2020.10.22 M&A実務

小規模MA向け表明保証保険「MA BATONZ」新スキーム徹底解説——成約価格連動・3プラン・自動付帯化と中小MA保険市場の現在地

3行まとめ


Table of Contents

はじめに——2020年の解説を、2026年の現在地から書き直す

この章のポイント
本記事の旧版は2020年10月の「M&A Batonz」リリース時点の解説でした。2026年の現在、同スキームは大幅刷新され、市場全体も成熟しています。ここでは旧版で誤って記載された「中小M&Aガイドライン第3版(2023年9月策定)」を「令和6年8月30日改訂」に訂正したうえで、現在地から書き直します。

本記事の旧版は、2020年10月、株式会社バトンズが小規模M&A向け表明保証保険「M&A Batonz」をリリースしたタイミングで公開した解説記事でした。当時は、表明保証保険といえば最低保険料1,000万円規模の大型案件向けが当たり前の時代であり、バトンズデューデリジェンス費用39万8千円に対して300万円の補償上限を自動付帯するというスキームは、業界に強いインパクトを与える先進的な取り組みでした。

その後の約5年半で、小規模M&A向け表明保証保険を取り巻く環境は、別次元と言ってよいほど成熟しました。具体的には、(1)東京海上日動火災保険株式会社による「国内M&A保険Light」(2022年5月販売開始、最低保険料50万円)の登場、(2)2026年1月の「M&A BATONZ」新スキームへの全面刷新、(3)2026年4月21日の株式会社バトンズの東京証券取引所グロース市場への上場、(4)中小M&Aガイドライン第3版(中小企業庁、令和6年8月30日改訂)における表明保証保険の明示的位置付け、(5)事業承継・M&A補助金(十四次公募・2026年1月公示)における表明保証保険料の補助対象経費化——という、制度・商品・市場の3軸での進化が同時並行で進んでいます。

あわせて、旧版の本文で「中小M&Aガイドライン第3版(2023年9月策定)」と記載していた点について、正確には第3版は中小企業庁により令和6年(2024年)8月30日に改訂されたものであり、本記事ではこの事実誤認を訂正したうえで、最新版を踏まえた解説に更新します。

本記事は、株式会社バトンズおよび東京海上日動火災保険株式会社の各公式公表資料、中小企業庁・経済産業省の一次ソースを基礎に、株式会社 日本財務戦略センター(中小企業庁 M&A 支援機関 登録、一般社団法人 M&A 支援機関協会 正会員)が独自の視点で構成・整理した解説記事です。


1. 「M&A BATONZ」新スキーム(2026年1月〜)——何が変わったのか

この章のポイント
2026年1月、株式会社バトンズは東京海上日動火災保険株式会社と連携し、表明保証保険「M&A BATONZ」のスキームを全面刷新しました。バトンズデューデリジェンス専用の「DDおまけ型」から、インタビューレポート方式・成約価格連動型へ。プラン体系も「セーフティ」「ベーシック」「アドバンス」の3区分へ整理されています。

1-1. 旧スキーム(2020年10月〜2025年)の構造

旧スキーム(公式公表によれば、2020年10月21日リリース)は、以下の特徴を持つ「DDおまけ型」の付帯保険でした。

定型化された質問票による効率化と、買収監査と保険のバンドルによる「敷居の低さ」が画期的でしたが、補償上限が300万円固定であったため、譲渡価格1,000万円超の案件では補償が物足りないケースも多く、また付帯条件が「バトンズデューデリジェンス実施案件」に限られるため、適用範囲も限定的でした。

1-2. 新スキーム(2026年1月〜)への全面刷新

株式会社バトンズおよび東京海上日動火災保険株式会社の公式公表によれば、2026年1月から提供を開始した新「M&A BATONZ」は、以下の点で旧スキームから大きく刷新されています。

1-3. 新旧スキーム比較表

項目旧スキーム
(2020年10月〜2025年)
新スキーム「M&A BATONZ」
(2026年1月〜)
付帯条件バトンズデューデリジェンス実施案件のみバトンズのインタビューレポートを基礎に、外部のデューデリジェンスを伴う案件でも付帯可能
付帯方式DD実施案件に自動付帯BATONZ経由の成約案件に原則自動付帯(標準装備化)
補償上限300万円(固定)成約価格に応じて変動(プランごとに段階設定)
プラン体系単一セーフティ/ベーシック/アドバンスの3プラン
補償対象財務・労務に関わる表明保証違反財務・労務に関わる表明保証違反、引継ぎ前に認識のなかった事象が引継ぎ後に判明した場合の買い手費用負担等
引受保険会社東京海上日動火災保険株式会社東京海上日動火災保険株式会社(継続)

出典:株式会社バトンズ プレスリリース(2020年10月21日/2026年1月)、東京海上日動火災保険株式会社 公表資料。具体的な保険料率・補償上限金額の詳細数値は公式ページ(batonz.jp/lp/mabatonz/)で必ずご確認ください。本表は記事公開時点(2026年4月)における公表情報に基づく整理です。

1-4. 3プランの位置付け(公表情報の範囲)

プラン対象想定ユースケース
セーフティ成約価格10億円以下小規模案件向けの標準的な補償。BATONZ経由の標準装備として広く適用される位置付け。
ベーシック成約価格10億円以下セーフティの上位プラン。補償条件の手厚さを求めるケース向け。
アドバンス成約価格10億円超/追加補償希望中堅規模以上の案件、または追加補償を求める買い手・売り手向けの上位プラン。

出典:株式会社バトンズ公式公表(2026年1月)。各プランの具体的な保険料・補償上限の数値、約款の詳細は公式ページ(batonz.jp/lp/mabatonz/)で必ずご確認ください。実際の付帯可否・条件は個別案件ごとに引受保険会社の審査によります。

1-5. 株式会社バトンズの上場と事業基盤

株式会社バトンズは、公式公表によれば、2026年4月21日に東京証券取引所グロース市場へ上場(証券コード554A)。日本エム・アンド・エー・センター・ホールディングス株式会社の持分法適用会社として継続しつつ、独立した上場会社としての事業基盤を確立しました。同社の公表によれば、2026年2月末時点で累計成約実績は3,315件、買い手側アクティブユーザーは2万人を超えています。2026年3月期の売上高は20億1,000万円(前年比+45.8%)、経常利益は3億4,400万円(前年比+574.5%)と、急成長フェーズにあります。

こうした事業基盤の確立とスキーム刷新は連動しており、「個人M&Aを含む小規模案件にも、定型化された表明保証保険を、成約時の標準装備として届ける」という戦略を、上場会社としての規律のもとで推進する体制が整ったものと位置付けられます。


2. 表明保証・表明保証保険の基礎知識(中小M&Aガイドライン第3版を踏まえて)

この章のポイント
表明保証とは、契約当事者(特に売り手)が、一定時点における事実の真実性・正確性を相手方に保証する条項です。中小M&Aガイドライン第3版(中小企業庁、令和6年8月30日改訂)では、表明保証・デューデリジェンス・表明保証保険の取り扱いが明示的に記載されています。

2-1. 表明保証(Representations and Warranties)とは

表明保証とは、一定の時点(通常は契約締結時とクロージング時)における契約当事者に関する事実、契約の目的物の内容等に関する事実について、当該事実が真実かつ正確である旨を、契約当事者(特に売主側)が表明し、相手方に対して保証するものです。買収監査(デューデリジェンス)を通じて譲渡条件が決定される過程で、提供された情報・説明が真実かつ正確であることを売り手が買い手に対して契約上保証する仕組みであり、取引の信頼性を担保する基本的な構造として、中規模・大規模M&Aでは長く一般化してきた制度です。

2-2. 表明保証違反時の救済

表明保証に違反した事実が判明した場合、契約上は次のような救済方法が定められることが一般的です。

たとえば、売り手が「未払い残業代は存在しない」と表明保証していたにもかかわらず、クロージング後にサービス残業の実態が判明した場合などが、典型的な表明保証違反のケースとして想起されます。

2-3. 中小M&Aガイドライン第3版(令和6年8月30日改訂)における位置付け

中小企業庁が公表する中小M&Aガイドライン(第3版)-第三者への円滑な事業引継ぎに向けて-(令和6年〔2024年〕8月30日改訂)では、表明保証・デューデリジェンス・クロージング後手続き・経営者保証の取り扱いが整理して明示されています。

同ガイドラインでは、特に表明保証保険について「国内でも一部損害保険会社が提供を開始しており、デューデリジェンスレポートの提出と引受審査が一般的である」旨の説明が記載されています。これは、表明保証保険が中小M&Aの実務において市場健全化ツールとして公的に位置付けられたことを意味します。

なお、本記事の旧版で「中小M&Aガイドライン第3版(2023年9月策定)」と記載していた点は事実誤認であり、正確には第3版の改訂は令和6年(2024年)8月30日です。本記事ではこの点を訂正のうえ、最新版を前提に整理しています。

2-4. 表明保証保険とは(買い手付保型・売り手付保型)

表明保証保険(Representations and Warranties Insurance)とは、表明保証違反による損害を保険でカバーする商品です。一般的に、買い手が保険料を負担し買い手が保険金請求権者となる「買い手付保型」と、売り手が保険料を負担し売り手が補償リスクを保険会社に転嫁する「売り手付保型」がありますが、市場では買い手付保型が主流です。

「M&A BATONZ」は、公式公表によれば買い手付保型のスキームに位置付けられ、売り手が意図せず表明保証違反を犯した場合でも、買い手への賠償が保険でカバーされる構造となります。これにより、売り手の出口後リスクを軽減し、M&A成立を促進する機能が期待されます。ただし、表明保証保険への加入は、売り手の誠実な情報開示義務を免除するものではありません。故意の隠蔽や重大な注意義務違反は免責となる場合が多い点に留意する必要があります。

2-5. 表明保証条項のドラフティングは弁護士へ

表明保証条項の具体的なドラフティング(財務・税務・法務・労務・環境・許認可等の各項目について、どこまでの範囲・どのような限定文言で表明保証するか)は、案件ごとに条件が大きく異なります。これは弁護士の独占業務に関わる領域であり、必ず顧問弁護士・案件アドバイザー弁護士にご相談ください。本記事は概要解説にとどめ、個別案件のドラフティング指導は行うものではありません(弁護士法第72条)。

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3. 市場全体の最新動向——東京海上日動「国内M&A保険Light」と複数社の参入

この章のポイント
表明保証保険の最低保険料は、東京海上日動火災保険株式会社「国内M&A保険Light」の登場(2022年5月)により、従来の1,000万円規模から50万円規模へと大幅に引き下げられました。複数の損害保険会社が中小M&A向けに参入を進めており、市場は「敷居の高い特殊商品」から「中小M&Aの標準オプション」へと位置付けが変化しつつあります。

3-1. 東京海上日動火災保険株式会社「国内M&A保険Light」(2022年5月販売開始)

東京海上日動火災保険株式会社の公表によれば、2022年5月、中小M&A向けの表明保証保険商品「国内M&A保険Light」の販売を開始しました。同商品の主な仕様は次の通りです。

これは、中小M&A市場における表明保証保険の「敷居を一段引き下げた」転換点として位置付けられます。同社は前年の2022年2月にも、金融機関が提供するM&A支援ビジネス向けの「金融機関向けM&A包括補償(表明保証保険)」の販売を開始しており、中小M&A市場への商品ラインアップの拡充を継続的に進めています。

3-2. 複数の損害保険会社による参入

表明保証保険市場には、東京海上日動火災保険株式会社のほか、三井住友海上火災保険株式会社、損害保険ジャパン株式会社などの大手損害保険会社、AIG損害保険株式会社(大型案件中心)などが、それぞれの戦略で参入しています。各社の中小M&A向け個別商品の具体的なスペックは、各社プレスリリース・公式資料をご確認ください。市場全体としては、商品ラインアップの拡充、保険料率の低下、補償範囲の拡大が並行して進行中です。

3-3. 「M&A BATONZ」の市場における位置付け

こうした市場環境のなかで、「M&A BATONZ」が独自の位置を占めるのは、「BATONZプラットフォームを介した成約案件に対する原則自動付帯」というインフラ性にあります。買い手が能動的に保険商品を比較検討して選択するのではなく、プラットフォーム経由の成約案件には標準装備として表明保証保険が付帯される——という構造は、個人買い手や初めてのM&Aに臨む買い手にとって、心理的・実務的な障壁を大きく下げる効果が期待されます。

一方、東京海上日動火災保険株式会社「国内M&A保険Light」のような汎用商品は、案件規模や買い手の要望に応じて、BATONZ経由以外の案件、外部仲介・ファイナンシャル・アドバイザー経由の案件でも幅広く活用される位置付けにあります。両者は競合というよりも、市場の異なる層をカバーする補完関係にあると整理できます。


4. 事業承継・M&A補助金と中小M&A市場改革プラン——制度面の追い風

この章のポイント
表明保証保険料は、中小企業庁が公募する「事業承継・M&A補助金」(十四次公募・2026年1月公示)の補助対象経費に含まれます。さらに、経済産業省が2025年8月に公表した「中小M&A市場改革プラン」では、表明保証保険が市場健全化ツールとして位置付けられています。制度面でも追い風が吹いています。

4-1. 事業承継・M&A補助金における表明保証保険料の補助対象経費化

中小企業庁が公募する「事業承継・M&A補助金」(中小企業生産性革命推進事業の一環、十四次公募・2026年1月公示)では、ファイナンシャル・アドバイザー費用、仲介費用、デューデリジェンス費用、セカンドオピニオン費用、そして表明保証保険料が補助対象経費に含まれています。具体的な補助率・補助上限は最新の公募要領をご確認ください。

これは、表明保証保険が単なる民間の保険商品ではなく、中小企業の円滑な事業承継・M&Aを支援するための公的な政策ツールとして位置付けられたことを意味します。買い手・売り手にとっては、保険料負担の一部を補助金で軽減できる可能性があり、加入のハードルがさらに下がる方向に作用します。補助金の活用可否や申請手続きの詳細は、中小企業診断士・税理士等の専門家、および地域の事業承継・引継ぎ支援センターにご相談ください。

4-2. 中小M&A市場改革プラン(経済産業省、2025年8月公表)

経済産業省は、2025年8月に「中小M&A市場改革プラン(中小M&A市場の改革に向けた検討会中間とりまとめ)」を公表しました。同プランは、近年のM&A支援機関の急増に伴う支援品質のばらつき、不適切な譲り受け側の存在、経営者保証問題などへの対応として、市場の健全化に向けた政策的な方向性を整理した文書です。

この中で、表明保証保険は中小M&A市場の健全化ツールとして位置付けられていると整理されています。表明保証保険の普及は、不適切な売買契約の温存を防ぎ、買い手・売り手の双方が安心して取引に臨むための制度的な安全弁として機能することが期待されているわけです。

4-3. 経営者保証ガイドラインとの関係

表明保証保険と直接の関係はないものの、関連する政策動向として、「経営者保証に関するガイドライン」(2014年運用開始、2024年改訂)の存在も意識する必要があります。同ガイドラインは、事業承継・M&Aに伴う旧経営者の個人保証解除を後押しする枠組みであり、表明保証保険による補償の充実とあわせて、「売り手の出口後リスクを多層的に低減する」制度的環境が整いつつあります。経営者保証の解除に関する具体的な交渉は、顧問税理士・取引金融機関とご相談のうえ進めていただくことをお勧めします。


5. 60代経営者がチェックすべき表明保証リスク——売り手側の自衛策

この章のポイント
60代経営者が売り手としてM&Aに臨む際、長年の経営慣行から生じる表明保証リスクは「知らなかった」では免責されない場合があります。労務管理上の問題、帳簿外の偶発債務、口頭合意による取引慣行——売却を検討する2〜3年前から、リスクの棚卸しを行うことが、結果的に売り手の手取りを最大化します。

5-1. 長年の経営慣行から生じる労務上の問題

60代経営者の方が永年経営してきた会社では、労務管理上の問題が表明保証リスクとして顕在化するケースが少なくありません。具体的には次のような項目です。

これらは、長年の慣行のなかで「業界では当たり前」「以前からそうしてきた」というかたちで温存されがちな領域ですが、買い手にとっては典型的なデューデリジェンスの確認項目であり、クロージング後に表明保証違反として顕在化するリスクが高いものです。

5-2. 帳簿に表れにくい偶発債務・未払費用

帳簿上は把握しにくいものの、表明保証違反のリスクとなりうる項目もあります。

5-3. 取引先との口頭合意・慣行的取引の文書化

中小企業のM&Aで頻繁に問題となるのが、取引先との口頭合意・慣行的取引の未文書化です。たとえば、特定の主要取引先との価格・支払条件・返品条件・専属契約的な取り扱いなどが、長年の信頼関係のなかで明文化されないまま運用されているケースが少なくありません。買い手としては、文書化されていない条件は引き継ぎリスクと評価せざるをえず、表明保証範囲の交渉や、価格調整の論点となります。

5-4. 売却検討の2〜3年前からのリスク棚卸し

表明保証リスクは、売却交渉が始まってから慌てて対応しても、根本的な解消は困難です。可能であれば、売却を検討する2〜3年前から、顧問税理士・社会保険労務士・弁護士と連携して、リスクの棚卸しと是正に着手することが、結果的に売却条件の改善・売り手手取りの最大化につながります。表明保証保険の付保があっても、売り手の誠実な情報開示義務は免除されません。表明保証保険は、リスクを「ゼロにする」ものではなく、「予期しなかったリスクが顕在化したときの財務的緩衝材」と位置付けるのが正確な理解です。

5-5. 表明保証保険の活用は専門家との協議を前提に

「M&A BATONZ」のような付帯型保険、東京海上日動火災保険株式会社「国内M&A保険Light」のような単体商品、それぞれに適用条件・補償範囲・免責事項の差異があります。具体的にどの商品が自社案件に適合するか、保険適用条件をどう整理するかは、保険業法に基づく登録業者である保険代理店、および顧問弁護士・顧問税理士・公認会計士等の専門家と協議のうえご検討ください。本記事は保険商品の契約勧誘を行うものではなく、業界動向と一般的な仕組みの解説にとどまるものです。


6. 中小M&A実務への含意——保険時代のデューデリジェンスと売り手戦略

この章のポイント
表明保証保険の普及は、デューデリジェンスを「省略してよい理由」ではなく、「適切に実施したうえで、想定外のリスクに備える設計」へと位置付けを変えます。エスクローの代替・縮小、クリーンエグジット、買い手・売り手それぞれの実務的含意を整理します。

6-1. デューデリジェンスは依然として実務の中心

表明保証保険の普及は、デューデリジェンスを省略・簡略化する根拠にはなりません。むしろ多くの保険商品では、デューデリジェンスレポートの提出と引受審査が引受条件となっており、適切なデューデリジェンスの実施が、保険適用の前提となっています。中小M&Aガイドライン第3版(令和6年8月、中小企業庁)でも、デューデリジェンスの重要性は引き続き強調されています。

「M&A BATONZ」新スキームにおいても、株式会社バトンズによる「インタビューレポート」の実施が付帯の基礎となっており、買収判断の基礎となる情報収集プロセスは依然として実務の中心に位置付けられています。保険は、デューデリジェンスで発見できなかったリスクへの備えであり、デューデリジェンスそのものの代替ではありません。

6-2. エスクローの代替・縮小と「クリーンエグジット」

表明保証保険が普及する以前は、エスクロー(中立第三者である信託銀行等が、譲渡代金の一部を一定期間預かり、表明保証違反等が判明した場合の補償原資とする仕組み)が、代表的なリスクヘッジ手段でした。エスクロー期間中は、売り手は譲渡代金の一部を回収できないため、資金計画上の制約となりがちでした。

表明保証保険を活用することで、エスクローを縮小・代替できる場合があります。これにより、売り手は「クリーンエグジット」——後日賠償請求を受けるリスクを保険で転嫁したうえで、譲渡代金の早期回収と事業からの完全撤退——を実現しやすくなります。買い手側も、売り手との対立を避けつつ補償リスクに備えられるため、入札・交渉・資金調達プロセスが円滑化する効果があります。

6-3. 個人M&A時代のリスク分散インフラ

株式会社バトンズが推進する個人M&A・小規模M&Aの普及は、「会社を初めて買う」買い手が大量に登場する市場の出現を意味します。個人買い手にとって、表明保証違反による予期せぬ追加負担は、人生設計を揺るがすリスクとなりかねません。

「M&A BATONZ」のようなプラットフォーム経由の標準装備型保険、東京海上日動火災保険株式会社「国内M&A保険Light」のような汎用商品の登場は、こうした個人M&A時代のリスク分散インフラとして、市場全体の健全化に寄与する制度的進化と評価できます。

6-4. 売り手が留意すべき「保険があれば安心」という落とし穴

一方、売り手側からみたときに留意すべきは、「保険があるから情報開示は適当でよい」という発想は危険であるという点です。多くの表明保証保険は、売り手の故意の隠蔽・重大な注意義務違反を免責とするのが一般的であり、悪質な情報非開示が判明した場合は、保険でカバーされず、結果的に売り手自身が補償責任を負う可能性があります。

売り手にとって最善の戦略は、事前のリスク棚卸し → 誠実な情報開示 → 表明保証範囲の合理的限定 → 表明保証保険による緩衝材化という、多層的なリスク管理の組み合わせです。これらの設計は、顧問弁護士・顧問税理士・公認会計士等の専門家との連携のもとで進めることをお勧めします。


結び——「敷居の低下」から「市場の標準装備化」へ

2020年に「M&A Batonz」が登場した時点では、小規模M&A向け表明保証保険は、業界の敷居を引き下げる先進的な実験でした。それから約5年半が経過した2026年の現在、同スキームは全面刷新され、東京海上日動火災保険株式会社「国内M&A保険Light」をはじめとする汎用商品との併存、補助金制度による政策的後押し、中小M&A市場改革プランによる位置付けの明示など、市場全体が「実験」から「標準装備化」のフェーズに入りつつあります。

とはいえ、表明保証保険は万能の道具ではありません。本来の機能は、適切なデューデリジェンスを実施したうえで、なお発見しきれなかったリスクに対する財務的緩衝材を用意することにあります。売り手が誠実に情報を開示し、買い手が必要な調査を尽くし、そのうえで残余のリスクを保険でカバーするという、多層的なリスク管理の一要素として位置付けることが、保険時代の中小M&A実務における正しい理解です。

株式会社 日本財務戦略センターでは、中小企業のオーナー経営者の皆様の事業承継・M&A・事業譲渡について、売り手の利益最大化とリスク回避を最優先するセカンドオピニオン的な立場でご相談を承っています。表明保証範囲の整理、デューデリジェンスの設計、保険適用の検討、補助金活用の判断などについて、顧問弁護士・税理士・公認会計士・司法書士行政書士等の各専門家と連携しながら、最適な進め方をご一緒に検討します。いつでもお気軽にご相談ください(初回相談無料・秘密厳守)。


よくあるご質問(FAQ)

この章のポイント
日本財務戦略センターへのご相談に関する共通の10問と、本記事に関する5問の計15問。
共通Q1. 日本財務戦略センターはどのような会社ですか?
A. 株式会社日本財務戦略センター(JFSC)は、中小企業オーナーの M&A・事業承継を「自分事として最後まで完結する」ためのご相談先です。仲介の独断ではなく、売り手の判断材料を整える立場を貫いています。会社概要もご覧ください。
共通Q2. 相談したら、必ず M&A しなければいけませんか?
A. いいえ、ご相談のみで結構です。相談後に「今回は見送ります」と判断いただいても問題ありません。M&A 以外の選択肢(廃業・親族承継・事業再生)も含めてご一緒に整理します。まずは無料相談からお気軽にどうぞ。
共通Q3. 相談料・着手金は発生しますか?
A. 初回相談・簡易査定・進行中の段階まで、すべて無料です。日本財務戦略センターは完全成功報酬制を採用しており、M&A 成約時のみご報酬が発生します。着手金・中間金・月額顧問料は一切いただきません。なお、案件特性により外部専門家への依頼や登記等の実費(例:司法書士の登記費用、外部監査法人による資産査定、譲受企業側からの弁護士・公認会計士による DD 費用 等)が発生する場合は、必ず事前にご相談・ご同意のうえ進めますので、不意の費用負担は生じません。詳細は弊社の報酬体系をご確認ください。
共通Q4. 一般的な M&A 仲介会社と、どこが違いますか?利益相反はどう開示されますか?
A. M&A 仲介は売主・買主の双方から報酬を得る「両手仲介」が業界慣行で、構造的な利益相反のリスクがあります。そのうえで、業界には「誘い込む仲介」と「公開する仲介」の二類型があると当社は考えています。日本財務戦略センターは後者の立場で、契約締結時に重要事項説明書を交付し、両手仲介の構造を含めて文書でご説明したうえで、売り手の判断材料となる情報を整え、買い手の都合で交渉を急がせない姿勢を貫きます。これは経済産業省・中小企業庁中小 M&A ガイドライン第 3 版・2024 年 8 月改訂、手数料算定基準の開示・買い手信用調査等を留意事項として明示)に則った対応です。二類型化の根拠は弊社独自の業界 20 社研究レポート、構造論の詳細は仲介契約 vs FA 契約の構造分析もご参照ください。
共通Q5. どれくらいの規模から相談できますか?
A. 年商数千万円規模の小規模事業から、数億円規模まで対応します。業界の多くの仲介会社では最低手数料を 2,000 万円以上に設定している傾向で、各社の最低手数料は中小企業庁M&A 支援機関登録制度・登録情報で確認いただけます。日本財務戦略センターの最低手数料は 700 万円で、小規模案件もお引き受けしています。具体的な報酬構造は弊社の報酬体系をご確認ください。
共通Q6. 税金・法律のことを詳しく教えてもらえますか?
A. 税務・法務は税理士法・弁護士法により、具体的な提案は弁護士・税理士等の専門家のみが行えます。当社は業界慣行の一般論をご説明した上で、顧問の先生方にご確認いただく形でご案内します。必要に応じて専門家ネットワークのご紹介も無料で行っています。
共通Q7. 家族や従業員に知られたくないのですが、可能ですか?
A. ご相談段階から NDA(秘密保持契約)を締結し、徹底管理します。社名を公開せずに買い手候補へ打診する「ノンネーム打診」の進め方も可能です。守秘義務体制については情報管理ポリシーでご確認いただけます。
共通Q8. 成約までどれくらいの期間がかかりますか?
A. 標準的には 3〜6 ヶ月程度を目安としてお考えください。買い手候補と事前に綿密な調整を行い、売主オーナー様のペースで進行します。スピード優先で売主の利益を損なう進め方は致しませんが、売主オーナー様のご事情・ご要望に応じて、最短 60 日での成約実績もございます。
共通Q9. デューデリジェンス(DD)では、どのような立場をとりますか?
A. 日本財務戦略センターは、売主オーナー様の利益を最優先に検討する立場を貫きます。仲介業の構造的な利益相反論点については仲介契約 vs FA 契約の構造分析で詳述しており、DD 費用負担の判例実務は東京地裁 DD 費用判決の射程でご確認いただけます。必要に応じて第三者の公認会計士・弁護士・税理士等の専門家をご紹介し、買い手寄りに偏らない査定体制を整えます。中小企業庁中小 M&A ガイドラインの遵守事項に則り、適切な情報開示を行います。
共通Q10. 対応エリアは限られますか?
A. 全国対応可能です。首都圏はもちろん、各地方都市でもご相談実績があります。オンライン面談と現地訪問を組み合わせ、所在地を問わず売主様のペースで進行します。まずは所在地を問わない無料相談をご利用ください。
本記事Q11. 新しい「M&A BATONZ」のセーフティ、ベーシック、アドバンスの3プランは、具体的にどのような基準で選べば良いのでしょうか?
A. 新スキームの「セーフティ」および「ベーシック」プランは、成約価格10億円以下を主な対象としており、補償上限が成約価格に連動して変動します。一方、「アドバンス」プランは成約価格が10億円を超える案件や、より手厚い補償を希望される場合に検討されることが多いです。貴社のM&A案件の規模やリスク許容度に応じて、適切なプランを選択することが重要となります。
本記事Q12. 「M&A BATONZ」の新スキームでは、バトンズデューデリジェンス以外の企業調査(デューデリジェンス)でも表明保証保険を付帯できるとのことですが、その際の条件や注意点はありますか?
A. はい、新スキームではバトンズデューデリジェンス以外の企業調査(デューデリジェンス)でも表明保証保険の付帯が可能となり、適用案件の裾野が広がりました。ただし、保険付帯の可否や補償内容は、インタビューレポートの内容や実施されたデューデリジェンスの範囲によって判断されるため、詳細については保険会社またはM&A専門家にご確認ください。
本記事Q13. 事業承継・M&A補助金(十四次公募・2026年1月公示)で表明保証保険料が補助対象経費になるとのことですが、具体的にどのような手続きが必要ですか?
A. 事業承継・M&A補助金(十四次公募・2026年1月公示)において、表明保証保険料が補助対象経費に含まれることは、中小M&Aのコスト負担軽減に資する重要な変更点です。補助金の申請手続きや必要書類については、公募要領に詳細が記載されますので、中小企業庁の公式発表をご確認いただくか、補助金申請を専門とするコンサルタントにご相談いただくことをお勧めします。
本記事Q14. 中小M&Aガイドライン第3版(中小企業庁、令和6年8月30日改訂)で表明保証保険が明示的に位置付けられたとのことですが、これは中小企業にとってどのような意味を持つのでしょうか?
A. 中小M&Aガイドライン第3版において表明保証保険が明示的に位置付けられたことは、中小M&Aにおけるリスクヘッジの重要性が公的に認められたことを意味します。これにより、売り手・買い手双方にとって、M&A取引における潜在的なリスクへの備えがより一層推奨され、安心して取引を進めるための環境整備が進んだと言えるでしょう。
本記事Q15. 60代の経営者として、M&Aにおける表明保証リスクについて特にどのような点に注意すべきでしょうか?
A. 60代の経営者の皆様がM&Aを検討される際、表明保証リスクは特に重要な論点となります。過去の財務状況や事業運営における潜在的な問題が、株式譲渡契約(SPA)締結後の表明保証違反として顕在化する可能性があります。表明保証保険は、こうしたリスクに対する経済的な備えとなり得ますが、契約内容を十分に理解し、専門家と連携して適切なリスクマネジメントを行うことが肝要です。

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本記事は、公表されている一次ソース(株式会社バトンズ公式公表、東京海上日動火災保険株式会社公表資料、中小企業庁・経済産業省公表資料)に基づき、株式会社 日本財務戦略センター(中小企業庁 M&A 支援機関 登録、一般社団法人 M&A 支援機関協会 正会員)が独自の視点で構成・整理した解説記事です。記載内容は記事公開時点(2026年4月)のものです。

「M&A BATONZ」「国内M&A保険Light」を含む各保険商品の具体的な保険料率・補償上限・約款の詳細・付保可否は、引受保険会社・保険代理店および各社公式ページで必ずご確認ください。本記事は保険業法に基づく保険商品の契約勧誘を行うものではなく、業界動向と一般的な仕組みの解説を目的としています。

個別の表明保証条項のドラフティング、デューデリジェンスの設計、補償交渉、税務処理、補助金申請等については、必ず弁護士・税理士・公認会計士・司法書士・行政書士等の各専門家にご相談ください。本稿はあくまで、業界構造・公開情報に基づく一般的な解説を目的としており、個別案件への適用や法的判断を代替するものではありません。

公開日: 2020年10月22日 / 最終更新日: 2026年5月22日
五十嵐 悠一

執筆者

五十嵐 悠一(いがらし ゆういち)

株式会社日本財務戦略センター 代表取締役

京都大学経済学部経営学科卒業。株式会社損害保険ジャパン本店営業部、東証上場M&A仲介会社を経て、2020年5月に日本財務戦略センターを設立。中小企業のM&A仲介・事業承継支援を専門とし、医療・介護・食品製造・流通卸・機械製造分野の成約実績を持つ。

資格:プロフェッショナルCFO(日本CFO協会)/M&Aエキスパート(金融業務2級 事業承継・M&Aコース)

公的登録:中小企業庁 M&A支援機関 登録事業者/一般社団法人 M&A支援機関協会 正会員

メディア登壇:株式会社サイゾー Business Journal ウェブセミナー講師「【売り手向け】M&Aを成功させるための具体的な行動・プロセス・知識」(2022年6月)[公式告知]

専門家コラム寄稿:BATONZ(国内最大級M&A プラットフォーム)に M&A・事業承継 74本(2021年〜継続)[コラム一覧]

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📅 本記事の情報基準日

本記事は 2020年10月22日 公開時点の情報に基づきます。税制・法令等は改正される場合があるため、最新の制度・税制は公的機関の公式情報をご確認ください。

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