2020.08.27 M&A実務 企業価値・価格

M&A譲渡対価の値決めとは|DCF法・EBITDA倍率と「腹落ち感」で決める非公開企業の適正価格交渉実務ガイド

M&A譲渡対価の値決めとは、売り手と買い手が株式や事業の譲渡価格について合意形成するプロセスを指します。非公開企業の場合は相対取引のため、割引キャッシュフロー(DCF)法や償却前利益(EBITDA)倍率法といった算定手法でレンジを把握しつつ、最終的には双方の「腹落ち感」、すなわち納得度の高い合意点を見つけ出すことが成約の鍵となります。

M&A譲渡対価はどう決まるのか?市場が価値を決定する原則

非公開企業のM&Aは相対取引であり、上場株式のように日々値が付くわけではありません。そのため、売り手の希望価格と買い手の評価額の間にはボラティリティが生じやすいのが実情です。株式会社日本財務戦略センター(JFSC)では、譲渡対価について「最終的には市場が決定する」とお伝えしています。ここで言う市場とは、複数の買い手候補が公正に競い合える環境のことです。

JFSCは経済産業省 中小M&Aガイドラインの精神に則り、透明性ある情報提供と公正なプロセスを通じて、双方にとってフェアな値決めの実現を支援しています。

DCF法とEBITDA倍率法、どう使い分けるのか?

譲渡対価の算定手法には純資産法DCF法EBITDA倍率法など複数のアプローチがあります。実務で主に用いられるのはDCF法とEBITDA倍率法です。

DCF法(Discounted Cash Flow法)の考え方とリスク

DCF法は、企業が将来生み出すフリーキャッシュフローを適切な割引率で現在価値に割り戻して企業価値を算出する手法です。将来性を価格に反映できるため成長企業との相性が良い一方で、事業計画の前提や割引率(加重平均資本コスト(WACC)等)の設定次第で評価額が大きく振れるという欠点もあります。

JFSCでは、WACCに加えて非公開企業特有の流動性ディスカウント、事業の安定性・成長性などを織り込み、EBITDA倍率による相場観と整合する水準で評価レンジを提示しています。

EBITDA倍率法の考え方と限界

EBITDA倍率法は、企業のEBITDA(営業利益+減価償却費)に、類似取引事例や業界水準の倍率を乗じて企業価値を算出する手法です。帝国データバンク東京商工リサーチの業界統計も参考にされます。簡便で相場観を反映しやすい反面、特定顧客への依存度や技術革新のスピードといった個別リスクは織り込みにくいため、DCF法と併用してクロスチェックすることが望ましいでしょう。

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「腹落ち感」が成約を左右する理由

譲渡対価の算定は科学的側面を持ちますが、最終的な成約には双方の「腹落ち感」が不可欠です。STRコンサルティングの公認会計士・古旗先生も「金額とは腹落ち感である」と指摘されています。算定方法を熟知した会計士の発言だからこそ重みがあり、教科書的な一点固定の数値ではなく、双方が合意できる範囲で価格は形成されるという実務感覚を端的に表しています。

交渉事例:ある製造業案件では、売り手はDCF法で将来成長性を評価し、買い手は過去実績とリスクを重視したため、当初の提示額に大きな開きがありました。JFSCは買い手側に売り手の独自技術・顧客基盤がもたらすシナジーを定量化して提示し、売り手側には買い手の販売チャネル活用による成長加速のシナリオを共有しました。最終的には双方の期待値とリスク許容度をすり合わせ、納得感のある価格で合意に至っています。M&Aは経営者個人保証の解除にも直結するため、経営者保証に関するガイドラインの活用も併せて検討すべき論点です。

仲介会社の倫理観と利益相反への向き合い方

M&A仲介の現場では、「割安にすればキックバックする」「特定の買い手で成約させてほしい」といった不適切な打診が持ちかけられることが残念ながらあります。これは売り手への背信であり、特定買い手依存は仲介会社自身の信用も毀損します。JFSCはM&A支援機関協会の理念に賛同し、こうした提案は一切お断りする方針を堅持しています。

JFSCの成功報酬はレーマン方式を基本としており、譲渡対価が高くなるほど報酬が増える構造のため、売り手とJFSCの利害は一致します。とはいえ非合理に高値を提示して専任契約を取るような営業はせず、合理的な価格レンジ内で最も高い水準での成約を目指す姿勢を貫いています。

専門家との連携が値決めの精度を高める

譲渡対価の検討では、税務・法務・労務の論点が複雑に絡み合います。具体的な税務処理は顧問税理士、契約条件の交渉は弁護士、労務承継は社労士、不動産評価は不動産鑑定士など、それぞれの専門家と連携することが不可欠です。代表・五十嵐悠一はM&Aアドバイザーとして数多くの案件で専門家ネットワークを束ね、売り手・買い手双方が腹落ちできる価格形成を支援してきました。算定方法に違和感がある、提示額の根拠が腹落ちしないといった段階で、お気軽にセカンドオピニオンをご活用ください。

よくあるご質問

DCF法とEBITDA倍率法、どちらを優先すべきですか?

両方を併用してクロスチェックするのが実務の基本です。成長企業はDCF法で将来性を反映し、安定企業はEBITDA倍率法で業界相場と整合させると、双方の納得感が得やすくなります。最終判断は顧問税理士・公認会計士と協議されることをお勧めします。

希望譲渡価格はどの程度盛って提示してよいでしょうか?

非合理な高値提示は買い手候補を遠ざけ、結果的に成約期間の長期化と価格低下を招きます。算定レンジの上限近辺で根拠を整え、交渉余地を残しつつ提示するのが現実的です。レーマン方式採用の仲介会社であれば利害が一致するため、率直に相談されると良いでしょう。

買い手から提示された価格に納得できない場合どうすべきですか?

提示額の算定根拠(採用手法、割引率、倍率の前提)を確認し、ご自身の事業計画やシナジー仮説と突き合わせてください。それでも乖離が大きい場合は、セカンドオピニオンとしてM&A仲介会社や顧問税理士に意見を求め、必要に応じて他の買い手候補を探す選択肢もあります。

公開日: 2020年8月27日 / 最終更新日: 2026年5月22日
五十嵐 悠一

執筆者

五十嵐 悠一(いがらし ゆういち)

株式会社日本財務戦略センター 代表取締役

京都大学経済学部経営学科卒業。株式会社損害保険ジャパン本店営業部、東証上場M&A仲介会社を経て、2020年5月に日本財務戦略センターを設立。中小企業のM&A仲介・事業承継支援を専門とし、医療・介護・食品製造・流通卸・機械製造分野の成約実績を持つ。

資格:プロフェッショナルCFO(日本CFO協会)/M&Aエキスパート(金融業務2級 事業承継・M&Aコース)

公的登録:中小企業庁 M&A支援機関 登録事業者/一般社団法人 M&A支援機関協会 正会員

メディア登壇:株式会社サイゾー Business Journal ウェブセミナー講師「【売り手向け】M&Aを成功させるための具体的な行動・プロセス・知識」(2022年6月)[公式告知]

専門家コラム寄稿:BATONZ(国内最大級M&A プラットフォーム)に M&A・事業承継 74本(2021年〜継続)[コラム一覧]

|LinkedIn|X (@jfsc2020)|BATONZ

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件における法務・税務・会計判断を提供するものではありません。法務・税務・会計の個別判断は、弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください。M&Aのスキーム設計・タイミング・買い手探し等のアドバイザリーは、株式会社日本財務戦略センターにご相談ください。記載内容は公開時点の情報に基づき、法令改正や市場変動により最新の状況と異なる場合があります。

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よくあるご質問(FAQ)

この章のポイント
日本財務戦略センターへのご相談に関する共通の10問と、本記事に関する0問の計10問。
共通Q1. 日本財務戦略センターはどのような会社ですか?
A. 株式会社日本財務戦略センター(JFSC)は、中小企業オーナーの M&A・事業承継を「自分事として最後まで完結する」ためのご相談先です。仲介の独断ではなく、売り手の判断材料を整える立場を貫いています。会社概要もご覧ください。
共通Q2. 相談したら、必ず M&A しなければいけませんか?
A. いいえ、ご相談のみで結構です。相談後に「今回は見送ります」と判断いただいても問題ありません。M&A 以外の選択肢(廃業・親族承継・事業再生)も含めてご一緒に整理します。まずは無料相談からお気軽にどうぞ。
共通Q3. 相談料・着手金は発生しますか?
A. 初回相談・簡易査定・進行中の段階まで、すべて無料です。日本財務戦略センターは完全成功報酬制を採用しており、M&A 成約時のみご報酬が発生します。着手金・中間金・月額顧問料は一切いただきません。なお、案件特性により外部専門家への依頼や登記等の実費(例:司法書士の登記費用、外部監査法人による資産査定、譲受企業側からの弁護士・公認会計士による DD 費用 等)が発生する場合は、必ず事前にご相談・ご同意のうえ進めますので、不意の費用負担は生じません。詳細は弊社の報酬体系をご確認ください。
共通Q4. 一般的な M&A 仲介会社と、どこが違いますか?利益相反はどう開示されますか?
A. M&A 仲介は売主・買主の双方から報酬を得る「両手仲介」が業界慣行で、構造的な利益相反のリスクがあります。そのうえで、業界には「誘い込む仲介」と「公開する仲介」の二類型があると当社は考えています。日本財務戦略センターは後者の立場で、契約締結時に重要事項説明書を交付し、両手仲介の構造を含めて文書でご説明したうえで、売り手の判断材料となる情報を整え、買い手の都合で交渉を急がせない姿勢を貫きます。これは経済産業省・中小企業庁中小 M&A ガイドライン第 3 版・2024 年 8 月改訂、手数料算定基準の開示・買い手信用調査等を留意事項として明示)に則った対応です。二類型化の根拠は弊社独自の業界 20 社研究レポート、構造論の詳細は仲介契約 vs FA 契約の構造分析もご参照ください。
共通Q5. どれくらいの規模から相談できますか?
A. 年商数千万円規模の小規模事業から、数億円規模まで対応します。業界の多くの仲介会社では最低手数料を 2,000 万円以上に設定している傾向で、各社の最低手数料は中小企業庁M&A 支援機関登録制度・登録情報で確認いただけます。日本財務戦略センターの最低手数料は 700 万円で、小規模案件もお引き受けしています。具体的な報酬構造は弊社の報酬体系をご確認ください。
共通Q6. 税金・法律のことを詳しく教えてもらえますか?
A. 税務・法務は税理士法・弁護士法により、具体的な提案は弁護士・税理士等の専門家のみが行えます。当社は業界慣行の一般論をご説明した上で、顧問の先生方にご確認いただく形でご案内します。必要に応じて専門家ネットワークのご紹介も無料で行っています。
共通Q7. 家族や従業員に知られたくないのですが、可能ですか?
A. ご相談段階から NDA(秘密保持契約)を締結し、徹底管理します。社名を公開せずに買い手候補へ打診する「ノンネーム打診」の進め方も可能です。守秘義務体制については情報管理ポリシーでご確認いただけます。
共通Q8. 成約までどれくらいの期間がかかりますか?
A. 標準的には 3〜6 ヶ月程度を目安としてお考えください。買い手候補と事前に綿密な調整を行い、売主オーナー様のペースで進行します。スピード優先で売主の利益を損なう進め方は致しませんが、売主オーナー様のご事情・ご要望に応じて、最短 60 日での成約実績もございます。
共通Q9. デューデリジェンス(DD)では、どのような立場をとりますか?
A. 日本財務戦略センターは、売主オーナー様の利益を最優先に検討する立場を貫きます。仲介業の構造的な利益相反論点については仲介契約 vs FA 契約の構造分析で詳述しており、DD 費用負担の判例実務は東京地裁 DD 費用判決の射程でご確認いただけます。必要に応じて第三者の公認会計士・弁護士・税理士等の専門家をご紹介し、買い手寄りに偏らない査定体制を整えます。中小企業庁中小 M&A ガイドラインの遵守事項に則り、適切な情報開示を行います。
共通Q10. 対応エリアは限られますか?
A. 全国対応可能です。首都圏はもちろん、各地方都市でもご相談実績があります。オンライン面談と現地訪問を組み合わせ、所在地を問わず売主様のペースで進行します。まずは所在地を問わない無料相談をご利用ください。

📅 本記事の情報基準日

本記事は 2020年8月27日 公開時点の情報に基づきます。税制・法令等は改正される場合があるため、最新の制度・税制は公的機関の公式情報をご確認ください。

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