2020.10.01 M&Aスキーム(法務) M&A実務

持株会社化で事業承継・M&Aを制する:スキーム選択・適格要件・株式等保有特定会社・三本柱の税制と経営者保証の実務論点

3行まとめ


Table of Contents

はじめに——持株会社化を「節税の道具」にしないために

この章のポイント
持株会社化は事業承継・M&A戦略の有効な手段ですが、税制面では「相続税評価が上がりやすい」という重大な逆風も持ちます。本記事では、メリットを煽るのではなく、判断に必要な論点を体系的に整理します。

事業承継・M&Aの相談現場で、ここ数年で急速に質問が増えたテーマの一つが「持株会社化(ホールディングス化)」です。後継者不在率は54.5%(2023年時点、中小企業白書)、経営者の平均年齢は60.7歳(2024年)まで上昇し、第三者承継・親族承継・従業員承継のいずれにおいても、「単一の事業会社のまま承継するか、持株会社を挟んでから承継するか」という設計判断が、最初の論点として浮上するようになりました。

持株会社化は、経営と執行の分離、グループ全体の資本政策の柔軟性、特定子会社の切り出し売却の容易化など、組織戦略の自由度を一段引き上げる有力な選択肢です。一方で、持株会社化したことによって相続税評価がむしろ上がるケース、適格組織再編の要件を欠いて時価評価課税が発生するケース、グループ通算制度で中小企業向けの優遇税制が外れるケースなど、実行設計を誤ると、本来の目的とは逆方向にコスト構造が動いてしまうリスクも併存しています。

本記事では、持株会社化を「節税の魔法の杖」として煽るのではなく、(1) 設立スキームの3類型、(2) 適格組織再編税制の要件と非適格時のリスク、(3) 株式評価への影響(株式等保有特定会社の論点)、(4) 活用できる三本柱の税制、(5) 経営者保証の二重保証禁止原則、(6) やるべきでないケースの見極め——という6つの論点を、60代の経営者の方が一人で判断材料を整理できる順序で解説します。なお、本稿は一般的な解説であり、個別の税務・法務判断については必ず弁護士税理士公認会計士等の専門家にご相談ください。


1. 持株会社化の3スキーム——株式移転・株式交換・会社分割の使い分け

この章のポイント
持株会社の設立スキームは、株式移転・株式交換・会社分割の3類型が基本です。単独の事業会社をそのまま完全子会社化するなら株式移転、既存会社同士の親子関係創設なら株式交換、事業部門だけ切り出すなら会社分割と、目的によって最適解が異なります。

1-1. 株式移転——一社単独の持株会社化に最も用いられる手法

株式移転とは、会社法上、既存会社(株式移転完全子法人)が自社の発行済株式の全部を、新たに設立する持株会社(株式移転完全親法人)に取得させる組織再編行為です。実行後は、既存会社の株主は、自社株を手放す代わりに、新設持株会社の株式を取得します。これにより、既存事業会社は新設持株会社の100%子会社となり、株主の経済的地位は持株会社の株主へとそのまま振り替わります。

一社単独で持株会社体制に移行するケースでは、株式移転が最もシンプルで実務上も多用されます。手続きは株主総会の特別決議、債権者保護手続き、登記等を経て完了し、現金支出を伴わずにグループ構造を組成できる点が大きな利点です。

1-2. 株式交換——既存会社同士で完全親子関係を創設する手法

株式交換は、既存の会社を完全親法人とし、別の既存会社を完全子法人とする組織再編行為です。完全親法人になる予定の既存会社が、すでに事業を持っている場合に用いられます。たとえば、既存の本体会社をそのまま持株会社的に位置づけ、別グループ企業を完全子会社化するようなケースでは、株式交換が選択肢になります。

ただし、本体会社が事業を持ったまま親会社化すると、純粋持株会社ではなく「事業持株会社」となり、純粋持株会社化を目指す場合は別途、本体事業を別の子会社に切り出すなどの追加再編が必要です。

1-3. 会社分割——事業部門を切り出して子会社化する手法

会社分割は、既存会社の事業の一部または全部を、別法人に承継させる組織再編行為です。新設分割と吸収分割があり、新設分割では分割で切り出した事業を承継するための新会社を新たに設立します。複数事業を営む会社が、特定事業部門を子会社として切り出し、本体を持株会社化するといった用い方が代表的です。

会社分割は、事業ごとに損益責任・財務責任を切り分けたい場合や、特定事業のみを将来売却・提携する余地を残したい場合に有効です。一方で、契約承継・労働契約承継法(労働者保護のための事前協議義務)・許認可承継など、株式移転・株式交換よりも実務手続きの論点が増える傾向があります。

1-4. スキーム比較表——目的・手続・税務上の扱い・適合ケース

図1:持株会社化スキーム比較(株式移転/株式交換/会社分割)
比較軸株式移転株式交換会社分割(新設分割)
主な目的単独会社の純粋持株会社化既存会社同士の親子関係創設事業部門の切り出し・子会社化
親会社新設持株会社(事業なし)既存会社(事業ありの場合は事業持株会社)分割元会社が継続
対価新設持株会社の株式(現金支出なし)親会社の株式(金銭等の交付も可)新設会社の株式(分社型/分割型を選択)
税務上の扱い適格要件充足で時価評価課税の繰延べ適格要件充足で時価評価課税の繰延べ適格要件充足で資産・負債の簿価引継ぎ
承継論点株主構成の振替のみ。事業契約・許認可は子会社で継続株主構成の振替のみ。事業契約・許認可は子会社で継続契約承継・労働契約承継法・許認可承継の論点が増える
適合ケース一社単独で純粋持株会社化したい既存複数社をグループ化したい複数事業のうち一部を分離したい
出典:財務省「組織再編税制に関する資料」、国税庁「法人税基本通達 第4節 組織再編成」、会社法第767条以下(株式交換・株式移転)・第762条以下(新設分割)に基づき株式会社 日本財務戦略センターにて整理。具体的なスキーム選択は税理士・弁護士にご相談ください。

3スキームのいずれを選ぶかは、「現状の会社が一社か複数社か」「全事業を子会社に下ろすか、一部だけ切り出すか」「既存株主構成をそのまま維持するか、振替を行うか」という3つの問いで概ね方向性が定まります。具体的なスキーム設計と税務上の取り扱いについては、税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください。


2. 適格組織再編税制の要件と「非適格」になった場合の課税リスク

この章のポイント
持株会社化を税制中立で実行するには、適格組織再編の要件を満たす必要があります。完全支配関係・支配関係の継続、事業継続、特定役員継続などの要件を欠くと「非適格」と判定され、対象資産の時価評価課税が発生します。

2-1. なぜ「適格/非適格」の区別が決定的に重要なのか

株式移転・株式交換・会社分割といった組織再編は、法人税法上、所定の要件を満たす場合に「適格組織再編」とされ、移転資産・株式について時価評価課税が繰り延べられる仕組みになっています。要件を欠くと「非適格組織再編」となり、対象法人の保有資産・移転株式について時価評価による評価益・評価損が課税対象となります。

特に株式移転完全子法人が含み益を多く抱えている場合、非適格と判定されると、組織再編の実行と同時に多額の法人税が発生するため、適格要件の充足は実務上の最重要論点です。

2-2. 適格要件の3つの類型——完全支配・支配関係・共同事業

適格要件は、再編当事者間の関係性に応じて3類型に整理されます。

2-3. 株式移転・株式交換に固有の要件——特定役員継続要件

株式移転・株式交換においては、上記の類型別要件に加え、「特定役員継続要件」が論点になります。これは、組織再編後も、再編対象法人の特定役員(社長・副社長・専務・常務・代表権を有する者など)が引き続き役員として在籍することを求める要件です。

国税庁の質疑応答事例(株式移転における特定役員継続要件の判定)でも明確化されている通り、この要件を欠くと、せっかく完全支配関係下で実行しても適格性が否定されるリスクがあります。承継スケジュール上、株式移転と同時に旧経営陣が完全退任する設計を組む場合は、特に注意が必要です。

2-4. 会社分割固有の要件——主要資産・負債引継要件、従業者引継要件

会社分割では、上記要件に加え、分割事業の主要な資産・負債が分割承継法人に引き継がれていること、分割事業に従事していた従業員のおおむね80%以上が分割承継法人で引き続き従事することなどの追加要件が課されます。事業の実質的な継続性が問われる構造です。

2-5. 適格要件チェックリスト(簡易版)

図2:適格組織再編 要件チェックリスト(株式移転を中心に)
対価要件——交付対価が原則として親法人株式のみであること(金銭等不交付要件)
完全支配関係 or 支配関係 の継続見込み——再編後も継続して完全支配(または支配)関係が見込まれること
事業継続要件——再編対象法人の主要事業が再編後も引き続き営まれる見込みがあること(支配関係型・共同事業型で適用)
特定役員継続要件——再編対象法人の特定役員(社長級)が再編後も引き続き役員として在籍する見込みがあること(支配関係型で適用)
従業者引継要件——再編対象法人の従業者の概ね80%以上が再編後の法人に引き続き従事する見込みがあること(支配関係型・共同事業型で適用)
株式継続保有要件——支配株主が交付を受けた株式を継続保有する見込みがあること(共同事業型で適用、支配株主が存在する場合)
出典:法人税法第2条第12号の17(適格株式移転の定義)、法人税法施行令第4条の3、国税庁「株式移転における特定役員継続要件の判定」等に基づき株式会社 日本財務戦略センターにて整理。各要件の具体的判定は税理士・公認会計士にご相談ください。

適格要件は、再編類型・関係性・対象法人の規模によって細かく分岐するため、「自社のケースで本当に適格になるか」の最終判定は、必ず税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください。本記事はあくまで一般的な解説です。


3. 持株会社化後の相続税・株式評価への影響——「株式等保有特定会社」の罠とS1+S2方式

この章のポイント
持株会社化の最大の落とし穴は、相続税・贈与税の評価方法が「株式等保有特定会社」として純資産価額方式(またはS1+S2方式)に強制転換される点です。類似業種比準方式が使えなくなり、評価額がむしろ上昇するケースが少なくありません。

3-1. 持株会社が「株式等保有特定会社」に該当する仕組み

非上場株式の相続税評価は、財産評価基本通達に基づき、原則として類似業種比準方式・純資産価額方式・併用方式のいずれかで評価されます。一般に類似業種比準方式は純資産価額方式より評価額が低くなる傾向があるため、事業承継対策では類似業種比準方式の活用が長年の定石でした。

ところが財産評価基本通達では、評価会社の総資産価額(相続税評価額ベース)に占める株式・出資等の価額の合計額の割合が50%以上である場合、その会社を「株式等保有特定会社」として、原則として純資産価額方式での評価が強制されます。持株会社は資産の大半が子会社株式であるため、ほぼ確実にこの50%基準を超え、株式等保有特定会社に該当することになります。

3-2. 純資産価額方式が招く評価額の上昇

類似業種比準方式が使えず、純資産価額方式に固定されると、相続税評価額は持株会社が保有する子会社株式の相続税評価額の合計を基礎に計算されます。子会社が含み益のある不動産・有価証券を保有していたり、純資産が厚かったりする場合、純資産価額は類似業種比準価額より高くなりやすく、結果として持株会社化前の単独事業会社時代より相続税負担が増えるケースが珍しくありません。

「持株会社化すれば株価が下がる」というのは、過去のスキームを単純化した古い俗説と言ってよく、現在の通達体系下では、むしろ持株会社化が相続税負担を押し上げる方向に作用するケースが多いという認識を持つ必要があります。

3-3. 救済策としての「S1+S2方式」

納税義務者は、純資産価額方式の代わりに、「S1+S2方式」と呼ばれる評価方法を選択できます。これは、持株会社の資産を「株式等以外(S1部分)」と「株式等部分(S2部分)」に分けて評価する方法です。

S1+S2方式は、純資産価額方式単独より評価額が低くなるケースが多く、持株会社化後の評価対策として実務上ほぼ常に検討されます。ただし、評価方法の選択は各事業年度の状況・資産構成・株主構成によって最適解が変わるため、必ず税理士・公認会計士等の専門家による試算と判定が必要です。

3-4. 株価評価のタイミング——令和7年分の業種目別株価等の更新

類似業種比準方式の計算に用いる業種目別株価等は、毎年国税庁から通達で公表されます。令和7年(2025年)分の業種目別株価等は2025年6月に公表済であり、毎年の市場動向によって株価評価額は変動します。持株会社化のタイミング次第で評価額が大きく変わりうるため、実行時期の選定も重要な論点です。

3-5. 株式等保有特定会社判定の「課税時期」基準

株式等保有特定会社の判定は、「課税時期」(贈与・相続の日)現在で行われます。つまり、相続発生時点で持株会社が要件を満たせば、純資産価額方式(またはS1+S2方式)が適用されます。一時的に株式以外の資産を増やして判定を回避するような操作は、租税回避と認定されるリスクが高く、実務上は慎重な対応が必要です。具体的な判定・試算は税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください。

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4. 活用できる三本柱の税制——グループ通算制度・法人版事業承継税制・中堅・中小グループ化税制

この章のポイント
2026年現在、持株会社化と相性のよい税制は(1) 法人版事業承継税制(特例措置)、(2) グループ通算制度、(3) 中堅・中小グループ化税制(中小企業事業再編投資損失準備金)の三本柱です。それぞれの適用要件と適用期限を整理します。

4-1. 法人版事業承継税制(特例措置)——納税猶予割合 100%・対象株式数の上限撤廃

法人版事業承継税制(特例措置)は、非上場株式に係る相続税・贈与税の納税猶予割合 100%(一般措置は 80%)、対象株式数の上限撤廃という、中小企業の事業承継を後押しする極めて優遇度の高い制度です。

適用対象となる贈与・相続の期間は2018年1月1日から2027年12月31日までと定められています。なお、特例措置の適用に必要な「特例承継計画」の都道府県への提出期限は令和9年(2027年)9月30日まで延長されており、本記事公開時点(2026年5月)ではまだ提出可能です。新たに特例措置を活用したい方は、2027年9月30日までに計画を提出し、2027年12月31日までに贈与・相続を行えば特例措置を利用できます。

持株会社の株式に事業承継税制(特例措置)を適用するには、持株会社が「中小企業者」要件(資本金 3億円以下または従業員 300人以下等の業種別基準)を満たすことが必要です。注意点として、グループ全体の売上・従業員でも要件判定が行われるため、M&Aによりグループが拡大した場合に要件を外れるリスクがあります。一般措置(納税猶予割合 80%、対象株式数の上限あり)は引き続き利用可能ですので、特例措置を活用できなかった場合は、一般措置の活用余地を税理士・公認会計士等の専門家に相談することが現実的な選択肢となります。

4-2. グループ通算制度——令和4年4月施行、連結納税制度からの移行

グループ通算制度は、令和4年(2022年)4月1日以後に開始する事業年度から施行された制度で、従来の連結納税制度を廃止・移行する形で導入されました。完全支配関係(直接・間接の100%保有関係)にあるグループ内の各法人が個別に申告納税する一方、損益通算等の調整を行うことで、グループ全体の税負担を最適化する仕組みです。

持株会社を通算親法人とするグループでは、子会社間の損益通算が可能となり、特定子会社の赤字を他の黒字子会社の所得と通算できる効果があります。一方、「適用除外事業者」(基準期間における平均所得金額が一定額を超える等の要件に該当する法人)は、中小企業向け特例(軽減税率、貸倒引当金の法定繰入率、交際費の定額控除等)の適用が除外されます。

グループ通算制度の適用は任意の選択制ですが、いったん選択すると原則継続が必要であり、また加入・離脱時の時価評価課税等の論点も多いため、適用判断は慎重さを要します。具体的な適用可否・効果試算は税理士等の専門家にご相談ください。

4-3. 中堅・中小グループ化税制(中小企業事業再編投資損失準備金)——令和6年度拡充

中堅・中小グループ化税制(正式名称「中小企業事業再編投資損失準備金」)は、令和3年度税制改正で創設、令和6年度税制改正で拡充・延長された税制です。中小企業者または特定中堅企業者がM&Aで子会社株式を取得する場合、認定を前提として、株式取得価額の一定割合を準備金として損金算入できる仕組みです。

令和6年度改正のポイントは、対象範囲の中堅企業への拡充と、損金算入割合の引き上げにあります。産業競争力強化法に基づく「特別事業再編計画」の認定を受けた中堅企業者が行うM&Aについては、認定後1回目の株式取得価額の90%、2回目以降は100%を準備金として損金算入でき、据置期間は10年と長期に設定されています。

中小企業者がM&Aを行う場合についても、経営力向上計画の認定を前提として、株式取得価額の70%を上限に準備金として損金算入できる枠組みが引き続き存在します。持株会社主導でM&Aを連続的に実行する戦略と直接結びつく税制であり、認知度が業界内でもまだ高くないため、活用余地が大きい論点です。

4-4. グループ法人税制——完全支配関係下の取引課税の特則

グループ法人税制(令和2年度税制改正で整備)は、完全支配関係がある内国法人間の取引について、寄附金の損金不算入・受贈益の益金不算入、譲渡損益調整資産に係る譲渡損益の繰延べ、100%子会社株式の評価損否認等の特則を定めた制度です。

持株会社化によりグループが形成されると、グループ内取引の課税関係が大きく変化します。たとえば、子会社間の資産譲渡で生じる譲渡損益は譲渡損益調整資産該当の場合に繰延処理となり、グループ内寄附は寄附法人で損金不算入・受贈法人で益金不算入として処理されます。グループ通算制度を選択しない場合でも、完全支配関係下のグループ法人税制は強制適用される点に留意が必要です。


5. 経営者保証の移行——持株会社設立時と事業承継時の二重保証禁止原則

この章のポイント
事業承継時には、令和元年12月公表の「経営者保証に関するガイドライン」特則により、前経営者と後継者の双方から二重に保証を求めることは原則禁止されています。持株会社化で法人格が新設されたり子会社化されたりする場合の保証取り扱いは、金融機関との早期協議が不可欠です。

5-1. 経営者保証ガイドラインと事業承継特則の概要

「経営者保証に関するガイドライン」は、日本商工会議所全国銀行協会が事務局となる研究会が策定した自主的なガイドラインで、経営者保証への過度な依存からの脱却を目的としています。令和元年12月、特則として「事業承継時に焦点を当てた経営者保証に関するガイドラインの特則」が公表され、事業承継時の取り扱いが明確化されました。

特則の中核は、「事業承継時には、前経営者と後継者の双方から二重に保証を求めることは原則禁止」とされた点です。これにより、後継者が経営者保証の負担を理由に承継を躊躇するケースを減らし、円滑な事業承継を促進する政策的意図が示されました。

5-2. 持株会社化に伴う経営者保証の論点

持株会社化を実行すると、法人格の構造が変わるため、既存の経営者保証の取り扱いについて金融機関と協議する必要が生じます。具体的には、以下のような論点が発生します。

金融機関側も、特則の趣旨を踏まえて柔軟な対応を進めている例が増えていますが、最終的には個別交渉に依存します。持株会社化の検討段階で、メインバンクと早めに方針共有を行うことが、後の混乱を避ける実務的な定石です。具体的な対応については、弁護士・税理士・公認会計士等の専門家、および金融機関の担当者と協議の上で進めることをお勧めします。

5-3. 中小企業庁「経営者保証解除に向けた総合的な対策」の活用

中小企業庁では、経営者保証解除に向けた総合的な対策を推進しており、保証ガイドラインの普及、経営者保証ガイドライン特則に基づく相談窓口の設置、信用保証制度における経営者保証不要枠の拡充等の施策が展開されています。事業承継時の保証解除は、政策的にも追い風の局面にあるため、現状の保証構造を見直す好機と捉えることもできます。


6. 持株会社化の判断基準——メリット・デメリット一覧と「やるべきでないケース」

この章のポイント
持株会社化はあらゆる企業に万能ではありません。単一事業・小規模・株主構成がシンプル・近い将来の譲渡を予定といった条件が揃う場合は、むしろ持株会社化しないほうが合理的なことが多くあります。判断軸を整理します。

6-1. 持株会社化の主なメリット

6-2. 持株会社化の主なデメリット・コスト

6-3. 持株会社化を「やるべきでないケース」の典型

以下のような条件下では、持株会社化のメリットがコスト・リスクに見合わないケースが多く、安易な実行は慎重に判断すべきです。

6-4. 判断プロセスの推奨ステップ

持株会社化を検討する際の実務的な推奨ステップは、(1) 目的の明確化、(2) 現状株価評価、(3) 持株会社化後の評価試算(純資産価額方式・S1+S2方式)、(4) 適格要件の事前検証、(5) 経営者保証の方針共有、(6) 後継者・主要関係者との段階的合意形成、(7) 実行と継続管理——という流れが標準的です。いずれも単独で完結する論点ではなく、税務・法務・財務・金融機関対応が連動します。弁護士・税理士・公認会計士等の専門家と連携しながら、自社にとって最適な順序で進めていくことが現実的です。


結び——「目的なき持株会社化」を避け、本質的な承継設計を

持株会社化は、事業承継・M&A・グループ経営の有力な選択肢であると同時に、株式等保有特定会社該当による相続税評価の上昇、適格要件を欠いた場合の時価評価課税、グループ通算制度における適用除外事業者リスク、経営者保証の取扱い変更といった、少なからぬ実務的論点を伴うスキームです。

「節税の魔法の杖」として安易に導入するのではなく、「自社の承継・M&A・グループ経営にとって、何を解決するために持株会社化するのか」という目的の明確化を最初に行うことが、後悔しない判断の出発点になります。法人版事業承継税制(特例措置)の適用期限(2027年12月31日)、中堅・中小グループ化税制の活用余地、経営者保証ガイドライン特則の追い風など、現在は政策的な後押しが揃っている時期でもあります。

株式会社 日本財務戦略センター(中小企業庁 M&A 支援機関 登録、一般社団法人 M&A 支援機関協会 正会員)では、中小企業のオーナー経営者の皆様の事業承継・M&A・持株会社化のご相談を、売り手側の利益最大化とリスク回避を最優先するセカンドオピニオン的な立場でお受けしています。スキーム設計・税務上の取扱い・株式評価への影響・経営者保証の対応など、弁護士・税理士・公認会計士・司法書士行政書士等の各専門家と連携しながら、自社にとって最善の進め方をご一緒に検討します。初回相談は無料、秘密厳守です。判断の撤回は最後まで自由ですので、いつでもお気軽にご相談ください。


よくあるご質問(FAQ)

この章のポイント
日本財務戦略センターへのご相談に関する共通の10問と、本記事に関する5問の計15問。
共通Q1. 日本財務戦略センターはどのような会社ですか?
A. 株式会社日本財務戦略センター(JFSC)は、中小企業オーナーの M&A・事業承継を「自分事として最後まで完結する」ためのご相談先です。仲介の独断ではなく、売り手の判断材料を整える立場を貫いています。会社概要もご覧ください。
共通Q2. 相談したら、必ず M&A しなければいけませんか?
A. いいえ、ご相談のみで結構です。相談後に「今回は見送ります」と判断いただいても問題ありません。M&A 以外の選択肢(廃業・親族承継・事業再生)も含めてご一緒に整理します。まずは無料相談からお気軽にどうぞ。
共通Q3. 相談料・着手金は発生しますか?
A. 初回相談・簡易査定・進行中の段階まで、すべて無料です。日本財務戦略センターは完全成功報酬制を採用しており、M&A 成約時のみご報酬が発生します。着手金・中間金・月額顧問料は一切いただきません。なお、案件特性により外部専門家への依頼や登記等の実費(例:司法書士の登記費用、外部監査法人による資産査定、譲受企業側からの弁護士・公認会計士による DD 費用 等)が発生する場合は、必ず事前にご相談・ご同意のうえ進めますので、不意の費用負担は生じません。詳細は弊社の報酬体系をご確認ください。
共通Q4. 一般的な M&A 仲介会社と、どこが違いますか?利益相反はどう開示されますか?
A. M&A 仲介は売主・買主の双方から報酬を得る「両手仲介」が業界慣行で、構造的な利益相反のリスクがあります。そのうえで、業界には「誘い込む仲介」と「公開する仲介」の二類型があると当社は考えています。日本財務戦略センターは後者の立場で、契約締結時に重要事項説明書を交付し、両手仲介の構造を含めて文書でご説明したうえで、売り手の判断材料となる情報を整え、買い手の都合で交渉を急がせない姿勢を貫きます。これは経済産業省・中小企業庁中小 M&A ガイドライン第 3 版・2024 年 8 月改訂、手数料算定基準の開示・買い手信用調査等を留意事項として明示)に則った対応です。二類型化の根拠は弊社独自の業界 20 社研究レポート、構造論の詳細は仲介契約 vs FA 契約の構造分析もご参照ください。
共通Q5. どれくらいの規模から相談できますか?
A. 年商数千万円規模の小規模事業から、数億円規模まで対応します。業界の多くの仲介会社では最低手数料を 2,000 万円以上に設定している傾向で、各社の最低手数料は中小企業庁M&A 支援機関登録制度・登録情報で確認いただけます。日本財務戦略センターの最低手数料は 700 万円で、小規模案件もお引き受けしています。具体的な報酬構造は弊社の報酬体系をご確認ください。
共通Q6. 税金・法律のことを詳しく教えてもらえますか?
A. 税務・法務は税理士法・弁護士法により、具体的な提案は弁護士・税理士等の専門家のみが行えます。当社は業界慣行の一般論をご説明した上で、顧問の先生方にご確認いただく形でご案内します。必要に応じて専門家ネットワークのご紹介も無料で行っています。
共通Q7. 家族や従業員に知られたくないのですが、可能ですか?
A. ご相談段階から NDA(秘密保持契約)を締結し、徹底管理します。社名を公開せずに買い手候補へ打診する「ノンネーム打診」の進め方も可能です。守秘義務体制については情報管理ポリシーでご確認いただけます。
共通Q8. 成約までどれくらいの期間がかかりますか?
A. 標準的には 3〜6 ヶ月程度を目安としてお考えください。買い手候補と事前に綿密な調整を行い、売主オーナー様のペースで進行します。スピード優先で売主の利益を損なう進め方は致しませんが、売主オーナー様のご事情・ご要望に応じて、最短 60 日での成約実績もございます。
共通Q9. デューデリジェンス(DD)では、どのような立場をとりますか?
A. 日本財務戦略センターは、売主オーナー様の利益を最優先に検討する立場を貫きます。仲介業の構造的な利益相反論点については仲介契約 vs FA 契約の構造分析で詳述しており、DD 費用負担の判例実務は東京地裁 DD 費用判決の射程でご確認いただけます。必要に応じて第三者の公認会計士・弁護士・税理士等の専門家をご紹介し、買い手寄りに偏らない査定体制を整えます。中小企業庁中小 M&A ガイドラインの遵守事項に則り、適切な情報開示を行います。
共通Q10. 対応エリアは限られますか?
A. 全国対応可能です。首都圏はもちろん、各地方都市でもご相談実績があります。オンライン面談と現地訪問を組み合わせ、所在地を問わず売主様のペースで進行します。まずは所在地を問わない無料相談をご利用ください。
本記事Q11. 持株会社化によって「株式等保有特定会社」に該当すると、相続税評価が上がるとのことですが、具体的にどのような影響があるのでしょうか?
A. 株式等保有特定会社に該当すると、相続税評価において純資産価額方式が強制適用される可能性があります。これは、類似業種比準価額方式が適用できなくなり、結果として評価額が上昇する要因となることがあります。持株会社化の設計段階で、この点について十分な検討が必要です。
本記事Q12. 本記事で紹介されている「三本柱の税制」のうち、法人版事業承継税制(特例措置)の活用を検討していますが、特例承継計画の提出期限が終了しているとのこと。それでもこの税制は利用できるのでしょうか?
A. 法人版事業承継税制の特例措置における特例承継計画の提出期限は2026年3月31日に終了しています。しかし、贈与・相続の適用期限は2027年12月31日まで残されており、既に計画を提出済みの場合は引き続き納税猶予の適用が可能です。未提出の場合は、一般措置での検討となるため、専門家にご相談ください。
本記事Q13. 単一の事業会社を純粋持株会社化したいと考えていますが、株式移転、株式交換、会社分割のどのスキームが最適でしょうか?
A. 単一の事業会社をそのまま完全子会社化し、新設の純粋持株会社を設立する場合には、株式移転が最もシンプルで実務上も多用される手法です。株式交換は既存会社同士の親子関係創設に、会社分割は特定の事業部門を切り出す場合に主に用いられます。貴社の具体的な目的や既存株主構成によって最適な選択肢は異なります。
本記事Q14. 持株会社化において「適格組織再編税制」の要件を満たせない場合、どのような税務上のリスクが生じるのでしょうか?
A. 適格組織再編税制の要件を欠くと、非適格組織再編とみなされ、資産の移転が時価で行われたものとして課税される可能性があります。これにより、想定外の法人税や所得税が発生し、持株会社化の経済的メリットが損なわれるリスクがあります。事前に要件を詳細に確認し、慎重な計画が不可欠です。
本記事Q15. 持株会社化を進める上で、「経営者保証の二重保証禁止原則」が実務論点として挙げられていますが、これは具体的にどのような影響があるのでしょうか?
A. 経営者保証の二重保証禁止原則は、持株会社と子会社の双方で経営者が保証人となることを避けるべきという考え方です。持株会社化により、既存の保証契約の見直しや新たな保証設定が必要となる場合があり、金融機関との協議を通じて適切な対応を検討する必要があります。この原則は、経営者の個人保証負担軽減を目指すものです。

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個別の法務・税務・財務的判断、特に持株会社化スキームの選択、適格組織再編税制の要件充足判定、株式等保有特定会社該当性の判定、純資産価額方式・S1+S2方式の選択、グループ通算制度の適用判断、法人版事業承継税制(特例措置・一般措置)の適用要件、中堅・中小グループ化税制の認定要件、経営者保証の取扱い等については、必ず弁護士・税理士・公認会計士・司法書士・行政書士等の各専門家にご相談ください。本稿はあくまで、公開情報に基づく一般的な解説を目的とし、特定の取引・スキーム・税務処理の推奨や法的助言を行うものではありません。

📘 株式移転×現物配当スキームの実務手順(補完記事)

中小企業の持ち株会社化を経営者目線で読み解く — 株式移転・現物配当・適格組織再編税制とM&A後グループ経営の意思決定 では、株式移転(会社法2条32号)と現物配当(適格現物分配)の2段階スキームの実務手順、適格組織再編税制の落とし穴、令和8年度税制改正で新設された特定剰余金配当の特例、業種別17セクション・47都道府県別LP案内まで、経営者の意思決定軸を網羅的に整理しています。

公開日: 2020年10月1日 / 最終更新日: 2026年5月22日
五十嵐 悠一

執筆者

五十嵐 悠一(いがらし ゆういち)

株式会社日本財務戦略センター 代表取締役

京都大学経済学部経営学科卒業。株式会社損害保険ジャパン本店営業部、東証上場M&A仲介会社を経て、2020年5月に日本財務戦略センターを設立。中小企業のM&A仲介・事業承継支援を専門とし、医療・介護・食品製造・流通卸・機械製造分野の成約実績を持つ。

資格:プロフェッショナルCFO(日本CFO協会)/M&Aエキスパート(金融業務2級 事業承継・M&Aコース)

公的登録:中小企業庁 M&A支援機関 登録事業者/一般社団法人 M&A支援機関協会 正会員

メディア登壇:株式会社サイゾー Business Journal ウェブセミナー講師「【売り手向け】M&Aを成功させるための具体的な行動・プロセス・知識」(2022年6月)[公式告知]

専門家コラム寄稿:BATONZ(国内最大級M&A プラットフォーム)に M&A・事業承継 74本(2021年〜継続)[コラム一覧]

|LinkedIn|X (@jfsc2020)|BATONZ

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本記事は 2020年10月1日 公開時点の情報に基づきます。税制・法令等は改正される場合があるため、最新の制度・税制は公的機関の公式情報をご確認ください。

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