2021.09.14 M&A実務

日本政策金融公庫を活用したスモールM&A資金調達:個人・小規模法人向け疑似LBO戦略

日本政策金融公庫(JFC)を活用したM&A資金調達とは、政府系金融機関であるJFCの融資制度を使い、中小企業や個人事業主が事業承継やM&Aに必要な資金を調達する手法です。特に、市中銀行では難しいとされるスモールM&Aや新規事業への融資に積極的であり、無担保融資の割合が高い点が特徴です。本記事では、このJFC融資を戦略的に活用し、個人や小規模法人がPEファンドのようにM&Aを展開する「疑似LBOスキーム」の可能性を探ります。

M&Aを検討する際、その実現に向けた資金調達は避けて通れない重要な課題です。大企業であれば豊富な現預金やメインバンクからの大規模融資で対応可能ですが、本記事では、小規模事業者や個人がM&Aを行うケースに焦点を当て、日本政策金融公庫(以下、公庫)の活用を前提に、その可能性を深掘りします。

さらに、単なる資金調達方法の解説に留まらず、M&Aを積極的に展開していきたい個人や小規模法人が、初期段階で法人を新設し、そこで融資を受けることで、まるでPEファンドのような戦略的なM&Aを実現できないかという「疑似LBOスキーム」についても考察します。日本財務戦略センター(JFSC)代表のM&Aアドバイザリーとして数多くのスモールM&A案件を手掛け、特に資金調達面でクライアントを支援してきた経験と、多くのクライアント様への資金調達支援を通じて培った知見に基づき、その実現可能性と潜在的なリスクを解説します。

M&A資金調達に日本政策金融公庫のどの融資制度が活用できますか?

M&A、特に事業承継を目的とした資金調達には、公庫の「国民生活事業」と「中小企業事業」の二つの融資制度が活用できます。具体的な制度については、日本政策金融公庫の事業承継・集約・活性化支援資金のページで詳細をご確認いただけます。それぞれ上限額(国民生活事業で7,200万円、中小企業事業で7億2千万円)が設定されており、「事業承継」や「経営権の確保(M&A)」が融資対象として明記されています。

国全体で中小企業の事業承継を促進する方針が示されており、中小企業庁経済産業省も様々な支援策を打ち出しています。公庫の融資制度は、こうした国の政策と密接に連携しており、中小M&Aガイドライン第3版に沿ったM&Aを後押しする役割も担っています。

日本政策金融公庫をM&A資金調達に利用するメリット・デメリットは何ですか?

公庫をM&A資金調達に活用する最大のメリットは、公庫自体が事業承継に対して非常に積極的な姿勢であることです。政府系金融機関として、市中銀行では対応が難しい案件を補完する役割を担っており、政府がM&Aを通じた事業承継を促進している背景から、公庫もM&Aに積極的に取り組んでいます。

具体的な数字を見ると、2019年度の事業承継・集約・活性化支援資金の融資件数(国民生活事業)のうち、第三者承継に係る融資は707件でした。MAARの記事によると、2019年のM&A件数は顕在化されているだけで約4,100件であり、顕在化していないものを含めるとM&A全体の件数が8,000件、うち6割がスモールM&Aと仮定すると、公庫の融資件数はスモールM&A全体の20%弱を占める計算となり、当時の状況としては積極的に融資を行っていたと言えるでしょう。なお、707件のうち約2割は民間金融機関との協調融資を行っており、これにより上限額以上の資金調達も可能になるケースもあります。

また、事業承継を行った法人の多くが5人以下の小規模法人であるというデータは、いわゆる「会社組織として固まっている」法人でなくとも融資を受けられていることを示唆しており、これはM&Aを検討する個人や小規模事業者にとって大きなプラス材料です。

もう一つの大きなメリットは、無担保融資が全体の9割を占めていることです。政府は経営者保証に関するガイドラインを策定し、個人からの連帯保証に過度に依存しない融資慣行を推進していますが、いまだに連帯保証を求める金融機関も少なくありません。これが事業承継の足かせとなる現実がある中で、公庫の無担保融資は、買い手のリスクを軽減し、M&Aをより円滑に進める上で非常に有効な手段となります。

一方で、公庫融資にはいくつかのデメリットも存在します。例えば、審査期間が市中銀行と比較して長くなる傾向があること、提出を求められる書類が多岐にわたり準備に手間がかかること、そして特に大規模なM&A案件においては融資額に上限があるため、資金ニーズを完全に満たせない可能性がある点です。また、事業計画の策定には高い精度が求められ、その内容が融資の可否を大きく左右します。

上記のデータについては公庫の特集ページで詳細をご確認いただけます。

日本政策金融公庫を活用した「疑似LBOスキーム」とはどのような戦略ですか?

ここからは、M&Aをより戦略的に、かつ効率的に進めるための「思考実験」として、公庫融資を活用した「疑似LBOスキーム」について深掘りします。これは、M&Aアドバイザリーとして私自身が多くのクライアント様と議論し、その可能性を探ってきたテーマでもあります。実際に、手元資金が限られるものの、複数の事業を統合することで大きなシナジーを見込めるクライアントに対し、この疑似LBOスキームを提案し、新設法人での公庫融資獲得から買収実行までを支援した経験があります。

PEファンドなどがよく用いるLBO(Leveraged Buyout:レバレッジド・バイアウト)は、日本政策投資銀行からの引用にもある通り、借入金を活用して企業や事業を買収するM&Aの形態です。買い手は少ない自己資金(エクイティ)で買収を実現し、買収対象会社の安定的なキャッシュフローを借入金の返済に充てることで、自己資金に対する高いリターンを目指します。

このLBOの考え方を、個人や小規模法人のM&Aに応用できないか、というのが「疑似LBOスキーム」の核心です。具体的には、「非公開法人に投資を行う会社」を新設し、その新設法人で公庫から融資を受け、その融資と自己資金(エクイティ)を買収資金とすることで、PEファンドが行うようなM&A戦略を、自分自身の裁量で展開していくというものです。

例えば1,000万円で売られている会社があるとします。これを個人が直接1,000万円の融資を受けて買収した場合、将来会社を売却する際に個人に資金が入ってしまい、税務上の取り扱いが複雑になる可能性があります。そこで、まず法人を設立し、その新設法人で1,000万円の創業融資(または事業承継融資)を受け、その資金で対象会社を買収し子会社化します。こうすることで、買収した会社を成長させ第三者に譲渡した場合、その譲渡益は新設した法人に入ってくるため、次のM&A資金として活用しやすくなります。また、融資を活用することで手持ち資金のキャッシュアウトを抑え、資金効率よくM&Aを進めることが可能になります。

疑似LBOスキームを成功させるための注意点やリスクは何ですか?

このスキームを検討する上で、いくつかのハードルとリスクを理解しておく必要があります。

このように、公庫融資を活用して「非公開企業に投資を行う法人」を新設し、その法人で融資を受けて買収することで、手持ち資金の効率化と、M&Aを通じた事業成長の加速が期待できます。これは単なる「思考実験」に留まらず、私自身のM&Aアドバイザリー経験からも、特定の条件下で有効な選択肢となり得る戦略です。

このスキームを具体的に検討される方は、ぜひ専門家にご相談ください。JFSCでは、M&Aアドバイザリーとして、このような戦略的な資金調達からM&A実行、PMIに至るまで、一貫したサポートを提供しております。また、M&A支援機関協会事業承継・引継ぎ支援センターなども、M&Aに関する情報提供や相談窓口を設けています。

※M&A実務の判断には、税務・法務・財務の専門知識が不可欠です。本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別のM&A案件における具体的な判断は、必ず専門家との相談を通じて行ってください。JFSC では、M&Aアドバイザリーとしての豊富な実績と専門性に基づき、M&Aセカンドオピニオン無料相談を承っております。

よくあるご質問

日本政策金融公庫はスモールM&Aの資金調達に積極的ですか?

はい、日本政策金融公庫は政府系金融機関として、中小企業の事業承継やM&Aを積極的に支援しています。特に市中銀行では難しいとされる小規模案件や新規事業への融資に意欲的で、無担保融資の割合が高い点が特徴です。2019年度には第三者承継に係る融資が707件あり、スモールM&A全体の約20%を占めていました。

「疑似LBOスキーム」とは具体的にどのようなものですか?

疑似LBOスキームとは、個人や小規模法人が「非公開法人に投資を行う会社」を新設し、その新設法人で日本政策金融公庫から融資を受け、その資金で買収対象会社を子会社化する戦略です。これにより、自己資金の効率化を図り、買収した会社の成長益を法人内で再投資し、次のM&Aへと繋げるなど、PEファンドのような戦略的なM&A展開が可能になります。

公庫融資を活用したM&Aで特に注意すべき点は何ですか?

公庫融資を活用したM&Aでは、綿密な事業計画の策定と、安定したキャッシュフローを生み出す買収対象会社の選定が不可欠です。また、法人設立やM&A契約に伴う複雑な税務・法務手続きが発生するため、必ずM&Aに精通した税理士や弁護士といった専門家と連携し、スキームの適法性や税務上の影響、契約内容を十分に確認することが重要です。

公開日: 2021年9月14日 / 最終更新日: 2026年5月22日
五十嵐 悠一

執筆者

五十嵐 悠一(いがらし ゆういち)

株式会社日本財務戦略センター 代表取締役

京都大学経済学部経営学科卒業。株式会社損害保険ジャパン本店営業部、東証上場M&A仲介会社を経て、2020年5月に日本財務戦略センターを設立。中小企業のM&A仲介・事業承継支援を専門とし、医療・介護・食品製造・流通卸・機械製造分野の成約実績を持つ。

資格:プロフェッショナルCFO(日本CFO協会)/M&Aエキスパート(金融業務2級 事業承継・M&Aコース)

公的登録:中小企業庁 M&A支援機関 登録事業者/一般社団法人 M&A支援機関協会 正会員

メディア登壇:株式会社サイゾー Business Journal ウェブセミナー講師「【売り手向け】M&Aを成功させるための具体的な行動・プロセス・知識」(2022年6月)[公式告知]

専門家コラム寄稿:BATONZ(国内最大級M&A プラットフォーム)に M&A・事業承継 74本(2021年〜継続)[コラム一覧]

|LinkedIn|X (@jfsc2020)|BATONZ

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件における法務・税務・会計判断を提供するものではありません。法務・税務・会計の個別判断は、弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください。M&Aのスキーム設計・タイミング・買い手探し等のアドバイザリーは、株式会社日本財務戦略センターにご相談ください。記載内容は公開時点の情報に基づき、法令改正や市場変動により最新の状況と異なる場合があります。

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よくあるご質問(FAQ)

この章のポイント
日本財務戦略センターへのご相談に関する共通の10問と、本記事に関する0問の計10問。
共通Q1. 日本財務戦略センターはどのような会社ですか?
A. 株式会社日本財務戦略センター(JFSC)は、中小企業オーナーの M&A・事業承継を「自分事として最後まで完結する」ためのご相談先です。仲介の独断ではなく、売り手の判断材料を整える立場を貫いています。会社概要もご覧ください。
共通Q2. 相談したら、必ず M&A しなければいけませんか?
A. いいえ、ご相談のみで結構です。相談後に「今回は見送ります」と判断いただいても問題ありません。M&A 以外の選択肢(廃業・親族承継・事業再生)も含めてご一緒に整理します。まずは無料相談からお気軽にどうぞ。
共通Q3. 相談料・着手金は発生しますか?
A. 初回相談・簡易査定・進行中の段階まで、すべて無料です。日本財務戦略センターは完全成功報酬制を採用しており、M&A 成約時のみご報酬が発生します。着手金・中間金・月額顧問料は一切いただきません。なお、案件特性により外部専門家への依頼や登記等の実費(例:司法書士の登記費用、外部監査法人による資産査定、譲受企業側からの弁護士・公認会計士による DD 費用 等)が発生する場合は、必ず事前にご相談・ご同意のうえ進めますので、不意の費用負担は生じません。詳細は弊社の報酬体系をご確認ください。
共通Q4. 一般的な M&A 仲介会社と、どこが違いますか?利益相反はどう開示されますか?
A. M&A 仲介は売主・買主の双方から報酬を得る「両手仲介」が業界慣行で、構造的な利益相反のリスクがあります。そのうえで、業界には「誘い込む仲介」と「公開する仲介」の二類型があると当社は考えています。日本財務戦略センターは後者の立場で、契約締結時に重要事項説明書を交付し、両手仲介の構造を含めて文書でご説明したうえで、売り手の判断材料となる情報を整え、買い手の都合で交渉を急がせない姿勢を貫きます。これは経済産業省・中小企業庁中小 M&A ガイドライン第 3 版・2024 年 8 月改訂、手数料算定基準の開示・買い手信用調査等を留意事項として明示)に則った対応です。二類型化の根拠は弊社独自の業界 20 社研究レポート、構造論の詳細は仲介契約 vs FA 契約の構造分析もご参照ください。
共通Q5. どれくらいの規模から相談できますか?
A. 年商数千万円規模の小規模事業から、数億円規模まで対応します。業界の多くの仲介会社では最低手数料を 2,000 万円以上に設定している傾向で、各社の最低手数料は中小企業庁M&A 支援機関登録制度・登録情報で確認いただけます。日本財務戦略センターの最低手数料は 700 万円で、小規模案件もお引き受けしています。具体的な報酬構造は弊社の報酬体系をご確認ください。
共通Q6. 税金・法律のことを詳しく教えてもらえますか?
A. 税務・法務は税理士法・弁護士法により、具体的な提案は弁護士・税理士等の専門家のみが行えます。当社は業界慣行の一般論をご説明した上で、顧問の先生方にご確認いただく形でご案内します。必要に応じて専門家ネットワークのご紹介も無料で行っています。
共通Q7. 家族や従業員に知られたくないのですが、可能ですか?
A. ご相談段階から NDA(秘密保持契約)を締結し、徹底管理します。社名を公開せずに買い手候補へ打診する「ノンネーム打診」の進め方も可能です。守秘義務体制については情報管理ポリシーでご確認いただけます。
共通Q8. 成約までどれくらいの期間がかかりますか?
A. 標準的には 3〜6 ヶ月程度を目安としてお考えください。買い手候補と事前に綿密な調整を行い、売主オーナー様のペースで進行します。スピード優先で売主の利益を損なう進め方は致しませんが、売主オーナー様のご事情・ご要望に応じて、最短 60 日での成約実績もございます。
共通Q9. デューデリジェンス(DD)では、どのような立場をとりますか?
A. 日本財務戦略センターは、売主オーナー様の利益を最優先に検討する立場を貫きます。仲介業の構造的な利益相反論点については仲介契約 vs FA 契約の構造分析で詳述しており、DD 費用負担の判例実務は東京地裁 DD 費用判決の射程でご確認いただけます。必要に応じて第三者の公認会計士・弁護士・税理士等の専門家をご紹介し、買い手寄りに偏らない査定体制を整えます。中小企業庁中小 M&A ガイドラインの遵守事項に則り、適切な情報開示を行います。
共通Q10. 対応エリアは限られますか?
A. 全国対応可能です。首都圏はもちろん、各地方都市でもご相談実績があります。オンライン面談と現地訪問を組み合わせ、所在地を問わず売主様のペースで進行します。まずは所在地を問わない無料相談をご利用ください。

📅 本記事の情報基準日

本記事は 2021年9月14日 公開時点の情報に基づきます。税制・法令等は改正される場合があるため、最新の制度・税制は公的機関の公式情報をご確認ください。

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