【この記事の結論】会社法108条の種類株式9類型(優先・劣後/議決権制限/譲渡制限/取得請求権/取得条項/全部取得条項/拒否権=黄金株/役員選任権)を組み合わせることで、資本業務提携・スクイーズアウト・後継者確保など多様な資本政策が可能。
M&Aアドバイザリーとして数多くの案件に携わってきた日本財務戦略センター(JFSC)が、本項目では会社法に定める種類株式について解説します。
M&A実務や事業承継の現場で多くの方と接する中で、「優先株式」は知っていても、それ以外の種類株式をご存じない方が多い印象です。
確かに通常の経営においては普通株式だけで問題ないケースがほとんどですが、会社を成長させ、例えば大手企業や投資ファンドなどと資本業務提携を検討する際には、資本政策の選択肢を広げる上で種類株式の知識は不可欠です。また、M&Aコンサルタントを名乗る方々の中にも、種類株式の深い活用方法まで理解している方は少ないと感じています。本記事では、JFSCのM&A実務経験を踏まえ、種類株式の具体的な活用事例や注意点を含めて解説し、皆様の資本政策検討の一助となれば幸いです。
種類株式とは
会社法第108条第1項では、「株式会社は、剰余金の配当その他の株主の権利の内容の異なる二以上の種類の株式を発行することができる。」と種類株式を定義しています。これは、普通株式とは異なる特定の権利や義務が付与された株式を指します。
例えば、すべての株式に譲渡制限を設けている場合、それは会社法第107条に定める「全部の株式の内容」としての譲渡制限株式であり、複数の種類の株式を発行しているわけではないため、厳密には「種類株式」の定義には該当しません。しかし、実務上は普通株式とは異なる特色を持つ株式全般を指すものとして理解されることが多いです。
種類株式の種類とM&A実務での活用
では、会社法第108条第1項に定められる9種類の株式について、JFSCのM&A実務経験に基づいた具体的な活用事例や注意点を含めて個別に見ていきましょう。
剰余金の配当規定(1号)
これは、会社法第108条第1項第1号に定められる、株主への配当財産の価額の決定方法や条件に関するものです。この規定により、配当において他の株式より優先的な地位が認められる株式は優先株式、劣後的な地位に置かれるものを劣後(後配)株式と呼びます。
「優先株式」はM&A実務でも最も馴染み深い種類株式の一つです。優先株式を保有する株主は、普通株式の株主よりも優先して配当を受け取る権利が付与されます。これにより、出資者は普通株式よりも低いリスクで出資を検討することが可能になります。例えば、成長段階のベンチャー企業が投資ファンドから資金調達を行う際、ファンド側はリスクを抑えつつ一定のリターンを確保したいと考えるため、優先配当権を持つ優先株式を引き受けるケースが多く見られます。これにより、企業は安定した資金調達が可能となり、ファンドはリスクヘッジを図ることができます。
一方で、劣後株式は、配当の支払いが普通株式よりも後回しになる株式です。これは、特定の株主(例えば創業オーナーや戦略的パートナー)が、他の株主(例えば従業員持株会や特定の個人投資家)に対して、よりリスクを負うことを前提に、経営への関与を強めたい場合などに活用されることがあります。M&Aにおいては、買収側が既存株主の一部に対し、買収後の事業成長へのコミットメントを促すために、劣後株式を交付するケースも考えられます。
残余財産の分配規定(2号)
会社法第108条第1項第2号は、会社が解散する際に残った財産(残余財産)の分配について、特定の種類の株主に優先権や劣後権を与えるものです。剰余金の配当と同様に、優先株式、普通株式、劣後株式が存在します。
M&Aや資金調達の場面では、ベンチャーキャピタルや投資ファンドが、投下資本の回収をより確実にするために、残余財産の分配に関し、払込金相当額を限度として普通株式に優先する権利を持つ優先株式を引き受けることが一般的です。これにより、万が一事業が失敗し会社が清算されるような事態に陥っても、投資家は一定の範囲で元本回収の可能性を高めることができます。既存株主からすると、この優先権は将来の売却益や清算時の取り分を減らす可能性もあるため、出資を受ける際には、将来の成長性やM&Aの可能性と照らし合わせて慎重に条件を検討する必要があります。
議決権制限規定(3号)
会社法第108条第1項第3号は、株主総会において議決権を行使できる事項を制限する、または議決権を全く行使できない(無議決権株式)とする規定です。ただし、無議決権株式であっても、種類株主総会では議決権を行使することができます。
この種類の株式は、M&Aにおける資本業務提携や事業承継で有効活用されます。例えば、大手企業が中小企業に資本参加する際、経営の独立性を尊重しつつも、将来的なシナジー創出のために一定の資本関係を築きたい場合、議決権制限付きの優先株式を発行することがあります。これにより、中小企業側は経営の自由度を保ちながら資金調達が可能となり、大手企業側は配当などの経済的リターンを享受しつつ、将来的な関係強化の足がかりとすることができます。
また、事業承継において、後継者以外の親族株主に対し、配当は受け取れるが経営には口出しできない無議決権株式を交付することで、円滑な承継と経営権の集中を図ることも可能です。なお、会社法第115条により、公開会社においては議決権制限株式が発行済株式総数の2分の1を超えた場合、直ちに2分の1以下にする措置が求められますが、非公開会社にはこの規制は適用されません。
譲渡制限規定(4号)
会社法第108条第1項第4号は、当該種類の株式の譲渡について、株式会社の承認を必要とする旨を定めるものです。これは譲渡制限株式と呼ばれます。
非公開会社の場合、そのほとんどの株式にこの譲渡制限規定が付されています。これは、会社の意図しない株主の参入を防ぎ、経営の安定性を保つために非常に重要な規定です。特に株券不発行会社が多い現代においては、株主の把握を容易にする目的もあります。
M&A実務において、譲渡制限株式を対象とする場合、株式譲渡契約の締結前に、対象会社の株主総会(または取締役会)で、譲渡を承認する旨の決議を得る必要があります。この手続きを怠ると、株式譲渡自体が無効となるリスクがあるため、JFSCではM&Aプロセスにおいて、この承認手続きが適切に行われるよう細心の注意を払ってサポートしています。また、ある種類の株式の内容を譲渡制限株式とする定款変更には、原則として当該種類の種類株主総会の決議が必要となる点も留意が必要です(会社法第111条第2項)。
取得請求権規定(5号)
会社法第108条第1項第5号は、株主が会社に対して、その保有する株式の取得(買い取り)を請求できる権利を定めるものです。これは取得請求権付株式と呼ばれます。
この規定は、投資家保護や事業承継の円滑化に活用されます。例えば、ベンチャー企業への投資において、投資家が議決権のない優先株式を引き受ける際、一定期間内にIPOやM&Aが実現しない場合、または事業計画が未達の場合に、会社に対して優先株式を普通株式に転換して買い取るよう請求できる権利を付与することがあります。これにより、投資家はリスクを限定しつつ、将来的に経営への関与を強める選択肢を持つことができます。
また、事業承継の場面では、後継者以外の親族株主に対し、無議決権かつ取得請求権付株式を交付するケースがあります。これにより、親族株主は経営に直接関与しないものの、いつでも会社に株式を買い取ってもらえる安心感を得られ、将来的な相続争いのリスクを低減できます。ただし、会社側は請求があった場合に備え、取得対価(現金、他の株式、新株予約権、社債など)やその算定方法を定款に明確に定めておく必要があります(会社法第108条第2項第5号)。JFSCでは、これらの条件設定において、将来的なトラブルを避けるための詳細な検討を支援しています。
取得条項規定(6号)
会社法第108条第1項第6号は、会社が一定の事由が生じたことを条件として、株主からその株式を取得できる権利を定めるものです。これは取得条項付株式と呼ばれます。
取得請求権付株式が「株主」からのアクションで株式が取得されるのに対し、取得条項付株式は「会社」からのアクションで株式が取得される点が大きな違いです。この規定は、M&A後の資本構成の整理や、特定の株主との関係解消に活用されます。
例えば、M&Aにおいて、買収側が対象企業の特定の少数株主の株式を将来的に集約したい場合、あらかじめ取得条項付株式として発行し、M&A完了後一定期間経過や特定の条件達成を条件に、会社がその株式を取得できるように設定することがあります。これにより、買収側は将来的な完全子会社化や資本政策の柔軟性を確保できます。
また、事業承継の文脈では、創業オーナーが後継者に株式を譲渡する際、後継者が経営能力を発揮できなかった場合や、特定の不祥事を起こした場合に、会社がその株式を取得できる条項を付与することで、経営の安定性を担保するケースも考えられます。取得対価については、金銭以外に他の株式、社債、新株予約権なども設定可能ですが、特に金銭で買い上げる場合は、事前に公正な株価算定方法を定款に明記しておくことが、将来的なトラブル防止のために極めて重要です(会社法第108条第2項第6号)。また、発行後に定款を変更して取得条項付株式とする場合には、当該種類の株式を有する株主全員の同意が必要となる点も注意が必要です(会社法第111条第1項)。
全部取得条項規定(7号)
会社法第108条第1項第7号は、会社が株主総会の決議によって、その種類の株式の全部を取得できる権利を定めるものです。これは全部取得条項付株式と呼ばれ、主にスクイーズアウト(少数株主の追い出し)の際に用いられます(会社法第171条)。
スクイーズアウトは、M&A後の経営統合を円滑に進めるためや、上場廃止、事業承継における経営権の集中など、様々な目的で活用されます。政府も中小M&AガイドラインなどでM&Aの円滑化を推進しており、会社法改正によりスクイーズアウトの手法も多様化しています。
具体的な手法の一つとして、既存の普通株式の全部を全部取得条項付種類株式に変更する定款変更を行い、その後、株主総会の特別決議によってこの全部取得条項付種類株式を会社が取得し、その対価として他の種類の株式を交付するという方法があります。この際、少数株主の株式が全て端数となるような取得比率を設定することで、少数株主の株式を金銭に転換し、実質的に会社から排除することが可能です(会社法第234条第1項第2号)。
例えば、ある会社で株主Aが77%、株主Bが20%、株主Cが3%の株式を保有しているとします。株主Aが経営権を完全に掌握したい場合、まず株主総会の特別決議(議決権の3分の2以上が必要)で定款を変更し、全ての普通株式を全部取得条項付種類株式とします。次に、再度株主総会の特別決議で、この種類株式を会社が取得し、その対価として「100株につき新しい普通株式1株」を交付すると定めます。この結果、株主Aは0.77株、株主Bは0.20株、株主Cは0.03株となり、1株未満の端数となります。会社はこれらの端数を金銭で買い上げることにより、株主Aのみがオーナーとして残る形となります。
ただし、この手法を用いる際には、取得対価の公正性が常に問題となります。少数株主が取得対価に不満を持つ場合、裁判所に価格決定の申立てを行うことができ、その妥当性が争われる可能性があります。JFSCでは、公正な株価算定と適切な手続きの実施を通じて、M&A後のトラブルを未然に防ぐためのアドバイスを提供しています。
拒否権規定(8号)
会社法第108条第1項第8号は、株主総会(または取締役会、清算人会)で決議すべき事項について、当該決議のほかに、特定の種類の株式を保有する株主(種類株主)の総会の決議が必要となる旨を定めるものです。これは、通称「黄金株」とも呼ばれます。
黄金株は、少数株主であっても会社の重要な意思決定に対して拒否権を行使できる強力な権利です。例えば、創業オーナーがM&Aによって株式の過半数を譲渡した後も、会社の経営方針や重要な役員人事、事業売却など特定の事項について最終的な決定権を保持したい場合に活用されます。これにより、創業オーナーは少数株主となったとしても、会社の理念や事業の方向性が大きく変わることを防ぎ、実質的な支配を継続することが可能です。
M&A実務では、買収側が対象企業の独立性を尊重しつつ、特定の重要事項については共同で意思決定を行いたい場合に、売却側オーナーに黄金株を付与するケースがあります。これは、買収後の経営統合を円滑に進めるための信頼関係構築にも寄与します。ただし、拒否権の範囲を広げすぎると、経営の機動性を損なう可能性もあるため、その設定には慎重な検討が必要です。
役員選任権規定(9号)
会社法第108条第1項第9号は、特定の種類の株式を保有する株主(種類株主)の総会において、取締役または監査役を選任できる権利を定めるものです。
この規定は、特定の株主グループが会社の役員構成に直接影響力を行使したい場合に有効です。例えば、複数の同族会社が合併して新たな会社を設立する際、各同族グループが一定数の役員を送り込む権利を確保するために、この役員選任権規定を持つ種類株式を発行することが考えられます。これにより、各グループの経営への参画を保証し、合併後の経営安定化を図ることができます。
JFSCのM&A実務では、この種類の株式が活用されるケースは稀ですが、ジョイントベンチャー設立時や、特定の技術を持つ企業と資金力のある企業が提携する際に、それぞれの専門性を活かした役員を確実に選任するために検討されることがあります。ただし、会社法第108条第1項ただし書により、指名委員会等設置会社および公開会社は、役員選任権規定についての定めがある種類の株式を発行することはできません。
以上、M&Aアドバイザリーの視点から種類株式の各類型とその活用事例を解説しました。種類株式は、一つ単独で用いるだけでなく、複数の権利を組み合わせることで、より複雑かつ戦略的な資本政策を可能にします。特に、思い入れを持って立ち上げられた会社が、大手資本との資本業務提携や事業承継を検討する際に、「会社が乗っ取られてしまうのではないか」という懸念を抱くオーナー経営者の方々にとって、種類株式は経営権の維持と事業成長を両立させるための強力なツールとなり得ます。
M&Aにおける資本政策は、企業の将来を左右する重要な意思決定です。ご自身の会社にとって最適な資本政策を構築するためには、専門的な知識と豊富な実務経験が不可欠です。もし現在M&Aや事業承継を進められている方で、種類株式の活用や資本政策についてご不明な点やご不安な点がございましたら、弊社のM&Aセカンドオピニオンサービスをご利用いただき、ぜひご相談ください。
資本政策についてはまた別途記載していきたいと思います。
※M&A実務の判断には専門家との相談が不可欠です。JFSC ではM&Aセカンドオピニオン無料相談を承っております。
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📅 本記事の情報基準日
本記事は 2021年4月9日 公開時点の情報に基づきます。税制・法令等は改正される場合があるため、最新の制度・税制は公的機関の公式情報をご確認ください。
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