2024.01.30 M&A業界事情

「正直不動産」に学ぶ! M&A仲介会社が入る意味とは ~実際あった直接取引の事例を参考に~

「正直不動産」とM&A仲介

この記事の結論:M&A直接取引は仲介手数料を浮かせる代わりに、乗っ取り屋/詐欺買い手/後出し条件変更/取引先による乗っ取りなど致命的リスクに直結します。仲介担当者は①相手見極め②交渉すり合わせ③トラブル対応の3価値を提供します。手数料以上の損失を避けるため、経験豊富な仲介選定が重要です。

NHKでもドラマの第二クールが始まった「正直不動産」は、山下智久氏や福原遥氏といった俳優陣が、不動産市場の裏側や特殊事情に起因するトラブルに直面し、コミカルに「嘘をつかず」解決していくストーリーです。M&A実務に長年携わり、数多くの成約を支援してきた筆者としても大変興味深く、ドラマで描かれる内容は、業界関係者には既知でも一般には知られていない情報が多く、毎週家族で視聴しています。

「コミカルに」という演出は、真面目に取り扱うと内容がディープすぎて重厚な社会派ドラマになりかねないため、視聴者が親しみやすいように配慮されているものと推察されます。

「正直不動産」で扱われた直接取引と仲介の必要性

さて、直近の18巻および19巻では、M&Aにおける直接取引について扱われました。仲介手数料を高いと感じた顧客が直接取引を試みるものの、実際に着手すると事務コストが膨大になり、自身でリスクを負うことの重大性を知り、仲介の重要性を認識する…というストーリーです。

しかし、M&A仲介の専門家として筆者がその重要性を説くと、「それは筆者のポジショントークではないか」といったご指摘もあるかと存じます。そこで、筆者の実務経験や、業界で実際にあった事例などを踏まえて、M&Aにおける直接取引の危険性と仲介の価値についてお伝えします(事例は特定されないように内容を一部変更しています)。

直接取引と危険な買い手

事例1 実は乗っ取り屋だったケース

売り手は売上げ数億円規模の許認可事業を営む会社でした。コロナ禍やコンプライアンス上の問題により、一時的に大口取引先との取引が中断され、資金ショートを起こす可能性が極めて高い状況にありました。売り手の代表は資金ショートを回避すべく、知り合いの買い手に救済のためのM&Aを求め、相談に行きました。

買い手側は、簡素なA4一枚の株式譲渡契約書で、債務や連帯保証の引継ぎを行う代わりに株式を譲渡するという契約を締結しました。その契約の条件自体は妥当と思われましたが、問題はその後です。買い手は売り手個人の不動産も売却するように圧力をかけ、条件が過剰にエスカレートしていったようです。このような状況下で、弊社に他の買い手探しを依頼されましたが、期間がタイトであることに加え、そのまま進めると二重売買になる可能性が生じてしまいます。「どうしても(最初の買い手に)売りたくない」という売り手の意向は尊重しますが、他の買い手に売却すると、その買い手にも迷惑がかかるため、会社法に基づく民事再生などの裁判所が関与したスキームを使わざるを得ないかと考えています。なお、経営者保証ガイドラインに則った適切な債務整理も重要です。

この事例から学ぶべきリスク:

仲介の介入ポイント(もし筆者が関与していたら):

事例2 買い手が不適切な人物だったケース

これは弊社で扱った案件ではないのですが、東北の某老舗企業の事例です。コロナの影響で債務超過に陥っていました。中小M&Aガイドラインに沿ってM&A支援機関に相談し、大手の製菓メーカーとのM&Aが成約直前まで進んでいたようです。

その話を聞きつけた買い手が直接話を持ち掛け、自身が大口顧客を紹介できると提案し、一部株式を所有することを条件に役員に就任することになりました。結果として大口顧客などを紹介することはできなかったため、後に交渉が決裂したと聞いています。もちろん売上げは上がらないため、もともと話があった大手製菓メーカーと再交渉することはできず、その後も苦境は継続していると思われます。

この事例から学ぶべきリスク:

仲介の介入ポイント(もし筆者が関与していたら):

事例3 後出しで条件が変更されたケース

これも弊社ではなく他社の事例です。買い手自体は筆者も存じており、過去の取引実績や業界内での評判から、懸念を抱いていました。円滑に進むのであれば弊社が介入する必要もないため静観していましたが、譲渡後に、事前に聞いていない条件が追加されたということで(事例1に似ています)、売り手が不満を表明し、交渉が決裂したとのことです。

これは100%買い手が不適切であったと判断されるため、その仲介会社には大変気の毒な結果でしたが、売り手からすると、仲介会社がいたことで反対売買を行い白紙に戻すことができたため、事例1と比べると被害が限定的であったと言えるでしょう。

この事例から学ぶべきリスク:

仲介の介入ポイント(もし筆者が関与していたら):

事例4 親密な取引先(買い手)との直接取引で乗っ取られたケース

X(旧ツイッター)で手数料を惜しんだ売り手の顛末が書かれています。

・譲渡対価は役員借入金の分割返済
・M&A前にデューデリジェンス(DD)名目で買手が職場に来て勝手に従業員に指示を出す。従業員は譲渡済みと勘違い
・ネットバンキングを掌握される
弁護士を立てるも無意味
・ケチらずにしばちょに頼めば良かった!(今ココ) <教訓>
・M&Aの交渉に仲良しとか関係ないし、むしろマイナス

金銭が絡む取引においては、人間関係が変化する現実的な側面もありますが、「M&A交渉に仲良しとか関係ない」は的を射た指摘です。クールにリスクとバランスを考えながら対応するのが仲介の役割だと筆者は考えます。

この事例から学ぶべきリスク:

仲介の介入ポイント(もし筆者が関与していたら):

仲介の入る意義

上記の事例をご覧いただき、中小M&Aガイドラインでも強調されているように、M&Aとはかなりリスクが高い商取引であることがお分かりいただけたと思います。経験豊富な仲介担当が入ることで、以下の価値を提供することが可能です。

①相手の見極めによるリスクの低減
②交渉過程におけるすり合わせと全体最適
③トラブルが発生した場合の是正・修復・離脱

そのうえで、どのような担当者が関与するかによって交渉過程が大きく左右されるため、やはり経験や実績をもとに任せるかどうか判断すべきでしょう。中小企業庁M&A支援機関協会が提供するM&A支援機関の選定基準などを参考にすることが推奨されます。最近ではファンドへの売却のみを目的とする担当者や会社も増えているようですが、ハードな交渉や予期せぬトラブルを乗り越えた経験がある担当者の方が、多岐にわたる状況に対応できるため信頼できるのではないでしょうか。日本政策金融公庫事業承継支援や、金融庁のファンドに関する情報も参考に、多角的な視点を持つことが重要です。

最後にもう一度「正直不動産」に戻ると、仲介は上記のメリットを提供しながら、買い手や売り手と一緒に、M&Aを行う「価値や意味をすり合わせながら創り出すこと」に尽きるのではないでしょうか。手数料を払いたくない(安い方がいい)というのはもっともな意見ですが、それによって先ほどの事例のように大きく損をしてしまうのと比べたら、経験豊富な仲介の活用は賢明な選択と言えるでしょう。

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なおM&A仲介の営業電話にお悩みの皆様やそちらの業界への転職を考えている皆様はこちらのコラムもどうぞ。

「最低手数料」問題についてはこちらもどうぞ。

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公開日: 2024年1月30日 / 最終更新日: 2026年5月24日
五十嵐 悠一

執筆者

五十嵐 悠一(いがらし ゆういち)

株式会社日本財務戦略センター 代表取締役

京都大学経済学部経営学科卒業。株式会社損害保険ジャパン本店営業部、東証上場M&A仲介会社を経て、2020年5月に日本財務戦略センターを設立。中小企業のM&A仲介・事業承継支援を専門とし、医療・介護・食品製造・流通卸・機械製造分野の成約実績を持つ。

資格:プロフェッショナルCFO(日本CFO協会)/M&Aエキスパート(金融業務2級 事業承継・M&Aコース)

公的登録:中小企業庁 M&A支援機関 登録事業者/一般社団法人 M&A支援機関協会 正会員

メディア登壇:株式会社サイゾー Business Journal ウェブセミナー講師「【売り手向け】M&Aを成功させるための具体的な行動・プロセス・知識」(2022年6月)[公式告知]

専門家コラム寄稿:BATONZ(国内最大級M&A プラットフォーム)に M&A・事業承継 74本(2021年〜継続)[コラム一覧]

|LinkedIn|X (@jfsc2020)|BATONZ

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件における法務・税務・会計判断を提供するものではありません。法務・税務・会計の個別判断は、弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください。M&Aのスキーム設計・タイミング・買い手探し等のアドバイザリーは、株式会社日本財務戦略センターにご相談ください。記載内容は公開時点の情報に基づき、法令改正や市場変動により最新の状況と異なる場合があります。

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よくあるご質問(FAQ)

この章のポイント
日本財務戦略センターへのご相談に関する共通の10問と、本記事に関する5問の計15問。
共通Q1. 日本財務戦略センターはどのような会社ですか?
A. 株式会社日本財務戦略センター(JFSC)は、中小企業オーナーの M&A・事業承継を「自分事として最後まで完結する」ためのご相談先です。仲介の独断ではなく、売り手の判断材料を整える立場を貫いています。会社概要もご覧ください。
共通Q2. 相談したら、必ず M&A しなければいけませんか?
A. いいえ、ご相談のみで結構です。相談後に「今回は見送ります」と判断いただいても問題ありません。M&A 以外の選択肢(廃業・親族承継・事業再生)も含めてご一緒に整理します。まずは無料相談からお気軽にどうぞ。
共通Q3. 相談料・着手金は発生しますか?
A. 初回相談・簡易査定・進行中の段階まで、すべて無料です。日本財務戦略センターは完全成功報酬制を採用しており、M&A 成約時のみご報酬が発生します。着手金・中間金・月額顧問料は一切いただきません。なお、案件特性により外部専門家への依頼や登記等の実費(例:司法書士の登記費用、外部監査法人による資産査定、譲受企業側からの弁護士・公認会計士による DD 費用 等)が発生する場合は、必ず事前にご相談・ご同意のうえ進めますので、不意の費用負担は生じません。詳細は弊社の報酬体系をご確認ください。
共通Q4. 一般的な M&A 仲介会社と、どこが違いますか?利益相反はどう開示されますか?
A. M&A 仲介は売主・買主の双方から報酬を得る「両手仲介」が業界慣行で、構造的な利益相反のリスクがあります。そのうえで、業界には「誘い込む仲介」と「公開する仲介」の二類型があると当社は考えています。日本財務戦略センターは後者の立場で、契約締結時に重要事項説明書を交付し、両手仲介の構造を含めて文書でご説明したうえで、売り手の判断材料となる情報を整え、買い手の都合で交渉を急がせない姿勢を貫きます。これは経済産業省・中小企業庁中小 M&A ガイドライン第 3 版・2024 年 8 月改訂、手数料算定基準の開示・買い手信用調査等を留意事項として明示)に則った対応です。二類型化の根拠は弊社独自の業界 20 社研究レポート、構造論の詳細は仲介契約 vs FA 契約の構造分析もご参照ください。
共通Q5. どれくらいの規模から相談できますか?
A. 年商数千万円規模の小規模事業から、数億円規模まで対応します。業界の多くの仲介会社では最低手数料を 2,000 万円以上に設定している傾向で、各社の最低手数料は中小企業庁M&A 支援機関登録制度・登録情報で確認いただけます。日本財務戦略センターの最低手数料は 700 万円で、小規模案件もお引き受けしています。具体的な報酬構造は弊社の報酬体系をご確認ください。
共通Q6. 税金・法律のことを詳しく教えてもらえますか?
A. 税務・法務は税理士法・弁護士法により、具体的な提案は弁護士・税理士等の専門家のみが行えます。当社は業界慣行の一般論をご説明した上で、顧問の先生方にご確認いただく形でご案内します。必要に応じて専門家ネットワークのご紹介も無料で行っています。
共通Q7. 家族や従業員に知られたくないのですが、可能ですか?
A. ご相談段階から NDA(秘密保持契約)を締結し、徹底管理します。社名を公開せずに買い手候補へ打診する「ノンネーム打診」の進め方も可能です。守秘義務体制については情報管理ポリシーでご確認いただけます。
共通Q8. 成約までどれくらいの期間がかかりますか?
A. 標準的には 3〜6 ヶ月程度を目安としてお考えください。買い手候補と事前に綿密な調整を行い、売主オーナー様のペースで進行します。スピード優先で売主の利益を損なう進め方は致しませんが、売主オーナー様のご事情・ご要望に応じて、最短 60 日での成約実績もございます。
共通Q9. デューデリジェンス(DD)では、どのような立場をとりますか?
A. 日本財務戦略センターは、売主オーナー様の利益を最優先に検討する立場を貫きます。仲介業の構造的な利益相反論点については仲介契約 vs FA 契約の構造分析で詳述しており、DD 費用負担の判例実務は東京地裁 DD 費用判決の射程でご確認いただけます。必要に応じて第三者の公認会計士・弁護士・税理士等の専門家をご紹介し、買い手寄りに偏らない査定体制を整えます。中小企業庁中小 M&A ガイドラインの遵守事項に則り、適切な情報開示を行います。
共通Q10. 対応エリアは限られますか?
A. 全国対応可能です。首都圏はもちろん、各地方都市でもご相談実績があります。オンライン面談と現地訪問を組み合わせ、所在地を問わず売主様のペースで進行します。まずは所在地を問わない無料相談をご利用ください。
本記事Q11. 記事にあるような「簡素なA4一枚の株式譲渡契約書」でM&Aを進めることには、具体的にどのようなリスクがあるのでしょうか?
A. 簡素な契約書は、譲渡後の条件変更や不当な要求を招きやすく、売り手の権利が十分に保護されないリスクがあります。特に表明保証や解除条項などの重要なM&A契約における条項が欠けている場合、予期せぬトラブルに発展する可能性が高まります。
本記事Q12. 資金ショート寸前のような緊急性の高い状況でM&Aを検討する場合でも、仲介会社に依頼するメリットはあるのでしょうか?
A. 資金ショート寸前の状況は売り手の交渉力を著しく低下させ、悪質な買い手につけ込まれる温床となりがちです。仲介会社は、複数の買い手候補を探索して競争原理を働かせ、売り手にとってより有利な条件を引き出すとともに、悪質な買い手を初期段階で排除する役割を担います。
本記事Q13. 知り合いや取引先からM&Aの直接取引を持ちかけられた場合でも、M&A仲介会社を通すべきでしょうか?
A. 知り合いとの直接取引であっても、金銭が絡むと関係性が変化し、予期せぬトラブルに発展する可能性があります。仲介会社は客観的な第三者の視点から、買い手の実態や意図を徹底的に見極め、不当な要求や条件変更から売り手を保護する役割を果たします。
本記事Q14. 記事にあった「買い手の徹底的な見極め」や「デューデリジェンス(DD)」とは、具体的にどのような調査を行うのでしょうか?
A. 買い手の徹底的な見極めには、インターネット検索に留まらず、帝国データバンクや東京商工リサーチなどの専門機関を活用した企業情報調査が含まれます。さらに、業界内での評判、過去の取引実績、財務状況などを多角的に確認し、買い手の信頼性や実態を深く掘り下げて評価します。
本記事Q15. M&A契約書の作成や法務に関する確認は、M&A仲介会社に全て任せても問題ないでしょうか?
A. M&A契約書は譲渡対価、債務・連帯保証の引継ぎ条件、解除条項、表明保証など多岐にわたる重要な条項を網羅する必要があります。仲介会社はこれらの重要性を理解し、売り手の権利を最大限保護する契約書の作成を支援しますが、弁護士法に則り、最終的な契約書の作成や確認はM&Aに精通した弁護士にご相談ください。
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📅 本記事の情報基準日

本記事は 2024年1月30日 公開時点の情報に基づきます。税制・法令等は改正される場合があるため、最新の制度・税制は公的機関の公式情報をご確認ください。

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