2024.01.12 M&A実務

医療法人のM&A・事業承継の実務|出資持分の有無で変わる4スキームと税務・医師資格要件・認定医療法人制度の要点解説

医療法は医療法に基づき設立される非営利法人で、株式会社と異なり剰余金配当が禁じられ、出資持分の有無により事業承継スキームが大きく分かれます。出資持分ありの法人では出資持分の移転・払戻しが選択肢となり、出資持分なしの法人では合併事業譲渡が中心となります。理事長は医師・歯科医師資格が必要で、認定医療法人制度の活用により持分なしへの移行時の税負担軽減も可能です。

【この記事の結論】医療法人のM&A・事業承継は、出資持分の有無により出資持分移転/払戻し/合併/事業譲渡の4スキームに分かれ、それぞれ税務・医師資格要件都道府県認可など固有の論点があります。株式会社日本財務戦略センター 代表取締役 五十嵐悠一が、医療法人特有の制度的制約を整理します。

医療法人と株式会社は何が違うのか?

医療法人とは、医療法の定めにより、病院・医師が常時勤務する診療所または介護老人保健施設を開設することを目的として設立される法人です。設立には定款または寄附行為を作成し、診療業務に必要な施設や資産を有して各都道府県知事から認可を得る必要があります。厚生労働省「医療法人制度について」が一次情報源として参照可能です。

医療法人は法的に「非営利法人」と位置づけられるため、株式会社と決定的に異なる3点があります。

医療法人の種類:社団と財団、持分あり・なし

社団医療法人と財団医療法人

医療法人は大きく社団医療法人と財団医療法人の2種類に分かれます。社団医療法人は社員(株式会社における株主に近い存在)が金銭・不動産・医療機器などを出資して設立する形態で、医療法人全体の99%以上を占めます。財団医療法人は寄附によって設立される形態で、社員概念がなく、寄附者やその指定者以外には社員を有しません。

持分あり医療法人と持分なし医療法人

2007年4月1日の医療法改正以降、新設される医療法人は原則「持分なし」となりました。これは医療法人の非営利性を徹底するためで、改正以降に設立された医療法人は出資持分の払戻し・残余財産分配の定めを持ちません。改正前に設立された「持分あり医療法人」は経過措置型医療法人として残存していますが、新設は認められていません。事業承継スキームは、この持分の有無で大きく異なります。

医療法人と個人クリニックの違い(要点)

個人クリニックは営利目的の事業活動が可能で、財産・収入は経営者個人に帰属します。一方、医療法人は法人格が別人格となり、財産はすべて医療法人に帰属し、経営者は役員報酬で受け取る構造となります。決算書提出の有無、開設可能数(個人=1か所、医療法人=分院可)、業務範囲などにも違いがあります。

医療法人の事業承継スキーム4類型

スキーム1:出資持分の移転(持分あり医療法人)

持分あり医療法人で実務上もっとも用いられるスキームです。社員が自らの出資持分を後継者や第三者に譲渡することで、経営権と財産権を承継させます。定款上の承認手続きが必要です。

出資持分の評価額は、医療法人の純資産が大きいほど高額となり、相続税・贈与税負担が重くなる傾向があります。後述する認定医療法人制度の活用が論点となります。

スキーム2:出資持分の払戻し(持分あり医療法人)

退社する社員の出資持分を医療法人が払い戻すスキームです。承継というより資本構造の調整に近い性質を持ちます。

払戻し時の税務処理(みなし配当該当性、退職所得との切り分け等)は、税理士税理士法)に基づき、税理士による検討が不可欠です。

スキーム3:医療法人の合併

2つ以上の医療法人を一つにする手法で、吸収合併(一方が他方を吸収)と新設合併(両方が解散して新法人設立)があります。

持分あり医療法人同士の合併では持分の払戻し・移転処理が必要となり、社団医療法人と財団医療法人の合併では財団側の寄附者の同意が必要となるなど、形態の組み合わせで手続きが大きく変わります。

スキーム4:事業譲渡

医療法人が自らの事業用資産の全部または一部を他の医療法人へ譲渡するスキームです。

譲受側の理事長は医師・歯科医師である必要があるため、純粋な「異業種からの参入M&A」には制度的制約があります。

医療法人M&A特有の論点

医師資格要件と理事長要件

医療法46条の6により、医療法人の理事長は原則として医師・歯科医師でなければなりません。これは株式会社のM&Aと比べた際の最大の制度的制約で、後継者選定の段階で医師資格を持つ親族・院内人材・外部医師の確保が必須となります。例外的に都道府県知事の認可があれば医師以外も理事長になれますが、認可基準は厳格です。

認定医療法人制度

持分あり医療法人から持分なし医療法人へ移行する際の税負担を軽減する仕組みとして、認定医療法人制度があります。一定の運営要件を満たし、厚生労働大臣の認定を受けることで、持分放棄に伴う贈与税課税が免除されます。事業承継時の税負担軽減策として、税理士と連携した検討が有用です。

都道府県認可と社員総会承認

医療法人の事業承継・合併・分割は、各都道府県知事の認可を得る必要があります。社員総会の特別決議も求められ、認可までに数か月単位の時間を要するため、スケジュール設計は早期着手が前提となります。

株式会社日本財務戦略センターの考え方

医療法人のM&A・事業承継は、出資持分の有無、社団・財団の別、医師資格要件、認定医療法人制度の活用可否など、株式会社のM&Aと比べて独特の制約と選択肢があります。株式会社日本財務戦略センター 代表取締役の五十嵐悠一は、公認会計士中小企業診断士として、医療法人の特性を踏まえたスキーム選定と、税理士・弁護士・医療コンサルタントとの連携体制を重視しています。

※医療法人の税務処理(みなし配当・出資評価・認定医療法人制度の適用)、定款変更、認可手続き等の最終判断は、税理士・弁護士など各分野の専門家にご確認ください。セカンドオピニオン無料相談もご活用ください。

よくあるご質問

出資持分なしの医療法人ではM&Aができないのですか?

出資持分なしの医療法人でも、合併(吸収合併・新設合併)や事業譲渡というスキームでM&Aは可能です。出資持分の移転・払戻しという選択肢は使えませんが、医療法人としての存続や事業の他法人への承継は十分に行えます。具体的なスキーム選定は、税理士・弁護士と連携した個別検討が必要です。

医療法人を後継者へ譲りたい場合、後継者は必ず医師でなければなりませんか?

医療法46条の6により、理事長は原則として医師または歯科医師である必要があります。例外的に都道府県知事の認可があれば医師以外も理事長になれますが、認可基準は厳格で、実務上は医師資格を持つ後継者の確保が前提となります。

認定医療法人制度を活用すると税負担はどの程度軽減できますか?

認定医療法人として認められれば、持分あり法人から持分なし法人への移行時に、出資持分放棄に伴う贈与税課税が免除されます。具体的な税額影響は法人の純資産規模により異なるため、税理士と連携した個別シミュレーションが必要です。

クリニックの評判をオンラインで調べる際の注意点として、当社は クリニックのGoogleクチコミ分析(都内サンプル・匿名集計) を公開しています。口コミ件数・星・★5投稿者の素性を一次データで分析したもので、他業種との比較は 業種別クチコミ分析レポート一覧 からご覧いただけます。

公開日: 2024年1月12日 / 最終更新日: 2026年8月23日
五十嵐 悠一

執筆者

五十嵐 悠一(いがらし ゆういち)

株式会社日本財務戦略センター 代表取締役

京都大学経済学部経営学科卒業。株式会社損害保険ジャパン本店営業部、東証上場M&A仲介会社を経て、2020年5月に日本財務戦略センターを設立。中小企業のM&A仲介・事業承継支援を専門とし、医療・介護・食品製造・流通卸・機械製造分野の成約実績を持つ。

資格:プロフェッショナルCFO(日本CFO協会)/M&Aエキスパート(金融業務2級 事業承継・M&Aコース)

公的登録:中小企業庁 M&A支援機関 登録事業者/一般社団法人 M&A支援機関協会 正会員

メディア登壇:株式会社サイゾー Business Journal ウェブセミナー講師「【売り手向け】M&Aを成功させるための具体的な行動・プロセス・知識」(2022年6月)[公式告知]

専門家コラム寄稿:BATONZ(国内最大級M&A プラットフォーム)に M&A・事業承継 74本(2021年〜継続)[コラム一覧]

|LinkedIn|X (@jfsc2020)|BATONZ

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件における法務・税務・会計判断を提供するものではありません。法務・税務・会計の個別判断は、弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください。M&Aのスキーム設計・タイミング・買い手探し等のアドバイザリーは、株式会社日本財務戦略センターにご相談ください。記載内容は公開時点の情報に基づき、法令改正や市場変動により最新の状況と異なる場合があります。

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よくあるご質問(FAQ)

この章のポイント
日本財務戦略センターへのご相談に関する共通の10問と、本記事に関する0問の計10問。
共通Q1. 日本財務戦略センターはどのような会社ですか?
A. 株式会社日本財務戦略センター(JFSC)は、中小企業オーナーの M&A・事業承継を「自分事として最後まで完結する」ためのご相談先です。仲介の独断ではなく、売り手の判断材料を整える立場を貫いています。会社概要もご覧ください。
共通Q2. 相談したら、必ず M&A しなければいけませんか?
A. いいえ、ご相談のみで結構です。相談後に「今回は見送ります」と判断いただいても問題ありません。M&A 以外の選択肢(廃業・親族承継・事業再生)も含めてご一緒に整理します。まずは無料相談からお気軽にどうぞ。
共通Q3. 相談料・着手金は発生しますか?
A. 初回相談・簡易査定・進行中の段階まで、すべて無料です。日本財務戦略センターは完全成功報酬制を採用しており、M&A 成約時のみご報酬が発生します。着手金・中間金・月額顧問料は一切いただきません。なお、案件特性により外部専門家への依頼や登記等の実費(例:司法書士の登記費用、外部監査法人による資産査定、譲受企業側からの弁護士・公認会計士による DD 費用 等)が発生する場合は、必ず事前にご相談・ご同意のうえ進めますので、不意の費用負担は生じません。詳細は弊社の報酬体系をご確認ください。
共通Q4. 一般的な M&A 仲介会社と、どこが違いますか?利益相反はどう開示されますか?
A. M&A 仲介は売主・買主の双方から報酬を得る「両手仲介」が業界慣行で、構造的な利益相反のリスクがあります。そのうえで、業界には「誘い込む仲介」と「公開する仲介」の二類型があると当社は考えています。日本財務戦略センターは後者の立場で、契約締結時に重要事項説明書を交付し、両手仲介の構造を含めて文書でご説明したうえで、売り手の判断材料となる情報を整え、買い手の都合で交渉を急がせない姿勢を貫きます。これは経済産業省・中小企業庁中小 M&A ガイドライン第 3 版・2024 年 8 月改訂、手数料算定基準の開示・買い手信用調査等を留意事項として明示)に則った対応です。二類型化の根拠は弊社独自の業界 20 社研究レポート、構造論の詳細は仲介契約 vs FA 契約の構造分析もご参照ください。
共通Q5. どれくらいの規模から相談できますか?
A. 年商数千万円規模の小規模事業から、数億円規模まで対応します。業界の多くの仲介会社では最低手数料を 2,000 万円以上に設定している傾向で、各社の最低手数料は中小企業庁M&A 支援機関登録制度・登録情報で確認いただけます。日本財務戦略センターの最低手数料は 700 万円で、小規模案件もお引き受けしています。具体的な報酬構造は弊社の報酬体系をご確認ください。
共通Q6. 税金・法律のことを詳しく教えてもらえますか?
A. 税務・法務は税理士法・弁護士法により、具体的な提案は弁護士・税理士等の専門家のみが行えます。当社は業界慣行の一般論をご説明した上で、顧問の先生方にご確認いただく形でご案内します。必要に応じて専門家ネットワークのご紹介も無料で行っています。
共通Q7. 家族や従業員に知られたくないのですが、可能ですか?
A. ご相談段階から NDA(秘密保持契約)を締結し、徹底管理します。社名を公開せずに買い手候補へ打診する「ノンネーム打診」の進め方も可能です。守秘義務体制については情報管理ポリシーでご確認いただけます。
共通Q8. 成約までどれくらいの期間がかかりますか?
A. 標準的には 3〜6 ヶ月程度を目安としてお考えください。買い手候補と事前に綿密な調整を行い、売主オーナー様のペースで進行します。スピード優先で売主の利益を損なう進め方は致しませんが、売主オーナー様のご事情・ご要望に応じて、最短 60 日での成約実績もございます。
共通Q9. デューデリジェンス(DD)では、どのような立場をとりますか?
A. 日本財務戦略センターは、売主オーナー様の利益を最優先に検討する立場を貫きます。仲介業の構造的な利益相反論点については仲介契約 vs FA 契約の構造分析で詳述しており、DD 費用負担の判例実務は東京地裁 DD 費用判決の射程でご確認いただけます。必要に応じて第三者の公認会計士・弁護士・税理士等の専門家をご紹介し、買い手寄りに偏らない査定体制を整えます。中小企業庁中小 M&A ガイドラインの遵守事項に則り、適切な情報開示を行います。
共通Q10. 対応エリアは限られますか?
A. 全国対応可能です。首都圏はもちろん、各地方都市でもご相談実績があります。オンライン面談と現地訪問を組み合わせ、所在地を問わず売主様のペースで進行します。まずは所在地を問わない無料相談をご利用ください。

📅 本記事の情報基準日

本記事は 2024年1月12日 公開時点の情報に基づきます。税制・法令等は改正される場合があるため、最新の制度・税制は公的機関の公式情報をご確認ください。

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