【この記事の結論】労働力不足が深刻化する日本で、テレワーク導入企業は採用力・固定費構造・人材定着率の観点でM&Aの評価軸において優位に立ちます。一方で、労務管理・情報セキュリティ・企業文化統合のリスクも顕在化しやすく、Valuation・DD・PMIの各フェーズでテレワーク特有の論点を個別検証する必要があります。株式会社日本財務戦略センター 代表取締役の五十嵐悠一が、実務目線で整理します。
労働力不足はM&A戦略にどう影響しますか?
人口減少と高齢化が進む日本では、労働力の確保と維持が経営の根幹を揺るがすテーマになっています。中小企業庁「2021年版小規模企業白書」でも、従業員規模1〜29人・30〜99人クラスの中小企業で雇用者数の減少傾向が示されています。帝国データバンクの人手不足調査(2022年1月)では正社員の人手不足割合が47.8%と発表されており、業界によっては7割超の不足感が継続している状況です。
こうした環境で、地域・通勤圏に縛られず人材を獲得できるテレワーク導入企業は、M&A市場における評価軸でプラス材料を持ちます。M&Aを通じてテレワーク導入企業を取り込むこと自体が、買い手にとって人材戦略の一手として位置付け直されつつあります。
テレワーク導入企業のValuationはどう変わりますか?
テレワーク導入は、企業価値評価に複数の観点でプラス・マイナスの影響を与えます。プラス側は、オフィス賃料・通勤手当・光熱費などの固定費削減効果と、地理的制約を超えた人材獲得力です。厚生労働省の令和2年度テレワーク労務管理に関する総合的実態調査によれば、テレワーク実施従業員のうち継続したいと回答した割合は86.4%に上り、人材定着力にも寄与しています。
一方、マイナス側のリスクとして、情報セキュリティ対策の不備、コミュニケーション希薄化による業務効率低下、企業文化の希薄化などが挙げられます。これらが顕在化した場合の事業継続性への影響も、Valuationの織り込みポイントになります。なお、Valuationの最終算定(割引キャッシュフロー(DCF)法・類似会社比較法・純資産法等)は公認会計士・税理士など専門家にご確認ください。
テレワーク導入企業のDDで何を確認すべきですか?
テレワーク導入企業のデューデリジェンスでは、通常のDDに加え、以下の論点を個別に検証する必要があります。
- 労務DD:テレワークに関する就業規則・労働協約・勤怠管理システム・評価制度・費用負担規定が、厚生労働省のテレワークガイドラインに沿って整備・運用されているか。労働時間管理の適正性・時間外労働の把握・ハラスメント対策・テレワーク手当・通信費負担規定など。
- IT・セキュリティDD:情報セキュリティポリシー、VPN等のネットワーク環境、デバイス管理、データバックアップ体制、インシデント対応履歴、BYOD(私用端末の業務利用)の有無と運用実態、退職者によるデータ持ち出し対策など。
- 法務DD:個人情報保護法、下請法、会社法など、テレワーク環境下での契約関係や情報管理に関する法規制への準拠状況。顧客データの海外サーバー保管時のデータ保護規制への対応など。最終的な法務判断は弁護士法に基づき弁護士の領域となります。
- 財務・税務DD:テレワーク関連の設備投資、助成金受給状況とその要件充足度、通信費等の費用計上、従業員居住地が異なる場合の地方税の取り扱いなど。国税庁の指針に沿った確認が必要です。
- 事業DD:テレワーク化が顧客との関係性・サプライチェーンに与える影響。営業のテレワーク化で対面機会が減少した場合のオンライン顧客接点強化や訪問計画の見直し方針など。
テレワーク導入企業のPMIをどう設計しますか?
M&A後の統合プロセスでは、テレワーク中心企業とオフィス中心企業の文化・コミュニケーションスタイルの違いが、統合後の従業員エンゲージメントに直結します。中小M&Aガイドライン第3版でもPMIフェーズの重要性が強調されています。
具体的には、(1)定期的なオンライン全社ミーティング・バーチャルランチ会・オフサイトミーティングの併用による文化統合、(2)異なるテレワークシステム・セキュリティインフラの統合における互換性とセキュリティレベルの統一、(3)テレワーク手当・通勤手当・評価制度といった人事制度の公平な再設計、の3軸での設計が必要です。目標管理制度(マネジメントバイアウト(MBO))や成果主義評価への移行も、テレワーク前提の組織づくりに有効な選択肢となります。
テレワーク導入時の助成金はM&Aにどう関わりますか?
テレワーク導入を検討する際、厚生労働省や中小企業庁などが実施している助成金・支援制度を活用する企業が増えています。M&Aの場面では、対象企業が受給した助成金の要件充足状況・継続要件・返還リスクなどを、財務DDで個別に確認することが重要です。受給時点の事業計画と、M&A後の事業運営方針が乖離する場合、助成金返還リスクが顕在化することがあるためです。
株式会社日本財務戦略センターの考え方
株式会社日本財務戦略センターは、公認会計士・税理士・中小企業診断士などの国家資格を持つ専門家が連携し、M&A支援機関協会の倫理規定に沿って、テレワーク導入企業のM&Aを伴走支援しています。代表取締役の五十嵐悠一が、Valuation・DD・PMIの各フェーズでテレワーク特有の論点を整理し、人材戦略としてのM&Aを成功に導く設計を提案します。労働力不足を構造的にしのぐ手段として、テレワーク導入企業のM&Aは今後さらに重要性が増すと考えています。
※M&A実務の最終判断には、弁護士・税理士・公認会計士など各分野の専門家への相談が不可欠です。セカンドオピニオン無料相談もご活用ください。
よくあるご質問
テレワーク導入企業はM&AのValuationで本当に高く評価されますか?
固定費削減効果・地理的制約を超えた人材獲得力・人材定着力という観点で、プラスに作用するケースが増えています。ただし、情報セキュリティ・コミュニケーション希薄化・企業文化希薄化のリスクも織り込む必要があり、Valuationの最終算定は複数手法の組み合わせと専門家による検証が前提となります。
テレワーク導入企業のDDで特に重要な確認事項は何ですか?
労務(厚労省テレワークガイドライン準拠状況・労働時間管理)、IT・セキュリティ(VPN・BYOD運用・退職者対策)、法務(個人情報保護法・データ保護規制)、財務(助成金要件充足)、事業(顧客接点への影響)の5領域を、テレワーク特有の論点として個別検証することが必要です。
PMIでテレワーク中心企業とオフィス中心企業をどう統合しますか?
(1)オンライン全社会議とオフサイトミーティングを併用した文化統合、(2)テレワークシステム・セキュリティインフラの互換性確保と一段高いセキュリティレベルへの統一、(3)テレワーク手当・通勤手当・評価制度の公平な再設計、の3軸を基本に、目標管理制度(MBO)や成果主義評価への移行も検討します。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件における法務・税務・会計判断を提供するものではありません。法務・税務・会計の個別判断は、弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください。M&Aのスキーム設計・タイミング・買い手探し等のアドバイザリーは、株式会社日本財務戦略センターにご相談ください。記載内容は公開時点の情報に基づき、法令改正や市場変動により最新の状況と異なる場合があります。
よくあるご質問(FAQ)
📅 本記事の情報基準日
本記事は 2023年5月15日 公開時点の情報に基づきます。税制・法令等は改正される場合があるため、最新の制度・税制は公的機関の公式情報をご確認ください。
関連の最新情報:中小企業庁 / 国税庁 / 金融庁 / e-Gov 法令検索

