2023.04.04 M&A実務

債務超過企業のM&Aを成功させる鍵:経営者保証ガイドライン特則と個人保証解除の戦略

経営者保証に関するガイドラインの特則とは、中小企業事業承継を円滑に進めるため、前経営者と後継者の双方から安易に経営者保証を求めないよう、金融機関に具体的な対応を促すものです。2019年に策定され、特に債務超過企業や個人保証がM&Aの障壁となるケースにおいて、保証解除の可能性を高め、事業継続を支援することを目的としています。中小企業庁経済産業省金融庁全国銀行協会などが連携して推進しています。

事業承継を検討する多くの経営者にとって、個人保証は大きな足かせとなりがちです。特に、企業が債務超過に陥っている場合、M&Aによる事業承継は困難に思えるかもしれません。しかし、「経営者保証に関するガイドラインの特則」を適切に活用することで、この障壁を乗り越え、M&Aを通じた事業承継を成功させる道が開かれます。本記事では、M&Aアドバイザーとしての豊富な実務経験を持つ五十嵐悠一が、この特則の具体的な活用法とM&A実務におけるポイントを解説します。

経営者保証に関するガイドラインの特則とは何ですか?

「経営者保証に関するガイドライン」は、中小企業の経営者保証を不要とする慣行を確立するため、2013年に策定されました。その後、中小企業の事業承継における経営者保証が阻害要因となっている現状を鑑み、令和元年12月に「経営者保証に関するガイドライン」を補完する特則が策定されています。

この特則の主な目的は、中小企業の事業承継において、経営者保証が阻害要因とならないようにすることです。具体的には、前経営者と後継者の双方から二重に保証を徴求しないことを原則とし、法人と経営者との関係を明確に区分・分離し、財務基盤を強化し、財務状況の透明性を確保するよう求めています。

背景には、中小企業の経営者の高齢化が進む中で、後継者不在による廃業が増加している実態があります。中小企業庁「中小企業白書」帝国データバンクの調査によると、2022年には休廃業・解散件数が過去最多の5万件超に達し、後継者不在率も約57%と、多くの企業で後継者が未定の状況が続いています。このような状況下で、経営者保証が事業承継の大きな障壁とならないよう、政府は特則の策定を推進しました。策定主体は、中小企業庁経済産業省金融庁全国銀行協会など多岐にわたります。

金融機関にはどのような対応が求められていますか?

この特則により、対象債権者である金融機関には、事業承継時における経営者保証の取り扱いに関して、以下のような具体的な対応が求められています。

  1. 前経営者、後継者の双方との保証契約: 原則として、前経営者と後継者の両方から保証を求めることは行わず、例外的に必要な場合には十分な説明と慎重な判断が求められます。
  2. 後継者との保証契約: 後継者からの保証契約についても原則行わず、求める場合にはガイドラインの趣旨に沿った合理的かつ納得性のある対応が求められます。保証の必要性、範囲、期間、解除条件などについて十分な説明が必要です。
  3. 前経営者との保証契約: 前経営者が事業から退き第三者となる可能性を踏まえ、保証解除に向けて適切に見直しを行うことが求められます。
  4. 債務者への説明内容: 保証契約の必要性や、保証が提供されない場合の融資条件等について、債務者へ十分な説明を行う義務があります。
  5. 内部規程等による手続の整備: 金融機関は、二重徴求の防止や保証解除の適切な管理・見直しを含む、経営者保証の取扱いに関する内部規程を整備することが求められます。

これらの要請は、漫然と経営者保証を取る従来の担保主義的な金融機関の対応をけん制し、事業承継を阻害しないよう促すものです。

債務超過企業M&Aで特則をどう活用するのですか?

M&Aにおいて、特に債務超過企業や個人保証が課題となるケースでは、以下のステップで特則を効果的に活用することが可能です。

  1. SPC(特別目的会社、Special Purpose Company)を組成: 買い手企業は、対象会社を買収するためだけに設立されたSPCを組成します。これにより、買い手本体のリスクを限定することができます。
  2. SPCにて対象会社を買収: 組成されたSPCが、債務超過状態にある対象会社を買収します。
  3. 買収時に金融機関へ本特則を用いて経営者保証の解除を依頼: SPCによる買収後、金融機関に対し、特則の適用を要請し、前経営者の個人保証の解除を交渉します。SPCの関連会社(親会社等)の資力が十分にある場合、金融機関が解除に応じる可能性が高まります。

このスキームにより、買い手は直接の連帯保証に入らずに与信への影響を回避し、リスクを切り離しながら連続的な買収が可能となります。売り手である前経営者にとっては、個人保証から解放され、安心して事業承継を進められる大きなメリットがあります。

経営者保証解除を実現したM&Aの成功事例はありますか?

実際に、SPCを活用した買収スキームと本特則の適用により、前経営者の個人保証を解除し、事業承継を成功させた事例が複数存在します。

例えば、地方に拠点を置く製造業A社は、長年の赤字経営と設備投資の失敗により債務超過に陥り、前経営者は多額の個人保証を抱えていました。後継者も不在で、廃業の危機に直面していました。

買い手企業B社は、A社の持つ特定の技術力と顧客基盤に魅力を感じ、M&Aを検討。しかし、A社の債務超過と前経営者の個人保証がネックとなりました。そこで、B社はM&Aアドバイザーの助言を受け、SPCを組成し、このSPCがA社を買収するスキームを採用しました。買収に際し、B社は金融機関に対し、「経営者保証に関するガイドライン」の特則を適用し、前経営者の個人保証の解除を強く要請しました。SPCの親会社であるB社の信用力と、A社の事業再生に向けた具体的な事業計画(コスト削減、新製品開発、販路拡大など)を提示することで、金融機関との綿密な交渉を進めました。

結果として、金融機関は、B社の信用力と事業計画の実現可能性を評価し、前経営者の個人保証の解除に応じました。これにより、前経営者は保証債務から解放され、安心して引退することができました。買い手であるB社は、SPCを通じてリスクを限定しつつ、A社の貴重な技術と従業員を承継し、事業の継続と再生を実現しました。

この事例は、本特則とSPCスキームが、債務超過企業や個人保証がM&Aの障壁となるケースにおいて、有効な解決策となり得ることを示しています。成功要因としては、買い手側の十分な資力と、対象企業の事業再生可能性を具体的に示す事業計画、そしてM&Aアドバイザーによる金融機関との綿密な調整が挙げられます。

特則活用M&Aを成功させるための注意点は何ですか?

「経営者保証に関するガイドラインの特則」は強力なツールですが、その活用には専門的な知識と慎重な対応が不可欠です。

これらの課題を乗り越え、M&Aを成功させるためには、M&Aアドバイザー、弁護士税理士といった各分野の専門家との連携が不可欠です。特に、M&Aアドバイザーは、スキームの構築から金融機関との交渉、売り手への説明まで、一貫してサポートすることで、円滑な事業承継を実現します。

M&Aアドバイザーとして、五十嵐悠一は、経営者の皆様が大事にされてきた企業文化が喪われることを断固拒否し、必要な場面で適切に本特則が利用されるよう支援しています。ご関心を持たれた企業様におかれましては、遠慮なくお問い合わせください。

よくあるご質問

経営者保証に関するガイドラインの特則は、どのような企業にメリットがありますか?

主に、債務超過状態にある中小企業や、前経営者が多額の個人保証を抱えている企業がM&Aによる事業承継を検討する際に、個人保証解除の可能性を高めるメリットがあります。

買い手企業が債務超過企業を買収する際のリスクを軽減できますか?

はい、SPC(特別目的会社)を組成して買収することで、買い手企業本体のリスクを限定し、直接の連帯保証を回避しながら、債務超過企業を承継することが可能になります。

個人保証は必ず解除されるのでしょうか?

必ずしも解除されるわけではありません。金融機関との交渉が必要であり、買い手企業の信用力や提示する事業計画の実現可能性が重要です。専門家による綿密な調整が成功の鍵となります。

公開日: 2023年4月4日 / 最終更新日: 2026年5月22日
五十嵐 悠一

執筆者

五十嵐 悠一(いがらし ゆういち)

株式会社日本財務戦略センター 代表取締役

京都大学経済学部経営学科卒業。株式会社損害保険ジャパン本店営業部、東証上場M&A仲介会社を経て、2020年5月に日本財務戦略センターを設立。中小企業のM&A仲介・事業承継支援を専門とし、医療・介護・食品製造・流通卸・機械製造分野の成約実績を持つ。

資格:プロフェッショナルCFO(日本CFO協会)/M&Aエキスパート(金融業務2級 事業承継・M&Aコース)

公的登録:中小企業庁 M&A支援機関 登録事業者/一般社団法人 M&A支援機関協会 正会員

メディア登壇:株式会社サイゾー Business Journal ウェブセミナー講師「【売り手向け】M&Aを成功させるための具体的な行動・プロセス・知識」(2022年6月)[公式告知]

専門家コラム寄稿:BATONZ(国内最大級M&A プラットフォーム)に M&A・事業承継 74本(2021年〜継続)[コラム一覧]

|LinkedIn|X (@jfsc2020)|BATONZ

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件における法務・税務・会計判断を提供するものではありません。法務・税務・会計の個別判断は、弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください。M&Aのスキーム設計・タイミング・買い手探し等のアドバイザリーは、株式会社日本財務戦略センターにご相談ください。記載内容は公開時点の情報に基づき、法令改正や市場変動により最新の状況と異なる場合があります。

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よくあるご質問(FAQ)

この章のポイント
日本財務戦略センターへのご相談に関する共通の10問と、本記事に関する0問の計10問。
共通Q1. 日本財務戦略センターはどのような会社ですか?
A. 株式会社日本財務戦略センター(JFSC)は、中小企業オーナーの M&A・事業承継を「自分事として最後まで完結する」ためのご相談先です。仲介の独断ではなく、売り手の判断材料を整える立場を貫いています。会社概要もご覧ください。
共通Q2. 相談したら、必ず M&A しなければいけませんか?
A. いいえ、ご相談のみで結構です。相談後に「今回は見送ります」と判断いただいても問題ありません。M&A 以外の選択肢(廃業・親族承継・事業再生)も含めてご一緒に整理します。まずは無料相談からお気軽にどうぞ。
共通Q3. 相談料・着手金は発生しますか?
A. 初回相談・簡易査定・進行中の段階まで、すべて無料です。日本財務戦略センターは完全成功報酬制を採用しており、M&A 成約時のみご報酬が発生します。着手金・中間金・月額顧問料は一切いただきません。なお、案件特性により外部専門家への依頼や登記等の実費(例:司法書士の登記費用、外部監査法人による資産査定、譲受企業側からの弁護士・公認会計士による DD 費用 等)が発生する場合は、必ず事前にご相談・ご同意のうえ進めますので、不意の費用負担は生じません。詳細は弊社の報酬体系をご確認ください。
共通Q4. 一般的な M&A 仲介会社と、どこが違いますか?利益相反はどう開示されますか?
A. M&A 仲介は売主・買主の双方から報酬を得る「両手仲介」が業界慣行で、構造的な利益相反のリスクがあります。そのうえで、業界には「誘い込む仲介」と「公開する仲介」の二類型があると当社は考えています。日本財務戦略センターは後者の立場で、契約締結時に重要事項説明書を交付し、両手仲介の構造を含めて文書でご説明したうえで、売り手の判断材料となる情報を整え、買い手の都合で交渉を急がせない姿勢を貫きます。これは経済産業省・中小企業庁中小 M&A ガイドライン第 3 版・2024 年 8 月改訂、手数料算定基準の開示・買い手信用調査等を留意事項として明示)に則った対応です。二類型化の根拠は弊社独自の業界 20 社研究レポート、構造論の詳細は仲介契約 vs FA 契約の構造分析もご参照ください。
共通Q5. どれくらいの規模から相談できますか?
A. 年商数千万円規模の小規模事業から、数億円規模まで対応します。業界の多くの仲介会社では最低手数料を 2,000 万円以上に設定している傾向で、各社の最低手数料は中小企業庁M&A 支援機関登録制度・登録情報で確認いただけます。日本財務戦略センターの最低手数料は 700 万円で、小規模案件もお引き受けしています。具体的な報酬構造は弊社の報酬体系をご確認ください。
共通Q6. 税金・法律のことを詳しく教えてもらえますか?
A. 税務・法務は税理士法・弁護士法により、具体的な提案は弁護士・税理士等の専門家のみが行えます。当社は業界慣行の一般論をご説明した上で、顧問の先生方にご確認いただく形でご案内します。必要に応じて専門家ネットワークのご紹介も無料で行っています。
共通Q7. 家族や従業員に知られたくないのですが、可能ですか?
A. ご相談段階から NDA(秘密保持契約)を締結し、徹底管理します。社名を公開せずに買い手候補へ打診する「ノンネーム打診」の進め方も可能です。守秘義務体制については情報管理ポリシーでご確認いただけます。
共通Q8. 成約までどれくらいの期間がかかりますか?
A. 標準的には 3〜6 ヶ月程度を目安としてお考えください。買い手候補と事前に綿密な調整を行い、売主オーナー様のペースで進行します。スピード優先で売主の利益を損なう進め方は致しませんが、売主オーナー様のご事情・ご要望に応じて、最短 60 日での成約実績もございます。
共通Q9. デューデリジェンス(DD)では、どのような立場をとりますか?
A. 日本財務戦略センターは、売主オーナー様の利益を最優先に検討する立場を貫きます。仲介業の構造的な利益相反論点については仲介契約 vs FA 契約の構造分析で詳述しており、DD 費用負担の判例実務は東京地裁 DD 費用判決の射程でご確認いただけます。必要に応じて第三者の公認会計士・弁護士・税理士等の専門家をご紹介し、買い手寄りに偏らない査定体制を整えます。中小企業庁中小 M&A ガイドラインの遵守事項に則り、適切な情報開示を行います。
共通Q10. 対応エリアは限られますか?
A. 全国対応可能です。首都圏はもちろん、各地方都市でもご相談実績があります。オンライン面談と現地訪問を組み合わせ、所在地を問わず売主様のペースで進行します。まずは所在地を問わない無料相談をご利用ください。

📅 本記事の情報基準日

本記事は 2023年4月4日 公開時点の情報に基づきます。税制・法令等は改正される場合があるため、最新の制度・税制は公的機関の公式情報をご確認ください。

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