M&A仲介市場の健全化へ:中小企業庁の取り組みと経営者の視点
近年、事業承継や経営資源の有効活用を目的としたM&Aが中小企業の間でも活発化しています。しかし、その一方でM&A仲介業者の乱立により、一部で不適切な契約や高額な手数料を巡るトラブルが報告されるようになりました。依頼者が消費者保護法の対象外であるため、法的な保護を受けにくいケースも散見されます。こうした状況を受け、中小企業庁はM&A市場の健全化と中小企業の保護のため、具体的な対策に乗り出しています。
当時の河野太郎大臣(現デジタル大臣)もM&Aにおける課題を認識し、自身のブログやTwitterで対策の必要性に言及するなど、社会的な関心も高まっていました。本稿では、中小企業庁が公表した『中小M&Aガイドライン第3版』に基づき、M&A仲介における主要な問題点と、信頼できる仲介業者を見極めるためのポイントを解説します。
中小企業庁が問題視するM&A仲介の3大問題とは?
中小M&Aガイドラインでは、M&A仲介における特に注意すべき問題点として以下の3つを指摘しています。
- 利益相反の可能性:M&A仲介業者が譲り渡し側と譲り受け側の双方から手数料を得る構造上、一方の利益を優先するリスクが指摘されています。特に、リピーターになり得る買い手を優遇し、売り手の利益が損なわれるケースが懸念されます。ガイドラインでは、仲介者は両当事者への説明責任を果たし、バリュエーション(企業価値評価)やデュー・ディリジェンス(買収監査)といった客観性が求められる工程では、弁護士、税理士、公認会計士などの専門家に意見を求めるよう依頼者に促すことを求めています。仲介者が買収監査まで実施することは、客観的なチェック機能が失われトラブルのリスクを高めるため、専門家への依頼が不可欠です。
- 専任条項によるセカンドオピニオンの制限:M&A仲介契約において、他のM&A専門業者への依頼を禁止する専任条項が設けられることがあります。これは情報拡散の抑止など一定の合理性があるものの、依頼者が仲介業者の助言内容に疑義を持った際に、他の専門家や支援機関にセカンドオピニオンを求める機会を奪い、適切な判断を妨げるおそれがあります。ガイドラインでは、専任条項を設ける場合でも、契約期間を最長6ヶ月~1年以内を目安とし、依頼者が任意の時点で中途解約できる条項を明記するなど、その対象範囲を可能な限り限定すべきとしています。
- 不当なテール条項:契約終了後も一定期間(テール期間)内にM&Aが成立した場合に、仲介業者が手数料を請求できる条項です。仲介業者の労力に対する対価として一定の合理性は認められるものの、テール期間が不当に長期にわたる場合や、対象となる事業者が仲介業者が関与・接触していない企業にまで及ぶ場合は、譲り渡し側の自由な経営判断を損なうおそれがあります。ガイドラインでは、テール期間は最長2~3年以内を目安とし、対象は当該仲介業者が関与・接触し紹介した譲り受け側のみに限定すべきと提言しています。
中小M&A支援機関登録制度はなぜ創設されたのか?
M&A仲介市場の法的な規制が限定的であったため、上記のような問題が多発していました。これを受け、中小企業庁は2021年8月より「中小M&A支援機関登録制度」を創設し、市場の実態把握と健全化を図っています。
この制度に登録したM&A支援機関は、中小M&Aガイドラインを遵守することをウェブサイト等で公表し、適切な報告を行うことで、手数料の一部を補助金として受け取ることができます(上限400万円、補助率2/3)。これにより、仲介会社が依頼を受けやすい環境を整備し、同時に一定の品質を保証していることをアピールできるようになります。また、クレームに対して真摯に対応することが義務付けられ、要件が満たされない場合は登録が取り消されるなど、実効性のある制度設計がなされています。
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M&Aを検討する経営者にとって、仲介業者がこの制度に登録しているか、またガイドラインを遵守した説明を適切に行うかを見極めることは、安心してM&Aプロセスを進める上で極めて重要です。逆に、未登録の業者やガイドラインの遵守状況が不明確な業者には、利益相反、不適切な専任条項、不当なテール条項など、売り手にとって不利益となる「囲い込み」が行われるリスクが否定できません。
信頼できるM&A仲介業者を見極めるチェックポイントは?
M&Aを成功させるためには、信頼できる仲介業者を選ぶことが不可欠です。以下のポイントを参考に、慎重に業者を選定しましょう。
- 中小M&A支援機関登録制度への登録状況:中小企業庁が創設したこの制度に登録しているかを確認しましょう。登録は、一定の信頼性とガイドライン遵守の意思を示す重要な指標となります。
- 中小M&Aガイドラインの遵守状況:特に「利益相反」「専任条項」「テール条項」に関して、ガイドラインに沿った説明と契約内容であるかを詳細に確認してください。不明な点があれば、納得がいくまで質問することが重要です。
- 手数料体系の透明性:レーマン方式の適用範囲、最低手数料、着手金、中間金など、手数料体系が明確であるかを確認します。中小企業庁は、中小M&Aにおける最低手数料が500万円から600万円程度となるケースを想定し、補助金を設定していると推察されます。最低手数料がこの補助金の上限額(400万円)と大きく乖離している場合、その経済的妥当性を慎重に判断する必要があります。複数の仲介業者の手数料体系を比較検討し、日本政策金融公庫などの公的機関が提供するM&A関連融資の利用も視野に入れ、全体的なコストを評価しましょう。
- 専門家との連携体制:M&Aプロセスにおいて、客観的な企業価値評価や買収監査(デュー・ディリジェンス)は不可欠です。仲介業者が弁護士、公認会計士、税理士といった士業等の専門家への意見聴取を促すか、または信頼できる専門家を紹介できる体制があるかを確認しましょう。企業の信用情報については帝国データバンク(TDB)や東京商工リサーチ(TSR)などの情報も参考にしつつ、専門家による客観的な評価を受けることが重要です。
よくあるご質問
M&A仲介業者選びで最も重要なポイントは何ですか?
中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」遵守と「中小M&A支援機関登録制度」への登録状況が最も重要です。利益相反、専任・テール条項の適正性、手数料の透明性を確認し、専門家への相談を促す業者を選びましょう。
中小M&Aガイドラインの3大問題とは具体的に何ですか?
仲介者が双方から手数料を得る「利益相反」、他の専門家への相談を制限する「専任条項」、契約終了後も手数料を請求する「テール条項」です。これらは売り手の不利益につながる可能性があります。
登録制度に未登録のM&A仲介業者を避けるべきですか?
登録制度はM&A支援機関の信頼性を示す指標です。未登録業者やガイドライン遵守が不明確な業者には、不適切な契約や囲い込みのリスクが否定できません。登録業者を選ぶことで、より安心してM&Aを進められます。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件における法務・税務・会計判断を提供するものではありません。法務・税務・会計の個別判断は、弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください。M&Aのスキーム設計・タイミング・買い手探し等のアドバイザリーは、株式会社日本財務戦略センターにご相談ください。記載内容は公開時点の情報に基づき、法令改正や市場変動により最新の状況と異なる場合があります。
よくあるご質問(FAQ)
📅 本記事の情報基準日
本記事は 2021年9月13日 公開時点の情報に基づきます。税制・法令等は改正される場合があるため、最新の制度・税制は公的機関の公式情報をご確認ください。
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