【この記事の結論】同じような事業環境・財務状況に置かれた2社でも、経営者の決断の質によって、その後の命運は大きく分かれます。M&Aを「自分事」として捉えた会社は売却完了後の業績も伸び、丸投げ姿勢で先送りした会社は倒産に至りました。株式会社日本財務戦略センター 代表取締役の五十嵐悠一が、対照的な2社の実例を整理します。なお、契約条項・債務整理の個別判断は、弁護士・税理士など各分野の専門家にご確認ください。
近畿圏・食品製造業の2社が抱えていた共通課題とは?
当社(M&A支援機関協会登録機関)に約2年前にご相談をいただいた、近畿圏の食品製造業A社・B社のケースです。条件が近い2社のため、経営者の決断の差が結果にどう響くかを比較しやすい事例でした。
両社とも創業から数十年以上の歴史があり、設備の経年劣化に伴う新規投資が必要な状況でした。新型コロナウイルスの影響で売上が急減しており、自己資金でも借入でも設備投資を行うことが難しい状態です。後継者は親族内に見当たらず、かといって閉鎖するには設備規模・従業員数が大きすぎる。取引先との関係は強いものの、マーケットが縮小しており、新規取引先の開拓も急務というプロファイルです。
2社の違いは「財務」と「経営者の姿勢」の2点
異なる点としては、A社はすでに債務超過に陥っている状況で、B社は簿価ベースでは資産超過ですが、数年で債務超過に転落する可能性が高いと思わせる状況でした。そして面談時の経営者の反応も、A社とB社で対照的でした。
A社はなぜ仲介選定の段階でつまずいたのか?
A社は伝統的な地域で代々続く地元の名士でしたが、面談時に複数の仲介会社を競争させるような交渉スタイルでした。財務的に厳しい場合は情報管理の失敗が噂の流出につながりやすく、依頼する仲介会社が多ければよいというものではありません。M&A仲介業者選定の際は、中小M&Aガイドライン第3版などを参考に、信頼できる専門家を見極めることが重要です。
また、債務超過の状態では単なる仲介で買い手を探すこと自体が難しい局面もあるため、当社では他の仲介会社とは異なり、私的整理スキームを含めて説明しました。私的整理は、経営者保証ガイドラインなどを活用し、経営者個人の負担を軽減しながら事業再生を図る重要な選択肢です。
ただA社の経営者は「5年から10年はこのまま経営できる」という、根拠が不明な返答を繰り返していました。当社が大手の法律事務所と連携して提案した内容も「銀行に見せていいか」というコメントで終わるなど、危機感が共有できないまま、信頼関係も構築できないと判断し、最終的に当社からお断りした案件です。
B社はなぜ専任契約での進行を選んだのか?
他方B社も老舗の企業でしたが、当社にご信用いただき専任契約でご一任いただきました。珍しい業態であったことから実行までお時間をいただきましたが、最後まで仲介を担当しました。
専任契約のメリットは、情報管理を一本化できる点と、仲介担当者が腰を据えて買い手候補へのアプローチや論点整理に取り組める点にあります。財務的に時間との戦いになる案件ほど、複数仲介の競争よりも、信頼できる1社との伴走の方がワークするケースが多いというのが、現場での実感です。
決断の差は、両社のその後にどう現れたのか?
たまたまその後の両社を見る機会があったのですが、A社は「10年は大丈夫」と宣言した話とは裏腹に、当社面談から約2年弱で倒産していました。企業の倒産情報は、帝国データバンクや東京商工リサーチなどで詳細に調査・公開されています。
当時、他の取引先からはA社の持つ特定の製造技術や販路を活用したいという同業他社からのシナジー期待や、地域貢献を重視する異業種からの関心など、複数の買い手ニーズをいただいていました。しかし経営者の本気度が低い状況では、買い手候補に対しても信用を毀損してしまうため、具体的な紹介に進めることができませんでした。当社が面談してから倒産までに2年弱の期間があり、その間に私的整理等を行えば、倒産や経営者個人の破産を回避できた可能性は十分にあったと考えます。事業承継・引継ぎ支援センターのような公的機関も、早期相談で経営者の選択肢を広げる役割を担っています。
他人事のように仲介や銀行に任せるという姿勢が、結果として経営者にとって最大のデメリットである「倒産」につながったのは、本当に残念なケースでした。A社に限らず、私的整理や譲渡の決断を先送りしたことで倒産に至ったケースは、業界では決して珍しくありません。
B社のその後:取引基盤を活かして売上15.2%増
B社の取引基盤を活用したいという買い手が現れ、譲渡完了後、最初の会計年度の決算では、売上が前年比15.2%上昇しました(期中譲渡のため、通期での実質的な上昇率はさらに高いと推測されます)。利益も数年間の赤字から脱却し、対売上ベースで20%近くの利益が上振れしています。譲渡決済時はB社の売り手様からも、想定以上の譲渡対価をお支払いできたとのお言葉をいただきました。
譲渡後、B社のWebサイトはリニューアルされ、笑顔の売り手様と従業員が工場の前で写真を撮っているのが印象的でした。「いい取引ができました」という売り手様の言葉は、単に売って終わりではなく、その後の会社の発展につながったことを示してくれています。
2社の事例から、経営者は何を学ぶべきか?
A社・B社のケースは、結果論であるという指摘はその通りだと思います。ただし、会社の将来を「自分事」として捉えるかどうかが、経営者個人と従業員の人生を大きく分けるという点は、間違いなく普遍的な教訓です。
当社の成約事例の一部は成約事例ページにも掲載しています。M&Aに関する情報は、中小企業庁や経済産業省のウェブサイトでも多数公開されており、特に中小企業庁のM&A事例はケーススタディとして参考になります。
株式会社日本財務戦略センターからのまとめ
同じ条件の2社でも、経営者の決断の質によって結末は大きく変わります。株式会社日本財務戦略センターでは、代表取締役の五十嵐悠一が、財務・税務・法務の論点を実務目線で整理し、貴社にとって最適な「次の一手」をご一緒に検討します。
※M&A実務の最終判断には、弁護士・税理士・公認会計士など専門家への相談が不可欠です。契約条項・債務整理・税務処理の個別判断は、各分野の専門家にご確認ください。日本財務戦略センター(JFSC) のM&Aセカンドオピニオン無料相談もご活用ください。
よくあるご質問
債務超過の会社でも、M&Aで譲渡できる可能性はありますか?
債務超過でも、特定の技術・販路・人材・取引基盤に魅力があれば、買い手候補は現れ得ます。ただし通常の仲介スキームだけでは難しいケースが多く、私的整理や経営者保証ガイドラインの活用、救済型M&Aなど複数の選択肢を組み合わせる検討が必要です。専門家と早期に相談することをおすすめします。
M&A仲介を複数社に同時に依頼するのは、メリットが大きいですか?
案件によります。財務状況が悪化している企業の場合、情報管理が複数チャネルに広がることで、噂の流出や信用毀損のリスクが高まります。中小M&Aガイドライン第3版を参考に、信頼できる1社との専任契約を選ぶ方が、結果的に成約率も譲渡対価も伸びやすいケースが多いというのが現場の実感です。
経営者が「あと数年は大丈夫」と感じている時点で、M&Aを検討すべきですか?
むしろ検討するのに最適な時期です。財務的余裕があるうちに動けば、買い手候補を選べる立場でいられ、譲渡対価も交渉余地が大きくなります。本記事のA社のように資金が完全に枯渇してからでは、選択肢は急速に狭まります。早期に専門家と相談し、選択肢を整理しておくことをおすすめします。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件における法務・税務・会計判断を提供するものではありません。法務・税務・会計の個別判断は、弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください。M&Aのスキーム設計・タイミング・買い手探し等のアドバイザリーは、株式会社日本財務戦略センターにご相談ください。記載内容は公開時点の情報に基づき、法令改正や市場変動により最新の状況と異なる場合があります。
よくあるご質問(FAQ)
📅 本記事の情報基準日
本記事は 2022年12月20日 公開時点の情報に基づきます。税制・法令等は改正される場合があるため、最新の制度・税制は公的機関の公式情報をご確認ください。
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