この記事の結論:資金繰りに悩んだら、まず運転資金の見える化と資金繰り表の作成で「敵」の正体を把握することです。現預金が運転資金の3カ月分を切ったら月次から日次管理に切り替え、独力で限界を感じる前に救済型M&Aを含む選択肢を検討すべきです。個別判断は税理士法に基づく税理士、弁護士法に基づく弁護士等の専門家にご相談ください。
本稿は、日本財務戦略センター(JFSC)のM&A・事業再生実務経験に基づき、中小企業の資金繰り問題と救済型M&Aに関する知見を整理しています。JFSCは中小企業の事業承継・再生を支援しており、特に事業再生・救済型M&Aを専門としています。
なぜ資金繰りは経営者最大の悩みになるのでしょうか?
中小企業経営者の悩みのうち最大級のものが資金繰りです。売上が下がるなかで現預金が減少していくプレッシャーは、実際に経営に当たった人間にしかわからない強迫感を伴います。個人で会社債務に連帯保証している場合、会社の存続と経営者個人の人生がかなり密接に関連するため、なおさらプレッシャーは大きくなります。雇われで働いてきた会社員には理解しづらい感覚で、「死にたくなる」と漏らす経営者がいるのもよくわかります。
「彼を知り己を知る」を資金繰りに当てはめる
中国の兵法家「孫子」の言葉に「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」があります。敵の情勢を把握し自分自身をわきまえて戦えば敗れることはない、という意味です。当たり前のようで、いざ自分が当事者になると難しいものです。10年以上経営を続けてきた経営者ですら、財務諸表の見方が分からないと仰る方がいます。好調なときはそれでもよくとも、資金繰りという危機が眼前に現れたときに目をそらすと、打てる手が手遅れになります。
「資金繰りに対処しなければ」という強迫観念だけが頭を占めると、「いつまでに」「どの程度」「何をするのか」というアクションプランが立てられないまま漫然と対処することになります。悩みでパフォーマンスが下がり、取引先・従業員・金融機関から不信感を買う可能性もあります。逆に状況を把握しアクションプランを立て、こちらから能動的に説明を行うことで、直面している問題を変えることができるはずです。
税理士や銀行員に財務面を任せてきた経営者も多いと思いますが、彼らは税務申告や融資のプロであり経営のプロではありません。社長ほど経営を知っている人間はいません。だからこそ社長自身が資金繰りを計算し、できることを考えなければなりません。
運転資金とは何か?なぜ経営に必要なのでしょうか?
運転資金とは、商取引における出金と入金のタイムラグを埋めるための資金です。日本の企業では現金取引ではなく「掛取引」が多く、商品を売ってから代金が入金されるまでに数か月のタイムラグが生じます。その間も人件費・家賃・光熱費・新たな仕入れなどが毎月発生するため、入金までのつなぎとして運転資金が必要になります。
JFSCが提供する運転資金の計算ツールでは、月次ベースでどの程度の運転資金が必要かの目安を確認できます。これに固定費・季節的支出・突発的支出を加味すると、運転資金3〜6カ月分程度の現預金があれば一定の安心感が得られると考えられます(一般的な目安)。逆に3カ月分を切っている場合は、より踏み込んだ資金繰り対応が必要になります。
資金繰り表で「いつ・いくら」不足するかを可視化する
売上が上がっている局面で売掛金が一時的に増大している場合は理由があるので問題ありませんが、売上が下がっている場合は資金繰りの問題を真剣に検討する必要があります。資金がどのタイミングでいくら不足するかが分かれば、それに応じた対応(融資、売掛金回収、買掛金サイト変更など)を検討できます。
中小企業庁のサイトでは簡易的な資金繰り表を策定して公開しています。同庁は「ポストコロナ時代において資金繰り計画を作成することの重要性」のなかで、多くの中小企業が売上減少や借入増大に直面する一方、資金繰り計画を作成せず今後のアクションを把握できていない状況に警鐘を鳴らしています。手元の現預金推移を予測する資金繰り計画を作成し、逆算して早期に経営改善の取組を始める必要がある、というメッセージです。
現預金が3カ月分を切ったら何をすべきでしょうか?
運転資金の3カ月分を切っている場合、月次ではなく日次で資金繰りを検討する必要が出てきます。手元現預金がショートする前に、救済型M&Aを検討することも選択肢に入ります。救済型M&Aとは、事業再生を進めながらスポンサーを探索し、スポンサーとのM&Aで事業を残していくスキームです。
倒産や廃業をしてしまえば、長年築いてきた信用や商品が失われます。従業員や取引先にも迷惑をかけます。経営者個人も連帯保証をしていれば破産という事態にもなりかねません。他方、事業再生と個人再生を併せて行えば、事業を継続し取引先に迷惑をかけずスポンサー企業に引き継ぐことが可能です。経営者個人も経営者保証に関するガイドラインに則り一定の債務整理を行うことで、再出発の道を開ける場合があります。
救済型M&Aで救えた事業の典型像
地方で長年地域に根差した製造業を営む企業が、後継者不在とコロナ禍による売上減少で資金繰りが悪化していた、というケースは珍しくありません。高い技術力と熟練従業員という強みを持ちながら、独力では廃業を余儀なくされる状況です。こうしたケースで事業再生計画を策定し、技術力を評価する同業企業との救済型M&Aを成立させれば、事業継続・雇用維持・地域経済への貢献を同時に守れる可能性があります。経営者個人も経営者保証ガイドラインに則り再出発の道を開けます。
漫然と悩むよりも、「敵」である資金繰りを見極め、できることをやっていくことでストレスは減ります。現実を直視するのは大変辛いものですが、向き合うことで乗り越えられることはたくさんあります。具体的な選択肢の検討は、税理士・弁護士・M&Aアドバイザー等の専門家にご相談のうえ進めてください。
よくあるご質問
現預金は運転資金の何カ月分を確保すべきですか?
一般的な目安として、運転資金の3〜6カ月分程度の現預金があれば一定の安心感が得られると考えられています。固定費・季節的支出・突発的支出も加味する必要があり、3カ月分を切る局面では月次ではなく日次の資金繰り管理への切替や、救済型M&Aを含む選択肢検討が必要です。個別の必要水準は税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください。
救済型M&Aと通常のM&Aは何が違うのでしょうか?
救済型M&Aは、事業再生スキームを並行して進めながらスポンサー企業を探索し、債務整理と事業承継を一体的に解決する手法です。通常のM&Aが健全企業の事業承継・成長戦略を主目的とするのに対し、救済型は資金繰りが逼迫し独力での再建が困難な企業向けの選択肢で、経営者保証ガイドラインに則った経営者個人の再出発も視野に入れます。
資金繰りが悪化したら税理士や銀行に任せれば大丈夫ですか?
税理士は税務申告のプロ、銀行員は融資のプロですが、経営判断のプロではありません。経営者自身が資金繰り計画を作成し、現状を能動的に説明する姿勢が、取引先・従業員・金融機関からの信頼維持に直結します。中小企業庁も資金繰り計画策定の重要性を強調しており、複雑な局面では弁護士・M&Aアドバイザー等の専門家との連携が有効です。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件における法務・税務・会計判断を提供するものではありません。法務・税務・会計の個別判断は、弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください。M&Aのスキーム設計・タイミング・買い手探し等のアドバイザリーは、株式会社日本財務戦略センターにご相談ください。記載内容は公開時点の情報に基づき、法令改正や市場変動により最新の状況と異なる場合があります。
よくあるご質問(FAQ)
📅 本記事の情報基準日
本記事は 2022年2月8日 公開時点の情報に基づきます。税制・法令等は改正される場合があるため、最新の制度・税制は公的機関の公式情報をご確認ください。
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