2026.06.07 独自調査

M&A仲介の大手4社を、決算書から読んでみる ── 高い年収を支えているものは何か

M&A仲介 大手4社の年収構造(平均年収2,894万円の実像)

「M&A仲介は平均年収2,894万円」。転職サイトや雑誌でこうした数字を目にされた方は多いと思います。後継者のいない会社を、信頼できる相手に引き継ぐ。その橋渡しをしてきたM&A仲介の大手各社が、業界の役に立ってきたことは間違いありません。

ただ、各社が公表している有価証券報告書を読むと、表に出ている「平均年収」とは少し違う風景が見えてきます。本稿では、まず4社それぞれの強みを開示情報から整理し、後半で、弊社が公開データを独自に集計してわかったことを、できるだけ平易に、そして数字でびっしりとお伝えします。

Table of Contents

4社それぞれの強み

まず、各社が決算書で開示している数字を並べます。いずれも各社の公表値です。

会社(証券コード)売上高平均年収一人あたり売上営業利益率
M&Aキャピタルパートナーズ(6080)224.5億2,266万6,168万約38%
ストライク(6196)203.1億1,521万4,494万31.2%
日本M&AセンターHD(2127)440.8億―(注)4,061万約38%
クオンツ(9552)151.5億※954万※3,130万38.0%

(注)日本M&Aセンターは持株会社のため平均年収は有報に出ていません。※クオンツはM&A仲介事業の数値です。

図1 社員一人あたりの売上(年・万円)
同じ「高給」でも、一人がどれだけ売り上げるかは会社で大きく違います。
※M&Aキャピタル・ストライク・日本M&Aセンターは全社員(連結)、クオンツはM&A仲介事業の社員で計算(クオンツはコンサル等の別事業を含む全社員で割ると数字が薄まるため、本業だけで比較)。
M&Aキャピタル
全社員
6,168
ストライク
全社員
4,494
日本M&Aセンター
全社員
4,061
クオンツ
仲介事業のみ
3,130

どの会社も、平均年収は世の中の平均を大きく超える高い水準です。本業の利益率(営業利益率)も30%を超え、しっかり利益が出ています。

M&Aキャピタルパートナーズは、社員一人あたりの売上が6,168万円と4社で群を抜いています。コンサルタント一人ひとりが自分の人脈と腕で、規模の大きな案件をまとめる。報酬1億円を超える大型案件が、この一年で40件から58件に増えました。平均年齢32歳と若い社員でも大きな案件を任される仕組みが、業界で一番高い平均年収2,266万円を支えています。

ストライクは、税理士・会計事務所との提携網(全国23団体・6万6千人の会員)から案件の紹介を受ける形が強みです。売上203億円(前年より12%増、過去最高)、成約275組。コンサルタントを74人増やしながら売上も伸ばしており、人を増やしても一人あたりの成果が落ちていない点が光ります。

日本M&AセンターHDは、社員1,086人、売上440億円と業界で最大の規模です。地方銀行との合弁会社づくりや、全国でのセミナー(年間で延べ1万2千人規模)など、全国に張りめぐらせた仕組みが持ち味です。最近は規模の大きい案件に力を入れ、1件あたりの売上を引き上げています。

クオンツ(M&A総合研究所)は、AIとダイレクトメールを使って案件を効率よく見つける、新しいやり方に挑戦している会社です。後発ながら短期間で484人規模まで人を増やし、新しいやり方の可能性に挑んでいます。

ここまではすべて、有価証券報告書という公的な書類に基づく事実です。各社が高い報酬を出せているのは、それぞれのやり方で高い成果を上げているからにほかなりません。では、その「高い成果」と「高い報酬」は、いったいどういう仕組みで生まれているのでしょうか。ここから、もう少し踏み込みます。

高い年収は、どこから来るのか

M&A仲介の年収がなぜ高いのか。一言でいえば、「一件あたりの手数料が、とても大きいから」です。

意外に思われるかもしれませんが、業界全体でならすと、M&Aを専門に担当する社員一人が一年にまとめる成約は、1件にも届きません中小企業の公開データから弊社が計算すると、一人あたり年0.46件。二人で一年に一件、という世界です。それでも年収が二千万円を超えるのは、その「一件」が数千万円という大きさだからです。たとえばある大手では、一件あたりの手数料は平均で約9千万円。年に一件まとめれば、それで一人分の売上が立ってしまうのです。

つまりこの商売は、「数を打つ」のではなく「一発が大きい」。たくさんの案件をさばくのではなく、一件一件の大きな取引を、時間をかけて成約まで導く。だからこそ、件数は少なくても、高い売上と高い報酬が成り立ちます。売上のうち社員の給料に回る割合(人件費の割合)は各社とも3割前後でほぼ同じですから、年収の差は「どれだけ手厚く配るか」ではなく、「一人がどれだけ大きな取引をまとめるか」で決まります。(くわしい数字は、後半の補論3〜5でご覧いただけます。)

いま、業界で静かに起きていること

後継者のいない中小企業は、まだ全国にたくさんあります。ところが近年、その「橋渡し役」であるはずの仲介業界で、ひとつの変化が起きています。「依頼は増えるのに、成約までまとまらない」のです。

ある最大手は、新規の依頼が過去最高に増えた一方で、成約件数はむしろ前年より減りました。AIで案件を効率よく集める会社では、抱える案件が二倍にふくらんだのに、成約には結びついていません。入口(依頼)はいくらでも増やせるのに、出口(成約)が追いつかない。これが、いまの業界の姿です。

理由は、大きく三つあります。ひとつは、買い手が会社を厳しく見るようになり、売り手も慎重になったこと。一部に悪質なM&Aがあったことも報じられ、両者とも判断に時間をかけるようになりました。ふたつめは、国の指針(中小M&Aガイドライン)の整備や重要事項の説明など、一件ごとの手間と時間が増えたこと。みっつめは、規模の小さな案件を、国の公的な相談窓口が引き受けるようになったことです。実際、公的な「事業承継・引継ぎ支援センター」は、2024年度だけで2,132件、2025年度は2,265件ものM&Aをまとめています(いずれも過去最高)。こうして、民間の仲介会社どうしは、限られた良い案件を取り合う形になってきました。

「勝ち方」が、はっきり分かれてきた

かつて「M&A仲介はどこも好調」とひとくくりにされてきました。けれども今期の決算を読むと、案件の取り方によって、はっきり明暗が分かれています。

大きく四つの型があります。①コンサルタント個人の人脈と実績で大型案件を直接取る「人脈・直接型」。②税理士・会計事務所の提携網から紹介を受ける「提携ネットワーク型」。③全国に拠点を広げ数を集める「規模・拠点型」。④AIで案件も人も一気に増やす「量産型」。

この一年、抜けたのは①でした。大きな案件を、紹介料を外に払わず、長年の信頼で直接取る。だから一人あたりの売上も利益率も群を抜き、依頼を増やしながら成約も増やせた唯一の会社になりました。逆に、AIで一気に広げた④は、案件を「見つける」ところまではうまくいったものの、最後に「まとめ上げる」ところで足踏みし、増やした人員の採用計画を引き下げました。

ただ、ここは誤解のないようにお伝えします。抜けたこの①の型は、どの会社にも当てはまる「お手本」というより、めずらしい例外と見るのが正確です。大きな案件は数が限られ、長年の実績と信頼がなければ取れません。規模を追う他社が、明日から同じことをできるわけではないのです。むしろ、業界全体としては「依頼は集まるのに、まとめ切れない」状態が当たり前になりつつある——その中で、例外的に一社だけが抜けている、という構図です。(4つの型の数字は、補論6・7・12にまとめました。)

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APPENDIX ─ 独自調査ここからは、数字でびっしり見ていきます

ここからは、弊社が中小企業庁の公開データや各社の開示資料を独自に集計して見えてきたことを、補論として詳しくお伝えします。特定の会社を評価するためではなく、業界全体の姿を数字でとらえることが目的です。

補論の目次

  1. 4社の数字を、もう少し細かく
  2. 「平均年収2,894万円」とは、誰の年収か
  3. 業界の人数構造 ── 8割が「数人以下」の小さな事務所
  4. 一人が一年にまとめる件数は、1件に届かない
  5. それでも年収が高いのは、なぜか
  6. 会社ごとに分かれた「4つのやり方」
  7. 成約単価と、案件を取るためのコスト
  8. いま起きていること ── 案件は増えるのに、まとまらない
  9. 業界の「通報・監視」のしくみと、買い手にひそむ落とし穴
  10. 四半期で見る「増やしても、回らない」(AI・量産型の実例)
  11. 市場全体の見取り図 ── プレイヤーは増え、市場は微増
  12. 4つのやり方を、一枚の表に
  13. 困ったときの相談・通報の窓口(公的・無料)

補論14社の数字を、もう少し細かく

各社の開示から、商売の中身がわかる数字を並べます。同じ「M&A仲介」でも、1件の大きさも件数も、ずいぶん違います。

項目人脈・直接型提携網型規模型AI・量産型
売上高224.5億203.1億440.8億151.5億※
営業利益率約38%31.2%約38%38.0%
成約件数248件275組1,078件234件
1件あたり単価9,053万7,386万4,090万6,474万
コンサル等の人数267402約1,010484
平均年収2,266万1,521万954万※

※AI・量産型はM&A仲介事業の数値。成約単価=売上÷成約件数。規模型は1件あたり売上を39.6百万円と開示。

補論2「平均年収2,894万円」とは、誰の年収か

冒頭の「2,894万円」は、ある会社が決算説明資料で出した数字です。ただし但し書きがあります。「入社して2年を超えた、営業部門の社員」だけを集めた平均なのです。管理部門も、新人も、若手も入っていません。

同じ会社の「平均年収」金額対象
有価証券報告書の全社員平均約931万全社員
口コミサイトの平均約1,500万回答者
決算資料の数字2,894万入社2年超・営業のみ

同じ会社でも、「誰の年収を指すか」で3倍近く変わってしまうのです。M&A仲介各社の全社員平均は、おおよそ950万〜2,266万円。これは経営コンサルタント大手の平均(約1,350万円)と重なる水準です。

補論3業界の人数構造 ── 8割が「数人以下」の小さな事務所

「M&Aを専門に担当する社員の数」を、登録3,394事業者ごとに見ると、業界の姿がはっきりします。

図2 専従者数で見た事業者の分布(全3,394事業者)
0人(名義のみ)773社
1人1,203社
2〜3人834社
4〜5人275社
6〜10人184社
11〜30人92社
31〜100人25社
101人以上8社
専従者が2人以下の事業者が73.7%(2,500社)。その大半は税理士事務所や個人など、片手間・名義中心です。いっぽうで101人以上のわずか8社に、業界の専従者の20.4%が集中しています。「ごく少数の大手と、大量の小さな事務所」という、はっきりした二層構造です。

専従者が多い順に並べると、上位は次のような顔ぶれです。大手専業のほか、大手会計系(デロイトトーマツ282人)、メガバンク(三菱UFJ105人、みずほ70人など)も並びます。

順位事業者専従者数
1日本M&Aセンター649人
2M&A総合研究所(クオンツ)329人
3ストライク316人
4デロイトトーマツ282人
5M&Aキャピタルパートナーズ203人
6〜M&Aロイヤルアドバイザリー152/fundbook139/三菱UFJ銀行105/山田コンサル100 …

補論4一人が一年にまとめる件数は、1件に届きません

各社が申告した専従者を全部足すと、業界全体で1万683人。いっぽう中小企業庁が公表する成約件数(売り手側)で割ると、こうなります。

図3 業界全体でならすと、一人が年にまとめるのは…
専従者10,683人年間成約4,940件を割ると
0.46
一人あたり・年(2024年度)
3年通してこの水準です(2022年度 0.38件 → 2023年度 0.44件 → 2024年度 0.46件)。売り手・買い手の両方を別々に数える一番多い数え方でも一人0.9件。どう数えても年1件に届きません。

これは各社を悪く言う数字ではなく、この商売の性質です。1件の手数料が数千万円という大きさだからこそ、件数は少なくても高い売上と報酬が成り立つのです。

専従者は2026年6月時点、成約件数は2024年度のため時期に少しずれがあります。ただ登録事業者数は令和6年12月時点で2,841、現在3,394とほぼ横ばいで、時期をそろえても一人0.5件前後(巻き戻して計算すると約0.55件)。結論は変わりません。

補論5それでも年収が高いのは、なぜか

「件数が少ないのに、なぜ高い年収が出せるのか」。答えは単純で、1件あたりの手数料が大きいからです。年に1件まとめれば数千万円の売上が立ち、そのうち3割ほどが社員の報酬に回ります。売上のうち人件費が占める割合は3社とも3割前後でほぼ同じ(人脈・直接型29.9%、提携ネットワーク型33.8%、AI・量産型30.5%)。会社による「取り分の割合」の差は小さく、年収の差は「一人がどれだけ売り上げるか」の差から来ています。

図4 一人あたり売上 & 平均年収(万円)
青=一人あたり売上/金=平均年収。M&A仲介は「売上」で2〜3倍離すが、「年収」はコンサルと重なる。
人脈・直接型(売上)6,168
人脈・直接型(年収)2,266
AI・量産型(売上)3,130
AI・量産型(年収)954
経営コンサル(売上)
他業界
2,123
経営コンサル(年収)1,350
人材紹介(売上)
他業界
1,922
人材紹介(年収)816
各社有報・決算資料の公開値による簡易比較。売上はグループ全体、年収は提出会社ベース。

同じ「物を持たない商売」の経営コンサルや人材紹介と比べると、一人あたり売上はM&A仲介が2〜3倍。理由は手数料の大きさです(人材紹介は1件数百万円、M&Aは1件数千万円)。いっぽうで年収の差は売上の差ほど開かず、M&A仲介の全社員平均は経営コンサル大手とほぼ重なります。なお「労働分配率」(働きに対する人件費の割合)で世の中と比べると、M&A仲介はおよそ4〜5割で、大企業(約46%)並み。中小企業の平均(6〜8割)よりかなり低く、それでも年収が高いのは、一人が生み出す金額が桁違いに大きいからです。

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補論6会社ごとに分かれた「4つのやり方」

「M&A仲介はどこも好調」とひとくくりにされてきましたが、今期の決算を読むと、案件の取り方によって四つに分かれ、結果にも差が出はじめています。

図5 案件の取り方による4つのやり方

① 人脈・直接型

コンサルタント個人の人脈と実績で直接取る。手数料を外に払わず、大型案件に強い。

→ 成果・利益で一歩抜けた

② 提携ネットワーク型

税理士・会計事務所の紹介から。安定供給だが紹介料を払う(ある社で売上の約9%)。

→ 安定して成長

③ 規模・拠点型

全国に組織を広げ、セミナーや地銀提携で数を集める。最大規模だが単価は小さめ。

→ 成長が鈍化

④ AI・量産型

AI・DMで案件も人も一気に増やす。見つけるのは得意だが…。

→ まとめる所で足踏み

この一年で差がはっきり出ました。案件を絞って大きな案件を取る①が成果でも利益でも一歩抜け、AIで一気に広げた④は、見つけるところまではうまくいったものの、最後にまとめ上げるところで足踏みしました。ある会社では営業を約2割増やしたのに売上が前年より減り、採用計画を引き下げて立て直しに入っています。

補論7成約単価と、案件を取るためのコスト

なぜ①の「人脈・直接型」が抜けたのか。理由は二つです。ひとつは1件の単価。もうひとつは案件を取るのにいくらかかるかです。

やり方(型)1件あたり単価案件を取るコスト
人脈・直接型9,053万紹介料ゼロ+採用費わずか
提携ネットワーク型7,386万案件紹介料 18.1億(売上の約9%)
AI・量産型6,474万採用費 17.9億
規模・拠点型4,090万セミナー・地銀連携などの費用

人脈・直接型は、規模の大きな案件(手数料1億円超の大型案件)を、紹介料も大量採用費も外に払わずに自分で取る。だから売上がそのまま利益と社員の報酬に回りやすい。逆に量産型は、自前で探す仕組み(AI・DM)は作れたものの、採用に大金をかけた割に、成約までは結びつきませんでした。「大きい案件を、中抜きされずに、自分で取る」。これがいちばん強い形でした。

補論8いま起きていること ── 案件は増えるのに、まとまらない

図6 入口(依頼)は増えるのに、出口(成約)が追いつかない
抱える案件(入口)834 → 1,965件※AIで広げた社・2倍に
なのに
成約(出口)伸びず・減少※最大手は前年比▲68件

ほとんどの会社に共通して、「依頼は増えるのに、成約までまとまらない」現象が起きています。ある最大手は新規の依頼が過去最高(1,398件)に増えた一方、成約は前年より68件減少。別の会社は依頼が目標を超えたのに成約は目標に届かず、「成約までの期間が長くなっている」と書いています。

なぜ、まとまりにくくなったのか。ひとつは、買い手が会社を厳しく見るようになり、売り手も慎重になったこと。一部の不適切なM&Aの報道もあり、各社は「お客様の意思決定が慎重になった」「買い手の審査を強化した」と書いています。もうひとつは、国の指針(中小M&Aガイドライン)の整備や重要事項の説明など、一件ごとの手間と時間が増えたこと。ある会社は「ガイドライン対応で工数が増え、成約までの期間が長期化した」と明記しています。さらに、規模の小さな案件は、国の公的な相談窓口(事業承継・引継ぎ支援センター)が受け皿になってきました。同センターのM&A成約は2024年度2,132件、2025年度2,265件と、いずれも過去最高を更新しています(民間の登録事業者全体の年間成約4,940件と比べても、無視できない規模です)。こうして、民間の仲介会社どうしが、限られた良い案件を取り合う形になっています。

補論9業界の「通報・監視」のしくみと、買い手にひそむ落とし穴

M&Aが身近になるほど、トラブルも表に出てきます。国も、それを拾い上げて正すしくみを整えはじめました。経営者の方に、ぜひ知っておいていただきたい点をまとめます。

① 不適切な仲介は、通報できます。中小企業庁は「情報提供受付窓口」を設け、登録された仲介会社・FAの不適切な行為を受け付けています。対象として挙がっているのは、たとえば「仲介契約の内容説明が不十分」「最低報酬の金額」「デューデリジェンス(買収前の調査)での利益相反」など。ガイドライン違反が確認されれば、登録の取り消しと社名の公表に至ります。実際、2025年1月、制度がはじまって以来はじめて、ある登録仲介会社の登録が取り消され、社名が公表されました(8か月間の登録禁止)。理由は、買い手の支払能力に疑問があるにもかかわらず引き合わせ、仲介手数料を受け取ったあと、その買い手が支払えなくなったという事案です。裏を返せば、3千を超える登録事業者のうち取り消しはまだ一件だけ。監視のしくみは、始まったばかりとも言えます。

② とくに注意したい「買い手」の手口(国が注意喚起
中小企業庁は、不適切な買い手による次のような事案に注意を呼びかけています。財務的に苦しい売り手の会社を買い取り、社長の個人保証を外さないまま、会社から資金を抜き取り、借金を残したまま連絡を絶つ。これを次々と繰り返す、というものです。
とくに、「個人保証はそのまま引き受けます」という前提で、安い価格を提示してくる相手には注意が必要です。仲介会社に相談するだけでなく、会計士・弁護士や、事業承継・引継ぎ支援センターのセカンドオピニオンを取って、相手をよく見極めてから進めることをおすすめします。

会社を譲るというのは、一生に一度あるかどうかの大きな決断です。「早く・高く」だけでなく、「この相手で本当に大丈夫か」を、第三者の目も入れて確かめる。それが、いちばんの備えになります。

補論10四半期で見る「増やしても、回らない」

「AI・量産型」のある会社の決算資料には、いまの業界の難しさが、四半期の数字にくっきり表れています。営業(アドバイザー)を増やし、抱える案件も積み上げたのに、成約はついてこなかったのです。

時点アドバイザー数抱える案件(受託残)年間の成約
2024年9月末320人1,216件
2025年9月末390人(+22%)1,965件(+62%)234件
2026年9月期 上期348人(採用厳格化で減)1,643件
図7 人と案件は増えたのに、成約は増えない(AI・量産型の一社)
アドバイザー数+22%
抱える案件+62%
一人あたり成約▲21%
営業を2割増やし、抱える案件を6割積み上げても、一人あたりの成約はむしろ2割減りました(年0.76件→0.60件)。同社はこれを受けて採用計画を引き下げ、立て直しに入っています。案件を「見つける」ことは増やせても、「まとめ切る」ことは人を増やせば増えるものではない――という、業界全体に通じる教訓がここにあります。

補論11市場全体の見取り図 ── プレイヤーは増え、市場は微増

なぜ「一人あたり」が薄まるのか。登録する事業者(プレイヤー)は増え続けるのに、成約件数の伸びはゆるやかだからです。

登録事業者数成約件数(売り手側)一人あたり成約
2021年(制度開始)約2,823
2022年度4,036件0.38件
2023年度4,681件0.44件
2024年度(12月時点 約2,841)約2,841〜4,940件0.46件
2026年6月3,394

事業者は5年で2,823から3,394へ。成約件数も4,036件から4,940件へと、どちらも増えてはいます。けれども、後継者のいない会社がまだ全国にたくさんあるわりに、年に成約するのは5千件ほど。需要の大きさに比べて、まとめ上げられる数には限りがある。これが、いまの市場の実像です。

補論124つのやり方を、一枚の表に

ここまでの話を、一枚にまとめます。同じ「M&A仲介」でも、稼ぎ方も、抱えるリスクも、まるで違います。

やり方1件単価案件を取るコスト強み/弱み
① 人脈・直接9,053万紹介料ゼロ大型に強い/規模は追えない
② 提携網7,386万紹介料が売上の約9%安定供給/紹介料が利益を削る
③ 規模・拠点4,090万セミナー・地銀連携最大規模/単価が小さい
④ AI・量産6,474万採用に多額見つけるのは得意/まとめ切れず足踏み

どれか一つが「正解」というわけではありません。それぞれが別の土俵で、別のリスクを抱えています。ただ今期に限って言えば、大きな案件を、中抜きされずに、信頼で取る①の型が一歩抜けました。そしてその①の型ですら、規模を追えないという宿命を抱えています。

補論13困ったときの相談・通報の窓口(公的・無料)

最後に、経営者の方がいざというとき頼れる、公的で無料の窓口をまとめておきます。「仲介会社の対応がおかしい」「この相手で大丈夫か不安だ」というときは、一社の言い分だけで決めず、こうした第三者の窓口を使ってください。

窓口できること費用
中小企業庁「M&A支援機関登録制度 情報提供受付窓口」登録された仲介会社・FAの不適切な対応(説明不足・不当な手数料・利益相反など)を通報できる。ガイドライン違反が認められれば登録取消・社名公表につながる。無料
事業承継・引継ぎ支援センター(全国)国が各地に置く、事業承継・M&Aの公的な相談窓口。相手探し(マッチング)も。2025年度はM&A成約2,265件と、民間に次ぐ規模。無料
中小M&Aガイドライン(中小企業庁)仲介会社の選び方、契約時に確認すべき点(手数料・専任条項・秘密保持など)が示された国の指針。Webで読める。無料
会計士・弁護士などのセカンドオピニオン仲介会社の説明や契約内容、相手先の妥当性を、利害のない独立した専門家の目で確認する。別途

とくに、「個人保証はそのまま引き受けます」という前提で安い価格を提示してくる買い手には、補論9で触れたとおり注意が必要です。大きな決断だからこそ、ひとつの窓口に頼り切らず、複数の目を入れる。それが、いちばんの自衛になります。

「いまの相手で、本当に大丈夫か」── そのご相談こそ歓迎します

国も、M&Aは複数の専門家の目を入れることをすすめています。
すでに他社に相談中の方の「セカンドオピニオン」も、弊社は歓迎しています。会社の価値の見方、相手先の見極め、手数料の妥当性――公平な立場で、無料でお話しします。

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CONCLUSIONおわりに ── 情報の差が小さくなる時代に、何が残るか

M&A仲介各社の高い年収は、決算書が示すとおり、高い成果に裏打ちされた本物です。同時に、業界全体を見渡すと、その高い報酬は「一人が年に1件もまとめない」ほど件数が少ない、その代わり1件がとても大きい、という成り立ちの上にあります。そしていま、「依頼は集まるのに、成約までまとめ切れない」会社が増えている。これが、いまの普通の姿だと考えたほうがよいでしょう。

少し大きな話をします。これまでM&Aの仲介は、「売りたい会社と買いたい会社を、世の中が気づく前に引き合わせる」ことに値打ちがありました。情報を持っている人が強かったのです。けれども、AIで候補先を探せるようになり、国の公開情報も増え、買い手も目が肥えてきました。ルールの整備で、これまで表に出にくかった情報も開かれてきています。売り手と買い手の「情報の差」は、年々小さくなっています。

そうなると、最後に残る値打ちは何でしょうか。それはおそらく、「この人になら、わが社を託せる」と思ってもらえる、長年かけて築いた信頼と関係の深さなのだと思います。案件を“見つける”ことは、もう誰にでもできる時代に近づいています。だからこそ、最後に人と人とで話をまとめ上げる力が、かえって貴重になっていく。いまはそういう変わり目にあるのではないでしょうか。

ずば抜けた数字を出している会社もありますが、それは規模の大きな案件にしぼり、長年の信頼で勝負している特別な一社であって、どの会社にも当てはまるお手本というより、めずらしい例外と見るのが正確でしょう。これからの仲介に問われるのは、件数の多さでも、効率のよさでもなく、一社一社とどれだけ深い関係を結べるか――そこに尽きるのかもしれません。

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数字の出どころ

  • 各社の年収・人数・売上・成約件数:各社有価証券報告書(FY2025/9、日本M&AセンターのみFY2025/3)・決算説明資料。一人あたり売上=売上高÷社員数。
  • 「2,894万円」:ある会社が決算説明資料で示した「入社2年超・営業部門の平均」。
  • 専従者数・分布:中小企業庁「M&A支援機関登録制度」登録データベース全3,394事業者の自己申告を弊社集計(2026年6月)。成約件数:同庁「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」(売り手側)。
  • 通報・登録取消・買い手への注意喚起:中小企業庁「情報提供受付窓口」「中小M&Aガイドライン」および同庁の注意喚起に基づく。
  • 他業界比較:ベイカレント(6532)・JACリクルートメント(2124)・エス・エム・エス(2175)の公開値による簡易比較。労働分配率の比較対象:財務省「法人企業統計」(2024年度)。

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公開日: 2026年6月7日 / 最終更新日: 2026年6月17日
五十嵐 悠一

執筆者

五十嵐 悠一(いがらし ゆういち)

株式会社日本財務戦略センター 代表取締役

京都大学経済学部経営学科卒業。株式会社損害保険ジャパン本店営業部、東証上場M&A仲介会社を経て、2020年5月に日本財務戦略センターを設立。中小企業のM&A仲介・事業承継支援を専門とし、医療・介護・食品製造・流通卸・機械製造分野の成約実績を持つ。

資格:プロフェッショナルCFO(日本CFO協会)/M&Aエキスパート(金融業務2級 事業承継・M&Aコース)

公的登録:中小企業庁 M&A支援機関 登録事業者/一般社団法人 M&A支援機関協会 正会員

メディア登壇:株式会社サイゾー Business Journal ウェブセミナー講師「【売り手向け】M&Aを成功させるための具体的な行動・プロセス・知識」(2022年6月)[公式告知]

専門家コラム寄稿:BATONZ(国内最大級M&A プラットフォーム)に M&A・事業承継 74本(2021年〜継続)[コラム一覧]

|LinkedIn|X (@jfsc2020)|BATONZ

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件における法務・税務・会計判断を提供するものではありません。法務・税務・会計の個別判断は、弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください。M&Aのスキーム設計・タイミング・買い手探し等のアドバイザリーは、株式会社日本財務戦略センターにご相談ください。記載内容は公開時点の情報に基づき、法令改正や市場変動により最新の状況と異なる場合があります。

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よくあるご質問(FAQ)

この章のポイント
日本財務戦略センターへのご相談に関する共通の10問と、本記事に関する0問の計10問。
共通Q1. 日本財務戦略センターはどのような会社ですか?
A. 株式会社日本財務戦略センター(JFSC)は、中小企業オーナーの M&A・事業承継を「自分事として最後まで完結する」ためのご相談先です。仲介の独断ではなく、売り手の判断材料を整える立場を貫いています。会社概要もご覧ください。
共通Q2. 相談したら、必ず M&A しなければいけませんか?
A. いいえ、ご相談のみで結構です。相談後に「今回は見送ります」と判断いただいても問題ありません。M&A 以外の選択肢(廃業・親族承継・事業再生)も含めてご一緒に整理します。まずは無料相談からお気軽にどうぞ。
共通Q3. 相談料・着手金は発生しますか?
A. 初回相談・簡易査定・進行中の段階まで、すべて無料です。日本財務戦略センターは完全成功報酬制を採用しており、M&A 成約時のみご報酬が発生します。着手金・中間金・月額顧問料は一切いただきません。なお、案件特性により外部専門家への依頼や登記等の実費(例:司法書士の登記費用、外部監査法人による資産査定、譲受企業側からの弁護士・公認会計士による DD 費用 等)が発生する場合は、必ず事前にご相談・ご同意のうえ進めますので、不意の費用負担は生じません。詳細は弊社の報酬体系をご確認ください。
共通Q4. 一般的な M&A 仲介会社と、どこが違いますか?利益相反はどう開示されますか?
A. M&A 仲介は売主・買主の双方から報酬を得る「両手仲介」が業界慣行で、構造的な利益相反のリスクがあります。そのうえで、業界には「誘い込む仲介」と「公開する仲介」の二類型があると当社は考えています。日本財務戦略センターは後者の立場で、契約締結時に重要事項説明書を交付し、両手仲介の構造を含めて文書でご説明したうえで、売り手の判断材料となる情報を整え、買い手の都合で交渉を急がせない姿勢を貫きます。これは経済産業省・中小企業庁中小 M&A ガイドライン第 3 版・2024 年 8 月改訂、手数料算定基準の開示・買い手信用調査等を留意事項として明示)に則った対応です。二類型化の根拠は弊社独自の業界 20 社研究レポート、構造論の詳細は仲介契約 vs FA 契約の構造分析もご参照ください。
共通Q5. どれくらいの規模から相談できますか?
A. 年商数千万円規模の小規模事業から、数億円規模まで対応します。業界の多くの仲介会社では最低手数料を 2,000 万円以上に設定している傾向で、各社の最低手数料は中小企業庁M&A 支援機関登録制度・登録情報で確認いただけます。日本財務戦略センターの最低手数料は 700 万円で、小規模案件もお引き受けしています。具体的な報酬構造は弊社の報酬体系をご確認ください。
共通Q6. 税金・法律のことを詳しく教えてもらえますか?
A. 税務・法務は税理士法・弁護士法により、具体的な提案は弁護士・税理士等の専門家のみが行えます。当社は業界慣行の一般論をご説明した上で、顧問の先生方にご確認いただく形でご案内します。必要に応じて専門家ネットワークのご紹介も無料で行っています。
共通Q7. 家族や従業員に知られたくないのですが、可能ですか?
A. ご相談段階から NDA(秘密保持契約)を締結し、徹底管理します。社名を公開せずに買い手候補へ打診する「ノンネーム打診」の進め方も可能です。守秘義務体制については情報管理ポリシーでご確認いただけます。
共通Q8. 成約までどれくらいの期間がかかりますか?
A. 標準的には 3〜6 ヶ月程度を目安としてお考えください。買い手候補と事前に綿密な調整を行い、売主オーナー様のペースで進行します。スピード優先で売主の利益を損なう進め方は致しませんが、売主オーナー様のご事情・ご要望に応じて、最短 60 日での成約実績もございます。
共通Q9. デューデリジェンス(DD)では、どのような立場をとりますか?
A. 日本財務戦略センターは、売主オーナー様の利益を最優先に検討する立場を貫きます。仲介業の構造的な利益相反論点については仲介契約 vs FA 契約の構造分析で詳述しており、DD 費用負担の判例実務は東京地裁 DD 費用判決の射程でご確認いただけます。必要に応じて第三者の公認会計士・弁護士・税理士等の専門家をご紹介し、買い手寄りに偏らない査定体制を整えます。中小企業庁中小 M&A ガイドラインの遵守事項に則り、適切な情報開示を行います。
共通Q10. 対応エリアは限られますか?
A. 全国対応可能です。首都圏はもちろん、各地方都市でもご相談実績があります。オンライン面談と現地訪問を組み合わせ、所在地を問わず売主様のペースで進行します。まずは所在地を問わない無料相談をご利用ください。

📅 本記事の情報基準日

本記事は 2026年6月7日 公開時点の情報に基づきます。税制・法令等は改正される場合があるため、最新の制度・税制は公的機関の公式情報をご確認ください。

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