【この記事の結論】新法案は多数決による私的整理を可能にし、事業再生の迅速化を促す一方で、実現性の低い計画は早期に法的整理へ移行させる厳しさも併せ持ちます。中小企業は、早期の計画策定と専門家との連携が不可欠です。株式会社日本財務戦略センター 代表取締役の五十嵐悠一が、政策の流れと実務論点を整理します。なお、契約条項・税務処理・債務整理の個別判断は、税理士・弁護士など各分野の専門家にご相談ください。
「私的整理円滑化法」とは何を目指す法整備か?
「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」(令和4年6月7日閣議決定)において、コロナ後の事業再構築を容易にするため、新たな事業再構築のための法制度を検討するとの内閣官房リリースが出ました。これが通称「私的整理円滑化法」と呼ばれる枠組みの議論の出発点です。
従来は、私的整理を行うには対象債権者全員の同意が必要で、合意が得られないと進められないという問題がありました。たとえば製造業A社が資金繰り悪化により私的整理を試みた際、主要取引銀行は支援に前向きでも、一部の地方銀行が自社の回収を優先して債権放棄に同意せず、結果として事業再生計画が頓挫し、本来再生可能であった会社が法的整理へ移行せざるを得ないケースが現場では起こり得ます。
私的整理ガイドラインでも私的整理をしやすくする方向性は示されてきましたが、ガイドラインには法的拘束力がなく限界がありました。新法案は、その制度的な隙間を埋めることを狙ったものです。
多数決による事業再構築は、どんな仕組みで運用されるのか?
政府が示した「新たな事業再構築のための法制度の方向性(案)」には、対象債権者集会における再構築計画案の決議として、以下のような枠組みが示されています。
- 指定法人が対象債権者集会を招集・主宰し、手続や決議の適法性・公正性を監督する
- 指定法人が再構築計画案の法令適合性等を調査し、報告書を作成する
- 事業者から対象債権者への情報提供と意見陳述の機会を確保する
- 再構築計画案を、対象債権者の多数決(例:総議決権の2/3以上の同意)で可決できる
従来の「全員同意」から「多数決」へとハードルが下がる一方で、最終的に裁判所が再構築計画を認可するプロセスが組み込まれている点が肝です。「私的整理の入口は広がるが、出口の質は裁判所が確認する」という設計です。
なぜ今、ガイドラインの法制化が進んでいるのか?
欧米ではコロナ開始から1年経過した時点で融資額が減少しているのに対し、日本では最後のゼロゼロ融資が行われるなど、融資の拡大が継続してきました。一方で過剰債務感も強まっており、日本政策金融公庫総合研究所「中小企業の経営課題に関する調査(2022年10月調査)」によると、30.2%の中小企業が「債務が過剰である」と回答しています。同調査では、33.0%の中小企業が「事業再構築への負担がある」と回答しており、政府は私的整理への誘導を通じて債務整理を進め、再編を促す方向で動いていると読むのが自然です。
あわせて思い出したいのが、経営者保証についての説明義務の法制化(関連:経営者保証に関するガイドライン)や、ゼロゼロ融資借り換えの条件として金融機関との協議が盛り込まれた点です。これらは、各種ガイドラインの強制力を実質的に高める動きとも言え、今回の法制化もその流れの一環と位置付けられます。
政府の問題意識と今後の流れはどう読むか?
政府の問題意識を「過剰債務とその処理」と捉えると、金融機関に当事者意識を促し、私的整理も視野に経営に関与させていく方向で運用が進む可能性が高いと考えられます。詳細は最新「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」についての解説もあわせてご確認ください。
ゼロゼロ融資の私的整理で単純な債権放棄を行うと、国民負担についての議論が起きる可能性があります。そのため、再建が難しい案件はDES(デット・エクイティ・スワップ)で債務を株式化し、地域経済活性化支援機構(REVIC)のような公的機関が一時的に株主として経営に関与する流れになる可能性が高いと見ています。金融機関は債権放棄による損失計上を避けつつ、企業は財務体質を改善して事業再生に向けた新たな資本を確保できるという構造です。
中小企業側としては、まず自社の財務状況を正確に把握し、実現可能な事業再生計画を早期に策定することが不可欠です。あわせて、金融機関や弁護士、税理士、M&Aアドバイザー(M&A支援機関協会登録専門家など)と密に連携し、最適な再生スキームを検討する準備を進めることが重要です。
「再生か延命か」の論点をどう読むか?
M&AOnlineの記事では、抜本的な財務体質改善が伴わなければ延命にしかならないという指摘もあり、「多数決決議で反対した対象債権者にも配慮する適切な仕組みづくりが求められる」と締めくくられています。
株式会社日本財務戦略センターとしては、少し違う見方もあります。今回の枠組みでは、多数決で私的整理に進む場合でも、最終的に裁判所が再構築計画を認可するか判断します。私的整理の入口が広がる一方で、再構築計画の実現可能性が厳しく問われるため、計画が不十分・債権者間の利害調整が困難といった理由で裁判所で決裂した場合、それは事業再生が客観的に困難という判断が下されたことを意味します。
従来の私的整理のように曖昧なまま時間だけが過ぎる状況は減り、破産申立て等の次の法的ステップへの移行が、より迅速かつ明確になる可能性が高いと見ています。
中小企業が今から備えるべき実務論点は?
事業再構築案を立てられない企業は、私的整理の入口でも受け入れられにくくなる可能性があります。これは、早期に自社の事業の将来性を見極め、実現可能な再構築計画を策定できるかが、企業の命運を分けるポイントになることを意味します。
漫然と時間を過ごすのではなく、専門家と連携し、自社で何がどこまでできるのかを冷静に見極め、迅速な経営判断を下すことが、これまで以上に求められます。株式会社日本財務戦略センターでは、代表取締役の五十嵐悠一が、財務・税務・法務の論点を実務目線で整理し、再構築計画策定の前段階からご一緒に検討します。
※M&A実務の最終判断には、弁護士・税理士・公認会計士など専門家への相談が不可欠です。日本財務戦略センター(JFSC) のM&Aセカンドオピニオン無料相談もご活用ください。
よくあるご質問
私的整理円滑化法と従来の私的整理ガイドラインは、どう違うのですか?
従来のガイドラインは法的拘束力がなく、対象債権者全員の同意が必要でした。新法案では、対象債権者の多数(例:総議決権の2/3以上)の同意で再構築計画を可決できる一方で、最終的に裁判所が計画を認可する仕組みが組み込まれており、計画の実現可能性が厳しく問われる点が大きな違いです。
多数決で私的整理に進められるなら、再生のハードルは下がるのですか?
入口は広がりますが、出口の品質は裁判所が認可で確認するため、計画の実現可能性が低い案件は通りにくくなります。漫然と時間を過ごす私的整理は減り、再構築計画を立てられない企業は早期に法的整理へ移行せざるを得ない可能性が高まります。
中小企業はこの法整備の動きに、どう備えるべきですか?
まず自社の財務状況を正確に把握し、実現可能な事業再生計画を早期に策定することが不可欠です。金融機関・弁護士・税理士・M&Aアドバイザーと早い段階から連携し、私的整理・DES・M&Aを含む再生スキームの選択肢を整理しておくことをおすすめします。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件における法務・税務・会計判断を提供するものではありません。法務・税務・会計の個別判断は、弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください。M&Aのスキーム設計・タイミング・買い手探し等のアドバイザリーは、株式会社日本財務戦略センターにご相談ください。記載内容は公開時点の情報に基づき、法令改正や市場変動により最新の状況と異なる場合があります。
よくあるご質問(FAQ)
📅 本記事の情報基準日
本記事は 2022年11月7日 公開時点の情報に基づきます。税制・法令等は改正される場合があるため、最新の制度・税制は公的機関の公式情報をご確認ください。
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