企業の倒産動向調査(2024年1〜9月)」では、2024年1〜9月期の粉飾倒産が74件(前年同期比27.6%増)と、2016年以降の同期間集計として過去最多を記録。2024年通年(暦年)では95件に達し、これも過去最多となりました。さらに帝国データバンクの2025年4月公表「コンプライアンス違反企業の倒産動向調査(2024年度)」では、2024年度(2024年4月〜2025年3月)のコンプライアンス違反倒産は317件(過去最多)、うち「粉飾決算」がコロナ禍比で2.3倍増と急増していることが報告されています。

なお、東京商工リサーチの「320件」は暦年(1〜12月)集計、帝国データバンクの「317件」は年度(4月〜翌3月)集計と集計期間が異なります。両者を混同しないようご注意ください。

1-2. 業種別・業歴別の特徴

帝国データバンクの2024年1〜9月集計では、粉飾倒産の業種別内訳は建設業18件(24.3%)、卸売業16件(21.6%)、製造業14件(18.9%)が上位を占めています。建設業・卸売業・製造業はいずれも在庫評価や工事進行基準など、決算操作の余地が比較的大きい業種であり、業界構造的な特徴が反映されているものと考えられます。

業歴別では30年以上が50.0%、20年以上を含めると75.7%と、老舗企業の比率が極めて高くなっています。長年にわたり地域経済を支えてきた企業が、業績悪化に伴う一時的な決算操作を繰り返すうちに是正不可能な水準に達し、最終的に表面化したという構図が浮かびます。

1-3. ゼロゼロ融資終了が引き金──金融機関の資産査定で発覚

帝国データバンクは粉飾倒産急増の要因として、「アフターコロナ局面で金融機関への返済猶予・追加融資申請時の資産査定で発覚する事例が相次いでいる」と指摘しています。2020年〜2022年に実施された実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)は、当初3年間の据置期間が2023年〜2025年にかけて順次終了し、本格返済フェーズに入りました。

返済負担の増加に直面した中小企業が、金融機関に対して返済猶予や追加融資を申請した際、金融機関側が再度の資産査定を実施する過程で、これまで見えなかった在庫の架空計上や売掛金の長期滞留といった粉飾の実態が浮上するパターンが急増しています。

1-4. 国税庁の税務調査強化トレンド

国税庁が2024年12月に公表した「令和5事務年度(2023年7月〜2024年6月)法人税等の調査事績の概要」によれば、法人税等の実地調査5万9千件のうち申告漏れ総額は9,741億円(前年度比24.9%増)、追徴税額(法人税・消費税合計)は3,197億円、1件あたり追徴税額は550万円(前年度比4.9%増)に達しています。

同事務年度では海外取引法人等への実地調査で不正計算257件・不正所得金額123億円が把握され、富裕層(海外投資等個人)の1件あたり申告漏れ所得金額は過去最高の3,720万円を記録しました。M&A局面で過去の申告状況に問題があれば、買収後に追徴課税のリスクを買い手が負うことになり、税務DDの重要性は一段と高まっています。

1-5. M&A局面で「財務DDが最後の防衛線」となる理由

買い手企業がM&A対象企業を取得した後、過去の粉飾が発覚した場合、買い手はすでに対価を支払った後であり、是正・回収には多大な労力とコストを要します。特に株式譲渡(株式取得方式)の場合、対象会社の過去の負債・偶発債務・税務リスクをそのまま承継するため、買い手にとって財務DDは取引前の唯一かつ最後の防衛線となります。

2024年の倒産統計が示す通り、粉飾決算は減少傾向にあるどころか急増しており、買い手側のDDの実効性確保は、過去にないほど切実な実務課題となっています。


2. 中小企業における粉飾の実態と経営者心理

この章のポイント
中小企業の粉飾は「悪意ある詐害」よりも、資金調達・税負担平準化・対金融機関対策など経営上の動機から生じる事例が多く、経営者本人に粉飾の自覚がないケースも珍しくありません。上場企業と異なり監査義務がないという制度設計が、構造的な信頼性リスクを生んでいます。

2-1. 「悪意」と「動機」を峻別する

粉飾決算と聞くと、上場企業の不正会計事件のような大規模かつ意図的な詐害行為を想起する方が多いかもしれません。しかし中小企業の粉飾は、その動機において上場企業のそれと大きく異なる側面があります。

中小企業の粉飾には、主に以下のような動機があると考えられます。

このうち「逆粉飾」は、利益を圧縮する方向の操作であり、結果として税務調査の対象となるリスクを高めます。M&Aでは「売却価格を下げる方向に作用する」という意味で、買い手にとっては必ずしも不利とは言えませんが、過去の正確な収益実態が見えにくくなるという観点で、別種のDD論点を生じさせます。

2-2. 「自覚なき粉飾」というリスク

実務でM&Aの売り手企業を訪問していると、「税理士が『見栄えをよくするため』何かやってくれた」という程度の認識で、本人に粉飾の自覚がないケースに遭遇することがあります。決算書の作成を顧問税理士に一任しており、自分は数字の細部までは把握していない、という中小企業オーナーは少なくありません。

このような場合、悪意の有無を問う以前に、「経営者自身が自社の決算書を実態どおりに把握しているか」という根本的な論点が浮上します。M&Aのプロセスは、こうした「数字の点検作業」を強制的に行う機会として機能する側面もあります。

2-3. 上場企業との制度的な違い

上場企業は金融商品取引法に基づく財務諸表監査(公認会計士または監査法人による監査証明)が義務付けられており、決算書の信頼性は外部監査によって担保される建付けとなっています。一方、中小企業(非上場・会社法上の大会社を除く)には、会計監査の制度的義務がありません

公認会計士法第2条は、財務書類の監査・証明業務を公認会計士の独占業務として定めていますが、これは「監査を受けた」という事実そのものに信頼性が宿るという制度設計です。中小企業がM&A局面で、自社の決算書の信頼性を客観的に示したい場合、公認会計士・税理士等の専門家による財務関連業務の活用が、ひとつの選択肢となります。

2-4. 不正リスク対応基準が示す考え方

日本公認会計士協会が準拠する「監査における不正リスク対応基準」は、2013年3月に企業会計審議会により設定されました。この基準は「職業的懐疑心の強調」「不正リスクに対応した監査の実施」「監査事務所の品質管理」の3つの柱で構成されており、その背景にはオリンパス事件をはじめとする上場企業の不正会計事案があります。

中小M&Aの財務DDは、上場企業に対する法定監査とは性質が異なりますが、「職業的懐疑心」という考え方──表面的な数字を鵜呑みにせず、構造的な疑問を持って分析する姿勢──は、買い手側のDDにおいても極めて重要です。


3. 財務DDで見るべき粉飾の典型手口と兆候

この章のポイント
買い手・仲介者が財務DDで活用できる具体的な検知指標を整理します。財務指標の長期トレンド分析を中心に、科目別の確認ポイントを実務的に示します。具体的判断は必ず公認会計士・税理士等の専門家にご相談ください。

3-1. 粉飾の典型手口分類

中小企業で見られる粉飾の典型手口を、目的・科目・検知指標の観点から整理すると以下のとおりです。本表はDD実務で兆候を絞り込むための観点整理であり、最終的な判定は公認会計士による専門業務によります。

表1:中小企業における粉飾の典型手口と検知のためのDD観点
手口の類型主な操作対象科目DDで見るべき検知指標
売上の架空計上売掛金、売上高売掛金回転日数の急増、業界平均との乖離、特定取引先への売掛金集中
商品在庫の架空計上棚卸資産在庫回転日数の長期化、実地棚卸との照合、滞留在庫の評価減未計上
仮払金・仮受金の長期滞留仮払金、仮受金、立替金残高の絶対額、計上から精算までの期間、相手先内訳
減価償却費の未計上・過少計上有形固定資産、減価償却累計額固定資産明細との照合、税務上の限度額との比較、年度間の計上額変動
グループ会社・関連会社への付け回し関係会社売掛金、関係会社貸付金グループ間取引の経済合理性、相手先の財務状況、回収可能性
「その他」科目への大額計上その他流動資産、その他固定負債等「その他」名目で大きな金額が計上されていないか、内訳の妥当性
引当金の不計上貸倒引当金、退職給付引当金、賞与引当金等滞留売掛金に対する引当の有無、退職給付債務の試算と計上額の照合
費用の繰延計上・前払処理前払費用、繰延資産残高の妥当性、内訳の根拠資料、費用化の合理性
出典:東京商工リサーチ・帝国データバンク調査、中小M&Aガイドライン(第3版)、日本公認会計士協会 監査基準委員会報告書等を参照のうえ、株式会社 日本財務戦略センター(JFSC)が中小M&A実務の観点で整理。本表は実務上の観点整理であり、個別判定は公認会計士・税理士等の専門家にご相談ください。

3-2. 財務指標の長期トレンド分析(5〜7年スパン)

単年度の財務指標を業界平均と比較するだけでは、粉飾の兆候を見抜くことは困難です。中小企業のDDで実効性が高いのは、過去5〜7年の長期スパンでの財務指標トレンド分析です。

特に在庫回転日数・売掛金回転日数は、事業実態が大きく変化していなければ年度間で安定的に推移するはずの指標です。これらが特定の年度から急激に長期化している場合、その背景を詳細に確認する必要があります。逆に、毎年の指標がほぼ一定で「変動が不自然になさすぎる」場合も、平準化目的の操作の可能性を検討する観点となります。

3-3. 売上原価率・販管費率の不自然な変動

売上原価率や販管費率は、業界・事業構造・規模によって大まかな水準が決まる指標です。同業他社の水準から大きく乖離している場合や、自社内で年度間に不自然な変動がある場合は、原価計算の操作や費用の繰延計上等の可能性を検討する観点となります。

3-4. 運転資金と現預金バランスの乖離

事業活動に必要な運転資金(売上債権+在庫−仕入債務)と、貸借対照表上の現預金残高のバランスも、重要な検知観点です。必要運転資金に対して現預金が極端に少ない場合、売掛金や在庫が実態と乖離して計上されている可能性を検討する観点となります。

3-5. 「その他」科目への大額計上

勘定科目内訳明細書で「その他」名目に大きな金額が計上されている場合、その内訳と根拠資料を必ず確認する必要があります。実務上、操作対象となる金額をまとめて計上したいという心理から、「その他」科目に大額が滞留しているケースが見られます。

もちろん「その他」科目への計上が直ちに粉飾を意味するわけではありませんが、内訳の説明を求めても合理的な回答が得られない場合、追加調査の対象となります。

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4. 中小M&Aガイドライン(第3版)が定めるDDの位置づけ

この章のポイント
2024年8月30日改訂の中小M&Aガイドライン(第3版)では、仲介者にDD非実施リスクの説明義務が明文化されました。財務DD・法務DD・税務DDは外部専門家への委嘱が原則であり、粉飾リスクは価格交渉・表明保証・エスクロー設定に反映させる実務フローが標準化されつつあります。

4-1. 第3版で明文化されたDD非実施リスクの説明義務

中小企業庁は2024年8月30日、「中小M&Aガイドライン」を第3版に改訂しました。この改訂で実務上特に重要なのは、仲介者に対し「デューデリジェンスの非実施リスク」「表明保証の内容」など、最終契約後のリスクを中小企業に具体的に説明する義務が明文化されたことです。

従来は「DDの実施を推奨する」という記載にとどまっていましたが、第3版では「実施しない場合のリスクを明示的に説明する」という、より積極的な義務が仲介者に課せられた格好となりました。これは、買い手・売り手双方が「DDを省略することのリスクを十分に理解した上で意思決定する」プロセスを担保するための制度的措置です。

4-2. 財務DD・法務DD・税務DDの専門家委嘱原則

中小M&Aガイドライン(第3版)では、財務DD・法務DD・税務DDは外部専門家(公認会計士・税理士・弁護士等)への委嘱が原則とされています。これは、買い手が独自に財務情報の健全性を確認するための仕組みとして組み込まれているものです。

仲介者・売り手・買い手それぞれの利害が交錯する中で、独立した立場から財務・法務・税務の専門業務を担う者が存在することで、案件の透明性と信頼性が確保されます。粉飾リスクへの対応もまた、この専門家委嘱の枠組みの中で行われるべきものとされています。

4-3. 粉飾発覚時の標準的な実務フロー

DDの過程で粉飾の兆候や事実が発覚した場合、買い手側の標準的な対応フローは以下のとおりです。

  1. リスクの明示:買い手内部および売り手・仲介者に対し、検知された事項とその影響を明示
  2. 性質の分析:悪意の有無、金額規模、是正可能性、過去への遡及範囲を整理
  3. 価格交渉:買収価格の減額交渉、ネットデット調整、純資産調整等への反映
  4. 表明保証の強化:最終契約書(株式譲渡契約等)における表明保証条項の精緻化
  5. エスクロー設定:将来発覚リスクに備えた譲渡対価の一部留保(エスクロー口座への預託)
  6. 補償条項の明確化:表明保証違反時の補償上限・期間・手続きを明確化

これらの手続きの具体的設計には、必ず弁護士・公認会計士・税理士等の専門家にご相談ください。

4-4. 表明保証違反による損害賠償リスク

売り手側にとって、決算書の正確性に関する表明保証は、M&A後の最大の財務リスクのひとつです。最終契約書(株式譲渡契約等)では通常、売り手が「決算書は会社の財政状態および経営成績を正確に表示している」旨を表明保証することが求められます。

売却後にDDで看過された粉飾事実が発覚した場合、買い手は表明保証違反に基づく損害賠償請求を行いうる立場となります。中小M&Aの実務では、表明保証違反による損害賠償の上限を譲渡対価の一定割合(例:20〜50%等)に限定する条項を設けるのが一般的ですが、これも個別案件ごとに弁護士と協議の上で決定すべき論点です。

4-5. M&A支援機関協会への登録と中小企業庁の登録制度

株式会社 日本財務戦略センター(JFSC)は、中小企業庁のM&A支援機関登録制度に登録しており、また一般社団法人 M&A支援機関協会の正会員でもあります。中小M&Aガイドライン(第3版)に基づくDD実施の枠組みのもと、財務・法務・税務の各専門家と連携した案件運営を行っています。


5. 売り手が健全経理で企業価値を守るために

この章のポイント
売り手にとって、過去の粉飾はM&A後の表明保証違反訴訟・価格下落・破談につながる重大リスクです。M&Aを「過去の財務を棚卸する機会」として位置付け、税理士・公認会計士等の専門家と連携した事前の財務整理によって、企業価値を守ることが現実的な戦略となります。

5-1. 粉飾発覚時に売り手が直面する典型シナリオ

M&A交渉の途上または成立後に粉飾が発覚した場合、売り手は以下のような事態に直面します。

このうち最も深刻なのが、成立後の表明保証違反による損害賠償請求です。譲渡対価をすでに受領した後に、その一部を返還しなければならない事態は、売り手にとって極めて大きな経済的負担となります。

5-2. M&A前3〜5年の決算書が査定対象

買い手側のDDでは通常、過去3〜5年分の決算書が査定対象となります。年度間の指標推移を確認するためには、最低でも3年分、丁寧な分析を行う場合は5年分の決算書が必要だからです。

このため、売り手として「来年からM&Aを検討したい」と考える時点ですでに、過去5年分の決算実態がDD対象となります。M&A検討開始前の数年間の経理運営が、そのままM&A時の企業価値評価に直結することになります。

5-3. 専門家と連携した事前の財務整理

売り手として企業価値を守るためには、M&A検討開始の数年前から、税理士・公認会計士と連携した財務整理を進めることが現実的な戦略です。具体的には以下のような観点があります。

これらの整理は、ご自身だけで進めるのではなく、必ず税理士・公認会計士等の専門家と連携して進める必要があります。是正の方法によっては、過年度修正申告や追加納税が必要となる場合があり、税務上の影響を慎重に検討する必要があるためです。

5-4. M&Aは「過去の財務を棚卸する機会」

視点を変えれば、M&Aは経営者にとって過去の財務を棚卸し、健全な状態に整える絶好の機会でもあります。長年の事業運営の中で蓄積した「決算書の歪み」を、専門家とともに点検し、是正していくプロセスは、たとえ最終的にM&Aを実行しなかったとしても、自社の財務の透明性を高める意味で大きな価値があります。

「M&Aを検討する」ということは、それ自体が経営の節目であり、財務面での自己点検の契機となります。健全経理への転換は、企業価値を守るためだけでなく、経営者自身の心の負担を軽くする意味でも、現実的な選択肢と言えます。

5-5. 早期・透明な情報開示の実務的合理性

過去に何らかの操作があった場合でも、買い手側にDDの早い段階で透明に開示することは、長期的には案件の円滑な成約につながる現実的な合理性があります。

買い手側がDDで自ら発見した場合と、売り手側から事前に開示があった場合とでは、買い手の信頼度がまったく異なります。前者は「他にも隠していることがあるのではないか」という疑念を生じさせ、案件全体の進行を停滞させます。一方、後者は「正直な売り手である」という信頼の基盤となり、価格交渉や条件交渉の場でも建設的な対話を可能にします。

ただし、開示の方法・タイミング・範囲は案件ごとに最適解が異なります。必ず仲介者および弁護士・税理士・公認会計士等の専門家と協議の上で進めてください


6. JFSCが実務で重視している粉飾対応の考え方

この章のポイント
JFSCはM&A支援機関として、粉飾の兆候を検知した場合、単純に取引を中止するのではなく、性質(悪意の有無・金額・是正可能性)の3軸で分析し、買い手・売り手双方に公正な解決策を提示することを実務方針としています。最終的な判断はすべて、公認会計士・税理士・弁護士等の専門家との連携のもとで行います。

6-1. 粉飾性質の3軸分析

JFSCがM&A実務において粉飾の兆候を検知した場合、まず以下の3軸で性質を整理します。

この3軸での整理を経た上で、買い手・売り手双方にとって公正な解決策を提示することを基本方針としています。重要なのは、検知された事項の性質を整理せずに「粉飾だから取引中止」と短絡的に結論付けるのではなく、案件全体の事業価値・統合価値を踏まえて、現実的な落としどころを探ることです。

6-2. 買い手へのリスク明示と価格・契約条件への反映

買い手に対しては、検知された事項とその経済的影響を明示し、価格交渉・契約条件への反映を支援します。具体的には以下の観点で、弁護士・公認会計士等の専門家と連携した検討を進めます。

6-3. 売り手への是正提案と情報開示促進

売り手に対しては、過去の経理処理の是正に関する考え方や、情報開示のタイミング・方法について、税理士・公認会計士等の専門家と連携した助言を提供します。M&Aを契機とした健全経理への転換は、譲渡対価の最大化と、譲渡後の損害賠償リスク回避の双方に資する戦略となります。

6-4. 専門家ネットワークとの連携

JFSCは中小企業庁M&A支援機関登録事業者として、また一般社団法人 M&A支援機関協会の正会員として、案件ごとに最適な公認会計士・税理士・弁護士・司法書士行政書士のネットワークと連携しながら案件を進めています。粉飾リスクのような専門性の高い論点については、必ず該当する士業の専門家との協働のもとで対応することが、実務上の鉄則です。

6-5. 「セカンドオピニオン」としての立ち位置

JFSCはM&Aセカンドオピニオン無料相談を承っています。すでに他の仲介者と契約済みの案件、自分でDDを進めているが不安が残る案件、過去に粉飾の心当たりがあり進め方に迷っている案件など、第三者の視点を入れたい局面でお気軽にご相談ください。秘密厳守、初回相談無料、相談だけで意思決定が拘束されることはありません。


結び——粉飾を「探す」のではなく「対話の論点」として扱う

粉飾決算は、上場企業の不正会計のような大規模かつ意図的な詐害行為としてだけ語られがちですが、中小企業の現場では、経営上の動機や認識不足から生じる事例が大半を占めています。M&A実務において重要なのは、こうした実態を踏まえ、粉飾を「告発の対象」ではなく「対話の論点」として扱うことです。

2024年の倒産統計が示す通り、粉飾関連の倒産は過去最多を更新し、ゼロゼロ融資終了という構造的要因が中小企業財務の歪みを次々と表面化させています。買い手側にとっては、財務DDの実効性確保が過去にないほど切実な課題となっており、売り手側にとっては、健全経理への転換が企業価値を守る現実的な戦略となっています。

株式会社 日本財務戦略センター(中小企業庁M&A支援機関登録、一般社団法人 M&A支援機関協会 正会員)では、こうした論点について、公認会計士・税理士・弁護士等の各専門家と連携しながら、買い手・売り手双方に公正な実務支援を提供しています。判断にお迷いの段階でも、お気軽にご相談ください(初回相談無料・秘密厳守)。


よくあるご質問(FAQ)

この章のポイント
日本財務戦略センターへのご相談に関する共通の10問と、本記事に関する5問の計15問。
共通Q1. 日本財務戦略センターはどのような会社ですか?
A. 株式会社日本財務戦略センター(JFSC)は、中小企業オーナーの M&A・事業承継を「自分事として最後まで完結する」ためのご相談先です。仲介の独断ではなく、売り手の判断材料を整える立場を貫いています。会社概要もご覧ください。
共通Q2. 相談したら、必ず M&A しなければいけませんか?
A. いいえ、ご相談のみで結構です。相談後に「今回は見送ります」と判断いただいても問題ありません。M&A 以外の選択肢(廃業・親族承継・事業再生)も含めてご一緒に整理します。まずは無料相談からお気軽にどうぞ。
共通Q3. 相談料・着手金は発生しますか?
A. 初回相談・簡易査定・進行中の段階まで、すべて無料です。日本財務戦略センターは完全成功報酬制を採用しており、M&A 成約時のみご報酬が発生します。着手金・中間金・月額顧問料は一切いただきません。なお、案件特性により外部専門家への依頼や登記等の実費(例:司法書士の登記費用、外部監査法人による資産査定、譲受企業側からの弁護士・公認会計士による DD 費用 等)が発生する場合は、必ず事前にご相談・ご同意のうえ進めますので、不意の費用負担は生じません。詳細は弊社の報酬体系をご確認ください。
共通Q4. 一般的な M&A 仲介会社と、どこが違いますか?利益相反はどう開示されますか?
A. M&A 仲介は売主・買主の双方から報酬を得る「両手仲介」が業界慣行で、構造的な利益相反のリスクがあります。そのうえで、業界には「誘い込む仲介」と「公開する仲介」の二類型があると当社は考えています。日本財務戦略センターは後者の立場で、契約締結時に重要事項説明書を交付し、両手仲介の構造を含めて文書でご説明したうえで、売り手の判断材料となる情報を整え、買い手の都合で交渉を急がせない姿勢を貫きます。これは経済産業省・中小企業庁中小 M&A ガイドライン第 3 版・2024 年 8 月改訂、手数料算定基準の開示・買い手信用調査等を留意事項として明示)に則った対応です。二類型化の根拠は弊社独自の業界 20 社研究レポート、構造論の詳細は仲介契約 vs FA 契約の構造分析もご参照ください。
共通Q5. どれくらいの規模から相談できますか?
A. 年商数千万円規模の小規模事業から、数億円規模まで対応します。業界の多くの仲介会社では最低手数料を 2,000 万円以上に設定している傾向で、各社の最低手数料は中小企業庁M&A 支援機関登録制度・登録情報で確認いただけます。日本財務戦略センターの最低手数料は 700 万円で、小規模案件もお引き受けしています。具体的な報酬構造は弊社の報酬体系をご確認ください。
共通Q6. 税金・法律のことを詳しく教えてもらえますか?
A. 税務・法務は税理士法・弁護士法により、具体的な提案は弁護士・税理士等の専門家のみが行えます。当社は業界慣行の一般論をご説明した上で、顧問の先生方にご確認いただく形でご案内します。必要に応じて専門家ネットワークのご紹介も無料で行っています。
共通Q7. 家族や従業員に知られたくないのですが、可能ですか?
A. ご相談段階から NDA(秘密保持契約)を締結し、徹底管理します。社名を公開せずに買い手候補へ打診する「ノンネーム打診」の進め方も可能です。守秘義務体制については情報管理ポリシーでご確認いただけます。
共通Q8. 成約までどれくらいの期間がかかりますか?
A. 標準的には 3〜6 ヶ月程度を目安としてお考えください。買い手候補と事前に綿密な調整を行い、売主オーナー様のペースで進行します。スピード優先で売主の利益を損なう進め方は致しませんが、売主オーナー様のご事情・ご要望に応じて、最短 60 日での成約実績もございます。
共通Q9. デューデリジェンス(DD)では、どのような立場をとりますか?
A. 日本財務戦略センターは、売主オーナー様の利益を最優先に検討する立場を貫きます。仲介業の構造的な利益相反論点については仲介契約 vs FA 契約の構造分析で詳述しており、DD 費用負担の判例実務は東京地裁 DD 費用判決の射程でご確認いただけます。必要に応じて第三者の公認会計士・弁護士・税理士等の専門家をご紹介し、買い手寄りに偏らない査定体制を整えます。中小企業庁中小 M&A ガイドラインの遵守事項に則り、適切な情報開示を行います。
共通Q10. 対応エリアは限られますか?
A. 全国対応可能です。首都圏はもちろん、各地方都市でもご相談実績があります。オンライン面談と現地訪問を組み合わせ、所在地を問わず売主様のペースで進行します。まずは所在地を問わない無料相談をご利用ください。
本記事Q11. 中小M&Aガイドライン第3版でデューデリジェンス(DD)の重要性が強調されたとのことですが、買い手として具体的にどのようなリスク説明を仲介者から受けるべきでしょうか?
A. 中小M&Aガイドライン第3版では、M&A仲介者に対し、デューデリジェンス(買収監査、以下「DD」)の非実施リスクを買い手に説明する義務が明文化されました。これにより、財務DD、法務DD、税務DDといった各分野のDDを外部専門家へ委嘱することの重要性や、それを省略した場合に生じうる財務・法務上の潜在リスクについて、事前に詳細な説明を受けることが期待されます。
本記事Q12. 2024年に粉飾決算が原因の倒産が過去最多とのことですが、特にどのような企業がリスクに晒されやすいのでしょうか?
A. 帝国データバンクの調査によれば、2024年の粉飾倒産では業歴30年以上の老舗企業が50.0%を占めており、長年の事業継続の中で財務の歪みが蓄積したケースが目立ちます。また、新型コロナウイルス感染症対応の実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)の据置期間終了に伴う金融機関の資産査定が、粉飾の実態が表面化する主なトリガーとなっています。
本記事Q13. 記事には買い手DDで粉飾の兆候を見抜く実務チェックリストがあるとありますが、特に注意すべき財務上の兆候にはどのようなものがありますか?
A. 記事で触れる実務チェックリストでは、不自然な売上高や利益の急増、過大な売掛金や棚卸資産の計上、多額の仮払金や貸付金の存在などが粉飾の兆候として挙げられます。これらの項目は、財務諸表の数字だけでは見えにくい実態を把握するために、詳細な分析と裏付け資料の確認が求められます。
本記事Q14. 売り手として、健全な経理運営を通じて企業価値を守るためには、M&A検討前からどのような点に留意すべきでしょうか?
A. 売り手としては、日頃から正確な会計処理と内部統制の強化を徹底し、いつでも透明性の高い財務情報を提供できる体制を整えることが重要です。特に、過年度の決算書や税務申告書、契約書、稟議書などの証拠書類を適切に保管し、デューデリジェンス(DD)時にスムーズに提示できるよう準備しておくことが、企業価値の維持・向上に繋がります。
本記事Q15. 自社の財務状況に不安がある場合、M&Aを検討する前にどのような専門家に相談するのが適切でしょうか?
A. 自社の財務状況に不安がある場合や、過去の会計処理に懸念がある場合は、M&Aを検討する前に公認会計士や税理士といった財務・税務の専門家にご相談いただくことを強く推奨いたします。専門家は客観的な視点から財務状況を評価し、潜在的なリスクの特定や適切な改善策について具体的なアドバイスを提供することが可能です。

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本記事は、公表されている一次ソース(東京商工リサーチ・帝国データバンク調査、国税庁公表資料、中小企業庁・経済産業省公表資料、日本公認会計士協会・企業会計審議会基準等)に基づき、株式会社 日本財務戦略センター(中小企業庁 M&A 支援機関 登録、一般社団法人 M&A 支援機関協会 正会員)が独自の視点で構成・整理した解説記事です。記載内容は記事公開時点(2026年4月)のものです。

個別の法務・税務・財務的判断、特に過去の決算処理の是正、税務上の遡及影響、表明保証条項の設計、損害賠償の評価などの論点については、必ず弁護士・税理士・公認会計士・司法書士・行政書士等の各専門家にご相談ください。本稿はあくまで、業界統計・公的ガイドライン・公開情報に基づく一般的な解説を目的としており、個別案件における判断材料を提供するものではありません。

本記事は不正行為(粉飾決算)の手法を肯定・推奨するものではなく、M&A実務上のリスク認識と対応策の整理を目的としています。なお、財務書類の監査・証明業務は公認会計士法第2条に基づき公認会計士の独占業務、税務代理・税務書類の作成・税務相談は税理士法第2条に基づき税理士の独占業務、法律事務は弁護士法第72条に基づき弁護士の独占業務であり、本記事の内容は、これらの専門業務に代替するものではありません。

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公開日: 2022年4月18日 / 最終更新日: 2026年5月22日
五十嵐 悠一

執筆者

五十嵐 悠一(いがらし ゆういち)

株式会社日本財務戦略センター 代表取締役

京都大学経済学部経営学科卒業。株式会社損害保険ジャパン本店営業部、東証上場M&A仲介会社を経て、2020年5月に日本財務戦略センターを設立。中小企業のM&A仲介・事業承継支援を専門とし、医療・介護・食品製造・流通卸・機械製造分野の成約実績を持つ。

資格:プロフェッショナルCFO(日本CFO協会)/M&Aエキスパート(金融業務2級 事業承継・M&Aコース)

公的登録:中小企業庁 M&A支援機関 登録事業者/一般社団法人 M&A支援機関協会 正会員

メディア登壇:株式会社サイゾー Business Journal ウェブセミナー講師「【売り手向け】M&Aを成功させるための具体的な行動・プロセス・知識」(2022年6月)[公式告知]

専門家コラム寄稿:BATONZ(国内最大級M&A プラットフォーム)に M&A・事業承継 74本(2021年〜継続)[コラム一覧]

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本記事は 2022年4月18日 公開時点の情報に基づきます。税制・法令等は改正される場合があるため、最新の制度・税制は公的機関の公式情報をご確認ください。

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