2020.08.27 M&A実務

M&Aの買い手は上場企業とオーナー企業のどちらが良いか|選定ポイントと交渉実務・財務評価の違いを徹底解説

M&Aの買い手としての上場企業とオーナー企業とは、譲受会社の組織形態に応じた典型的な2類型を指します。上場企業は公認会計士監査と取締役会・株主への説明責任の下で厳格な財務評価を行うため譲渡額が下振れしやすく、オーナー企業は経営者間の相性とビジョン共有が成否を分けるため、価格交渉には柔軟性が生まれやすい特徴があります。

M&Aの買い手選定はなぜ重要なのか?

株式会社日本財務戦略センター(JFSC)代表・五十嵐悠一は、中小企業のM&A支援の現場で、譲受会社(買い手)の組織形態がM&Aの成否を大きく左右することを繰り返し実感してきました。買い手は大別して「上場企業」と「オーナー企業」の2類型があり、それぞれ意思決定プロセス・財務評価手法・交渉スタイルが大きく異なります。売り手にとって最適な相手を選ぶには、両者の特性を理解した上で、自社の希望条件と照らし合わせることが必要です。

上場企業が買い手となる場合:厳格なプロセスと大きなシナジー

上場企業は会社法に基づく公開会社として、株主への説明責任を果たすため、金融庁監督下の監査法人や公認会計士による厳格な査定を行います。中小オーナー企業の税務会計ではあまり論点にならない時価換算、引当金計上、減損評価といった項目が指摘され、「思っていた譲渡金額と違った」という事態が発生しやすいのが特徴です。

例えば、地方の老舗食品加工会社が大手上場食品メーカーに譲渡された案件では、在庫評価の減損や将来債務の引当が買収監査で指摘され、最終譲渡額が当初想定を下回りました。これは上場企業の会計基準と監査法人関与に起因するもので、特に初めて上場企業との交渉に臨む売り手は留意すべき論点です。会計処理の詳細は中小M&Aガイドライン第3版でも解説されています。

一方で、上場企業のシナジーポテンシャルと資金調達能力は大きな魅力です。帝国データバンク等の調査でも大企業による中小企業M&Aは増加傾向にあり、事業承継問題の有力な解決策として注目されています。著名な企業への譲渡であれば、従業員や取引先への説明もスムーズで、譲渡後の経営継続にも安心感があります。ただし譲渡後は連結子会社として株主視点での経営評価を受ける立場になるため、オーナー社長時代とは異なる責任が求められる点に留意が必要です。

オーナー企業が買い手となる場合:相性重視の柔軟な交渉

オーナー企業同士のM&Aは、上場企業案件とは異なる力学で進みます。バリュエーションは簿価ベースから話し合いに入ることが多く、減損や引当の議論はあまり発生しない傾向にあります。中小企業庁事業承継・引継ぎ支援センターのデータが示すとおり、中小企業同士のM&Aは事業承継の主要な選択肢として活発化しています。

ただしオーナー間取引では「相性」が決定的に重要です。経営理念、ビジョン、従業員への向き合い方が一致しないと、譲渡後にトラブルが顕在化しやすくなります。あるITベンチャー案件では、両オーナーが事業情熱と従業員観を共有していたため、簿価ベースの評価から始めつつ「従業員の雇用維持」を全面的に受け入れる形で合意に至りました。経営者個人の保証解除については経営者保証ガイドラインの活用も視野に入れ、譲渡後の関係性と責任範囲を事前に明確化しておくことが肝要です。

JFSCの買い手タイプ別サポート方針

JFSCでは買い手の特性に応じて支援内容を変えています。上場企業相手の場合は、財務・法務上の重要論点を初期段階で開示し、買収監査で初めて指摘される事態を避けることで、感情的な摩擦(ハレーション)を抑えます。オーナー企業相手の場合は、両者のパーソナリティや経営哲学の擦り合わせを早期に行い、譲渡後の事業運営方針について双方同席で綿密な打ち合わせを設定します。これにより、金銭条件だけでなく非金銭要素も含めた最適マッチングを実現しています。

『企業買収』に学ぶM&Aのリアル

M&A実務で頻出する心理的力学を理解する上で、木俣貴光氏の小説『企業買収』は売り手・買い手双方におすすめの一冊です。本書は実務プロセスをリアルに描くだけでなく、「買ってやる」「売らなくてもいい」といった優位性を錯覚しがちな心理状態と、後に契約不適合責任が顕在化して立場が逆転する展開を克明に描いています。上場企業との厳格交渉でもオーナー企業同士の相性勝負でも、双方が謙虚な姿勢で臨むことが感情的しこりを残さない円滑なM&Aの鍵となります。

専門家連携の重要性

買い手タイプに関わらず、契約条件の交渉は弁護士、税務スキーム税理士、労務承継は社労士、株式評価は公認会計士など、それぞれの専門家との連携が不可欠です。M&A支援機関協会事業承継・引継ぎ支援センターも専門家連携を推奨しています。買い手タイプの選定でお悩みの段階から、JFSCのセカンドオピニオンをご活用ください。

よくあるご質問

上場企業に売却するとなぜ譲渡額が下がりやすいのですか?

上場企業は監査法人の関与下で財務会計基準に基づき、退職給付引当金や在庫評価減、減損などを保守的に計上する必要があるためです。中小企業の税務会計では計上不要だった項目が買収監査で指摘され、純資産評価が下振れする構造があります。事前に顧問税理士と財務会計ベースの試算を行うと心構えができます。

オーナー企業同士のM&Aで失敗する主な原因は何ですか?

経営理念、従業員への考え方、事業ビジョンの不一致が最大の失敗要因です。簿価ベースで価格合意できても、譲渡後の運営方針で対立すると従業員離反や取引先離脱を招きます。基本合意前の経営者面談で価値観のすり合わせを行い、必要なら弁護士・社労士同席で運営方針を文書化することをお勧めします。

上場企業とオーナー企業、どちらを優先して打診すべきですか?

売り手の優先順位次第です。譲渡後の事業継続性とブランドを重視するなら上場企業、雇用維持や経営理念の継承を重視するならオーナー企業が向く傾向にあります。M&A仲介会社にはまず両タイプを並行打診し、意向表明の中身を比較してから絞り込むのが現実的です。

公開日: 2020年8月27日 / 最終更新日: 2026年5月22日
五十嵐 悠一

執筆者

五十嵐 悠一(いがらし ゆういち)

株式会社日本財務戦略センター 代表取締役

京都大学経済学部経営学科卒業。株式会社損害保険ジャパン本店営業部、東証上場M&A仲介会社を経て、2020年5月に日本財務戦略センターを設立。中小企業のM&A仲介・事業承継支援を専門とし、医療・介護・食品製造・流通卸・機械製造分野の成約実績を持つ。

資格:プロフェッショナルCFO(日本CFO協会)/M&Aエキスパート(金融業務2級 事業承継・M&Aコース)

公的登録:中小企業庁 M&A支援機関 登録事業者/一般社団法人 M&A支援機関協会 正会員

メディア登壇:株式会社サイゾー Business Journal ウェブセミナー講師「【売り手向け】M&Aを成功させるための具体的な行動・プロセス・知識」(2022年6月)[公式告知]

専門家コラム寄稿:BATONZ(国内最大級M&A プラットフォーム)に M&A・事業承継 74本(2021年〜継続)[コラム一覧]

|LinkedIn|X (@jfsc2020)|BATONZ

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件における法務・税務・会計判断を提供するものではありません。法務・税務・会計の個別判断は、弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください。M&Aのスキーム設計・タイミング・買い手探し等のアドバイザリーは、株式会社日本財務戦略センターにご相談ください。記載内容は公開時点の情報に基づき、法令改正や市場変動により最新の状況と異なる場合があります。

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よくあるご質問(FAQ)

この章のポイント
日本財務戦略センターへのご相談に関する共通の10問と、本記事に関する0問の計10問。
共通Q1. 日本財務戦略センターはどのような会社ですか?
A. 株式会社日本財務戦略センター(JFSC)は、中小企業オーナーの M&A・事業承継を「自分事として最後まで完結する」ためのご相談先です。仲介の独断ではなく、売り手の判断材料を整える立場を貫いています。会社概要もご覧ください。
共通Q2. 相談したら、必ず M&A しなければいけませんか?
A. いいえ、ご相談のみで結構です。相談後に「今回は見送ります」と判断いただいても問題ありません。M&A 以外の選択肢(廃業・親族承継・事業再生)も含めてご一緒に整理します。まずは無料相談からお気軽にどうぞ。
共通Q3. 相談料・着手金は発生しますか?
A. 初回相談・簡易査定・進行中の段階まで、すべて無料です。日本財務戦略センターは完全成功報酬制を採用しており、M&A 成約時のみご報酬が発生します。着手金・中間金・月額顧問料は一切いただきません。なお、案件特性により外部専門家への依頼や登記等の実費(例:司法書士の登記費用、外部監査法人による資産査定、譲受企業側からの弁護士・公認会計士による DD 費用 等)が発生する場合は、必ず事前にご相談・ご同意のうえ進めますので、不意の費用負担は生じません。詳細は弊社の報酬体系をご確認ください。
共通Q4. 一般的な M&A 仲介会社と、どこが違いますか?利益相反はどう開示されますか?
A. M&A 仲介は売主・買主の双方から報酬を得る「両手仲介」が業界慣行で、構造的な利益相反のリスクがあります。そのうえで、業界には「誘い込む仲介」と「公開する仲介」の二類型があると当社は考えています。日本財務戦略センターは後者の立場で、契約締結時に重要事項説明書を交付し、両手仲介の構造を含めて文書でご説明したうえで、売り手の判断材料となる情報を整え、買い手の都合で交渉を急がせない姿勢を貫きます。これは経済産業省・中小企業庁中小 M&A ガイドライン第 3 版・2024 年 8 月改訂、手数料算定基準の開示・買い手信用調査等を留意事項として明示)に則った対応です。二類型化の根拠は弊社独自の業界 20 社研究レポート、構造論の詳細は仲介契約 vs FA 契約の構造分析もご参照ください。
共通Q5. どれくらいの規模から相談できますか?
A. 年商数千万円規模の小規模事業から、数億円規模まで対応します。業界の多くの仲介会社では最低手数料を 2,000 万円以上に設定している傾向で、各社の最低手数料は中小企業庁M&A 支援機関登録制度・登録情報で確認いただけます。日本財務戦略センターの最低手数料は 700 万円で、小規模案件もお引き受けしています。具体的な報酬構造は弊社の報酬体系をご確認ください。
共通Q6. 税金・法律のことを詳しく教えてもらえますか?
A. 税務・法務は税理士法・弁護士法により、具体的な提案は弁護士・税理士等の専門家のみが行えます。当社は業界慣行の一般論をご説明した上で、顧問の先生方にご確認いただく形でご案内します。必要に応じて専門家ネットワークのご紹介も無料で行っています。
共通Q7. 家族や従業員に知られたくないのですが、可能ですか?
A. ご相談段階から NDA(秘密保持契約)を締結し、徹底管理します。社名を公開せずに買い手候補へ打診する「ノンネーム打診」の進め方も可能です。守秘義務体制については情報管理ポリシーでご確認いただけます。
共通Q8. 成約までどれくらいの期間がかかりますか?
A. 標準的には 3〜6 ヶ月程度を目安としてお考えください。買い手候補と事前に綿密な調整を行い、売主オーナー様のペースで進行します。スピード優先で売主の利益を損なう進め方は致しませんが、売主オーナー様のご事情・ご要望に応じて、最短 60 日での成約実績もございます。
共通Q9. デューデリジェンス(DD)では、どのような立場をとりますか?
A. 日本財務戦略センターは、売主オーナー様の利益を最優先に検討する立場を貫きます。仲介業の構造的な利益相反論点については仲介契約 vs FA 契約の構造分析で詳述しており、DD 費用負担の判例実務は東京地裁 DD 費用判決の射程でご確認いただけます。必要に応じて第三者の公認会計士・弁護士・税理士等の専門家をご紹介し、買い手寄りに偏らない査定体制を整えます。中小企業庁中小 M&A ガイドラインの遵守事項に則り、適切な情報開示を行います。
共通Q10. 対応エリアは限られますか?
A. 全国対応可能です。首都圏はもちろん、各地方都市でもご相談実績があります。オンライン面談と現地訪問を組み合わせ、所在地を問わず売主様のペースで進行します。まずは所在地を問わない無料相談をご利用ください。

📅 本記事の情報基準日

本記事は 2020年8月27日 公開時点の情報に基づきます。税制・法令等は改正される場合があるため、最新の制度・税制は公的機関の公式情報をご確認ください。

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