M&A実務の最前線で長年にわたり多くの案件に携わってきた筆者は、以前、個人によるM&Aに対してはネガティブな印象を持っていました。しかし、バトンズ株式会社が提供する表明保証保険のようなインフラが整ってきたことで、その考え方は大きく変わりました。
近年、中小企業庁や経済産業省が公表するデータ(例:『中小企業白書』)でも、後継者不足を背景とした事業承継型M&Aの増加が指摘され、特に個人によるM&Aが活発化しています。M&A支援機関協会の動向分析によれば、小規模M&A市場における個人の買い手比率も顕著に増加しており、個人がM&A市場に参入する機会は確実に広がっています。ただし、コストをかけてインフラを利用する前提となるため、費用負担が発生する点はご留意ください。逆に言えば、適切な費用負担によってリスクは大幅に軽減されます。
※表明保証保険は、M&A取引におけるリスクを軽減するための重要なツールであり、中小M&Aガイドラインでもその活用が推奨されています。
個人M&Aで「優良案件」を見つけるには?
案件の探索にはM&Aプラットフォームというインフラが整備されており、幅広く案件を選択できます。しかし、プラットフォーム上の案件は、仲介で売れ残ったものや、価格目線が市場と乖離しているものなど、玉石混交であるのが実情です。
基本的に「優良案件」はM&A支援者の中で完結してしまうことや、情報流出を恐れるためプラットフォームに出さないことが一般的です。そのため、プラットフォームを活用しつつ、中小M&Aガイドラインに沿った適切なM&A支援者を選び、関係を構築することが重要です。事業承継・引継ぎ支援センターなども活用し、多角的な情報収集と相談を行うことをお勧めします。
M&A支援者や売り手から「選ばれる買い手」になるには?
M&A支援者は、案件を成約させるために買い手よりも売り手に対して慎重な対応を行います。買い手は他にも候補がいる可能性があるため、支援者や売り手から「選んでもらえるようになる」ことが成功の鍵です。具体的に以下の点に気をつけましょう。
自己紹介と検討理由を具体的に説明できていますか?
「よろしくお願いします」だけのコメントで秘密保持契約(NDA)締結申請を行うケースが散見されます。契約は拘束力があるものの、信頼できる相手としか締結しようとは思いません。以前、ある買い手の方が、自身の事業への熱意と、なぜこの事業を承継したいのかを具体的に語られたことで、売り手様が非常に感銘を受け、他の候補者よりも優先的に交渉を進めたいと申し出たケースがありました。自分がどういう人間でどういう経歴があるのか、なぜこの案件についてM&Aを行おうと思ったのか、最低限これらを最初に伝えることが信頼関係構築の第一歩です。
M&Aの資金計画を明確に提示できていますか?
熱意は理解できても、実際にM&Aを行う資力があるのかは次の懸念点です。少額の有利子負債の引き継ぎであれば問題ありませんが、実際には大きな金額が動きます。その点をどのように担保できるのかを予め説明しましょう。先に説明することで、売り手も安心し、トップ面談も具体的かつ前向きな話ができます。逆に、資金計画が不明瞭なまま交渉を進めようとした買い手は、最終的に売り手様から不信感を持たれ、交渉が中断してしまった事例も見てきました。例えば、日本政策金融公庫などからの融資を検討している場合でも、その可能性や計画を具体的に示すことが、売り手様への安心材料となります。
人間関係を築くための情報開示をしていますか?
出身地や経歴、趣味などが分かると、支援者の印象に残り、次の案件が出てきたときに声がかかる可能性が高まります。ただし、これは上記の自己紹介と資金計画がきちんとできている前提です。これらが不十分なまま自分の話ばかりしても、良い印象は持たれません。
丁寧なコミュニケーションを心がけていますか?
プラットフォームやネットでのやり取りが一般化し、いきなり連絡が取れなくなったり、交渉が中断されるケースがあります。条件が合わず見送りやブレイクすることは一般的ですが、その際も丁寧にお礼と見送りの理由を伝えることが重要です。ある買い手様は、交渉が中断した際も丁寧にお礼と見送りの理由を伝えられました。その誠実な姿勢が支援者の印象に残り、後日、別の優良案件が持ち上がった際に真っ先に声がかかり、成約に至ったという事例もあります。一つ一つのやり取りが未来に繋がる可能性があります。
トップ面談で事業へのリスペクトを伝えるには?
トップ面談の段階でも、相手は複数の買い手を選ぶことができます。「選ばれるため」には、自己紹介、人間関係構築、丁寧なやり取りが引き続き重要です。お金の話は支援者が行いますので、買い手は「今まで築いてきた事業を譲ってもらう」という気持ちを前面に押し出し、事業に対してリスペクトの気持ちを伝えながら、譲り受ける理由を説明してください。特に譲渡後も一緒に事業を進めることを想定する場合、ここが面と向かってアピールする絶好の機会です。買収監査時に条件などで売り手の気持ちが揺れることがありますが、ここでアピールしておくことで、その揺れ幅を減らすこともできるでしょう。
なお、この後の意向表明書の提出については、売り手によって濃淡があるため、支援者と十分に協議してください。
買収監査(デューデリジェンス(DD))とリスクヘッジの進め方は?
個人のM&Aでは、バトンズ株式会社が提供するような表明保証保険の活用を強く推奨します。個人の資力だけで譲受を行った場合、譲渡後に予期せぬ持ち出しが発生し、事業が立ち行かなくなるリスクが極めて高いためです。
買収監査はひな形に基づいて行われることが多く、適切な支援者であれば、譲渡後の運営も含めてリスクとなりそうな点を買い手であるあなたに確認するはずです。そのリスクファクターをご自身で解決するのか、保険でリスクヘッジを行うのか、あるいはそれ以外の手段をとるのかを、ご自身の資力と相談しながら支援者と検討されると良いでしょう。
最終条件交渉と譲渡実行を円滑に進めるには?
最終条件の提示では、買収監査で見つかった瑕疵をどう扱うかが問題となります。金額調整、分割払いでのリスクヘッジ、あるいは特別条項として別に定めるなど、様々な方法があります。表明保証保険でカバーできる範囲であれば、交渉の範囲を減らすことができます。
この調整こそがM&A支援者の大きな役割です。単なるマッチングだけでなく、動いている事業を条件調整しながら、波風立てずに受け継ぐプロセスは非常に複雑で専門的な知見を要します。譲渡実行後は統合プロセス(PMI)(Post Merger Integration)に従って引き継いでいく流れになりますが、個人レベルであればDDの段階のやり取りでビジネス面での課題も出てくるため、協力して解決していく流れが一般的かもしれません。
M&A実務の判断には専門家との相談が不可欠です。日本財務戦略センター(JFSC)(Japan Financial Support Center)は、M&Aに関する専門的な知見を提供する独立系アドバイザリー組織であり、筆者もその一員として活動しております。JFSCではM&Aセカンドオピニオン無料相談を承っております。M&Aプロセスにおける疑問や不安を解消し、客観的な視点からアドバイスを受けることで、買い手としての信頼性を高め、『選ばれる買い手』となるための戦略を共に検討することが可能です。専門家のアドバイスを活用し、成功への道を切り開きましょう。
よくあるご質問
個人M&Aの主なメリットとデメリットは何ですか?
メリットは、既存事業を承継することでゼロから立ち上げるよりもリスクが低く、事業基盤や顧客、従業員を引き継げる点です。デメリットとしては、多額の資金が必要になること、簿外債務や偶発債務のリスク、そしてM&Aプロセスが複雑で専門知識が求められる点が挙げられます。
個人M&Aにおける資金調達はどのように進めれば良いですか?
自己資金に加え、日本政策金融公庫や金融機関からの融資が一般的です。事業計画の具体性や個人の信用力が重要となります。M&A支援者と連携し、実現可能な資金計画を早期に策定し、売り手や金融機関に明確に提示することが成功の鍵となります。
個人M&Aで専門家(M&A支援者)のサポートは必須ですか?
はい、M&Aは法務、税務、財務など多岐にわたる専門知識が必要なため、専門家のサポートは不可欠です。適切な支援者は、案件探しから交渉、買収監査、契約締結、リスクヘッジまで一貫してサポートし、個人買い手が『選ばれる買い手』となるための戦略を共に検討してくれます。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件における法務・税務・会計判断を提供するものではありません。法務・税務・会計の個別判断は、弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください。M&Aのスキーム設計・タイミング・買い手探し等のアドバイザリーは、株式会社日本財務戦略センターにご相談ください。記載内容は公開時点の情報に基づき、法令改正や市場変動により最新の状況と異なる場合があります。
よくあるご質問(FAQ)
📅 本記事の情報基準日
本記事は 2020年10月30日 公開時点の情報に基づきます。税制・法令等は改正される場合があるため、最新の制度・税制は公的機関の公式情報をご確認ください。
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