2024.06.05 M&A実務

「手離れしやすい会社」とは何か?2023年4,015件市場で売り手M&Aの価格を最大化する5つの磨き込み要素と準備期間

「手離れしやすい会社」とは、買い手が引き継いだ後のオペレーションが安定継続する見込みが高く、評価作業もスムーズに進む会社を指します。(1)過去3年黒字で純資産プラス、(2)M&Aが活発な業種、(3)借入金が過大でない、(4)赤字でも一過性で原因明確、(5)社長依存度が低くキーマン自走可能、の5要素を満たす状態であり、年買法でも買い手目線の償却前利益(EBITDA)倍率でも譲渡対価を引き上げる方向に作用します。

【この記事の結論】2023年の中小企業M&A件数は4,015件と3年連続で4,000件超え、売り手の比較競争が加速しています。「手離れしやすい会社」とは、時価純資産+実質利益×1〜3倍で適正評価でき、業績・許認可・人材・契約関係が整理された企業のことです。早期準備で価値最大化を実現してください。株式会社日本財務戦略センター 代表取締役の五十嵐悠一が、5つの磨き込み要素を実務目線で解説します。

中小企業M&Aの売り手が「比較される」時代に入ったのはなぜか?

MAARオンラインの発表によると、2023年の中小企業M&A件数は減少したものの4,015件と、3年連続で4,000件を超えました。中小企業庁が推進する事業承継支援や、経営者の高齢化といった背景も影響していると考えられます。これらの数字は顕在化したM&A件数であり、実態にはさらに多くの事業承継等のM&Aが行われていると見て間違いないでしょう。

市場が活況を呈すること自体は良いことですが、売り手目線では一つ問題が生じます。「会社を売りたい人が多くなると、売却時に他の会社と比較される」という構造です。買い手が売り手より圧倒的に多いという基本構図は変わりませんが、買い手の増加率より売り手の増加率が大きくなると、売り案件の比較対象が増えます。数年前と現在で比べると、同じ売上・財務内容の企業でも希少性が相対的に低下し、当時と同じ価格では売れない傾向が顕在化しつつあります。

東京都事業引継ぎ支援センターが示す現在の相場観とは?

中小企業M&Aの売買価格はどう決まるのでしょうか。東京都事業引継ぎ支援センターは価格算定について次のように説明しています。

評価倍率については、2010年代半ば頃までは、実質利益の3〜5倍、すなわち営業権(のれん)は営業利益の3年分とか5年分といわれていました。しかし、近年では景況や業種、成長性によっても異なりますが、実質利益の1〜3年分(※)をのれん代として計上するケースがあります。

数式に直すと次の通りです。

企業評価額=時価純資産+実質利益×評価倍率(1〜3倍)(実質利益は役員報酬・節税費用等を調整)

たとえば時価純資産1億円、営業利益に役員報酬・節税費用等を足し戻した実質利益5,000万円の場合、譲渡レンジは1.5億円〜2.5億円程度に収まります。京都事業引継ぎ支援センターは公的な立場が強い組織のため、「うちなら営業利益の○年分で高く売れる」と根拠なく煽る一部仲介会社と比べて、現在の相場観を踏まえて入り口で適切に説明している姿勢が確認できます。これは、中小M&Aガイドラインが示す適正なM&Aプロセスにも合致します。

買い手側の評価式は売り手より厳しいのか?

株式会社日本財務戦略センターのような仲介会社にアプローチしてくる買い手の相場観は、売り手側よりも厳しい傾向にあります。実務でよく目にする算定式は次の通りです。

譲渡価格=ネットキャッシュ+EBITDA×2〜3倍(手数料込)

「ネットキャッシュ」は企業が自由に使える現預金・有価証券から有利子負債を差し引いた純粋な手元資金を指します。「EBITDA」は税引前利益に支払利息・減価償却費を足し戻したもので、企業のキャッシュ創出力を見る指標です。

東京都事業引継ぎ支援センター式(時価純資産ベース)と比べると、ネットキャッシュベースは資産価値が評価されにくく、主としてキャッシュフローから企業価値を見る構造です。「手残り1億円あれば売る」と希望する売り手と、買い手のEBITDA倍率評価との間には乖離が生じやすい状況といえます。

SaaS企業や特定の技術を持つIT企業など成長性が高く将来キャッシュフローが見込みやすい分野では高い評価倍率が維持される傾向にある一方、属人性が高く特定の経営者に依存する事業や明確な成長戦略が見えにくい事業に対しては、買い手はより慎重な評価を行うようになっています。今後も売り手増加が続けば、上記「2〜3倍」の係数がさらに低下する可能性も視野に入れる必要があります。

なお、買い手が予算の中に手数料を含めて検討するケースも増えています。買い手手数料が大きければ大きいほど、仲介会社が成約のために売却価格を下げる圧力となり得るため、売り手としては仲介会社の報酬体系にも注意を払うべきです。

「手離れしやすい会社」を作る5つの磨き込み要素とは?

売り手増加で価格が下がる環境では、「手離れしやすい会社」(高く売れる・売りやすい会社)を作って買い手に選んでもらうことが、価格と成約確度の両方を引き上げる鍵となります。

①業績が良好(黒字・純資産プラス)

過去3年間の黒字経営維持と純資産プラスの確保で、買い手からの信頼度は格段に向上します。安定した収益基盤は、買い手にとって最も魅力的な要素の一つです。株式会社日本財務戦略センターが支援した食品製造業のA社は、コロナ禍でも安定した黒字経営を維持し純資産を積み上げていたため、複数の買い手候補から高い評価を受け、希望額以上の条件で成約に至りました。

②M&Aが活発に行われている業種に属している

市場全体でM&Aが活発な業種は買い手が見つかりやすく、競争原理が働きやすいため高値売却が期待できます。帝国データバンク東京商工リサーチの業界レポートで市場動向を確認することも有効です。実例として、ITサービス業界のスタートアップ企業D社は、特定のニッチ市場で高いシェアを持っていたため、大手IT企業数社が買収に名乗りを上げ、当初想定を上回る価格での売却が実現しました。

③借入金が少ない(土地等の資産が多くても借入が大きいと敬遠)

バランスシート上の負債が少ないほど、買い手は財務リスクが低いと判断します。不動産を過剰に保有している場合は、日本政策金融公庫等の金融機関と相談し、売却してリースバックする、証券化する等でバランスシートを軽くする戦略も有効です。株式会社日本財務戦略センターが関与した運送業のE社は、保有していた遊休不動産を売却しリースバック方式に切り替えることで財務体質を改善し、買い手の財務リスク評価を引き下げ、円滑なM&Aに繋がりました。

④赤字でも一過性で原因が明確

一時的な設備投資による赤字や、特定のプロジェクト終了に伴う費用計上など、明確な理由と改善計画があれば買い手は将来性を評価します。製造業のB社は一時的な赤字要因を明確に説明し改善計画を提示したことで、高評価を得て成約に至りました。逆に「なぜかわからないが赤字」という法人を必要とする買い手は限定的です。

⑤社長への依存度が低い(キーマンが自走可能)

後継者育成や幹部への権限委譲を進めることで、社長不在でも事業継続できる体制を構築しましょう。IT企業のC社では、社長が主要業務から徐々に離れ、幹部社員が自律的に事業を運営する体制を整えたことで、買い手からの評価が大幅に向上しました。代表者がいなくなった後の不安に対しては、一定期間のロックアップ条項などで対処することも可能です。

業種別の買い手注目度では、医療介護福祉業界、製造業界、不動産業界、建設業界での中小M&Aが活発な印象です。特に人手が必要とされる業種が顕著ですが、近年はDX推進やAI関連技術を持つ企業、特定分野の専門技術を持つエンジニアリング企業、サブスクリプション型ビジネスモデルを持つ企業も買い手注目度が上昇傾向にあります。単に人手不足を補う目的だけでなく、新たな技術・市場への参入や既存事業とのシナジー創出を目的としたM&Aが増加しています。

売りづらい会社・価格を下げる要素とは?

逆に評価を下げる要素は次のとおりです。

債務超過の連帯保証問題については、経営者保証ガイドラインでも債務超過が大きい場合は限定的な扱いとされており、連帯保証解除どころか引き継げない状況で実務的に足踏みするケースもあります。資金ショート寸前案件と同様、事業再生も併せて検討すべきです。市場と明らかに乖離した金額提示は、売り手の市場理解度に対する疑念を招く可能性もあるため、慎重なポジショニングが求められます。

M&Aプロセスと準備期間の目安はどれくらいか?

M&Aは複雑なプロセスですが、適切な準備と専門家のサポートがあればスムーズに進められます。一般的なプロセスと準備期間の目安は下記です。

  1. 相談・準備期間(6か月〜1年):M&Aの目的明確化、企業価値の概算評価、資料準備等。「手離れしやすい会社」にするための改善策を検討する段階
  2. 買い手探索・交渉期間(3か月〜1年)ノンネームシート作成、買い手候補打診、秘密保持契約締結、トップ面談意向表明書の受領等
  3. 基本合意・デューデリジェンス期間(1〜3か月):基本合意書締結後、買い手による財務・法務・事業の詳細調査
  4. 最終契約・クロージング(1か月):デューデリジェンス(DD)結果を踏まえた最終条件交渉、株式譲渡契約書等の締結

株式会社日本財務戦略センターでは、これらのプロセス全体を通じて売り手の立場に寄り添い、最適なM&Aを実現するためのサポートを提供しています。なお、契約条項そのものや税務上の扱いは、弁護士税理士公認会計士など各分野の専門家にご確認ください。

※M&A実務の判断には専門家との相談が不可欠です。日本財務戦略センター(JFSC)ではM&Aセカンドオピニオン無料相談を承っております

よくあるご質問

「手離れしやすい会社」とは具体的にどんな会社ですか?

(1)過去3年黒字で純資産プラス、(2)M&Aが活発な業種に属する、(3)借入金が過大でない、(4)赤字でも一過性で原因が明確、(5)社長への依存度が低くキーマンが自走可能、の5要素を満たす会社です。年買法でも買い手目線のEBITDA倍率評価でも、譲渡対価を引き上げる方向に作用します。

東京都事業引継ぎ支援センターと買い手側の評価式はどう違いますか?

支援センター式は「時価純資産+実質利益×1〜3倍」で資産価値を含めて評価しますが、買い手側は「ネットキャッシュ+EBITDA×2〜3倍」とキャッシュフロー中心の厳しめ評価になりがちです。同じ会社でも算定方式により譲渡価格レンジが変動するため、両者の差を理解しておく必要があります。

売却準備に必要な期間はどれくらいですか?

一般的には(1)相談・準備6か月〜1年、(2)買い手探索・交渉3か月〜1年、(3)基本合意・DD 1〜3か月、(4)最終契約・クロージング1か月の合計1年〜2年半程度を見込みます。財務改善や属人性解消等の磨き込みを行う場合は、それ以前の準備期間も加算してください。

公開日: 2024年6月5日 / 最終更新日: 2026年5月22日
五十嵐 悠一

執筆者

五十嵐 悠一(いがらし ゆういち)

株式会社日本財務戦略センター 代表取締役

京都大学経済学部経営学科卒業。株式会社損害保険ジャパン本店営業部、東証上場M&A仲介会社を経て、2020年5月に日本財務戦略センターを設立。中小企業のM&A仲介・事業承継支援を専門とし、医療・介護・食品製造・流通卸・機械製造分野の成約実績を持つ。

資格:プロフェッショナルCFO(日本CFO協会)/M&Aエキスパート(金融業務2級 事業承継・M&Aコース)

公的登録:中小企業庁 M&A支援機関 登録事業者/一般社団法人 M&A支援機関協会 正会員

メディア登壇:株式会社サイゾー Business Journal ウェブセミナー講師「【売り手向け】M&Aを成功させるための具体的な行動・プロセス・知識」(2022年6月)[公式告知]

専門家コラム寄稿:BATONZ(国内最大級M&A プラットフォーム)に M&A・事業承継 74本(2021年〜継続)[コラム一覧]

|LinkedIn|X (@jfsc2020)|BATONZ

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件における法務・税務・会計判断を提供するものではありません。法務・税務・会計の個別判断は、弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください。M&Aのスキーム設計・タイミング・買い手探し等のアドバイザリーは、株式会社日本財務戦略センターにご相談ください。記載内容は公開時点の情報に基づき、法令改正や市場変動により最新の状況と異なる場合があります。

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よくあるご質問(FAQ)

この章のポイント
日本財務戦略センターへのご相談に関する共通の10問と、本記事に関する0問の計10問。
共通Q1. 日本財務戦略センターはどのような会社ですか?
A. 株式会社日本財務戦略センター(JFSC)は、中小企業オーナーの M&A・事業承継を「自分事として最後まで完結する」ためのご相談先です。仲介の独断ではなく、売り手の判断材料を整える立場を貫いています。会社概要もご覧ください。
共通Q2. 相談したら、必ず M&A しなければいけませんか?
A. いいえ、ご相談のみで結構です。相談後に「今回は見送ります」と判断いただいても問題ありません。M&A 以外の選択肢(廃業・親族承継・事業再生)も含めてご一緒に整理します。まずは無料相談からお気軽にどうぞ。
共通Q3. 相談料・着手金は発生しますか?
A. 初回相談・簡易査定・進行中の段階まで、すべて無料です。日本財務戦略センターは完全成功報酬制を採用しており、M&A 成約時のみご報酬が発生します。着手金・中間金・月額顧問料は一切いただきません。なお、案件特性により外部専門家への依頼や登記等の実費(例:司法書士の登記費用、外部監査法人による資産査定、譲受企業側からの弁護士・公認会計士による DD 費用 等)が発生する場合は、必ず事前にご相談・ご同意のうえ進めますので、不意の費用負担は生じません。詳細は弊社の報酬体系をご確認ください。
共通Q4. 一般的な M&A 仲介会社と、どこが違いますか?利益相反はどう開示されますか?
A. M&A 仲介は売主・買主の双方から報酬を得る「両手仲介」が業界慣行で、構造的な利益相反のリスクがあります。そのうえで、業界には「誘い込む仲介」と「公開する仲介」の二類型があると当社は考えています。日本財務戦略センターは後者の立場で、契約締結時に重要事項説明書を交付し、両手仲介の構造を含めて文書でご説明したうえで、売り手の判断材料となる情報を整え、買い手の都合で交渉を急がせない姿勢を貫きます。これは経済産業省・中小企業庁中小 M&A ガイドライン第 3 版・2024 年 8 月改訂、手数料算定基準の開示・買い手信用調査等を留意事項として明示)に則った対応です。二類型化の根拠は弊社独自の業界 20 社研究レポート、構造論の詳細は仲介契約 vs FA 契約の構造分析もご参照ください。
共通Q5. どれくらいの規模から相談できますか?
A. 年商数千万円規模の小規模事業から、数億円規模まで対応します。業界の多くの仲介会社では最低手数料を 2,000 万円以上に設定している傾向で、各社の最低手数料は中小企業庁M&A 支援機関登録制度・登録情報で確認いただけます。日本財務戦略センターの最低手数料は 700 万円で、小規模案件もお引き受けしています。具体的な報酬構造は弊社の報酬体系をご確認ください。
共通Q6. 税金・法律のことを詳しく教えてもらえますか?
A. 税務・法務は税理士法・弁護士法により、具体的な提案は弁護士・税理士等の専門家のみが行えます。当社は業界慣行の一般論をご説明した上で、顧問の先生方にご確認いただく形でご案内します。必要に応じて専門家ネットワークのご紹介も無料で行っています。
共通Q7. 家族や従業員に知られたくないのですが、可能ですか?
A. ご相談段階から NDA(秘密保持契約)を締結し、徹底管理します。社名を公開せずに買い手候補へ打診する「ノンネーム打診」の進め方も可能です。守秘義務体制については情報管理ポリシーでご確認いただけます。
共通Q8. 成約までどれくらいの期間がかかりますか?
A. 標準的には 3〜6 ヶ月程度を目安としてお考えください。買い手候補と事前に綿密な調整を行い、売主オーナー様のペースで進行します。スピード優先で売主の利益を損なう進め方は致しませんが、売主オーナー様のご事情・ご要望に応じて、最短 60 日での成約実績もございます。
共通Q9. デューデリジェンス(DD)では、どのような立場をとりますか?
A. 日本財務戦略センターは、売主オーナー様の利益を最優先に検討する立場を貫きます。仲介業の構造的な利益相反論点については仲介契約 vs FA 契約の構造分析で詳述しており、DD 費用負担の判例実務は東京地裁 DD 費用判決の射程でご確認いただけます。必要に応じて第三者の公認会計士・弁護士・税理士等の専門家をご紹介し、買い手寄りに偏らない査定体制を整えます。中小企業庁中小 M&A ガイドラインの遵守事項に則り、適切な情報開示を行います。
共通Q10. 対応エリアは限られますか?
A. 全国対応可能です。首都圏はもちろん、各地方都市でもご相談実績があります。オンライン面談と現地訪問を組み合わせ、所在地を問わず売主様のペースで進行します。まずは所在地を問わない無料相談をご利用ください。

📅 本記事の情報基準日

本記事は 2024年6月5日 公開時点の情報に基づきます。税制・法令等は改正される場合があるため、最新の制度・税制は公的機関の公式情報をご確認ください。

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