2022.11.07 M&A実務

私的整理円滑化法とは何か?多数決による事業再構築と中小企業が今から備えるべき実務論点

私的整理円滑化法(仮称・新たな事業再構築のための法制度)は、私的整理を行う際に必要とされてきた債権者全員の同意要件を緩和し、対象債権者の多数(例:総議決権の2/3以上)の同意で再構築計画案を可決できるようにする法整備の方向性です。多数決での私的整理を可能にする一方で、最終的に裁判所が再構築計画を認可するプロセスが組み込まれるため、再構築計画の実現可能性が厳しく問われる枠組みでもあります。

【この記事の結論】新法案は多数決による私的整理を可能にし、事業再生の迅速化を促す一方で、実現性の低い計画は早期に法的整理へ移行させる厳しさも併せ持ちます。中小企業は、早期の計画策定と専門家との連携が不可欠です。株式会社日本財務戦略センター 代表取締役の五十嵐悠一が、政策の流れと実務論点を整理します。なお、契約条項・税務処理・債務整理の個別判断は、税理士弁護士など各分野の専門家にご相談ください。

「私的整理円滑化法」とは何を目指す法整備か?

「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」(令和4年6月7日閣議決定)において、コロナ後の事業再構築を容易にするため、新たな事業再構築のための法制度を検討するとの内閣官房リリースが出ました。これが通称「私的整理円滑化法」と呼ばれる枠組みの議論の出発点です。

従来は、私的整理を行うには対象債権者全員の同意が必要で、合意が得られないと進められないという問題がありました。たとえば製造業A社が資金繰り悪化により私的整理を試みた際、主要取引銀行は支援に前向きでも、一部の地方銀行が自社の回収を優先して債権放棄に同意せず、結果として事業再生計画が頓挫し、本来再生可能であった会社が法的整理へ移行せざるを得ないケースが現場では起こり得ます。

私的整理ガイドラインでも私的整理をしやすくする方向性は示されてきましたが、ガイドラインには法的拘束力がなく限界がありました。新法案は、その制度的な隙間を埋めることを狙ったものです。

多数決による事業再構築は、どんな仕組みで運用されるのか?

政府が示した「新たな事業再構築のための法制度の方向性(案)」には、対象債権者集会における再構築計画案の決議として、以下のような枠組みが示されています。

従来の「全員同意」から「多数決」へとハードルが下がる一方で、最終的に裁判所が再構築計画を認可するプロセスが組み込まれている点が肝です。「私的整理の入口は広がるが、出口の質は裁判所が確認する」という設計です。

なぜ今、ガイドラインの法制化が進んでいるのか?

欧米ではコロナ開始から1年経過した時点で融資額が減少しているのに対し、日本では最後のゼロゼロ融資が行われるなど、融資の拡大が継続してきました。一方で過剰債務感も強まっており、日本政策金融公庫総合研究所「中小企業の経営課題に関する調査(2022年10月調査)」によると、30.2%の中小企業が「債務が過剰である」と回答しています。同調査では、33.0%の中小企業が「事業再構築への負担がある」と回答しており、政府は私的整理への誘導を通じて債務整理を進め、再編を促す方向で動いていると読むのが自然です。

あわせて思い出したいのが、経営者保証についての説明義務の法制化(関連:経営者保証に関するガイドライン)や、ゼロゼロ融資借り換えの条件として金融機関との協議が盛り込まれた点です。これらは、各種ガイドラインの強制力を実質的に高める動きとも言え、今回の法制化もその流れの一環と位置付けられます。

政府の問題意識と今後の流れはどう読むか?

政府の問題意識を「過剰債務とその処理」と捉えると、金融機関に当事者意識を促し、私的整理も視野に経営に関与させていく方向で運用が進む可能性が高いと考えられます。詳細は最新「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」についての解説もあわせてご確認ください。

ゼロゼロ融資の私的整理で単純な債権放棄を行うと、国民負担についての議論が起きる可能性があります。そのため、再建が難しい案件はDES(デット・エクイティ・スワップ)で債務を株式化し、地域経済活性化支援機構(REVIC)のような公的機関が一時的に株主として経営に関与する流れになる可能性が高いと見ています。金融機関は債権放棄による損失計上を避けつつ、企業は財務体質を改善して事業再生に向けた新たな資本を確保できるという構造です。

中小企業側としては、まず自社の財務状況を正確に把握し、実現可能な事業再生計画を早期に策定することが不可欠です。あわせて、金融機関や弁護士税理士M&AアドバイザーM&A支援機関協会登録専門家など)と密に連携し、最適な再生スキームを検討する準備を進めることが重要です。

「再生か延命か」の論点をどう読むか?

M&AOnlineの記事では、抜本的な財務体質改善が伴わなければ延命にしかならないという指摘もあり、「多数決決議で反対した対象債権者にも配慮する適切な仕組みづくりが求められる」と締めくくられています。

株式会社日本財務戦略センターとしては、少し違う見方もあります。今回の枠組みでは、多数決で私的整理に進む場合でも、最終的に裁判所が再構築計画を認可するか判断します。私的整理の入口が広がる一方で、再構築計画の実現可能性が厳しく問われるため、計画が不十分・債権者間の利害調整が困難といった理由で裁判所で決裂した場合、それは事業再生が客観的に困難という判断が下されたことを意味します。

従来の私的整理のように曖昧なまま時間だけが過ぎる状況は減り、破産申立て等の次の法的ステップへの移行が、より迅速かつ明確になる可能性が高いと見ています。

中小企業が今から備えるべき実務論点は?

事業再構築案を立てられない企業は、私的整理の入口でも受け入れられにくくなる可能性があります。これは、早期に自社の事業の将来性を見極め、実現可能な再構築計画を策定できるかが、企業の命運を分けるポイントになることを意味します。

漫然と時間を過ごすのではなく、専門家と連携し、自社で何がどこまでできるのかを冷静に見極め、迅速な経営判断を下すことが、これまで以上に求められます。株式会社日本財務戦略センターでは、代表取締役の五十嵐悠一が、財務・税務・法務の論点を実務目線で整理し、再構築計画策定の前段階からご一緒に検討します。

※M&A実務の最終判断には、弁護士・税理士・公認会計士など専門家への相談が不可欠です。日本財務戦略センター(JFSC) のM&Aセカンドオピニオン無料相談もご活用ください。

よくあるご質問

私的整理円滑化法と従来の私的整理ガイドラインは、どう違うのですか?

従来のガイドラインは法的拘束力がなく、対象債権者全員の同意が必要でした。新法案では、対象債権者の多数(例:総議決権の2/3以上)の同意で再構築計画を可決できる一方で、最終的に裁判所が計画を認可する仕組みが組み込まれており、計画の実現可能性が厳しく問われる点が大きな違いです。

多数決で私的整理に進められるなら、再生のハードルは下がるのですか?

入口は広がりますが、出口の品質は裁判所が認可で確認するため、計画の実現可能性が低い案件は通りにくくなります。漫然と時間を過ごす私的整理は減り、再構築計画を立てられない企業は早期に法的整理へ移行せざるを得ない可能性が高まります。

中小企業はこの法整備の動きに、どう備えるべきですか?

まず自社の財務状況を正確に把握し、実現可能な事業再生計画を早期に策定することが不可欠です。金融機関・弁護士・税理士・M&Aアドバイザーと早い段階から連携し、私的整理・DES・M&Aを含む再生スキームの選択肢を整理しておくことをおすすめします。

公開日: 2022年11月7日 / 最終更新日: 2026年5月22日
五十嵐 悠一

執筆者

五十嵐 悠一(いがらし ゆういち)

株式会社日本財務戦略センター 代表取締役

京都大学経済学部経営学科卒業。株式会社損害保険ジャパン本店営業部、東証上場M&A仲介会社を経て、2020年5月に日本財務戦略センターを設立。中小企業のM&A仲介・事業承継支援を専門とし、医療・介護・食品製造・流通卸・機械製造分野の成約実績を持つ。

資格:プロフェッショナルCFO(日本CFO協会)/M&Aエキスパート(金融業務2級 事業承継・M&Aコース)

公的登録:中小企業庁 M&A支援機関 登録事業者/一般社団法人 M&A支援機関協会 正会員

メディア登壇:株式会社サイゾー Business Journal ウェブセミナー講師「【売り手向け】M&Aを成功させるための具体的な行動・プロセス・知識」(2022年6月)[公式告知]

専門家コラム寄稿:BATONZ(国内最大級M&A プラットフォーム)に M&A・事業承継 74本(2021年〜継続)[コラム一覧]

|LinkedIn|X (@jfsc2020)|BATONZ

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件における法務・税務・会計判断を提供するものではありません。法務・税務・会計の個別判断は、弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください。M&Aのスキーム設計・タイミング・買い手探し等のアドバイザリーは、株式会社日本財務戦略センターにご相談ください。記載内容は公開時点の情報に基づき、法令改正や市場変動により最新の状況と異なる場合があります。

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よくあるご質問(FAQ)

この章のポイント
日本財務戦略センターへのご相談に関する共通の10問と、本記事に関する0問の計10問。
共通Q1. 日本財務戦略センターはどのような会社ですか?
A. 株式会社日本財務戦略センター(JFSC)は、中小企業オーナーの M&A・事業承継を「自分事として最後まで完結する」ためのご相談先です。仲介の独断ではなく、売り手の判断材料を整える立場を貫いています。会社概要もご覧ください。
共通Q2. 相談したら、必ず M&A しなければいけませんか?
A. いいえ、ご相談のみで結構です。相談後に「今回は見送ります」と判断いただいても問題ありません。M&A 以外の選択肢(廃業・親族承継・事業再生)も含めてご一緒に整理します。まずは無料相談からお気軽にどうぞ。
共通Q3. 相談料・着手金は発生しますか?
A. 初回相談・簡易査定・進行中の段階まで、すべて無料です。日本財務戦略センターは完全成功報酬制を採用しており、M&A 成約時のみご報酬が発生します。着手金・中間金・月額顧問料は一切いただきません。なお、案件特性により外部専門家への依頼や登記等の実費(例:司法書士の登記費用、外部監査法人による資産査定、譲受企業側からの弁護士・公認会計士による DD 費用 等)が発生する場合は、必ず事前にご相談・ご同意のうえ進めますので、不意の費用負担は生じません。詳細は弊社の報酬体系をご確認ください。
共通Q4. 一般的な M&A 仲介会社と、どこが違いますか?利益相反はどう開示されますか?
A. M&A 仲介は売主・買主の双方から報酬を得る「両手仲介」が業界慣行で、構造的な利益相反のリスクがあります。そのうえで、業界には「誘い込む仲介」と「公開する仲介」の二類型があると当社は考えています。日本財務戦略センターは後者の立場で、契約締結時に重要事項説明書を交付し、両手仲介の構造を含めて文書でご説明したうえで、売り手の判断材料となる情報を整え、買い手の都合で交渉を急がせない姿勢を貫きます。これは経済産業省・中小企業庁中小 M&A ガイドライン第 3 版・2024 年 8 月改訂、手数料算定基準の開示・買い手信用調査等を留意事項として明示)に則った対応です。二類型化の根拠は弊社独自の業界 20 社研究レポート、構造論の詳細は仲介契約 vs FA 契約の構造分析もご参照ください。
共通Q5. どれくらいの規模から相談できますか?
A. 年商数千万円規模の小規模事業から、数億円規模まで対応します。業界の多くの仲介会社では最低手数料を 2,000 万円以上に設定している傾向で、各社の最低手数料は中小企業庁M&A 支援機関登録制度・登録情報で確認いただけます。日本財務戦略センターの最低手数料は 700 万円で、小規模案件もお引き受けしています。具体的な報酬構造は弊社の報酬体系をご確認ください。
共通Q6. 税金・法律のことを詳しく教えてもらえますか?
A. 税務・法務は税理士法・弁護士法により、具体的な提案は弁護士・税理士等の専門家のみが行えます。当社は業界慣行の一般論をご説明した上で、顧問の先生方にご確認いただく形でご案内します。必要に応じて専門家ネットワークのご紹介も無料で行っています。
共通Q7. 家族や従業員に知られたくないのですが、可能ですか?
A. ご相談段階から NDA(秘密保持契約)を締結し、徹底管理します。社名を公開せずに買い手候補へ打診する「ノンネーム打診」の進め方も可能です。守秘義務体制については情報管理ポリシーでご確認いただけます。
共通Q8. 成約までどれくらいの期間がかかりますか?
A. 標準的には 3〜6 ヶ月程度を目安としてお考えください。買い手候補と事前に綿密な調整を行い、売主オーナー様のペースで進行します。スピード優先で売主の利益を損なう進め方は致しませんが、売主オーナー様のご事情・ご要望に応じて、最短 60 日での成約実績もございます。
共通Q9. デューデリジェンス(DD)では、どのような立場をとりますか?
A. 日本財務戦略センターは、売主オーナー様の利益を最優先に検討する立場を貫きます。仲介業の構造的な利益相反論点については仲介契約 vs FA 契約の構造分析で詳述しており、DD 費用負担の判例実務は東京地裁 DD 費用判決の射程でご確認いただけます。必要に応じて第三者の公認会計士・弁護士・税理士等の専門家をご紹介し、買い手寄りに偏らない査定体制を整えます。中小企業庁中小 M&A ガイドラインの遵守事項に則り、適切な情報開示を行います。
共通Q10. 対応エリアは限られますか?
A. 全国対応可能です。首都圏はもちろん、各地方都市でもご相談実績があります。オンライン面談と現地訪問を組み合わせ、所在地を問わず売主様のペースで進行します。まずは所在地を問わない無料相談をご利用ください。

📅 本記事の情報基準日

本記事は 2022年11月7日 公開時点の情報に基づきます。税制・法令等は改正される場合があるため、最新の制度・税制は公的機関の公式情報をご確認ください。

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