2020.10.14 M&A実務 PMI・統合

M&Aで従業員はリストラされるのか|中小企業M&Aの買い手の本音と雇用維持の実態・契約担保のポイントを解説

M&A後の従業員リストラとは、譲渡後に買い手が経営合理化目的で人員削減を行うことを指します。アクティビストファンドなどの再編型M&Aでは発生しうる一方、中小企業M&Aでは買い手の主目的が「経験豊富な人材の確保」であるため、リストラはむしろ例外的です。買い手にとっても解雇は業界悪評と離職リスクを招くため、雇用維持が合理的選択となります。

「M&Aで従業員がリストラされる」という不安はどこから来るのか?

「M&Aを行うと従業員がリストラされてしまうのではないか」――株式会社日本財務戦略センター(JFSC)代表・五十嵐悠一は、中小企業の経営者からこの懸念を最も多く受けます。長年苦楽を共にした従業員の雇用が脅かされる不安は、従業員を大切にしてきた経営者にとって当然の感情です。

アクティビストファンドによるM&Aがニュースで報じられ、従業員リストラの結果として後ろ指をさされる――そうした懸念は、メディア露出の多い大企業M&A事例から形成された印象が大きいといえます。

中小企業M&Aと大企業M&Aは目的が根本的に違う

金融庁が注視するアクティビストファンドのM&Aは、上場企業や大企業を対象に株主価値最大化や経営効率改善を目的としており、不採算部門整理に伴う人員削減が発生することがあります。

これに対し中小企業庁が推進する中小企業M&Aの買い手の主目的は、事業拡大、新規事業参入、技術・ノウハウの獲得、そして経験豊富な人材の確保です。経済産業省 中小M&Aガイドライン第3版でもこの方向性が示されています。JFSCが支援した数多くの案件においても、譲渡後にあからさまなリストラが行われたケースは極めて稀であり、ほとんどの場合で雇用は維持されています。

なぜ中小企業M&Aの買い手は雇用維持を選ぶのか?

中小企業M&Aの買い手にとってM&Aの最大の意義は「時間をお金で買う」ことです。市場参入、事業規模拡大、技術・ノウハウ獲得、人材確保をゼロから構築するよりも圧倒的に短期間で実現することが目的であり、既存企業の従業員はその達成に不可欠な資産です。

同業の事業法人による買収であれば、既存顧客基盤・サプライチェーン・熟練従業員の確保はM&Aの主要動機そのものです。それにも関わらずM&A後に無理な解雇を行えば、買い手側に以下のリスクが発生します。

つまり買い手にとっても、解雇は経済合理性に反する選択肢なのです。

事業再生型M&Aは例外的ケース

事業再生を目的としたM&Aでは、固定費削減のために事業の一部とそれに紐づく従業員の切り離しが行われることがあります。これは金融庁も関与する特殊スキームであり、一般的な中小企業M&Aとは枠組みが異なります。経営者保証に関するガイドラインに則った円滑な事業承継・再生を目指す中で、雇用維持は重要な評価軸となります。

JFSC支援案件の実例:従業員一人を巡る上場企業の対応

一部上場企業がロールアップ戦略のため地方の法人から事業譲渡を受けた案件があります。対象事業は実質一人の従業員で運営されていましたが、その方が事業売上の主軸であったこと、面談時の人柄の良さから、買い手は「ぜひ従業員にも残ってほしい」と強く要望しました。基本合意後には従業員の不安を払拭する懇親会が設定され、円滑な引き継ぎが実現しています。

別の案件では、代表オーナーの存在が企業の雰囲気を醸成しているケースで、役職員をそのまま引き継いだ上で営業時間延長などの施策により売上を改善させた事例もあります。詳細はJFSCの成約事例でご確認いただけます。

従業員雇用への不安はどう解消するか?

従業員雇用への不安が残る場合、買い手企業とのトップ面談時に譲渡後の経営方針を相互確認する場を設けることが有効です。具体的には以下を確認します。

労働契約承継は労務面の専門性が高いため、社労士や弁護士との連携が必須です。事業承継・引継ぎ支援センターM&A支援機関協会も雇用維持を重視する円滑な事業承継を推進しています。JFSCでは、些細な不安でも事前に丁寧にヒアリングし、買い手との間で雇用条件を文書化する支援を行っています。

よくあるご質問

中小企業M&Aで従業員がリストラされる確率はどれくらいですか?

JFSCが支援した中小企業M&A案件では、譲渡後にあからさまなリストラが行われるケースは極めて稀です。買い手の主目的が人材確保であるため、雇用維持が合理的選択となるからです。ただし事業再生型M&Aは例外であり、スキーム選定時に弁護士・社労士に確認することをお勧めします。

従業員の雇用維持を契約書で担保することはできますか?

可能です。最終契約書に雇用維持条項や処遇維持条項を盛り込むケースは実務上一般的です。ただし条項の法的拘束力や違反時の救済手段は契約設計次第のため、必ず弁護士のリーガルチェックを受けて、表明保証や誓約条項として整理する必要があります。

従業員にM&Aを伝えるタイミングはいつが良いですか?

一般的には基本合意後・最終契約締結前のタイミングで、買い手と擦り合わせた説明内容に基づき、信頼できる幹部から段階的に開示するのが実務です。情報漏洩リスクと従業員の心理的影響を踏まえた設計が必要なので、M&A仲介会社や社労士・弁護士と相談しながら開示計画を立てることをお勧めします。

公開日: 2020年10月14日 / 最終更新日: 2026年5月22日
五十嵐 悠一

執筆者

五十嵐 悠一(いがらし ゆういち)

株式会社日本財務戦略センター 代表取締役

京都大学経済学部経営学科卒業。株式会社損害保険ジャパン本店営業部、東証上場M&A仲介会社を経て、2020年5月に日本財務戦略センターを設立。中小企業のM&A仲介・事業承継支援を専門とし、医療・介護・食品製造・流通卸・機械製造分野の成約実績を持つ。

資格:プロフェッショナルCFO(日本CFO協会)/M&Aエキスパート(金融業務2級 事業承継・M&Aコース)

公的登録:中小企業庁 M&A支援機関 登録事業者/一般社団法人 M&A支援機関協会 正会員

メディア登壇:株式会社サイゾー Business Journal ウェブセミナー講師「【売り手向け】M&Aを成功させるための具体的な行動・プロセス・知識」(2022年6月)[公式告知]

専門家コラム寄稿:BATONZ(国内最大級M&A プラットフォーム)に M&A・事業承継 74本(2021年〜継続)[コラム一覧]

|LinkedIn|X (@jfsc2020)|BATONZ

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件における法務・税務・会計判断を提供するものではありません。法務・税務・会計の個別判断は、弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください。M&Aのスキーム設計・タイミング・買い手探し等のアドバイザリーは、株式会社日本財務戦略センターにご相談ください。記載内容は公開時点の情報に基づき、法令改正や市場変動により最新の状況と異なる場合があります。

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よくあるご質問(FAQ)

この章のポイント
日本財務戦略センターへのご相談に関する共通の10問と、本記事に関する0問の計10問。
共通Q1. 日本財務戦略センターはどのような会社ですか?
A. 株式会社日本財務戦略センター(JFSC)は、中小企業オーナーの M&A・事業承継を「自分事として最後まで完結する」ためのご相談先です。仲介の独断ではなく、売り手の判断材料を整える立場を貫いています。会社概要もご覧ください。
共通Q2. 相談したら、必ず M&A しなければいけませんか?
A. いいえ、ご相談のみで結構です。相談後に「今回は見送ります」と判断いただいても問題ありません。M&A 以外の選択肢(廃業・親族承継・事業再生)も含めてご一緒に整理します。まずは無料相談からお気軽にどうぞ。
共通Q3. 相談料・着手金は発生しますか?
A. 初回相談・簡易査定・進行中の段階まで、すべて無料です。日本財務戦略センターは完全成功報酬制を採用しており、M&A 成約時のみご報酬が発生します。着手金・中間金・月額顧問料は一切いただきません。なお、案件特性により外部専門家への依頼や登記等の実費(例:司法書士の登記費用、外部監査法人による資産査定、譲受企業側からの弁護士・公認会計士による DD 費用 等)が発生する場合は、必ず事前にご相談・ご同意のうえ進めますので、不意の費用負担は生じません。詳細は弊社の報酬体系をご確認ください。
共通Q4. 一般的な M&A 仲介会社と、どこが違いますか?利益相反はどう開示されますか?
A. M&A 仲介は売主・買主の双方から報酬を得る「両手仲介」が業界慣行で、構造的な利益相反のリスクがあります。そのうえで、業界には「誘い込む仲介」と「公開する仲介」の二類型があると当社は考えています。日本財務戦略センターは後者の立場で、契約締結時に重要事項説明書を交付し、両手仲介の構造を含めて文書でご説明したうえで、売り手の判断材料となる情報を整え、買い手の都合で交渉を急がせない姿勢を貫きます。これは経済産業省・中小企業庁中小 M&A ガイドライン第 3 版・2024 年 8 月改訂、手数料算定基準の開示・買い手信用調査等を留意事項として明示)に則った対応です。二類型化の根拠は弊社独自の業界 20 社研究レポート、構造論の詳細は仲介契約 vs FA 契約の構造分析もご参照ください。
共通Q5. どれくらいの規模から相談できますか?
A. 年商数千万円規模の小規模事業から、数億円規模まで対応します。業界の多くの仲介会社では最低手数料を 2,000 万円以上に設定している傾向で、各社の最低手数料は中小企業庁M&A 支援機関登録制度・登録情報で確認いただけます。日本財務戦略センターの最低手数料は 700 万円で、小規模案件もお引き受けしています。具体的な報酬構造は弊社の報酬体系をご確認ください。
共通Q6. 税金・法律のことを詳しく教えてもらえますか?
A. 税務・法務は税理士法・弁護士法により、具体的な提案は弁護士・税理士等の専門家のみが行えます。当社は業界慣行の一般論をご説明した上で、顧問の先生方にご確認いただく形でご案内します。必要に応じて専門家ネットワークのご紹介も無料で行っています。
共通Q7. 家族や従業員に知られたくないのですが、可能ですか?
A. ご相談段階から NDA(秘密保持契約)を締結し、徹底管理します。社名を公開せずに買い手候補へ打診する「ノンネーム打診」の進め方も可能です。守秘義務体制については情報管理ポリシーでご確認いただけます。
共通Q8. 成約までどれくらいの期間がかかりますか?
A. 標準的には 3〜6 ヶ月程度を目安としてお考えください。買い手候補と事前に綿密な調整を行い、売主オーナー様のペースで進行します。スピード優先で売主の利益を損なう進め方は致しませんが、売主オーナー様のご事情・ご要望に応じて、最短 60 日での成約実績もございます。
共通Q9. デューデリジェンス(DD)では、どのような立場をとりますか?
A. 日本財務戦略センターは、売主オーナー様の利益を最優先に検討する立場を貫きます。仲介業の構造的な利益相反論点については仲介契約 vs FA 契約の構造分析で詳述しており、DD 費用負担の判例実務は東京地裁 DD 費用判決の射程でご確認いただけます。必要に応じて第三者の公認会計士・弁護士・税理士等の専門家をご紹介し、買い手寄りに偏らない査定体制を整えます。中小企業庁中小 M&A ガイドラインの遵守事項に則り、適切な情報開示を行います。
共通Q10. 対応エリアは限られますか?
A. 全国対応可能です。首都圏はもちろん、各地方都市でもご相談実績があります。オンライン面談と現地訪問を組み合わせ、所在地を問わず売主様のペースで進行します。まずは所在地を問わない無料相談をご利用ください。

📅 本記事の情報基準日

本記事は 2020年10月14日 公開時点の情報に基づきます。税制・法令等は改正される場合があるため、最新の制度・税制は公的機関の公式情報をご確認ください。

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