2022.02.08 M&A実務

資金繰りに悩む中小経営者は何をすべきか:運転資金の見える化から救済型M&Aまでの実務ステップ

資金繰り対応とは、中小企業経営者が現預金残高・運転資金・将来キャッシュフローを把握し、不足が生じる前に融資・売掛金回収・買掛金サイト変更・事業再生等の打ち手を講じる経営判断プロセスを指します。中小企業庁も、ポストコロナ時代における資金繰り計画策定の重要性を強調しており、現預金が運転資金の3カ月分を切る局面では、月次から日次管理への切替や救済型M&Aの選択肢検討が必要となります。

この記事の結論:資金繰りに悩んだら、まず運転資金の見える化と資金繰り表の作成で「敵」の正体を把握することです。現預金が運転資金の3カ月分を切ったら月次から日次管理に切り替え、独力で限界を感じる前に救済型M&Aを含む選択肢を検討すべきです。個別判断は税理士法に基づく税理士弁護士法に基づく弁護士等の専門家にご相談ください。

本稿は、日本財務戦略センター(JFSC)のM&A・事業再生実務経験に基づき、中小企業の資金繰り問題と救済型M&Aに関する知見を整理しています。JFSCは中小企業の事業承継・再生を支援しており、特に事業再生・救済型M&Aを専門としています。

なぜ資金繰りは経営者最大の悩みになるのでしょうか?

中小企業経営者の悩みのうち最大級のものが資金繰りです。売上が下がるなかで現預金が減少していくプレッシャーは、実際に経営に当たった人間にしかわからない強迫感を伴います。個人で会社債務に連帯保証している場合、会社の存続と経営者個人の人生がかなり密接に関連するため、なおさらプレッシャーは大きくなります。雇われで働いてきた会社員には理解しづらい感覚で、「死にたくなる」と漏らす経営者がいるのもよくわかります。

「彼を知り己を知る」を資金繰りに当てはめる

中国の兵法家「孫子」の言葉に「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」があります。敵の情勢を把握し自分自身をわきまえて戦えば敗れることはない、という意味です。当たり前のようで、いざ自分が当事者になると難しいものです。10年以上経営を続けてきた経営者ですら、財務諸表の見方が分からないと仰る方がいます。好調なときはそれでもよくとも、資金繰りという危機が眼前に現れたときに目をそらすと、打てる手が手遅れになります。

「資金繰りに対処しなければ」という強迫観念だけが頭を占めると、「いつまでに」「どの程度」「何をするのか」というアクションプランが立てられないまま漫然と対処することになります。悩みでパフォーマンスが下がり、取引先・従業員・金融機関から不信感を買う可能性もあります。逆に状況を把握しアクションプランを立て、こちらから能動的に説明を行うことで、直面している問題を変えることができるはずです。

税理士や銀行員に財務面を任せてきた経営者も多いと思いますが、彼らは税務申告や融資のプロであり経営のプロではありません。社長ほど経営を知っている人間はいません。だからこそ社長自身が資金繰りを計算し、できることを考えなければなりません。

運転資金とは何か?なぜ経営に必要なのでしょうか?

運転資金とは、商取引における出金と入金のタイムラグを埋めるための資金です。日本の企業では現金取引ではなく「掛取引」が多く、商品を売ってから代金が入金されるまでに数か月のタイムラグが生じます。その間も人件費・家賃・光熱費・新たな仕入れなどが毎月発生するため、入金までのつなぎとして運転資金が必要になります。

JFSCが提供する運転資金の計算ツールでは、月次ベースでどの程度の運転資金が必要かの目安を確認できます。これに固定費・季節的支出・突発的支出を加味すると、運転資金3〜6カ月分程度の現預金があれば一定の安心感が得られると考えられます(一般的な目安)。逆に3カ月分を切っている場合は、より踏み込んだ資金繰り対応が必要になります。

資金繰り表で「いつ・いくら」不足するかを可視化する

売上が上がっている局面で売掛金が一時的に増大している場合は理由があるので問題ありませんが、売上が下がっている場合は資金繰りの問題を真剣に検討する必要があります。資金がどのタイミングでいくら不足するかが分かれば、それに応じた対応(融資、売掛金回収、買掛金サイト変更など)を検討できます。

中小企業庁のサイトでは簡易的な資金繰り表を策定して公開しています。同庁は「ポストコロナ時代において資金繰り計画を作成することの重要性」のなかで、多くの中小企業が売上減少や借入増大に直面する一方、資金繰り計画を作成せず今後のアクションを把握できていない状況に警鐘を鳴らしています。手元の現預金推移を予測する資金繰り計画を作成し、逆算して早期に経営改善の取組を始める必要がある、というメッセージです。

現預金が3カ月分を切ったら何をすべきでしょうか?

運転資金の3カ月分を切っている場合、月次ではなく日次で資金繰りを検討する必要が出てきます。手元現預金がショートする前に、救済型M&Aを検討することも選択肢に入ります。救済型M&Aとは、事業再生を進めながらスポンサーを探索し、スポンサーとのM&Aで事業を残していくスキームです。

倒産や廃業をしてしまえば、長年築いてきた信用や商品が失われます。従業員や取引先にも迷惑をかけます。経営者個人も連帯保証をしていれば破産という事態にもなりかねません。他方、事業再生と個人再生を併せて行えば、事業を継続し取引先に迷惑をかけずスポンサー企業に引き継ぐことが可能です。経営者個人も経営者保証に関するガイドラインに則り一定の債務整理を行うことで、再出発の道を開ける場合があります。

救済型M&Aで救えた事業の典型像

地方で長年地域に根差した製造業を営む企業が、後継者不在とコロナ禍による売上減少で資金繰りが悪化していた、というケースは珍しくありません。高い技術力と熟練従業員という強みを持ちながら、独力では廃業を余儀なくされる状況です。こうしたケースで事業再生計画を策定し、技術力を評価する同業企業との救済型M&Aを成立させれば、事業継続・雇用維持・地域経済への貢献を同時に守れる可能性があります。経営者個人も経営者保証ガイドラインに則り再出発の道を開けます。

漫然と悩むよりも、「敵」である資金繰りを見極め、できることをやっていくことでストレスは減ります。現実を直視するのは大変辛いものですが、向き合うことで乗り越えられることはたくさんあります。具体的な選択肢の検討は、税理士・弁護士・M&Aアドバイザー等の専門家にご相談のうえ進めてください。

よくあるご質問

現預金は運転資金の何カ月分を確保すべきですか?

一般的な目安として、運転資金の3〜6カ月分程度の現預金があれば一定の安心感が得られると考えられています。固定費・季節的支出・突発的支出も加味する必要があり、3カ月分を切る局面では月次ではなく日次の資金繰り管理への切替や、救済型M&Aを含む選択肢検討が必要です。個別の必要水準は税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください。

救済型M&Aと通常のM&Aは何が違うのでしょうか?

救済型M&Aは、事業再生スキームを並行して進めながらスポンサー企業を探索し、債務整理と事業承継を一体的に解決する手法です。通常のM&Aが健全企業の事業承継・成長戦略を主目的とするのに対し、救済型は資金繰りが逼迫し独力での再建が困難な企業向けの選択肢で、経営者保証ガイドラインに則った経営者個人の再出発も視野に入れます。

資金繰りが悪化したら税理士や銀行に任せれば大丈夫ですか?

税理士は税務申告のプロ、銀行員は融資のプロですが、経営判断のプロではありません。経営者自身が資金繰り計画を作成し、現状を能動的に説明する姿勢が、取引先・従業員・金融機関からの信頼維持に直結します。中小企業庁も資金繰り計画策定の重要性を強調しており、複雑な局面では弁護士・M&Aアドバイザー等の専門家との連携が有効です。

公開日: 2022年2月8日 / 最終更新日: 2026年5月22日
五十嵐 悠一

執筆者

五十嵐 悠一(いがらし ゆういち)

株式会社日本財務戦略センター 代表取締役

京都大学経済学部経営学科卒業。株式会社損害保険ジャパン本店営業部、東証上場M&A仲介会社を経て、2020年5月に日本財務戦略センターを設立。中小企業のM&A仲介・事業承継支援を専門とし、医療・介護・食品製造・流通卸・機械製造分野の成約実績を持つ。

資格:プロフェッショナルCFO(日本CFO協会)/M&Aエキスパート(金融業務2級 事業承継・M&Aコース)

公的登録:中小企業庁 M&A支援機関 登録事業者/一般社団法人 M&A支援機関協会 正会員

メディア登壇:株式会社サイゾー Business Journal ウェブセミナー講師「【売り手向け】M&Aを成功させるための具体的な行動・プロセス・知識」(2022年6月)[公式告知]

専門家コラム寄稿:BATONZ(国内最大級M&A プラットフォーム)に M&A・事業承継 74本(2021年〜継続)[コラム一覧]

|LinkedIn|X (@jfsc2020)|BATONZ

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件における法務・税務・会計判断を提供するものではありません。法務・税務・会計の個別判断は、弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください。M&Aのスキーム設計・タイミング・買い手探し等のアドバイザリーは、株式会社日本財務戦略センターにご相談ください。記載内容は公開時点の情報に基づき、法令改正や市場変動により最新の状況と異なる場合があります。

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よくあるご質問(FAQ)

この章のポイント
日本財務戦略センターへのご相談に関する共通の10問と、本記事に関する0問の計10問。
共通Q1. 日本財務戦略センターはどのような会社ですか?
A. 株式会社日本財務戦略センター(JFSC)は、中小企業オーナーの M&A・事業承継を「自分事として最後まで完結する」ためのご相談先です。仲介の独断ではなく、売り手の判断材料を整える立場を貫いています。会社概要もご覧ください。
共通Q2. 相談したら、必ず M&A しなければいけませんか?
A. いいえ、ご相談のみで結構です。相談後に「今回は見送ります」と判断いただいても問題ありません。M&A 以外の選択肢(廃業・親族承継・事業再生)も含めてご一緒に整理します。まずは無料相談からお気軽にどうぞ。
共通Q3. 相談料・着手金は発生しますか?
A. 初回相談・簡易査定・進行中の段階まで、すべて無料です。日本財務戦略センターは完全成功報酬制を採用しており、M&A 成約時のみご報酬が発生します。着手金・中間金・月額顧問料は一切いただきません。なお、案件特性により外部専門家への依頼や登記等の実費(例:司法書士の登記費用、外部監査法人による資産査定、譲受企業側からの弁護士・公認会計士による DD 費用 等)が発生する場合は、必ず事前にご相談・ご同意のうえ進めますので、不意の費用負担は生じません。詳細は弊社の報酬体系をご確認ください。
共通Q4. 一般的な M&A 仲介会社と、どこが違いますか?利益相反はどう開示されますか?
A. M&A 仲介は売主・買主の双方から報酬を得る「両手仲介」が業界慣行で、構造的な利益相反のリスクがあります。そのうえで、業界には「誘い込む仲介」と「公開する仲介」の二類型があると当社は考えています。日本財務戦略センターは後者の立場で、契約締結時に重要事項説明書を交付し、両手仲介の構造を含めて文書でご説明したうえで、売り手の判断材料となる情報を整え、買い手の都合で交渉を急がせない姿勢を貫きます。これは経済産業省・中小企業庁中小 M&A ガイドライン第 3 版・2024 年 8 月改訂、手数料算定基準の開示・買い手信用調査等を留意事項として明示)に則った対応です。二類型化の根拠は弊社独自の業界 20 社研究レポート、構造論の詳細は仲介契約 vs FA 契約の構造分析もご参照ください。
共通Q5. どれくらいの規模から相談できますか?
A. 年商数千万円規模の小規模事業から、数億円規模まで対応します。業界の多くの仲介会社では最低手数料を 2,000 万円以上に設定している傾向で、各社の最低手数料は中小企業庁M&A 支援機関登録制度・登録情報で確認いただけます。日本財務戦略センターの最低手数料は 700 万円で、小規模案件もお引き受けしています。具体的な報酬構造は弊社の報酬体系をご確認ください。
共通Q6. 税金・法律のことを詳しく教えてもらえますか?
A. 税務・法務は税理士法・弁護士法により、具体的な提案は弁護士・税理士等の専門家のみが行えます。当社は業界慣行の一般論をご説明した上で、顧問の先生方にご確認いただく形でご案内します。必要に応じて専門家ネットワークのご紹介も無料で行っています。
共通Q7. 家族や従業員に知られたくないのですが、可能ですか?
A. ご相談段階から NDA(秘密保持契約)を締結し、徹底管理します。社名を公開せずに買い手候補へ打診する「ノンネーム打診」の進め方も可能です。守秘義務体制については情報管理ポリシーでご確認いただけます。
共通Q8. 成約までどれくらいの期間がかかりますか?
A. 標準的には 3〜6 ヶ月程度を目安としてお考えください。買い手候補と事前に綿密な調整を行い、売主オーナー様のペースで進行します。スピード優先で売主の利益を損なう進め方は致しませんが、売主オーナー様のご事情・ご要望に応じて、最短 60 日での成約実績もございます。
共通Q9. デューデリジェンス(DD)では、どのような立場をとりますか?
A. 日本財務戦略センターは、売主オーナー様の利益を最優先に検討する立場を貫きます。仲介業の構造的な利益相反論点については仲介契約 vs FA 契約の構造分析で詳述しており、DD 費用負担の判例実務は東京地裁 DD 費用判決の射程でご確認いただけます。必要に応じて第三者の公認会計士・弁護士・税理士等の専門家をご紹介し、買い手寄りに偏らない査定体制を整えます。中小企業庁中小 M&A ガイドラインの遵守事項に則り、適切な情報開示を行います。
共通Q10. 対応エリアは限られますか?
A. 全国対応可能です。首都圏はもちろん、各地方都市でもご相談実績があります。オンライン面談と現地訪問を組み合わせ、所在地を問わず売主様のペースで進行します。まずは所在地を問わない無料相談をご利用ください。

📅 本記事の情報基準日

本記事は 2022年2月8日 公開時点の情報に基づきます。税制・法令等は改正される場合があるため、最新の制度・税制は公的機関の公式情報をご確認ください。

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