2021.03.04 M&A実務

過剰債務企業の事業再生を加速:特定調停スキームとM&Aの戦略的活用

特定調停スキーム(事業再生支援型)とは、日本弁護士連合会が策定した準則型私的整理の一手法です。裁判所の関与のもと、金融機関債務や経営者の個人保証債務を公正かつ経済合理的に整理し、事業再生とM&Aを円滑に進めることを目的とします。

弁護士として、M&Aと企業再生の双方に深く関与してきた当職の経験から、過剰債務に苦しむ企業が事業を継続し、新たな成長を目指す上で、日本弁護士連合会が提唱する「事業再生を支援する手法としての特定調停スキーム」は、M&A戦略と密接に連携し得る強力な選択肢であると認識しています。弊社の企業再生(事業再生)ワンストップサービスにおいても、このスキームはM&Aを前提とした再生計画において重要な役割を果たすことがあります。本稿では、特定調停スキームの概要、M&Aにおける具体的な活用方法、そして実務上の注意点について、当職の知見を交えながら解説します。

特定調停スキーム(事業再生支援型)とは何ですか?

特定調停スキーム(事業再生支援型)は、金融機関に過大な債務を負う事業者とその保証人の債務を一体的に整理し、事業再生を図るための準則型私的整理手続です。その最大の特徴は、特定調停法に基づき、裁判所の関与の下で公正かつ経済合理的な調停を成立させる点にあります。これにより、債権者間の公平性が担保され、合意形成が促進されます。具体的には、事業者の債務についてはリスケジュールや債務免除を通じて再生を目指し、経営者の個人保証については経営者保証に関するガイドラインに準拠した整理が行われます。

M&Aにおいて特定調停スキームはどのように役立ちますか?

このスキームは、特にM&Aを前提とした事業再生において極めて有効です。優良な事業部門を持つものの、過去の負債が重荷となっている企業の場合、特定調停スキームを通じて旧債務を整理することで、その事業部門を「クリーンな状態」で買い手企業に承継させることが可能になります。これは、買い手側にとっては簿外債務リスクや偶発債務リスクを大幅に低減できるため、M&Aの成立可能性を高め、より良い条件を引き出す上で大きなメリットとなります。事業譲渡第二会社方式と組み合わせることで、過剰債務に苦しむ企業の再生と事業承継を強力に推進する戦略的ツールとなり得ます。

特定調停スキームのメリットは何ですか?

特定調停スキームは、事業者と債権者の双方にメリットをもたらします。事業者にとっては、法的整理と異なり取引先を巻き込まずに迅速な再生が可能で、経営者保証ガイドラインに準拠した保証債務の整理により、経営者の再起を支援します。債権者にとっては、破産手続きよりも多くの回収が見込まれる経済的合理性があり、裁判所の関与による公正性・透明性が確保されます。また、債権放棄額を貸倒損失として損金算入できる税務上のメリットも享受できます。これらのメリットは、M&Aを円滑に進めるための強固な土台を築きます。

特定調停スキームの適用要件と実務上の注意点は何ですか?

特定調停スキームは多くのメリットを持つ一方で、その要件は厳格であり、実務上は専門家の関与が不可欠です。主な要件と注意点は以下の通りです。

これらの要件を満たし、複雑な調整を成功させるためには、企業再生とM&A双方に精通した弁護士、税理士、公認会計士、M&Aアドバイザーといった専門家チームの介在が不可欠です。

特定調停スキームとM&Aの連携事例はありますか?

特定調停スキームは、M&A、特に事業譲渡や第二会社方式と組み合わせることで、その真価を発揮します。当事務所で扱った類似ケースを基に、匿名化された事例を簡潔に紹介します。

事例1:老舗製造業の事業譲渡と特定調停スキーム

高い技術力を持つものの過剰債務に苦しむ老舗製造業A社は、弁護士とM&Aアドバイザーの連携により、特定調停スキームと事業譲渡を組み合わせた再生計画を策定。特定調停で旧債務と経営者保証を整理し、優良な事業部門を「クリーンな状態」で買い手企業に承継させました。これにより、事業継続と雇用維持が実現し、経営者も再起の道を歩むことができました。成功の秘訣は、事業価値の明確化と専門家チームの連携、債権者との丁寧な対話でした。

事例2:ITベンチャーの第二会社方式と特定調停スキーム

革新的な技術を持つITベンチャーC社は、過大な先行投資で債務超過に陥りました。弁護士は、事業の核となる技術部門を新設するD社(第二会社)に承継させ、旧C社の負債を特定調停スキームで整理する「第二会社方式」を選択。旧C社の負債から切り離されたD社は、クリーンな財務基盤で事業を再スタートし、新たな投資家からの資金調達にも成功しました。成功の秘訣は、事業と負債の明確な分離、新会社の将来性の提示、そして多岐にわたるステークホルダーとの調整でした。

これらの事例が示すように、特定調停スキームは、単なる債務整理に留まらず、M&Aと組み合わせることで、企業の事業継続、雇用維持、そして経営者の再起を可能にする強力なツールとなり得ます。特に、中小企業庁が推進する事業承継の観点からも、このスキームは有効な選択肢と言えるでしょう。

よくあるご質問

特定調停スキームはどのような企業に適していますか?

事業自体に将来性や収益力があるものの、過去の過剰債務が重荷となり、自力での再生が困難な中小企業や、M&Aによる事業承継を検討している企業に適しています。

特定調停スキームと法的整理(民事再生など)の違いは何ですか?

特定調停スキームは裁判所が関与する私的整理であり、原則として金融債権者のみを対象とします。法的整理に比べて手続きが迅速で、信用毀損を最小限に抑えつつ事業再生を目指せます。

特定調停スキームを進める上で、どのような専門家のサポートが必要ですか?

弁護士が債務整理計画の策定や債権者との交渉を主導し、税理士や公認会計士が財務分析や事業計画の作成を支援します。M&Aを伴う場合は、M&Aアドバイザーとの連携も不可欠です。

公開日: 2021年3月4日 / 最終更新日: 2026年5月22日
五十嵐 悠一

執筆者

五十嵐 悠一(いがらし ゆういち)

株式会社日本財務戦略センター 代表取締役

京都大学経済学部経営学科卒業。株式会社損害保険ジャパン本店営業部、東証上場M&A仲介会社を経て、2020年5月に日本財務戦略センターを設立。中小企業のM&A仲介・事業承継支援を専門とし、医療・介護・食品製造・流通卸・機械製造分野の成約実績を持つ。

資格:プロフェッショナルCFO(日本CFO協会)/M&Aエキスパート(金融業務2級 事業承継・M&Aコース)

公的登録:中小企業庁 M&A支援機関 登録事業者/一般社団法人 M&A支援機関協会 正会員

メディア登壇:株式会社サイゾー Business Journal ウェブセミナー講師「【売り手向け】M&Aを成功させるための具体的な行動・プロセス・知識」(2022年6月)[公式告知]

専門家コラム寄稿:BATONZ(国内最大級M&A プラットフォーム)に M&A・事業承継 74本(2021年〜継続)[コラム一覧]

|LinkedIn|X (@jfsc2020)|BATONZ

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件における法務・税務・会計判断を提供するものではありません。法務・税務・会計の個別判断は、弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください。M&Aのスキーム設計・タイミング・買い手探し等のアドバイザリーは、株式会社日本財務戦略センターにご相談ください。記載内容は公開時点の情報に基づき、法令改正や市場変動により最新の状況と異なる場合があります。

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よくあるご質問(FAQ)

この章のポイント
日本財務戦略センターへのご相談に関する共通の10問と、本記事に関する0問の計10問。
共通Q1. 日本財務戦略センターはどのような会社ですか?
A. 株式会社日本財務戦略センター(JFSC)は、中小企業オーナーの M&A・事業承継を「自分事として最後まで完結する」ためのご相談先です。仲介の独断ではなく、売り手の判断材料を整える立場を貫いています。会社概要もご覧ください。
共通Q2. 相談したら、必ず M&A しなければいけませんか?
A. いいえ、ご相談のみで結構です。相談後に「今回は見送ります」と判断いただいても問題ありません。M&A 以外の選択肢(廃業・親族承継・事業再生)も含めてご一緒に整理します。まずは無料相談からお気軽にどうぞ。
共通Q3. 相談料・着手金は発生しますか?
A. 初回相談・簡易査定・進行中の段階まで、すべて無料です。日本財務戦略センターは完全成功報酬制を採用しており、M&A 成約時のみご報酬が発生します。着手金・中間金・月額顧問料は一切いただきません。なお、案件特性により外部専門家への依頼や登記等の実費(例:司法書士の登記費用、外部監査法人による資産査定、譲受企業側からの弁護士・公認会計士による DD 費用 等)が発生する場合は、必ず事前にご相談・ご同意のうえ進めますので、不意の費用負担は生じません。詳細は弊社の報酬体系をご確認ください。
共通Q4. 一般的な M&A 仲介会社と、どこが違いますか?利益相反はどう開示されますか?
A. M&A 仲介は売主・買主の双方から報酬を得る「両手仲介」が業界慣行で、構造的な利益相反のリスクがあります。そのうえで、業界には「誘い込む仲介」と「公開する仲介」の二類型があると当社は考えています。日本財務戦略センターは後者の立場で、契約締結時に重要事項説明書を交付し、両手仲介の構造を含めて文書でご説明したうえで、売り手の判断材料となる情報を整え、買い手の都合で交渉を急がせない姿勢を貫きます。これは経済産業省・中小企業庁中小 M&A ガイドライン第 3 版・2024 年 8 月改訂、手数料算定基準の開示・買い手信用調査等を留意事項として明示)に則った対応です。二類型化の根拠は弊社独自の業界 20 社研究レポート、構造論の詳細は仲介契約 vs FA 契約の構造分析もご参照ください。
共通Q5. どれくらいの規模から相談できますか?
A. 年商数千万円規模の小規模事業から、数億円規模まで対応します。業界の多くの仲介会社では最低手数料を 2,000 万円以上に設定している傾向で、各社の最低手数料は中小企業庁M&A 支援機関登録制度・登録情報で確認いただけます。日本財務戦略センターの最低手数料は 700 万円で、小規模案件もお引き受けしています。具体的な報酬構造は弊社の報酬体系をご確認ください。
共通Q6. 税金・法律のことを詳しく教えてもらえますか?
A. 税務・法務は税理士法・弁護士法により、具体的な提案は弁護士・税理士等の専門家のみが行えます。当社は業界慣行の一般論をご説明した上で、顧問の先生方にご確認いただく形でご案内します。必要に応じて専門家ネットワークのご紹介も無料で行っています。
共通Q7. 家族や従業員に知られたくないのですが、可能ですか?
A. ご相談段階から NDA(秘密保持契約)を締結し、徹底管理します。社名を公開せずに買い手候補へ打診する「ノンネーム打診」の進め方も可能です。守秘義務体制については情報管理ポリシーでご確認いただけます。
共通Q8. 成約までどれくらいの期間がかかりますか?
A. 標準的には 3〜6 ヶ月程度を目安としてお考えください。買い手候補と事前に綿密な調整を行い、売主オーナー様のペースで進行します。スピード優先で売主の利益を損なう進め方は致しませんが、売主オーナー様のご事情・ご要望に応じて、最短 60 日での成約実績もございます。
共通Q9. デューデリジェンス(DD)では、どのような立場をとりますか?
A. 日本財務戦略センターは、売主オーナー様の利益を最優先に検討する立場を貫きます。仲介業の構造的な利益相反論点については仲介契約 vs FA 契約の構造分析で詳述しており、DD 費用負担の判例実務は東京地裁 DD 費用判決の射程でご確認いただけます。必要に応じて第三者の公認会計士・弁護士・税理士等の専門家をご紹介し、買い手寄りに偏らない査定体制を整えます。中小企業庁中小 M&A ガイドラインの遵守事項に則り、適切な情報開示を行います。
共通Q10. 対応エリアは限られますか?
A. 全国対応可能です。首都圏はもちろん、各地方都市でもご相談実績があります。オンライン面談と現地訪問を組み合わせ、所在地を問わず売主様のペースで進行します。まずは所在地を問わない無料相談をご利用ください。

📅 本記事の情報基準日

本記事は 2021年3月4日 公開時点の情報に基づきます。税制・法令等は改正される場合があるため、最新の制度・税制は公的機関の公式情報をご確認ください。

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