「M&Aで従業員がリストラされる」という不安はどこから来るのか?
「M&Aを行うと従業員がリストラされてしまうのではないか」――株式会社日本財務戦略センター(JFSC)代表・五十嵐悠一は、中小企業の経営者からこの懸念を最も多く受けます。長年苦楽を共にした従業員の雇用が脅かされる不安は、従業員を大切にしてきた経営者にとって当然の感情です。
アクティビストファンドによるM&Aがニュースで報じられ、従業員リストラの結果として後ろ指をさされる――そうした懸念は、メディア露出の多い大企業M&A事例から形成された印象が大きいといえます。
中小企業M&Aと大企業M&Aは目的が根本的に違う
金融庁が注視するアクティビストファンドのM&Aは、上場企業や大企業を対象に株主価値最大化や経営効率改善を目的としており、不採算部門整理に伴う人員削減が発生することがあります。
これに対し中小企業庁が推進する中小企業M&Aの買い手の主目的は、事業拡大、新規事業参入、技術・ノウハウの獲得、そして経験豊富な人材の確保です。経済産業省 中小M&Aガイドライン第3版でもこの方向性が示されています。JFSCが支援した数多くの案件においても、譲渡後にあからさまなリストラが行われたケースは極めて稀であり、ほとんどの場合で雇用は維持されています。
なぜ中小企業M&Aの買い手は雇用維持を選ぶのか?
中小企業M&Aの買い手にとってM&Aの最大の意義は「時間をお金で買う」ことです。市場参入、事業規模拡大、技術・ノウハウ獲得、人材確保をゼロから構築するよりも圧倒的に短期間で実現することが目的であり、既存企業の従業員はその達成に不可欠な資産です。
同業の事業法人による買収であれば、既存顧客基盤・サプライチェーン・熟練従業員の確保はM&Aの主要動機そのものです。それにも関わらずM&A後に無理な解雇を行えば、買い手側に以下のリスクが発生します。
- 業界内での悪評が拡散し、厚生労働省が推進する健全な労働市場の中で採用活動に支障が出る。
- 将来的なM&A機会の喪失(売り手候補から敬遠される)。
- 残存従業員のモチベーション低下と望まない離職、再採用コストの発生。
つまり買い手にとっても、解雇は経済合理性に反する選択肢なのです。
統計で見る:M&Aの後、従業員はどれだけ残っているか
中小企業庁の2021年版中小企業白書(第2-3-82図)は、2015年以降にM&Aで会社を譲り受けた企業134社に、譲り受けた会社の従業員をどれだけ雇い続けているかを尋ねた結果を載せています(元の調査は東京商工リサーチ「中小企業のM&Aに関するアンケート調査」)。ほぼ全員の雇用を続けている企業が82.1%、5割から9割が11.9%、5割未満が6.0%でした。
同じ白書(第2-3-79図)では、売り手としてM&Aを考える経営者の82.7%が「従業員の雇用維持」を重視すると答えています。売り手が気にかけていることと、買い手が実際にしていることが、8割台でほぼ重なっています。
ただし、これは買い手が自分で答えたアンケートで、回答は134社です。5割未満にとどまった企業も6.0%あり、すべての案件で雇用が守られているわけではありません。次に見る事業再生型のM&Aのように、人員の見直しを前提にした案件もあります。
事業再生型M&Aは例外的ケース
事業再生を目的としたM&Aでは、固定費削減のために事業の一部とそれに紐づく従業員の切り離しが行われることがあります。これは金融庁も関与する特殊スキームであり、一般的な中小企業M&Aとは枠組みが異なります。経営者保証に関するガイドラインに則った円滑な事業承継・再生を目指す中で、雇用維持は重要な評価軸となります。
JFSC支援案件の実例:従業員一人を巡る上場企業の対応
一部上場企業がロールアップ戦略のため地方の法人から事業譲渡を受けた案件があります。対象事業は実質一人の従業員で運営されていましたが、その方が事業売上の主軸であったこと、面談時の人柄の良さから、買い手は「ぜひ従業員にも残ってほしい」と強く要望しました。基本合意後には従業員の不安を払拭する懇親会が設定され、円滑な引き継ぎが実現しています。
別の案件では、代表オーナーの存在が企業の雰囲気を醸成しているケースで、役職員をそのまま引き継いだ上で営業時間延長などの施策により売上を改善させた事例もあります。詳細はJFSCの成約事例でご確認いただけます。
従業員雇用への不安はどう解消するか?
従業員雇用への不安が残る場合、買い手企業とのトップ面談時に譲渡後の経営方針を相互確認する場を設けることが有効です。具体的には以下を確認します。
労働契約承継は労務面の専門性が高いため、社労士や弁護士との連携が必須です。事業承継・引継ぎ支援センターやM&A支援機関協会も雇用維持を重視する円滑な事業承継を推進しています。JFSCでは、些細な不安でも事前に丁寧にヒアリングし、買い手との間で雇用条件を文書化する支援を行っています。
よくあるご質問
中小企業M&Aで従業員がリストラされる確率はどれくらいですか?
JFSCが支援した中小企業M&A案件では、譲渡後にあからさまなリストラが行われるケースは極めて稀です。買い手の主目的が人材確保であるため、雇用維持が合理的選択となるからです。ただし事業再生型M&Aは例外であり、スキーム選定時に弁護士・社労士に確認することをお勧めします。
従業員の雇用維持を契約書で担保することはできますか?
可能です。最終契約書に雇用維持条項や処遇維持条項を盛り込むケースは実務上一般的です。ただし条項の法的拘束力や違反時の救済手段は契約設計次第のため、必ず弁護士のリーガルチェックを受けて、表明保証や誓約条項として整理する必要があります。
従業員にM&Aを伝えるタイミングはいつが良いですか?
一般的には基本合意後・最終契約締結前のタイミングで、買い手と擦り合わせた説明内容に基づき、信頼できる幹部から段階的に開示するのが実務です。情報漏洩リスクと従業員の心理的影響を踏まえた設計が必要なので、M&A仲介会社や社労士・弁護士と相談しながら開示計画を立てることをお勧めします。
<a href="https://jfsc.jp/ma-employee-layoff-truth-sme-acquisition-employment/">M&Aで従業員はリストラされるのか|中小企業M&Aの買い手の本音と雇用維持の実態・契約担保のポイントを解説|株式会社日本財務戦略センター</a>文章での出典表記:株式会社日本財務戦略センター「M&Aで従業員はリストラされるのか|中小企業M&Aの買い手の本音と雇用維持の実態・契約担保のポイントを解説」(2020年10月14日) https://jfsc.jp/ma-employee-layoff-truth-sme-acquisition-employment/
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件における法務・税務・会計判断を提供するものではありません。法務・税務・会計の個別判断は、弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください。M&Aのスキーム設計・タイミング・買い手探し等のアドバイザリーは、株式会社日本財務戦略センターにご相談ください。記載内容は公開時点の情報に基づき、法令改正や市場変動により最新の状況と異なる場合があります。
よくあるご質問(FAQ)
📅 本記事の情報基準日
本記事は 2020年10月14日 公開時点の情報に基づきます。税制・法令等は改正される場合があるため、最新の制度・税制は公的機関の公式情報をご確認ください。
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