2024.04.19 M&A実務

160年続く老舗が直面したM&Aの落とし穴:適正価格と高額手数料を回避する専門家活用の鉄則

M&Aにおける売り手保護とは、事業承継や売却を検討する経営者が、不当な低額譲渡や高額な仲介手数料、不適切な契約誘導などから自社を守り、適正な企業価値評価と公正な条件でM&Aを成立させるための取り組みを指します。特に中小企業ガイドライン遵守は、売り手にとって極めて重要です。

160年続いた老舗和菓子屋が、M&Aにより2,000万円で売却されたものの、仲介手数料として1,500万円が徴収され、手元にわずか500万円しか残らなかった――。このような衝撃的な事例が報じられ、M&Aにおける売り手保護の重要性が改めて浮き彫りになりました。本記事では、この事例を深掘りし、中小企業庁のM&Aガイドラインに基づき、売り手経営者が適正なM&Aを実現するために不可欠な専門家活用と注意点について、M&A仲介の専門家である五十嵐悠一が解説します。

この記事の結論:160年続いた老舗が2,000万円で売却→手数料1,500万円持っていかれ手元500万円という事例。背景には専門家相談禁止の指導・最低手数料・即決契約のリスクあり。中小企業庁ガイドラインでは税理士弁護士相談やセカンドオピニオンの推奨が明記されており、活用が必須です。

なぜ老舗は低額で買い叩かれたのか?:専門家相談の重要性

報道された事例では、M&A仲介会社が売り手に対し「税理士などに相談するな」と指導したとされています。しかし、これは中小企業庁が策定した中小M&Aガイドライン第3版に明確に反する行為です。同ガイドラインでは、M&A仲介会社に対し、税理士や弁護士といった各士業の専門家への相談を肯定し、セカンドオピニオンを求めることも推奨するよう指導しています。M&Aは税務、法務、財務など多岐にわたる専門知識を要するため、複数の専門家による多角的な視点からのアドバイスが不可欠です。

また、税理士が「なぜそんな低額で決めたのか」と発言した点についても考察が必要です。税理士は税務申告や税務相談の専門家であり、事業価値評価においては公認会計士やM&A専門家が財務会計や企業価値評価の専門知識を用いて行います。事業価値評価には、純資産価額法、類似会社比較法、収益還元法(割引キャッシュフロー(DCF)法など)といった複数の手法があり、秘伝のレシピや百貨店への進出実績といった無形資産も考慮されるべきです。売上低下や店舗の赤字といったマイナス要因だけでなく、事業の潜在的な価値を多角的に評価することで、より適正な価格帯が見えてくる可能性があります。M&Aの適正価格判断には、税務だけでなく、財務、法務、事業戦略など、幅広い専門家のアドバイスが不可欠であることを理解しておくべきでしょう。

「とんとん拍子」のM&A交渉に潜むリスクとは?:交渉力の確保

「とんとん拍子に話が進んだ」という状況は、一見スムーズに見えますが、M&A実務においては注意が必要です。M&A交渉は、初期の意向表明から基本合意、最終契約に至るまでに、価格交渉、デューデリジェンスでの問題発覚、契約条件の調整など、少なくとも3回は大きな「山場」を迎えるのが一般的です。売り手側の事業の将来性や技術力、従業員の雇用維持、引継ぎ期間といった希望条件を丁寧に説明し、買い手側との複数回の交渉を経て、最終的な合意に至るのが健全なプロセスです。

もし交渉が「とんとん拍子」に進むのであれば、それは買い手側にとって交渉上の大きな「山」がなかった、つまり、売り手側が十分な交渉力を発揮できなかった可能性を示唆します。双方の利益を最大化する交渉を調整するのであれば、価格や条件面で何らかの意見の相違が生じ、それを乗り越えるプロセスがあるのが自然です。ストレスなく進むことが必ずしも売り手にとって有利とは限らないため、M&A仲介会社が売り手側の利益を最大限に引き出すための交渉を尽くしているか、その進捗やフィードバックが丁寧に伝えられているかを常に確認することが重要です。

不適切なM&A仲介への対処法と情報提供窓口

「契約してしまって後悔している」という状況は、売り手経営者にとって非常に辛いものです。民法上「禁反言」の原則があり、一度決めたことは守るべきとされますが、もし一連のプロセスにおいて仲介側の故意もしくは不作為による不適切な行為があった場合は、主張を検討する余地があります。

特に、中小企業庁はM&A支援機関登録制度を設け、不適切なM&A仲介行為に関する情報提供を求めています。もし不当な行為に遭遇したと感じた場合は、下記の窓口に情報提供を行うことを検討してください。これにより、今後の同様の被害を防ぐことにも繋がります。

情報提供受付窓口に関する問い合わせ先

M&A支援機関登録事務局内 情報提供受付窓口
問合せ先Eメール: jouhouteikyou@ma-shienkikan.go.jp
TEL:03-6867-1478
URL : https://ma-shienkikan.go.jp/inappropriate-cases
受付時間:平日 10:00~17:00

M&A仲介手数料の適正水準を見極めるには?:コストと価値のバランス

2,000万円の売却額に対し、1,500万円もの手数料が徴収された事例は、手数料水準の適正性について深く考えるきっかけとなります。M&A仲介手数料は、レーマン方式を基本としながらも、各社で最低手数料の設定や料率が大きく異なるのが実情です。同じ買い手で同じ買収価格になるのであれば、コストを抑えられる仲介会社を選ぶのが合理的です。

M&A仲介会社を選ぶ際には、提示される手数料体系を事前に詳細に確認し、複数の仲介会社から見積もりを取るなどして比較検討することが極めて重要です。また、単に手数料が安いだけでなく、その仲介会社がどれだけ売り手の利益を最大化するための交渉力や専門性を持っているかを見極める必要があります。多くの場合、事業承継後のノウハウ引き継ぎのために、売り手経営者が役員や顧問として一定期間会社に残るケースも多く、年金暮らしだけになるという状況は考えにくいでしょう。

まとめ:後悔しないM&Aのために、専門家との連携を

160年続いた老舗のM&A事例は、M&Aプロセスにおける専門家相談の重要性、交渉の質、そして手数料の適正性について、私たちに多くの教訓を与えてくれます。M&Aは経営者にとって人生を左右する大きな決断であり、そのプロセスは法律、会計、税務、事業戦略など多岐にわたる専門知識を要します。

後悔しないM&Aを実現するためには、中小企業庁のM&Aガイドラインを遵守し、信頼できるM&A専門家と早期に連携することが不可欠です。複数の専門家からセカンドオピニオンを得ることで、多角的な視点から自社の価値を正しく評価し、適正な条件でのM&Aを目指しましょう。日本財務戦略センター(JFSC)ではM&Aセカンドオピニオン無料相談を承っております。ご懸念点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

よくあるご質問

M&Aで適正な企業価値を判断するにはどうすれば良いですか?

適正な企業価値判断には、純資産価額法、類似会社比較法、収益還元法(DCF法)など複数の評価手法を組み合わせることが重要です。M&A専門家や公認会計士に依頼し、無形資産や将来性も考慮した多角的な評価を受けることを推奨します。

M&A仲介会社を選ぶ際の重要なポイントは何ですか?

仲介会社を選ぶ際は、中小企業庁ガイドライン遵守の有無、手数料体系の透明性、交渉実績、専門性、そして売り手の利益を最優先する姿勢を確認しましょう。複数の会社から提案を受け、比較検討することが肝要です。

不適切なM&A仲介行為に遭遇した場合、どうすれば良いですか?

不適切な仲介行為に遭遇した場合は、まず契約内容を再確認し、弁護士などの専門家に相談してください。また、中小企業庁のM&A支援機関登録事務局の情報提供窓口に状況を報告することも有効な手段です。

公開日: 2024年4月19日 / 最終更新日: 2026年5月22日
五十嵐 悠一

執筆者

五十嵐 悠一(いがらし ゆういち)

株式会社日本財務戦略センター 代表取締役

京都大学経済学部経営学科卒業。株式会社損害保険ジャパン本店営業部、東証上場M&A仲介会社を経て、2020年5月に日本財務戦略センターを設立。中小企業のM&A仲介・事業承継支援を専門とし、医療・介護・食品製造・流通卸・機械製造分野の成約実績を持つ。

資格:プロフェッショナルCFO(日本CFO協会)/M&Aエキスパート(金融業務2級 事業承継・M&Aコース)

公的登録:中小企業庁 M&A支援機関 登録事業者/一般社団法人 M&A支援機関協会 正会員

メディア登壇:株式会社サイゾー Business Journal ウェブセミナー講師「【売り手向け】M&Aを成功させるための具体的な行動・プロセス・知識」(2022年6月)[公式告知]

専門家コラム寄稿:BATONZ(国内最大級M&A プラットフォーム)に M&A・事業承継 74本(2021年〜継続)[コラム一覧]

|LinkedIn|X (@jfsc2020)|BATONZ

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件における法務・税務・会計判断を提供するものではありません。法務・税務・会計の個別判断は、弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください。M&Aのスキーム設計・タイミング・買い手探し等のアドバイザリーは、株式会社日本財務戦略センターにご相談ください。記載内容は公開時点の情報に基づき、法令改正や市場変動により最新の状況と異なる場合があります。

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よくあるご質問(FAQ)

この章のポイント
日本財務戦略センターへのご相談に関する共通の10問と、本記事に関する0問の計10問。
共通Q1. 日本財務戦略センターはどのような会社ですか?
A. 株式会社日本財務戦略センター(JFSC)は、中小企業オーナーの M&A・事業承継を「自分事として最後まで完結する」ためのご相談先です。仲介の独断ではなく、売り手の判断材料を整える立場を貫いています。会社概要もご覧ください。
共通Q2. 相談したら、必ず M&A しなければいけませんか?
A. いいえ、ご相談のみで結構です。相談後に「今回は見送ります」と判断いただいても問題ありません。M&A 以外の選択肢(廃業・親族承継・事業再生)も含めてご一緒に整理します。まずは無料相談からお気軽にどうぞ。
共通Q3. 相談料・着手金は発生しますか?
A. 初回相談・簡易査定・進行中の段階まで、すべて無料です。日本財務戦略センターは完全成功報酬制を採用しており、M&A 成約時のみご報酬が発生します。着手金・中間金・月額顧問料は一切いただきません。なお、案件特性により外部専門家への依頼や登記等の実費(例:司法書士の登記費用、外部監査法人による資産査定、譲受企業側からの弁護士・公認会計士による DD 費用 等)が発生する場合は、必ず事前にご相談・ご同意のうえ進めますので、不意の費用負担は生じません。詳細は弊社の報酬体系をご確認ください。
共通Q4. 一般的な M&A 仲介会社と、どこが違いますか?利益相反はどう開示されますか?
A. M&A 仲介は売主・買主の双方から報酬を得る「両手仲介」が業界慣行で、構造的な利益相反のリスクがあります。そのうえで、業界には「誘い込む仲介」と「公開する仲介」の二類型があると当社は考えています。日本財務戦略センターは後者の立場で、契約締結時に重要事項説明書を交付し、両手仲介の構造を含めて文書でご説明したうえで、売り手の判断材料となる情報を整え、買い手の都合で交渉を急がせない姿勢を貫きます。これは経済産業省・中小企業庁中小 M&A ガイドライン第 3 版・2024 年 8 月改訂、手数料算定基準の開示・買い手信用調査等を留意事項として明示)に則った対応です。二類型化の根拠は弊社独自の業界 20 社研究レポート、構造論の詳細は仲介契約 vs FA 契約の構造分析もご参照ください。
共通Q5. どれくらいの規模から相談できますか?
A. 年商数千万円規模の小規模事業から、数億円規模まで対応します。業界の多くの仲介会社では最低手数料を 2,000 万円以上に設定している傾向で、各社の最低手数料は中小企業庁M&A 支援機関登録制度・登録情報で確認いただけます。日本財務戦略センターの最低手数料は 700 万円で、小規模案件もお引き受けしています。具体的な報酬構造は弊社の報酬体系をご確認ください。
共通Q6. 税金・法律のことを詳しく教えてもらえますか?
A. 税務・法務は税理士法・弁護士法により、具体的な提案は弁護士・税理士等の専門家のみが行えます。当社は業界慣行の一般論をご説明した上で、顧問の先生方にご確認いただく形でご案内します。必要に応じて専門家ネットワークのご紹介も無料で行っています。
共通Q7. 家族や従業員に知られたくないのですが、可能ですか?
A. ご相談段階から NDA(秘密保持契約)を締結し、徹底管理します。社名を公開せずに買い手候補へ打診する「ノンネーム打診」の進め方も可能です。守秘義務体制については情報管理ポリシーでご確認いただけます。
共通Q8. 成約までどれくらいの期間がかかりますか?
A. 標準的には 3〜6 ヶ月程度を目安としてお考えください。買い手候補と事前に綿密な調整を行い、売主オーナー様のペースで進行します。スピード優先で売主の利益を損なう進め方は致しませんが、売主オーナー様のご事情・ご要望に応じて、最短 60 日での成約実績もございます。
共通Q9. デューデリジェンス(DD)では、どのような立場をとりますか?
A. 日本財務戦略センターは、売主オーナー様の利益を最優先に検討する立場を貫きます。仲介業の構造的な利益相反論点については仲介契約 vs FA 契約の構造分析で詳述しており、DD 費用負担の判例実務は東京地裁 DD 費用判決の射程でご確認いただけます。必要に応じて第三者の公認会計士・弁護士・税理士等の専門家をご紹介し、買い手寄りに偏らない査定体制を整えます。中小企業庁中小 M&A ガイドラインの遵守事項に則り、適切な情報開示を行います。
共通Q10. 対応エリアは限られますか?
A. 全国対応可能です。首都圏はもちろん、各地方都市でもご相談実績があります。オンライン面談と現地訪問を組み合わせ、所在地を問わず売主様のペースで進行します。まずは所在地を問わない無料相談をご利用ください。

📅 本記事の情報基準日

本記事は 2024年4月19日 公開時点の情報に基づきます。税制・法令等は改正される場合があるため、最新の制度・税制は公的機関の公式情報をご確認ください。

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