【この記事の結論】PEファンドへの譲渡は「数年後に再度売却される」「業界知見が乏しい可能性」という2点を必ず理解した上で検討すべきです。ファンド一択を勧める担当者には注意し、事業会社・他ファンド・親族承継・マネジメントバイアウト(MBO)など他の選択肢と比較した上で判断しましょう。株式会社日本財務戦略センター 代表取締役 五十嵐悠一が実務目線で解説します。
PEファンドとはどのような仕組みなのか?
PE(プライベート・エクイティ)ファンドは、銀行・生命保険会社などの機関投資家から資金を集め、SPC(特別目的会社)を通じて対象企業を買収します。SPC段階でさらに金融機関から融資(レバレッジド・バイアウト=LBO)を受けることも多く、買収後は経営改善・成長戦略支援によって企業価値を高め、数年後に再売却して出資者へ利益を還元するのが基本構造です。
不動産でいえば、古いマンションを購入してリノベーションし、価値を上げた上で売却するイメージに近いビジネスです。中小企業庁や経済産業省も、後継者不在に悩む中小企業の事業承継の選択肢の一つとしてファンド活用に言及しています。
PEファンドへの譲渡で必ず理解すべき2つの注意点
(1)数年後に再売却されることが前提となる
ファンドはイグジット(再売却)による投資回収を前提としているため、譲渡後5〜7年程度で次のオーナーへ事業が引き継がれることが構造的に決まっています。「従業員の生活が心配なので、しっかり引き継いでほしい」というオーナーの想いが強い場合、再売却時に従業員が再び別オーナーの下で働く前提を理解しておく必要があります。
たとえば後継者不在のために地方の老舗製造業をPEファンドに譲渡したケースで、数年後の再売却時に業界の景気低迷とファンドが期待した事業成長が実現せず、新オーナー探しが難航して従業員が不安を感じた事例も耳にします。一方で、ITサービス業がファンド支援下で技術導入と販路拡大を実現し、再売却後も安定経営を続けている成功事例もあります。譲渡契約段階で、再売却時の従業員処遇や経営方針の継続性についてどこまで確認できるかが鍵となります。
(2)特定業界の経営知見が乏しい可能性がある
PEファンドは投資の専門家であり、財務・ガバナンス・成長戦略には極めて強い一方、特定業界の現場経営ノウハウが薄いケースは少なくありません。投資委員会や買収監査(デューデリジェンス)で帝国データバンクや東京商工リサーチなどのデータも踏まえて検証を行いますが、長年の現場勘・職人ノウハウまでデータで網羅するのは難しい領域です。
譲渡後にCEOクラスの経営者が外部から派遣されることも多く、業界経験のある人材が採用できるか否かが統合プロセス(PMI)(譲渡後統合)の成否を大きく左右します。法務・税務面の論点については、弁護士法・税理士法に基づいた弁護士・税理士のアドバイスも欠かせません。
なぜいまPEファンドによるM&Aが活発化しているのか?
低金利環境の継続と、銀行系・事業会社系ファンドの拡大が背景にあります。買収費用の大半を対象企業のキャッシュフローを担保にしたLBOで賄うスキームは、中小企業が単独で実行しようとすれば銀行から難色を示されがちですが、銀行資本のファンドであれば、親会社の銀行にとっても貸出機会の拡大とキャピタルゲインの両取りが期待できます。
金融庁の動向や中小M&Aガイドラインでも、事業承継の選択肢の一つとしてファンド活用が明示的に位置付けられており、日本政策金融公庫も中小企業の事業承継支援を強化しています。
「ファンド一辺倒」のM&A仲介担当者をどう見極めるか?
株式会社日本財務戦略センターでは、PEファンドだけでなく事業会社(同業・異業種)の買い手候補も並行して検討し、それぞれの長所短所を踏まえてオーナーに選んでいただく運用を取っています。
一方で、M&A仲介の中には「あ、このファンドだったら買ってくれます」と、特定ファンド一辺倒の提案をする担当者も見かけます。これは、(1)上記2点(再売却前提・業界知見)の説明が省かれているか、(2)業界に詳しくないために他の買い手候補を持っていない、のいずれかである可能性が高く、譲渡後にトラブルが顕在化する余地を残します。
「ファンドへ行きましょう」しか提案しない担当者に出会ったときは、「なぜそのファンドなのか」「他の買い手候補と比較してなぜ最適と言えるのか」を必ず質問してください。M&A支援機関協会の登録情報や倫理規定も判断材料になります。
株式会社日本財務戦略センターのスタンス
株式会社日本財務戦略センターは事業会社・PEファンド双方とリレーションを持っており、ファンドを否定するわけではありません。実際にファンドの担当者は、会社法に基づくガバナンスや投資後の企業価値向上に強くコミットする方が多く、業績向上に向けて一緒に汗をかいてくれるパートナーとなり得ます。
大切なのは、(1)再売却前提と(2)業界知見という2つの構造をオーナーが理解した上で、ファンド・事業会社・MBO・親族承継・経営者保証ガイドラインを踏まえた保証解除型スキームなど、複数の選択肢から納得して選べる状態を作ることです。代表取締役の五十嵐悠一は、公認会計士・中小企業診断士としてのバックグラウンドを踏まえ、イグジットの目的に応じた最適スキームの整理をサポートします。
※M&A実務の判断には弁護士・税理士・公認会計士など専門家との相談が不可欠です。セカンドオピニオン無料相談もご活用ください。
よくあるご質問
PEファンドに譲渡すると、自社や従業員はどうなるのですか?
通常5〜7年程度の保有期間中に経営改善・成長投資が行われ、その後に再売却される構造です。譲渡契約段階で従業員処遇・経営方針の継続性・主要取引先との関係維持についてどこまで合意しておくかが、安心感に直結します。
事業会社への譲渡とPEファンドへの譲渡では、何が違いますか?
事業会社は本業との相乗効果を狙うため、長期保有や事業統合志向が強い傾向にあります。一方でPEファンドはイグジット前提のため、保有期間内での企業価値向上に集中します。雇用継続や事業継続の観点では事業会社、財務・ガバナンス強化や成長加速の観点ではファンドが向くケースが多いといえます。
「このファンドが買ってくれます」としか言わない仲介担当者はどう見るべきですか?
他の買い手候補と比較していない可能性や、再売却前提・業界知見といった重要論点の説明が省かれている可能性があります。「なぜそのファンドなのか」「他の選択肢と比べてなぜ最適なのか」を必ず質問し、納得できなければセカンドオピニオンの取得を検討してください。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件における法務・税務・会計判断を提供するものではありません。法務・税務・会計の個別判断は、弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください。M&Aのスキーム設計・タイミング・買い手探し等のアドバイザリーは、株式会社日本財務戦略センターにご相談ください。記載内容は公開時点の情報に基づき、法令改正や市場変動により最新の状況と異なる場合があります。
よくあるご質問(FAQ)
📅 本記事の情報基準日
本記事は 2020年8月27日 公開時点の情報に基づきます。税制・法令等は改正される場合があるため、最新の制度・税制は公的機関の公式情報をご確認ください。
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