2026年9月24日時点の情報をもとにした速報です。議論は進行中のため、動きがあり次第、続報をこのブログでお伝えします。
何が起きているのか
国税庁が、取引相場のない株式(上場していない会社の株式)を相続や贈与で引き継ぐときの評価の仕方を、根本から見直す議論を進めています。経営者にとっては、自社株の相続税評価が変わるかもしれない、という話です。2026年4月から有識者会議が開かれ、9月16日に第6回が開催されました。
その第6回に、経済産業省と中小企業庁が連名で意見書を提出しています。見直し案について「資産規模の大きい企業や収益性が高い企業ほど現行の評価方式に比べ評価額が著しく増大することが見込まれている」と指摘し、納税の資金を用意するために「株式や事業資産を第三者に売却せざるを得なくなる」「廃業に追い込まれる」おそれがある、とまで書いています。いわば、相続税が払えないという事態です。
政治の側でも動きが出ています。自民党幹事長代行で元経済産業大臣の萩生田光一衆議院議員は9月18日、見直し案が「高市政権が掲げる『強い経済の実現のため、中堅・中小企業が主役となって地域経済をけん引する』との方針に反するものになりかねず、大変心配しています」と投稿し、経済産業省・中小企業庁と打ち合わせを重ねてきたことを明らかにしました。経済産業省出身の門ひろこ衆議院議員もこれを引用し、「本件、政治での議論が不可欠と思ってます」と発信しています。門氏は同じ日の別の投稿で、「税負担が増える、国民の負担が増える話であれば、役所の庭先でロジックをこねくり回すのではなく、自民党税調/与党税調での議論を経て、国会で与野党あわせて議論すべき話ではないでしょうか?」とも述べています。経済産業政策に通じた議員から、相次いで懸念の声が上がっている形です。
国税庁で、非上場株式の評価方法の見直しが議論されています。その見直し案は、高市政権が掲げる「強い経済の実現のため、中堅・中小企業が主役となって地域経済をけん引する」との方針に反するものになりかねず、大変心配しています。
自民党と連立を組む日本維新の会からも声が上がっています。阿部司衆議院議員は9月17日、「新方式では、利益を上げて投資に回してきた会社ほど相続税が重くなります」と指摘し、「党内議論を進めるとともに、国会でも取り上げていきたいと思います」と発信しています。
新方式では、利益を上げて投資に回してきた会社ほど相続税が重くなります。地域で雇用を支える中堅・中小企業を応援する政府方針と矛盾しかねません。影響を丁寧に検証した上で結論を出すべきです。党内議論を進めるとともに、国会でも取り上げていきたいと思います。
野党からも反対の声が出ています。国民民主党の玉木雄一郎代表は9月19日、「非上場株式の評価方式の改悪には反対」と表明しました。前日に日本商工会議所の総会で挨拶した際、国税庁で検討されている見直し案について「地域の中堅・中小企業の事業承継や成長投資を阻害する可能性が大なので反対」と伝えたとし、「個人にせよ企業にせよ、頑張れば頑張るほど報われなくなる税制はおかしい」「臨時国会でも、国民民主党が先頭になって取り上げていきます」としています。
国民民主党を代表して挨拶させていただきました。その中で、「非上場株式の評価方式の見直し(相続税・贈与税)」について、現在、国税庁で検討されている見直し案(「残余利益方式」)は、地域の中堅・中小企業の事業承継や成長投資を阻害する可能性が大なので反対だと申し上げました。(中略)個人にせよ企業にせよ、頑張れば頑張るほど報われなくなる税制はおかしい。
経済団体も反対の立場を明確にしています。日本商工会議所は7月3日の第4回会議に意見書を提出し、類似業種比準方式が廃止となれば「大幅な税負担の増加を招き、中小企業の円滑な事業承継を阻害する」と主張していました。9月18日に公表した令和9年度の税制改正に関する意見でも、見直し案について「多くの中小企業の株式評価が大幅に上昇する可能性がある」と指摘して反対を表明し、担当者は「多くの中小企業が事業承継ではなく廃業の選択を促される」と述べたと報じられています(時事通信)。その前日の小林健会頭の記者会見については、日本経済新聞が「非上場株相続の新評価法、日商が反対 増税で『事業承継が崩壊』」と報じました。
見直しのきっかけ
国税庁は有識者会議の開催の趣旨として、「相続税法の時価主義の下、適正な評価制度の在り方を検討する」ことを掲げています。出発点は、会計検査院の令和5年度決算検査報告です。現在の評価の仕組みでは、規模の大きい会社ほど株式の評価額が相対的に低く出る傾向があり、規模の違う会社の間で公平とは言えない、という指摘でした。あわせて国税庁は、会社の規模を意図的に変えて評価額を下げるような租税回避の手法を、過去10年で14件確認したとしています。
国税庁が示している方向性
8月20日の第5回で、国税庁は「たたき台」を示しました。要点は次のとおりです。いずれも「〜としてはどうか」という問いかけの形で、決定事項ではありません。
- 会社の規模ごとに評価の仕方を変える今の仕組みをやめ、規模にかかわらず一つの方式で評価する
- 上場企業の株価と比べる今の中心的な方式(類似業種比準方式)は、残すのが難しい
- 代わりの有力な案として、「残余利益方式」を挙げる。帳簿上の純資産に、過去の実績から計算した数年分(有識者から5年分がよいとの意見)の超過収益を上乗せする考え方です
- 役員退職金などで一時的に利益を下げる手法や、グループ内で資産を子会社に移す手法など、評価額を下げる手法への対応も盛り込む
9月16日の第6回では、この残余利益方式について、上乗せする期間を「5年程度」とする案など、より具体的な設計が議論されています。
誰の評価が上がるのか
国税庁のたたき台の説明どおりに読むと、影響は会社によって大きく分かれます。
期待される水準を上回って利益を出している会社は、帳簿上の純資産より高い評価額になります。反対に、赤字や低収益の会社は、帳簿上の純資産より低い評価額になるとされています。つまり、すべての会社の負担が重くなるわけではありません。
9月16日の第6回では、国税庁が具体的な試算も示しました。令和2年分から5年分の相続税・贈与税の申告から無作為に抽出した1,378社について、上乗せする期間を5年、還元率を8%と仮定して計算し、評価額をどこまで割り引くか(斟酌率)を0.7から1.0までの4通りで比べたものです。
| 今の評価上の区分 | 今の評価額と比べた増減(中央値) | 評価額が下がる会社の割合 |
|---|---|---|
| 大会社(128社) | +50.3%〜+114.7% | 16.4%〜28.1% |
| 中会社(820社) | ▲1.9%〜+40.2% | 26.5%〜50.9% |
| 小会社(430社) | ▲31.6%〜▲1.9% | 50.7%〜78.4% |
| 全体(1,378社) | ▲10.4%〜+28.1% | 33.1%〜57.3% |
出典:国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第6回)」資料(2026年9月16日)。令和2年分から5年分の申告から無作為に抽出した1,378社の試算。子会社株式の修正等の個別調整は考慮していない。
ここでいう大会社・中会社・小会社は、今の評価の仕組みで従業員数や総資産、取引金額によって決まる区分で、いわゆる大企業と中小企業の区分とは異なります。試算どおりなら、大会社に区分される会社は評価額が中央値で1.5倍から2倍余りに上がる一方、小会社の過半数はむしろ下がります。「大増税」が当てはまるのは、主に前者です。なお、この試算では子会社株式の調整などは考慮していないとされています。
重くなると見込まれているのは、儲かっている会社や、資産規模の大きい会社です。さらに中小企業庁の意見書は、M&Aで会社を引き継いでグループで事業を営んでいる非上場企業も多いことを挙げ、子会社株式の評価の見直し案によって「評価額が著しく増大する懸念がある」としています。長年まじめに稼いできた会社ほど、次の世代に引き継ぐときの税負担が重くなる。これが、今回「大増税」と受け止められている理由です。
まだ決まっていないこと
一方で、今の時点ではっきりしないことも多くあります。
評価額を大きく左右する「還元率」(期待される利益の水準を決める率)と斟酌率は、正式には第7回以降に議論するとされています。上の試算は還元率を8%と仮定したもので、この率や斟酌率の決め方しだいで、上がり幅も、評価額が下がる会社の割合も変わります。見直しがいつ決まり、いつから適用されるのかも、第6回までの公表資料には示されていません。
なお、この評価の仕組みは法律ではなく、国税庁の「財産評価基本通達」で定められています。
今後の見通し
経済産業省出身の制度アナリスト、宇佐美典也氏は9月18日、この問題は今後、与党の税制調査会を舞台に、財務省と経済産業省がそれぞれ議員を通じて争う「第二ラウンド」に移るとの見方を示しています。宇佐美氏によれば、国税庁は法律ではなく通達の改正であることを理由に、税制調査会で扱うこと自体に否定的だといいます。あわせて、自民党内は賛否が割れそうな一方、日本維新の会は国税庁案に反対でまとまりそうだとの見立ても示しつつ、「最終的にどうなるのか全く分からん」と述べています。
いずれも宇佐美氏個人の見方ですが、少なくとも、国税庁の有識者会議の中だけで静かに決まる話ではなくなりつつあることは確かです。
もう一つの期限――事業承継税制の特例
評価の見直しとは別の制度ですが、同じ時期に、もう一つの期限が重なっています。株式を引き継ぐときの贈与税・相続税の納税を猶予・免除する「事業承継税制」の特例措置は、平成30年に10年間の時限措置として始まったもので、対象は令和9年12月31日までの贈与・相続、前提となる特例承継計画の提出期限は令和9年9月30日です。経済産業省は令和9年度の税制改正要望で、期限を迎えることに伴う「抜本見直し」を求めています。中小企業庁の意見書は、この税制について「中堅企業は対象外であり、中小企業においても長期にわたり管理コストがかかる等により活用できる者は限られている」とも指摘しています。
会社の行く末をどう考えるか
今回の見直しで影響を受けるのは、主に相続や贈与で株式を引き継ぐ場合、典型的には親族への承継です。
一方、第三者に株式を譲渡する場合(M&A)は、原則として実際の売買価格をもとに課税されるため、この評価方式の見直しの影響は受けにくいと思われます。ただし、個人が著しく低い価格で株式を譲渡する場合などは、財産評価基本通達に沿った評価が用いられることがあり、その場合は影響が及ぶ可能性があります。見直しが今の案の方向で進めば、とくに大会社に区分される会社にとっては、親族に継ぐ場合と第三者に譲る場合とで、負担の差が今より大きく開く可能性があります。
親族に継ぐ場合の支えになってきた事業承継税制は、中堅企業が対象外で、特例措置も令和9年末に期限を迎えます。持株会社を使って評価を抑える組み方も、国税庁がグループ全体で評価する案を示している以上、これまでどおりに効くとは限りません。上場すれば株式の値段は市場で決まりますが、上場にかかる費用や開示の負担を伴います。
親族への承継、従業員への承継、第三者への譲渡、持株会社の組み直し、上場。地方で長く事業を営み、会社を大きくしてきたオーナー企業ほど、どの道を選ぶかを税の面から比べ直すことを、国の制度の側から迫られつつあると言えます。
決まっていないことが多い段階で、慌てて結論を出す必要はありません。ただ、自社がどちらの側に入りそうか(今の評価上の会社の区分、利益水準、保有資産、子会社の有無)は、今のうちに確かめておく価値があると考えます。そのうえで、親族への承継、従業員への承継、第三者への譲渡を並べて、それぞれの負担と段取りを比べておくと、見直しの内容が固まったときに落ち着いて判断できます。
株式の評価額の試算や税負担の見通しなど、個別の判断は税理士などの専門家にご相談ください。
親族への承継と、第三者への譲渡を、同じ前提で比べてみませんか
見直しの行方が定まる前に、自社の株式を第三者に譲る場合の進め方や、どのような相手が考えられるかを知っておくと、親族への承継と落ち着いて比べることができます。株式会社日本財務戦略センターは、中小企業庁のM&A支援機関に登録しているM&A仲介会社です。
続報は、有識者会議の議事要旨や今後の会議の資料が公表され次第、このブログでお伝えします。
出典
- 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」開催趣旨(2026年4月16日)、第5回資料(2026年8月20日)、第6回資料(2026年9月16日)
- 経済産業省・中小企業庁「『取引相場のない株式の評価』見直しに係る意見」(2026年9月16日)
- 経済産業省「令和9年度税制改正要望」(取引相場のない株式の評価方式に関する見直し/事業承継税制の抜本見直し)
- 国税庁 タックスアンサーNo.4148「非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例等(法人版事業承継税制)」、中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」
- 日本商工会議所「意見」(第4回有識者会議提出、2026年7月3日)
- 時事通信「非上場株の評価見直し案に反対 事業承継を阻害―日商」(2026年9月18日)
- 日本経済新聞「非上場株相続の新評価法、日商が反対 増税で『事業承継が崩壊』」(2026年9月17日)
- 会計検査院「令和5年度決算検査報告」第4章第4「相続等により取得した財産のうち取引相場のない株式の評価について」
- X(旧Twitter)の投稿:中小企業庁(@meti_chusho)2026年9月17日、萩生田光一事務所(@officeofhagiuda)2026年9月18日、かどひろこ(@HirokoKado)2026年9月18日、かどひろこ(@HirokoKado)2026年9月18日(萩生田氏の投稿を引用)、阿部司(@abe2kasa)2026年9月17日、玉木雄一郎(@tamakiyuichiro)2026年9月19日、宇佐美典也(@usaminoriya)2026年9月18日、宇佐美典也(@usaminoriya)2026年9月18日
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本記事は、2026年9月24日時点の公表資料をもとにした一般的な情報提供であり、個別の税務判断を示すものではありません。
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本記事は 2026年9月24日 公開時点の情報に基づきます。税制・法令等は改正される場合があるため、最新の制度・税制は公的機関の公式情報をご確認ください。
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