M&A の業界記事は「のれん償却は買い手の会計処理、売り手には関係ない」「負ののれん(差額負債調整勘定)は最初に利益計上できる買い手のメリット」と説明します。しかし弊社(株式会社日本財務戦略センター)の現場感覚は違います。のれん理解はスキーム選定の議論で必須ですが、負ののれんを「ハック」として活用することは推奨しません。なぜなら最初に利益計上できてもキャッシュは増えず、ライザップのように後処理で破綻する可能性 があるからです。本記事では、会計×税務の二重構造を丁寧に整理しつつ、日本財務戦略センター(JFSC) の哲学「ハックでなく、丁寧に説明し安全に進める」をお伝えします。なお のれん税務処理は弊社単独で判断するものではなく、税理士・公認会計士との連携が必須です(税理士法 52 条遵守)。
1. 「のれんは買い手の問題、売り手は関係ない」は半分嘘
のれん(goodwill)とは、M&A において 買い手が支払った取得価額が、買収対象企業の純資産を上回った差額 のことです。買い手の貸借対照表に「のれん」として計上され、会計上は一定期間にわたって償却していきます。
業界の解説記事の多くは「のれん償却は買い手の会計処理、売り手は関係ない」と説明します。確かに会計上のれんが計上されるのは買い手側の財務諸表です。しかし弊社が現場で売り手のオーナー様と対話してきた経験では、のれんを理解せずにスキーム選定(株式譲渡 vs 事業譲渡)の議論に入ると、買い手の事情(事業譲渡で資産調整勘定が損金算入できる、株式譲渡では損金算入できない)を理解できず、交渉が噛み合わなくなります。
そして実は、財務会計と税務会計の違い という基本論点を理解していない経営者・税理士は少なくありません。田舎の昔ながらの税理士でも分からない方がいらっしゃる領域です。本記事では、この二重構造を丁寧に整理しつつ、JFSC の独自見解として「負ののれんはハックでなく、丁寧に進める」哲学をお伝えします。
企業価値の目線を試算して、のれん発生の可能性を把握
のれんが発生するかどうかは、譲渡対価と純資産の関係で決まります。弊社の 企業価値試算シミュレーター で、ご自身の会社の理論上の目線を把握いただけます。
2. 通説論難 — のれん 4 つの誤解
誤解 1:「のれん償却は会計と税務で同じ扱い」
これは典型的な誤解です。財務会計と税務会計 で償却期間が異なる二重構造になっています。
| 区分 | 根拠 | 償却期間 |
|---|---|---|
| 財務会計(企業会計) | 企業結合に関する会計基準(ASBJ 第 21 号)㉜・㊼ | 20 年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法で規則的償却 |
| 税務会計(法人税) | 法人税法第 62 条の 8 | 資産調整勘定(税務上ののれん)は 5 年間均等償却(60 分の 1/月) |
会計と税務で償却期間が異なるため、税効果会計(繰延税金資産・負債) の処理が必要になります。会計上 10 年で償却するのに対し、税務上 5 年で損金算入する場合、前 5 年間に一時差異が生じ、繰延税金負債 の計上が必要です。
この基本論点を、田舎の昔ながらの税理士でも分からない方がいらっしゃる のが現実です。だから弊社では、売り手にスキーム選定の議論をする前に、まずこの財務会計×税務会計の違いを丁寧にご説明するようにしています。
誤解 2:「のれんは株式譲渡でも事業譲渡でも発生する」
会計・税務上ののれん(資産調整勘定)が発生するスキームは限定されます。
- 事業譲渡(または非適格組織再編):買い手側に 資産調整勘定 発生 → 5 年税務償却で損金算入可能
- 株式譲渡:買い手側に のれんは発生しない → 株式の取得価額に算入されるのみ、損金算入不可
- 適格合併・適格分割:簿価引継ぎが原則 → 資産調整勘定発生せず
つまり 事業譲渡を選ぶと買い手は税メリットを得る 可能性があります。これがスキーム選定で買い手から事業譲渡を希望される理由のひとつです。
誤解 3:「買い手ののれんメリットは売り手の譲渡価額交渉材料になる」
業界記事ではしばしば「事業譲渡時の買い手のれん損金算入を売り手の交渉材料に」と紹介されます。しかし現場感覚では 机上の空論 です。買い手シナジー(節税効果)を売り手の譲渡価額に転嫁する主張は、買い手から 不信感 を招きます。
弊社は買い手側の税メリット(事業譲渡での損金算入の可能性等)を 説明はします。しかし「買い手シナジーを 100% 反映して売り手の譲渡価額に上乗せする」という主張は、納得感が得られず机上の空論 です。詳細は M&A 税務記事 もご参照ください。
誤解 4:「負ののれんは買い手にとって美味しい話」 — ライザップ事例から学ぶハックの危うさ
業界記事でしばしば「負ののれん(差額負債調整勘定)は最初に利益計上できる買い手のメリット」と紹介されます。譲渡価額が純資産を下回るバーゲンパーチェスでは、確かに会計上は 差額が発生時に一括して特別利益計上 でき、税務上も 5 年で益金算入されます。
しかし弊社の見解は明確です。負ののれんを「ハック」として活用することは推奨しません。理由は以下のとおりです。
- 最初に利益計上できてもキャッシュは増えない — 紙の上だけの利益
- ライザップ事例(2018 年頃、負ののれん益金計上で見かけ上の利益急増 → その後の本業低迷とのれん償却負担で大幅赤字転落)のように、後処理で破綻する可能性
- 会計上の 「ハック」 的な手法であり、本業のキャッシュ創出力を伴わないと持続不可能
- ライザップのその後の後処理(数百億円規模の特別損失計上、株価暴落、経営陣総入れ替え)を考えると、仲介として進めるのは 買い手に対するモラルハザード
仲介者の役割は、こうした手法を「知識レベルで説明する」ことまでです。進めるのはモラルハザード という認識のもと、弊社は負ののれんを活用した M&A は推奨しません。
スキーム選定の交渉を事前にシミュレーション
株式譲渡 vs 事業譲渡、のれん発生有無、税効果の交渉を、弊社の M&A 交渉ロープレシミュレーター で事前に練習いただけます。
3. 弊社のスタンス — 「ハックでなく、丁寧に説明し安全に進める」哲学
(1) 会計×税務の二重構造を売り手にも丁寧に説明
弊社は売り手のスキーム選定(株式譲渡 vs 事業譲渡)の議論に入る前に、まず 財務会計と税務会計の違い、そして のれん償却の二重構造 を丁寧にご説明します。これは田舎の昔ながらの税理士でも分からない方がいらっしゃる領域なので、売り手のオーナー様にも事前に共通言語として持っていただきます。
説明にあたっては 業法(税理士法 52 条等)に違反しない範囲 でのアドバイスに留めます。具体的な税務処理が必要な場合は、必ず税理士・公認会計士をご紹介する流れにします。
(2) 負ののれんは「知識レベルの説明」までに留める
負ののれん(差額負債調整勘定)の仕組みは 知識レベルでお伝えします。ライザップ事例のような 会計上のハック として活用することは、仲介者として推奨しません。
ライザップのその後の後処理を考えると、仲介としてこういう手法を 進めるのは買い手に対するモラルハザード です。仲介者が「最初に特別利益が立ちますよ」と買い手に提案して進めることは、後で買い手が破綻したときの責任の重さを考えると、そもそも仲介者が踏み込むべき領域ではありません。
(3) 税理士・公認会計士は売り手の顧問・ネットワークを優先
のれん税務処理について、まず 売り手のオーナー様ご自身の顧問税理士・会計士、または取引先ネットワーク にお聞きいただきます。いらっしゃらない場合や M&A に詳しくない場合のみ、弊社からも紹介可能です。
こちらから積極的に税理士・会計士をあっせんすることは 利益相反の可能性 があるため、求められてからの対応とします。売り手の顧問が途中から M&A 案件に入ると気を悪くする可能性もあるため、最初から関与いただく方が円滑です。
(4) JFSC の哲学:ハックでなく、丁寧に説明し安全に進める
これが本記事の核心です。弊社の哲学は明確です。
制度をハックするのではなく、丁寧に説明し、安全に進めるのが一番。
そもそも M&A は思った通りに行かないので、制度をハックできる前提で進めること自体が傲慢 です。
のれん・負ののれんの仕組みは 知識として知っておくこと は重要です。会計×税務の二重構造、適格組織再編との関係、税効果会計の処理 — これらを理解せずに M&A を進めると、買い手の事情を理解できず交渉が噛み合いません。
しかし、それを 「実行」して活用すること は別問題です。ライザップ事例が示すように、会計上のハックは本業のキャッシュ創出力を伴わないと持続不可能で、後処理で大きな損失を生みます。M&A は思った通りに行かないことが前提です。制度ハックを前提にした M&A は、その前提が崩れたときに買い手・売り手・従業員すべてが苦しむ ことになります。
仲介者の役割は、知識を整理して説明し、双方が納得する形で安全に進めることです。これが弊社のスタンスです。
のれん・スキーム選定でお悩みの売り手オーナー様へ
株式譲渡 vs 事業譲渡の選択、のれんの会計×税務処理、負ののれん発生時の対応など、スキーム選定は M&A 税務の核心です。基本合意前の早い段階でご相談いただくのが効果的です。
初回相談無料・秘密厳守・完全成功報酬制。中小企業庁 M&A 支援機関登録事業者・M&A 支援機関協会正会員(特定事業者リスト閲覧資格保有)。具体的な税務処理は顧問税理士・公認会計士にご相談ください。
4. 数年後に振り返って気づくこと
「制度ハックに頼った M&A が破綻した」「最初の特別利益に飛びついて、本業低迷でのれん減損を強いられた」「会計の数字遊びを続けた結果、株主・従業員・取引先すべてに迷惑をかけた」が、ハック志向の M&A の典型的な後悔です。ライザップ事例が示す通り、これは抽象論ではなく現実に起きたことです。
のれんの仕組みは知識として知っておくこと。財務会計×税務会計の二重構造を理解しておくこと。しかし、それを「ハック」として活用することは推奨しないこと。これが JFSC の哲学です。
M&A は思った通りに行きません。だからこそ、制度をハックできる前提で進めるのではなく、丁寧に説明し、双方が納得する形で安全に進める ことが、後悔のない事業承継の核心です。これが弊社が大手仲介と一線を画す理由でもあります。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件における法務・税務・会計判断を提供するものではありません。法務・税務・会計の個別判断は、弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください。M&Aのスキーム設計・タイミング・買い手探し等のアドバイザリーは、株式会社日本財務戦略センターにご相談ください。記載内容は公開時点の情報に基づき、法令改正や市場変動により最新の状況と異なる場合があります。
よくあるご質問(FAQ)
📅 本記事の情報基準日
本記事は 2026年4月25日 公開時点の情報に基づきます。税制・法令等は改正される場合があるため、最新の制度・税制は公的機関の公式情報をご確認ください。
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