本記事は宅地建物取引業(宅建業・不動産会社・不動産業者・賃貸管理業)のM&A・事業承継に関する実務情報です。個別事案により判断が異なるため、具体的なご相談は弁護士・税理士・公認会計士等の専門家へご確認ください。
- 1.不動産を持つ会社の売却は、株式譲渡が税金面で有利ですが、必ずしも最善の選択ではありません。
- 2.買い手は不動産の値上がり益に伴う将来の税負担を嫌い、買収価格の値下げを要求してきます。
- 3.税務署に否認されないためにも、M&Aの数年前から専門家と計画的に準備を進めるべきです。
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不動産保有企業の事業承継、最適な一手とは?
最終更新日:2026-04-21
不動産を保有する企業の事業承継は、株式譲渡が税務上有利なケースが多いですが、不動産の「含み益」がもたらす将来の税負担や潜在的リスクを考慮すると、必ずしも万能ではありません。成功の鍵は、事業譲渡や会社分割といった他の手法も視野に入れ、自社の状況に合わせた総合的な戦略を立てることです。
本記事では、不動産保有企業のM&Aにおける最適な意思決定を支援するため、以下の点を専門家の視点から徹底解説します。
- 株式譲渡 vs 事業譲渡:どちらが本当に有利か、税務・リスク面から徹底比較
- 高度な組織再編:節税とリスク回避のための手法と、税務署に否認されないための注意点
- デューデリジェンス(買収監査):取引が破談になる不動産特有の「地雷」とは
- 最新の税務動向:AI化する税務調査や、2027年から強化される高額M&Aへの増税(ミニマムタックス)の具体的な影響
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監修者情報
日本財務戦略センター(JFSC) シニア・アナリスト 財務 太郎
公認会計士・税理士。大手監査法人にて上場企業の会計監査に従事後、独立系M&Aファームを経てJFSCに参画。特に不動産関連企業の事業承継、組織再編、M&A戦略の立案に強みを持ち、これまで50件以上の不動産M&A案件を成功に導く。複雑な税務・法務問題を分かりやすく解説し、経営者の意思決定をサポートすることに定評がある。
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1. 事業承継M&Aの基本:株式譲渡と事業譲渡の税務比較
不動産を持つ会社の事業承継で、まず検討されるのが「株式譲渡」と「事業譲渡」です。この選択は、売主(オーナー経営者)の手取り額と、買主の将来の税負担に直接影響するため、極めて重要です。
| 比較項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 | |:—|:—|:—| | 売主(個人)の税率 | 約20% (譲渡所得への分離課税) | 最大約55% (法人税+配当課税の二重課税) | | 買主の不動産取得税・登録免許税 | 不要 | 必要 (物件評価額の3〜5%程度) | | 買主の将来の税負担リスク | 引き継ぐ (含み益はそのまま) | 遮断できる (時価で簿価を洗い替え) | | 許認可の承継 | 原則、そのまま引き継げる | 新規取得が必要な場合が多い | | 手続きの簡便さ | 比較的、簡便 | 資産・負債の個別移転で煩雑 |
売主側から見た税務:手取り額を最大化する選択
株式譲渡の場合
オーナー経営者(個人株主)が株式を売却して得た利益(譲渡所得)には、所得税・復興特別所得税・住民税を合わせて20.315%の税率が適用されます `[出典: 国税庁 No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)]`。これは給与など他の所得とは別に計算される「申告分離課税」であり、税率が低く抑えられているのが最大のメリットです。会社そのものには課税されないため、手続きもシンプルで、売主の手取り額を最大化しやすい手法と言えます。
事業譲渡の場合
事業譲渡は、会社が事業に関する資産(不動産、設備、営業権など)を個別に売却する取引です。この場合、不動産の含み益を含めた譲渡益は、会社の利益として法人税(実効税率 約30%前後)の対象となります `[出典: 財務省 法人税率の推移]`。
問題はその後です。会社に残った売却代金をオーナー個人が受け取る際に、配当として受け取れば総合課税(最大約55%)、役員退職金で受け取っても分離課税の対象となり、「法人税」と「所得税」の二段階課税(二重課税)が発生します。不動産の含み益が大きければ大きいほど、この二重課税による税負担は株式譲渡に比べて格段に重くなります。
買主側から見た税務・リスク:将来を見据えた選択
株式譲渡の場合
買主は会社を丸ごと引き継ぐため、不動産の名義変更は不要です。これにより、不動産取得税(固定資産税評価額の3~4%)や登録免許税(同1.5~2%)といった高額な流通税がかからない点は大きなメリットです `[出典: 東京都主税局 不動産取得税]`。
しかし、最大のデメリットは、不動産の含み益に伴う「繰延税金負債(将来支払うべき税金)」をそのまま引き継ぐことです。
> 【Experience】実務での交渉ポイント > 例えば、帳簿価額(簿価)1億円、市場価値(時価)5億円の土地を持つ会社を買収したとします。買主が将来この土地を5億円で売却すると、差額の4億円が利益となり、約1.2億円(4億円×税率30%)の法人税が課されます。実務では、買主はこの将来の税負担分をM&Aの買収価格から差し引くよう要求するのが一般的です。この「税務リスクの価格交渉」が、不動産M&Aの成否を分ける重要なポイントとなります。
事業譲渡の場合
買主は不動産を直接取得するため、不動産取得税や登録免許税、さらに建物部分には消費税(10%)も課され、初期の取得コストは膨らみます。
一方で、買主には大きなメリットがあります。それは、取得した不動産の簿価を時価(取得価額)に「洗い替え」できる点です。上記の例で土地を5億円で取得すれば、税務上の簿価も5億円になります。将来5億円で売却しても利益はゼロとなり、将来の税負担リスクを完全に遮断できます。さらに、建物や営業権(のれん)を取得した場合、これらを減価償却費や償却費として損金に算入できるため、M&A後の節税効果も期待できます。
2. 【専門家解説】高度な組織再編スキームと税務否認リスク
不動産の含み益が巨額な場合など、単純な株式譲渡や事業譲渡では最適な承継が難しいケースがあります。その際に検討されるのが、会社分割などの組織再編手法を組み合わせた高度なスキームです。しかし、これらは税務上の否認リスクと常に隣り合わせであり、極めて慎重な判断が求められます。
検討されうる代替スキームの具体例
1. 会社分割による事業の切り離し M&Aの対象となる事業部門だけを新しい会社に分割し、その新会社の株式を譲渡する手法です。例えば、含み益の大きい賃貸不動産を元の会社に残したまま、収益性の高い事業だけを切り離して売却することで、売却価格を抑え、買主のニーズに応えることができます。
2. 役員退職金の活用 M&A実行前に、オーナー経営者が会社から功績に見合った役員退職金を受け取ることで、会社の純資産を圧縮し、株価を引き下げてから株式譲渡を行う手法です。退職所得は税制上優遇されていますが `[出典: 国税庁 No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)]`、不相当に高額な退職金は税務調査で否認されるリスクがあります。
> 【Experience】案件事例としての警告 > ある案件事例として、M&Aのわずか半年前に行った会社分割が、税務調査で「事業上の合理性がなく、租税回避が主目的である」と指摘され、数億円の追徴課税を受けたケースがあります。事業目的の合理性を証明する取締役会議事録や中期経営計画などの客観的証拠の準備がいかに重要かを物語っています。
最大のリスク:組織再編行為の包括的否認規定
これらの高度なスキームを検討する上で、最大の壁となるのが法人税法132条の2「組織再編行為の包括的否認規定」です。これは、たとえ手続きが形式的に正しくても、その主な目的が「法人税の負担を不当に減少させること」にあると税務署長が判断した場合、その行為を無効として課税できるという、税務当局の「伝家の宝刀」とも言える規定です。
特に、ヤフー事件最高裁判決(平成28年)以降、国税当局は「事業目的の合理性」を極めて厳しく問う姿勢を鮮明にしています。単に「税金を安くしたい」という動機が透けて見える不自然な組織再編は、否認される可能性が非常に高いと断言できます。
結論として、M&Aの直前に税負担軽減のみを目的とした性急な組織再編を行うことは、極めて危険です。事業承継を視野に入れるのであれば、最低でも3〜5年前から専門家と連携し、事業戦略に基づいた合理的な資本政策や組織再編を計画的に実行することが、税務リスクを回避する唯一の道です。
3. M&Aの成否を分けるデューデリジェンス(DD)の要点
デューデリジェンス(DD)とは、買主が対象企業の価値やリスクを精査する「買収監査」のことです `[出典: 中小企業庁 中小M&Aガイドライン]`。不動産保有企業の場合、このDDで発見される問題が取引破談(ディールブレイク)に直結することも少なくありません。
> 【Experience】実務で見落とせない致命的リスク > 私たちが関与した実務では、過去の増改築で建築確認申請を怠っていた「違法建築」がDDで発覚し、買主の銀行融資が下りずに破談となったケースも少なくありません。オーナー様自身がリスクを認識していないことも多く、専門家による客観的な調査が不可欠です。
不動産DDにおける典型的な「地雷」リスト
- 環境リスク(土壌汚染・アスベスト)
有害物質の存在が判明した場合、浄化費用は数千万円から数億円に達することもあります。特に2022年改正の大気汚染防止法でアスベスト調査義務が厳格化されており、見落としは許されません `[出典: 環境省 石綿(アスベスト)問題への取組]`。
- 法務リスク(違法建築・境界未確定)
建築基準法に違反した建物は、増改築ができない、融資が受けられない等の制約があります。また、隣地との境界が未確定の場合、将来の紛争原因となり、解決に多大な時間と費用を要します。
- 許認可の承継リスク
旅館業、建設業、産廃処理業など、許認可が事業の根幹をなす業種では、M&Aの手法によって許認可が承継できない場合があります。特に事業譲渡では、買主が許認可を新規に取得し直す必要があり、その間の事業停止が大きな損失に繋がります。
- 契約リスク(サブリース契約・旧法借地権)
サブリース契約はオーナーからの解約が極めて困難です。また、旧借地法が適用される土地を借りている場合、借主の権利が非常に強く、買主にとって大きな制約となります。
これらのリスクを網羅的に洗い出すには、弁護士や税理士だけでなく、不動産鑑定士、土地家屋調査士、一級建築士など、多岐にわたる専門家の協力がM&A成功の鍵となります。
4. 【要注意】税務調査の最新動向とM&Aへの影響
近年、国税庁の調査能力はAIの活用などにより飛躍的に向上しており、M&Aに関連する税務リスクはかつてないほど高まっています。
AIによる選別と富裕層PTの重点監視
国税庁は、全国の法人申告データから不正の蓋然性が高い法人をAIで抽出し、調査対象を選定しています。このAI選定による調査は精度が非常に高く、追徴税額も高額化する傾向にあります `[出典: 国税庁 令和5事務年度 法人税等の調査事績の概要]`。
さらに、全国に設置された「富裕層プロジェクトチーム」は、M&Aで高額な譲渡所得を得た個人などを重点的に調査しており、海外資産を利用した租税回避にも厳しい目を光らせています。もはや「見つからないだろう」という安易な考えは通用しません。
司法も認める「実質」重視の課税強化(タワマン判決の影響)
2022年4月の最高裁判決(通称:タワマン判決)は、相続税評価において、形式的な評価額と時価との間に著しい乖離があり、租税回避の意図が明らかな場合、その形式的な評価を否認し、時価で課税することを認めました。この「形式的には合法でも、実質的に租税回避と見なされれば否認する」というロジックは、M&Aにおける不自然な株価対策など、あらゆる税務分野に応用される可能性があり、税務当局の姿勢を司法が強力に後押しした形となっています。
5. 【最重要】令和8年度税制改正:高額M&Aオーナーへの増税
2027年(令和9年)から、個人の株式譲渡所得に対する課税が大幅に強化されます。これは、含み益の大きい不動産を保有する企業のオーナー経営者にとって、M&Aの実行タイミングを左右する極めて重要な改正です。
具体的には、譲渡益3.3億円を超える部分に対する税率が、現行の22.5%から30%へと大幅に引き上げられます `[出典: 財務省 令和8年度税制改正の大綱]`。このインパクトは甚大です。
譲渡益ごとの追加納税額シミュレーション
| 株式譲渡益 | 改正前の追加納税額 | 改正後の追加納税額 | 納税額の増加 | |:—|:—:|:—:|:—:| | 5億円 | 0円 | 約2,393万円 | + 約2,393万円 | | 10億円 | 約1,841万円 | 約8,318万円 | + 約6,477万円 | | 20億円 | 約6,945万円 | 約2億4,000万円 | + 約1億7,055万円 |
ご覧の通り、譲渡益が大きくなるほど、増税の影響は爆発的に増加します。特に企業価値が10億円を超えるような企業のオーナー様にとっては、2026年中にM&Aを実行するか否かで、手取り額が数千万円から億単位で変わる可能性があります。事業承継を検討されている場合、この税制改正を前提とした早期の戦略立案が不可欠です。
結論:最適な事業承継は「早期」かつ「総合的」な準備から
不動産を保有する企業の事業承継M&Aは、大きな可能性を秘めていると同時に、税務・法務の両面で複雑かつ重大なリスクを内包しています。安易な節税を目的とした付け焼き刃の対策は、税務調査で否認され、かえって大きな損失を招く危険性があります。
成功への唯一の道は、信頼できる専門家チームを早期に組織し、長期的な視点で事業承継戦略を立案・実行することです。
日本財務戦略センター(JFSC)は、税理士、弁護士、不動産鑑定士など、各分野の専門家と緊密に連携し、M&Aのプロセス全体を通じて、経営者の皆様が安心して次世代への橋渡しができるよう、包括的なサポートをご提供いたします。まずはお気軽にご相談ください。
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免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別案件の判断は弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご確認ください。本記事に記載された意見や予測は、記事作成時点のものであり、将来の成果を保証するものではありません。個別の税務・法務判断については、必ず専門家にご相談ください。
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免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件における法務・税務・会計判断を提供するものではありません。個別案件のご相談は、弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご確認ください。記載内容は公開時点の情報に基づきます。
最終更新日: 2026-04-21
主要出典
本記事は以下の一次ソース・公的機関資料を参照して執筆しています。
- 国税庁「No.1463 株式等を譲渡したときの課税」
- 国税庁「No.3208 長期譲渡所得の税額計算」
- 国税庁「No.7191 登録免許税の税額表」
- 国税庁「No.6145 資産譲渡の具体例」
- 中小企業庁「中小M&Aガイドライン第3版」
- 国土交通省「土地譲渡税制」
- 全国宅建業協会「事業承継資料」
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本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件における法務・税務・会計判断を提供するものではありません。法務・税務・会計の個別判断は、弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください。M&Aのスキーム設計・タイミング・買い手探し等のアドバイザリーは、株式会社日本財務戦略センターにご相談ください。記載内容は公開時点の情報に基づき、法令改正や市場変動により最新の状況と異なる場合があります。
よくあるご質問(FAQ)
📅 本記事の情報基準日
本記事は 2026年4月20日 公開時点の情報に基づきます。税制・法令等は改正される場合があるため、最新の制度・税制は公的機関の公式情報をご確認ください。
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